試合が終えてから一晩経過し、翌日。
ゴンとキルアは【纏】の特訓を再開していた。
「悪くはないよ二人とも、ただ波が立っているからもう少し安定さを高めたいね」
先日の試合を見た影響もあってか、ゴンとキルアの念は少し乱れている。念を使うにおいて最も大事なのは精神力の安定。
どれだけ念を鍛え上げたとしても心が乱れ折れると力を発揮する事はできないからだ。
「ゴン、キルア……まずは二人は先の目標を見定めてみなさいな。念を覚えた上で二人が何を成したいかをね」
「……ヒソカに勝つ、とか?」
「本当にそれでいいのかい? ゴンには会いたい人がいるんじゃなかったの?」
「……そっか、オレはジンに会いたい! その為には念を使えるようになってジンのいる所に会いに行く‼︎」
「うんうん、それがゴンの目標であり原点だよね。だったら
「(…………ジン? まさかね)」
「うーん、どうしようかなぁ」
「かはは、今から急ぐものではないからね。今はゴンと楽しく時間を過ごせるように力をつけたいとかでもいいのよ」
「(確かに……オレはゴンと一緒に過ごせる時間がすごく楽しい。ならオレは……)」
アドバイスをしてから数分が経過してゴンとキルアが繰り出す【纏】は全身に流れるオーラがなだらかに力強く変化していた。
「うん、素晴らしい……この【纏】を二ヶ月やるだけでだいぶ違ってくるよ。次は【練】をやってみようか、ゴンは試合のようにオーラを出せるか試してみなさいな」
「分かった! ………あれ?」
言われてゴンは【練】を繰り出してみるも前回の試合で見せたレベルのオーラが練り出せない。
「焦る必要はないよ、あの時のゴンは極限状態に近づいていたから限界を超えていただけ。毎日【練】をしていればいつでもあの時のオーラを、それ以上のものを出せるようになる」
「鍛錬を積めば積むほど、【纏】や【練】は長い時間持続できるようになりますしオーラの絶対量も増えていきますよ」
「私は毎日、暇があればやっていたのもあって底を尽きる事はまず無いよ。【練】も戦闘でなければ一日くらいなら保つかな、多分」
「あなたは過酷な鍛錬を積まれた方なのですね」
「かはは、私は師範がスパルタだったからね」
「そうです、忘れてました。私があなたに聞きたかったのはその念の技術をあなたに授けた方を知りたかったのですよ」
「私の師範が誰かってことよね? ラウロンって言えば分かるかな」
ラウロンの名前を聞いたウイングも驚く。
「‼︎ ネテロ師範のように世界最強の格闘家と評されたウー=ラウロンですか!?」
「幼い頃から大体一〇年くらい鍛えてもらったんだ。それからはヘルメスとして活動しているけど師範の教えは今でも守っているよ」
「それほどの力を持ちながら闇の世界の住民になるのは悲しいですが、私がそれを言う資格はありませんね」
「そうだね、私には私の事情がある」
話を終えたルメーネはゴン達を見続けた。
何度も【練】をした二人はヘロヘロになりつつあるがそれでも彼女は止めはしない。
「いいかい二人とも、【練】は長い時間発動しないと戦闘では使えないからね。【纏】の状態でまともな戦闘ができないと思うこと」
それを聞いてキルアは不思議そうであったが、ゴンは理解していた。前回のギド戦において防御に使用してすぐに【練】が解けてしまったから。
「ゴンは分かるよね。初心者にとって【練】は維持が大変なんだ。それなりの実力者なら三〇分から一時間の維持はできる。逆に言えば実力者でも維持時間はそこまで長くない」
「なぁ、何で【練】を維持しないといけないのか教えてくれよ。念での戦闘なら【纏】の状態でもいいんだろ、防御に向いてるらしいし」
「んー、ぶっちゃけ【練】の状態が最大防御と思って欲しいかな。【纏】はオーラが漏れないように維持する技術だから」
「【練】が防御……あんなに力が出たのに?」
「それはまた別の機会に教えるよ、これからしばらくの間は【纏】と【練】。そして上のトレーニング部屋で私が組んだ特別メニューで身体作りをする事!」
「「押忍!!」」
「ウイングさんの弟子はどうするの、私のメニューに参加するかい? 今ならこのビルに寝泊まりをしてもらってもいいよ」
「師範代……」
「ふむ、念の方はズシのペースでやらせてもらいますが身体作りは参加させていただきましょう」
「押忍!」
「ズシ! よろしくね!」
「よろしく」
それからはルメーネの組んだハードメニューをこなしながらゴン達は鍛えられていった。鍛錬を始めて一ヶ月が経過した頃である。
ルメーネは午前中、“とある試合”のチケットを購入する為に天空闘技場にやって来ていた。
「ヒソカ対カストロのチケットあるよー! 特等席最前列が全部で五人分あるよー!!」
「チケット全部ちょうだいな」
「おいおい、姉さんや。冗談は……」
「ほれ、三億ジェニー」
ルメーネがダフ屋に差し出したのは一つのケース。その中身はルメーネが言った通りの三億ジェニーであった。
金はまた稼げばいい、その試合をゴン達に見せたいが為にルメーネは簡単に大金を払う。
「な、な、な!! 毎度ありー!!」
「どうもー」
それからビルに戻ったルメーネはゴン達に買ってきたチケットを差し出した。
「これヒソカが戦うの⁉︎」
「明日の試合だけはゴンの外出を許す。これは見る事でヒソカの強さや技術を知る事ができるからね」
「それにしてもこのチケット……最前列ですがいくらかかったのでしょうか。お金足りるかな」
「師範代……これプレミアっすよ」
「五枚買うのに三億ジェニー」
その瞬間、空気が凍る。
たった五枚のチケット、たった五つの席の為に三億という大金を使った彼女に引いたのだ。
我にかえって反応を示したのはキルア。
「はぁ!? お前、金銭感覚壊れてるぞ!」
「えぇ〜、アンタらに良い試合を見せたかっただけなのに何で私が責められるのさ〜」
「お前……彼氏とかつくったら、どろっどろの愛で尽くすタイプだろ。怖いんだけど」
「かはは、恋愛なんてした事ないから知らないもんね。まぁ友人には甘いとよく言われるよ」
「(甘いってレベルか? 知ってる限りここに来てから九億ジェニーを使っているぞ!?)」
キルアがルメーネについて悩んでいるのを気にせず、彼女は話を続けた。
大金ではなく、念の話を。
「それでねぇ……ヒソカの試合を見るにおいて覚えて欲しい技術があるんだよね。【練】ができているから問題ないと思う、その名前は【凝】」
「練の応用技術である【凝】!」
「ズシ、君ならもう出来るはずです。ここで鍛えていたからか想像よりも早く成長してきていますからね」
「やってみます!」
こうしてズシが試しに【凝】を始める。その為にまずは【練】をしてそのオーラを目に集める。
「じゃあズシ、これが見える?」
ルメーネは自分の横に【隠】で見えにくくした燃え盛る炎のようなオーラを出してみる。
「……多分、炎っす」
「正解! オーラを眼に集めて凝らして見る技術、これが【凝】。ちなみに私が今やったのはオーラを見えないようにする【隠】という技術」
「スッゲェー、全然見えなかった」
「どうやったの?」
「んー、【隠】は【絶】の応用技術なのさ。これをすれば念による攻撃を見えないように隠す事ができるから便利だよ」
「そうか。【凝】は【隠】を見破る技術……念の戦闘において相手が【隠】で隠して攻撃してくる可能性もあるから覚える必要がある」
「キルア、大正解。念による戦闘において私が大事にしているのは“凝を怠るな”。相手の隠しているモノ、オーラの移動など様々な情報を得て行動を選択するのが念能力者の戦いってね」
「【凝】を怠らない……」
「そ、特にヒソカの能力は私知ってるから言えるけど【凝】は必須よ。あいつの試合を見たいならね」
ルメーネの言葉にゴンとキルアは【凝】の習得を決める。最初の方は何度やってもオーラを眼に集める前に解けてしまっていたが数をこなす度に持続時間が増えていった。
ウイングはそのセンスの良さを恐れ、ズシは自分との才能の差を感じ、ルメーネは二人の成長を大変喜んだ。
「自分、自信無くすっす……」
「何言ってんのさ、ズシだって素晴らしい才能を持ってる。ゴンとキルアが並外れているだけであなたも優秀だよ」
「そうですよ、ズシ。彼らとあなたとでは成長のペースが違えど焦りは禁物です。あなたも十分成長が早いのですから」
「押忍‼︎」
翌日、早朝。
ルメーネはまだ寝ているゴン達とは別のフロアにて瞑想をしている。そのオーラは波一つ立たず凪いでおり、それでありながらそこにいる存在感は何よりも力強かった。
「素晴らしい【纏】ですね。それ程までのオーラを見たのは師範以来ですよ」
「……へぇ、会長さんってやっぱり凄いねぇ」
「いえ、ネテロ会長も心源流拳法の師範ではありますが私の直接の師は“ビスケット=クルーガー”というストーンハンターです」
「有名人だね、ハンターの中でも特に実力のある人。私は相手にするのは自信ないなぁ」
ルメーネ=マーキュリーはビスケット=クルーガーと直接関わった事はない。だが自分並みのオーラを持つそのハンターは念を極めている、または天賦の域まで到達している者と判断できる人間には自信が湧かなかった。
「師範は強いですからね」
「長年ハンターとして活動できている時点で恐ろしいよ。さて次は【練】の番だ」
そう言って瞑想を終えたルメーネは自然体の構えからオーラを練り込み、それを外に見えるように放出。
その量はゴン、キルア、ズシの出していたオーラを合わせても届かない程の量で溢れていた。
朝の個人鍛錬を終えたルメーネはゴン達が起きる前に朝食を作る。
今日のメニューは大量のぱらぱら炒飯、とろっとした卵スープ。ちなみにスープは熱々に仕上げており体温を上げるに最適のもの。
「美味しい!」
「スープも温まるっす」
「結構いけるな」
「ま、それなりには作れるよ。それ食べたら食休みをして【凝】の鍛錬再開ね」
「「「押忍‼︎」」」
食休めを終えたゴンとキルアは昨日の感覚とルメーネのアドバイスを基に【凝】を繰り出すと眼にオーラが集まり、ルメーネのオーラが少しであるが確認できた。
「み、見えた!」
「あぁ! ルメーネのオーラがよく見えるぜ、これが念を隠すという事だったのか」
【凝】に初めて成功した二人は大量の汗を流しながら喜ぶ。しかし残念ながらルメーネから悲しいお知らせが届いた。
「じゃあもっと見えにくくするね」
「え」
「は」
先程まで二人が見えていたルメーネのオーラが再び確認出来なくなったせいでゴンとキルアはルメーネの求めるレベルの高さに少しであるが絶望していた。
「「((終わる気配がない……))」」
「オーラを氷の結晶のようにしているっす!」
「ズシお見事、ならこれは?」
「え、見えなくなった⁉︎」
朝から昼にかけての鍛錬を終えた時にはゴンキルアズシの三人はヘロヘロの状態になりながらも朝に比べて成長していた。
昼飯をルメーネが作った後に彼女達は昨日入手したプレミアチケットの試合を見る為に天空闘技場へと向かった。
その試合は“奇術師ヒソカ対武道家カストロ”、カストロは初戦にヒソカに洗礼を食らった以降は無敗。ヒソカも不戦敗を出しているが対戦相手を全て死なせているヒソカという好カード。
その会場は熱い声援に包まれていた。
「さてヒソカがどんな戦いをするか楽しみだよ」
ルメーネは「かはは」と笑い、大量のフライドチキンの入った容器を抱えながら自分の座る席へと向かっていった。
その後ろ姿をとある人物に見られたのを知らないまま。
「あれ、あいつ……なんでこんな所にいるの」
お疲れ様でした。今回は以上になります。
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作者の創作意欲、モチベーション向上に繋がります。
ルメーネの金遣いはかなり荒いです。
金が無かった流星街時代の反動で加減ができない為。
また来週もお楽しみに!