ルメーネ=マーキュリーは席に戻る途中、とある視線が気になり辺りを見渡していた。
自分をじろっと監視するよう気配、懐かしいものを感じた彼女は柱の影などを観察しても対象は出てこない。
「ふー……折角揚げたてを買ったのにチキン冷めちゃうよ。向こうは相当やるなぁ」
「相変わらずマイペースだね、あんた」
背後から声がして振り向くと、ルメーネの同郷であり大切な友人がそこにいた。
「あ、マチ〜! お久しぶり」
「うっさい、騒ぐな。……なんであんたがここにいるのさ。格闘技を見る趣味は無いよね」
「かはは〜実は仕事の都合でこっちに来ているのさ、マチこそなんでここに?」
「一つはヒソカが馬鹿やって怪我をした時に治療する依頼。もう一つは……団長からの伝言を伝える為」
「だったら私は離れた方がいいね。最後にチキン一つでも食べる? 揚げたてだけど」
「要らない、油つくじゃん。それじゃ」
そう言ってルメーネはマチと別れて自分の席へと向かった。キルア以外は既に着席しておりルメーネの持ってきたフライドチキンの山に驚く。
「うわわ、凄い量……」
「これくらい平気でしょ」
「どこがですか……この量、どう見ても普通の人は胃もたれ起こしますよ」
「ウイングさん、多分だけどルメーネは普通じゃない……」
「(いっつも沢山食べるもんなぁ)」
ウイング達が驚いている中でルメーネはフライドチキンを三本食べ終えた頃にキルアが戻ってくる。
「げ、また食ってる。その胃袋どうなってんだ」
「乙女に栄養は必要なのさ」
「いやどう考えても栄養いってないだろ。どっからどう見ても“壁”じゃん」
キルアは吹っ飛ばされた。
「ねぇキルア、どうだった? カストロさん」
「相当の使い手だった。【絶】はフロアに入ってからじゃ無意味だって教わったし、間違いなくヒソカに挑むだけはあるよ」
「ふーん…………」
ルメーネは【凝】で既に会場入りしているカストロを見るも惹かれはしない。確かに並以上の念能力者ではあるが何かが引っかかる。
『さぁ皆さまあ待たせしました‼︎ 反対側のゲートからヒソカ選手の登場です‼︎』
アナウンスと共にカストロの反対側の壁が開き、中からヒソカが現れる。その姿を確認した観客は歓声を出した。
「ヒソカーぶっ殺しちまえ!」
「カストロ頑張れよー!!」
「どっちでもいいから血を見せろー!!!」
「(下品だなぁ)」
『カストロ選手は九勝一敗と今日勝てばフロアマスターに挑戦権を得れます。対するヒソカ選手は現在八勝三敗と後はないですが勝てば挑戦権まで王手となります!!』
「正々堂々と互いの誇りと名誉を懸けて……始め!!」
ヒソカとカストロの決戦が今始まった。
開始の合図と共に動いたのはカストロ。
ヒソカの方へと直進し、オーラを纏った右手による手刀で攻撃するもヒソカはそれを屈み回避する。
しかし、躱した筈の攻撃は右頬を捉えてヒソカは軽く吹き飛ばされた。
「クリーンヒット!!」
リベンジを狙うカストロの一撃を皮切りに地鳴りのような歓声が会場を包み込む。
あのヒソカがあっさりと先制攻撃を受けたからだ。
「避けた筈なのに!」
「一体何が……」
「(ふーん、なるほど。でも何でその能力に)」
「ルメーネは分かったの?」
「三人とも【凝】、ここからは出来る限りその状態で試合を見ること。カストロの動きもヒソカもね」
「「「押忍!」」」
ルメーネはカストロが何をしてヒソカに攻撃をしたのかを一目で理解して弟子に指示を出す。
「ルメーネさん、カストロは恐らく」
「ウイングさんの想像通りだと思うよ。ただその正体は三人が分かるまで秘密に」
ヒソカが体勢を立て直しカストロの様子を深く観察する中で、カストロは迷いなく左手でヒソカの左顔面を狙う。
すると先程のリプレイの如く、避けたはずの一撃がヒソカの左顔面に直撃。体勢を崩したヒソカは倒れ込む前に右腕を地面につけて整える。
カストロは攻めるのを止めず地面に拳を叩きつけるもヒソカは距離をとり完全に回避。彼は左手刀でヒソカを攻撃するが警戒をしたヒソカは先ほどよりも素早く避ける。
手刀を放つと同時に蹴りに行く体勢を取っていたカストロはヒソカの顔へと狙いを定めるがヒソカも左腕でしっかりと受け止める。
だが、先程正面から攻撃していたはずのカストロが消えたの如くヒソカの背後に回り込み、顔面を蹴りヒソカを地面に叩きつけたのだ。
「嘘だろ、あのヒソカが一方的に……」
「気のせいかな、ルメーネ。カストロさんが二人になったように見えたんだけど」
「そうだよ」
「え!?」
「なっ!」
「分身できるなんて……」
「あれは【
「ですが……ヒソカもまだ余裕があるようですね」
血を流しながらもヒソカは汚れを払いカストロに自分の体験した事からの推理を煽りを混ぜながら話す。
しかしカストロはその話をスルー、【練】でオーラを高めて構えを取る。両手を虎の爪や牙に見立てる“虎咬拳”だ。
「やっと……らしい能力が出たじゃないか」
「達人なら大木すら真っ二つにする事も可能な拳法だ、このままだとヒソカは」
「ないね、絶対にない」
「どうしてだよ。ヒソカはカストロの能力も分身だって気づいていないしどう考えても追い込まれているのはヒソカだろ」
「あいつを見てなさいな」
「行くぞ」の掛け声と共にカストロは虎咬拳の構えでヒソカに迫るも静止した。何故ならばヒソカがカストロに向けて左腕を突き出しているから。
「あげるよ♥︎」
罠が挑発か分からずだがカストロも誘いに乗り左腕に虎咬拳を決めると思った瞬間。
ヒソカの前にいたカストロが消滅し、背後に現れたカストロが突き出していない右腕をちぎり飛ばした。
攻撃を受けた一瞬こそ、ヒソカは驚いた顔をしていたがすぐに平静さを取り戻しカストロとの距離を置く。
そして落下点を知っていたのか先程飛ばされた右腕がヒソカの真上に落ちてきたのをキャッチした。
「君の能力は【
「流石だな……」
するとカストロの姿が二重に重なり離れ、カストロは二人に増えた。念が分からない一般人は理解できないとしていたがルメーネは何も気にしていない。
「この能力によって虎咬拳は進化した! 真なる虎咬拳、名付けて【
「確かに単純明快♣︎ そうだな……ちょっとはやる気が出てきたかな?」
パフォーマンスなのかヒソカはちぎれた右腕の一部をむしゃりと引きちぎる。
観客やカストロがヒソカの奇行に引く中、ヒソカはスカーフを取り出して右腕を覆い隠した。
「僕の予知能力をお見せしよう♦︎」
ヒソカはその包んだスカーフを宙へと放り投げると、腕ではなく一三枚のトランプが散らばったのであった。
「かはは、始まったよ」
「……ヒソカの腕から細い線のようなオーラが出ている」
「あぁ……スカーフやトランプ、天井に投げた腕までくっ付いているぞ」
「お二人も見えているんすね……一体これは」
「素晴らしい、三人ともヒソカの【発】が見えたようですね」
「で、昨日も話したけど【凝】を怠るとこういったものが見えなくてヒソカに翻弄されるよ。カストロは残念ながら【凝】をできていない」
ルメーネは見破っていた。
この奇妙な手品は何を意味するかを。
トランプを散らしたのは本命の右腕を天井まで飛ばしたことを悟られない為。
ヒソカのオーラは粘着性と伸縮性の性質を持つのを知っているルメーネは右腕をオーラで無理矢理くっ付けるなり何かをすると予測を立てていた。
「(しかしスカーフは何に使うつもり? 腕に巻き付けるのか……まだ分からない)」
そんな風にルメーネが推察している中、ヒソカは右腕の傷口から一枚のトランプを取り出しカストロへと投げつけた。
「ほほぉ……なるほどねぇ」
「オーラを投げ飛ばした!」
「しかもカストロさんは気づいていないっす」
「あのオーラ、トランプと繋がっていやがる」
「これは勝負がついたようなもの……三人ともよく見てなさいな。あいつの仕掛けが今から動き出すからさ」
「二度とふざけた真似をできないように左腕も削ぎ落としてくれる!」
二人いたカストロの内一人が虎咬真拳の構えでヒソカへと突進。するとヒソカは右腕を落とされた時のように左腕を差し出す。
この時、差し出した左腕から伸びたオーラをルメーネ達は視認していた。
そしてカストロが左腕を容赦なく引きちぎるとルメーネ以外には驚きの光景が広がった。
「本体が攻撃してきたらカウンターをくれてやろうと思っていたのに……
失ったはずのヒソカの右腕の復活。しかも受けた傷など最初からなかったかのように綺麗な状態で。
だが彼女には見えていた。
「(粘着性オーラでくっつけるのは想定通り。でもまさかあのスカーフを人肌に見立てることができるとは面白い能力ね……まさに手品だ)」
「どういうことなの!?」
「それはあんたらで推理しなさいな。ヒソカはどうやって右腕を復活させたのか、【凝】でよく見てたら分かるはずだよ」
「ルメーネさんはもう分かっているんですね」
「試験の時に私、ヒソカと軽く
「二つの能力を使ってんのかよ……てかヒソカと遊んだ!? マジかよ……いやルメーネだもんな」
驚くキルアだが、なんやかんや念を教えてくれている彼女の強さは底知れないことは理解していたが故に、彼女がヒソカと戦った事実を受け入れていた。
そして戦いは終幕に向かっていく。
「君には期待していたんだ♣︎ 素晴らしい念の使い手になれると♦︎ 残念だけど……予知しよう、君は踊り狂って死ぬ♠︎」
「黙れェ!!」
ヒソカに突撃しながら【分身】を発動するカストロ。咄嗟の分裂による攻撃は普通ならばどちらが本体かと悩むものであるがヒソカは迷わず本物のカストロの方を睨みつけていた。
カストロは焦る、なぜ自分の方が本物だとヒソカは分かっているのか。追い込んでいたはずなのに何が起きているのか。
その冷静さを欠いた戦いが彼の命取り。
「分身というのは
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」
やけを起こしたカストロは挟み撃ちをする形で虎咬真拳を繰り出すもヒソカは
ちぎれた左腕が本物のカストロの顎を打ち抜いた。
それを見届けたルメーネは同じタイミングでフライドチキンを食べ終わり、席から立つ。
「ルメーネ?」
「勝負アリだから私はちょっと出かける。ウイングさん、三人をビルまで連れて行ってください。私はちょっと用事があるので」
「分かりました」
ルメーネが階段を登り終えた時、床に張り付いていたカードが刺さりカストロが死亡。
決着による歓声と悲鳴が響き渡った。
ルメーネが向かったのはとある闘士の部屋。
そこにいる知人と少しばかり話をする為に。
タイミングが良く、ヒソカの部屋からマチが出てきたので手を振って挨拶をする。
「ハロ〜」
「そんじゃ」
マチはルメーネの横を通り過ぎ、さっさと消えようとする。何で
「ちょいちょい、無視しないでよ」
「何、面倒なんだけど」
「飯でも行かない? 美味しい中華屋見つけたから久しぶりに食べようよ」
「あんたの奢りね」
「いくらでもどうぞー」
こうしてルメーネとマチは近くにある高級中華料理店の個室にて食事をする事になったのであった。
その結果、個室には大量の中華料理がターンテーブルに所狭しと並べられている。店の人間はたった二人の女性で食い切れるのかと心配していたがそんな心配は無用になる。
「「おかわり」」
「は、はい! 何を追加致しましょうか!!」
「餃子六人前、麻婆豆腐二人前、炒飯を海老蟹餡掛けで三種類、スープ大盛りで」
「小籠包四人前、焼売三人前、拉麺二人前と天津飯」
「ひぇー」
流星街で食事も困難な環境で過ごしていた二人は一般人とは違いかなりの大食らい。
店の食材を全て食い尽くすのではないか、と思われる勢いで食事を楽しんでいた。
「で、あたしを誘ってまで何を話したいのさ」
「ヒソカってさ……何者?」
「うちの四番を倒してメンバー入りした変態」
「まー変わり者だよね。でも気をつけなよ、あいつ
「(オモカゲやられたんだ……あいつはあいつで強いやつだったのに。やっぱりヒソカは警戒だね)」
「クロロを倒す? はっ、ないない……
マチはもし行動しようというなら私が殺すと付け加えて、拉麺を啜りルメーネの心配を軽く流すも、彼女の顔色は優れていない。
「だと良いけどね……あ、こらマチ! 私の餃子を!?」
「余計な心配すんなって事。……一応あんたにも伝えておこうか。八月三十日に全員がヨークシンシティに集まるから仕事は避けた方がいいよ」
「全員って……マフィアの裏オークションでも襲うつもり? 噂ではかなりの物が出回るとは聞いていたけれど」
「さぁね、クロロ……団長が決めた事だからあたしらは従うだけだよ。あんたはその時期どうすんの」
「あー……知り合いと会う為にヨークシンに行く予定なんだよね。これはオークションに近づかない方がいいか」
「対立してもいい事ないしね。もしフリーの状態でいたら団長から依頼が来るかもしれないからそん時はよろしく」
「あいよー」
こうしてルメーネとマチの食事会は深夜まで続き、ルメーネは女性二人による食事とは思えないお支払いを請求されるもあっさりと支払うのであった。
お疲れ様でした。今回は以上になります。
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作者の創作意欲、モチベーション向上に繋がります。
マチの初登場ですね。主人公との関係は悪くはない。
ルメーネの口調もいつもより柔らかくなる感じです。
ルメーネは壁です。
キルアは素直過ぎたのだ……