サダソとの戦いを終えてから数日、ルメーネはゴンの鍛錬の成果を見る為に組み手を行なっていた。
ゴンは一撃だけでもと攻撃をしていくが一つも当たらない。素直な少年の攻撃には牽制が混ぜられておらず全て捌かれている。
「くっそ〜……」
「ゴンは素直すぎるんだよ。全部ストレートに攻撃しても意味なんてないよ、やるならフェイントを混ぜてきなさいな」
「分かった!」
ルメーネのアドバイスを聞いたゴンは早速、パンチを途中で止めて蹴りを混ぜた攻撃をしてみるも彼女にはあっさりと見破られて脚の脛にデコピンを受けてしまった。
泣き所とも言われる向こう脛への一撃によりゴンの動きも止まってしまう。
「うわ、えげつな。大丈夫かゴン?」
「……っ、っっ」
「かはは、そこは痛いでしょ。フェイントを混ぜるのは正しいけどそれを見破られちゃ意味がないね」
ルメーネが観察しているのは相手のオーラや筋肉の動き、攻撃する時とフェイントをする筋肉の動きは僅かに違う。
熟練の格闘家や殺し屋であればそれすらも見破らせない事も可能であるが相手は初めてフェイントが有効だと気づいた子供。
はっきり言えば、大人げない。
それからもゴンとキルアは交代交代でルメーネとの組み手を続けるが結果は惨敗。一度で戦える時間は増えたがそれでも打撃を一発すら当てる事ができずに終わるのであった。
疲れ果てたゴンとキルアをベッドまで連れて行き寝かせた後にルメーネは一人、シャワー浴びながら二人の事を考える。
「(……良いセンスしているよね。あと何日か組手をしていたら指二本じゃ相手にならないかも、羨ましい)」
ルメーネは師であるラウロンに同じような組手をしていたがそれを突破するのに一ヶ月はかかっていた。
それをまだ二週間も経っていない内に、感覚を掴み始めたゴンとキルアのセンスに脱帽。
天空闘技場は本日も大賑わい。
先日は期待の新生、キルアがサダソをあっさりと残酷に下していたが今回はもう一人の新生のリベンジマッチが開催されるからだ。
僅か数ヶ月で再度行われるゴン対ギドの一戦を見ようと多くの観客が駆けつけている。
ルメーネ達もゴンの戦いを見る為に来ていた。
「なぁルメーネ、ゴンの勝率どのくらいある?」
「ん、九九%勝つね。もうギドの独楽攻撃はゴンの【練】で防がれるから攻めるのは厳しい……あえて一%残すなら前回のトドメになった顎への義足蹴りくらい」
「ゴンさんから油断は感じないので問題ないと思うっす。ただどうやってあのギド選手の回転を止めるべきなのか……」
「あー、それも問題なし。既にゴンからある武器を使いたいと相談を受けていたからね」
ルメーネがズシの心配を取り除いたところで観客達から歓声が大きく響き渡る。ゴンとギドの入場が終わり、あと少しで試合が始まろうとしていたからだ。
ズシ達がゴンの方を見ると手元には釣り竿がある。
審判が試合開始を伝え、試合が始まった。
ゴンが先手必勝とギドへ向かうが、それ読んでいたギドも前回は中盤に見せた【竜巻独楽】で応戦。ゴンの突撃を止めた。
「(やっぱり読まれたか)」
「どうした? そちらが動かないなら今度はこちらからいくぞ!! くらえ【
ギドから放たれた独楽は一つ一つがオーラを纏っており、並み以上の攻撃力を持つ。更にギドが回転をしている勢いを利用して放つ独楽は念を覚えたばかりのゴンでは回避もできず、攻略は不可能だったであろう。
だが、今のゴンは違う。
「(……来た、【練】!!)」
「何ィ!!?」
回避ができないのではなく、回避する必要がないと言わんばかりにゴンはギドの攻撃を防いでみせた。
またゴン本人は意識してか無意識かは分からないが、戦闘に必要な冷静さを欠かせる事に成功する。
「今度はオレの番だ!!」
ゴンは手にしていた釣り竿を振り、ギドを見る。
「(釣り竿を俺に引っ掛けて回転を止める気か? だがそう簡単にはやられないぞ!)」
ゴンは狙いを定めて竿を思いっきり振るう。
それはギドめがけて一直線に進み、ギドの身体にはぶつからずに地面へと。
「外した……?」
「これで! 良いんだ!!」
これは試合の前日の夜中であった。
「ねぇルメーネ」
「どうしたんだい、ゴン。明日は試合なんだから早く寝なさい」
「ウイングさんにも話したんだけど、試合ではこれを使おうと思っているんだ」
そう言いながらゴンは釣り竿をルメーネに見せる。ルメーネはこれをギドに対して使う狙いをすぐに理解した。
「この前やった石板返しを釣り竿でやるつもりでしょ。それならギドも油断をするかもしれないね」
「どうかな?」
「有りだよ。ただどうせなら一つ教えてあげる……オーラを纏った武器はより強力になる。ナイフは切れ味を増し刃毀れが減るみたいにね」
「オーラを纏う……それって応用技?」
「その通り、【周】という技ね。コツはその武器も自分の一部のように思う事」
「…………こうかな」
ゴンは集中して釣り竿にオーラを纏わせる。
一つのアドバイスだけで【周】を成功させたゴンのセンスにルメーネはまた驚かされた。
「アンタねぇ、アドバイスを貰ったからと言っても一発で成功させるんじゃないよ。才能が怖いわ」
「えー、ルメーネの教え方がいいからだよ」
「そりゃどうも、そう言えばゴン。アンタここで面白い渾名を付けられていたんだね」
「あー……」
【周】でオーラを纏った釣り竿の針はギドの回転する義足に引っ掛かった。それを釣りの感覚で思いっきり釣り上げる。
「な、わ、わぁぁあ!!?」
ゴンのオーラは既にギドの持つオーラを遥かに上回っており、その回転にも負けずにギドを空中へと放り投げるのであった。
「かはは、いくら回転による防御が強いからって空中に飛ばされたら無意味だよね。やっちゃえゴン」
天井に叩きつけられるのではないかと観客を思わせるほど空中で長時間滞空するギドはパニックを起こし回転が解けていた。
宙に浮く時間が終われば、次に来るのは重力による落下。
まともな状態で落下すれば全身を強く打ち、打ちどころが悪ければ死んでしまう。ギドは【練】でオーラによる防御を高めてその時を待つ。
だが、それ狙う少年がそこにいた。
「な!?」
「くらえぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!」
【凝】でオーラを集めた渾身の張り手がギドの腹部に直撃しギドは闘技場の壁面へとめり込んだ。
「ギド選手、気絶による戦闘不能!! 勝者、ゴン選手!」
「決まり手は“押し出し”ってね」
ゴンの試合を終えた日の夜、ルメーネによる鍛錬は開始されなかった。何故ならばルメーネはゴンとキルアの試験をするからである。
「え、今日でおしまい?」
「ゴンとキルアで私に一撃を当てたら去ろうと思ってね。いつまでも私が二人に教えるだけなのも良くないからさ」
「そうは言ってもオレらまだ指二本のルメーネにすら勝ててないんだけど」
「かはは、どうだろうね……やってみないと分からないよ。ちなみに両手の親指と人差し指で戦うからよろしく」
突然の両手使用の宣言でゴン達に緊張が走る。ゴンとキルアのコンビで戦えるとはいえ、自分達が片手ですら苦戦するルメーネが両手使用になるのは厳しいと感じたからだ。
しかし抗議しようとしてもルメーネは意見を曲げないのでゴン達もやるしかないと覚悟を決める。
「それじゃあ始め──」
不意打ちの脛蹴り。
それをルメーネは軽く跳び回避し、攻撃をしてきたキルアの後頭部を軽く突く。
「痛っ」
「かはは、悪くない攻撃だったよ」
「ここからゴンと一緒に勝つ」
キルアの宣言に笑みを浮かべ、彼女は来なさいと手をくいくいと動かすと二人は同時にフェイントを混ぜた攻撃を開始。
今までであればゴンは真っ直ぐな攻撃だけだったが前に教えてもらってからはそれが改善しキルアと共に相手を翻弄する攻めを可能としていた。
流石のルメーネも戦いの中でぐんぐんと成長する二人を指で相手するには苦戦をしている。
「(やるねぇ、二人で真正面でなく正面をゴン。正面からの死角からキルアを挟む事でやりづらさが増している)」
「これでもまだ捌かれるなんて!」
「今までで一番攻撃できている。このままやるぞ、ゴン!」
「うん!」
それからもゴンとキルアの連携攻撃は続く、ゴン達は拳だけでなく蹴りなどを混ぜるがルメーネはそれらに合わせるように防御。
「(片手だけでも崩せれば……やってみるか)」
キルア試す為に最初の戦いの時に見せた右踵蹴りを繰り出す。ルメーネは前回同様に流そうと指を引っ掛けるが……
「こ、のっ!!」
「っ!」
やられる前に左脚を彼女の右腕に引っ掛けて絡みつく。キルアの体重が急にかかりルメーネは体勢を少し崩された。その隙をゴンは逃さない。
キルアの作った攻撃のチャンスを不意にはできないと全力で彼女の腹部を殴打した。
「お見事」
「やった! 初めて攻撃できた!」
「やったなゴン! それにしてもようやく一撃だ」
キルアはルメーネの方を見ると彼女は笑っていた。嬉しいような安堵したような表情である。
「合格だよ二人とも、最低限の実力は身に付いたね。本気でないにしても私との攻防で一撃入れるのは大したものだ」
「……あいつらと比べたら確かにアンタに一撃を当てるのも二人がかりで苦戦してたしな」
そう言いながらキルアが思い浮かべるのはサダソやギド達。実際に彼女ならば指二本で三人同時に戦ったとしても勝てる実力差があった。
「ただし油断はしない事、サダソ達は念能力者として中途半端。今の貴方たちは最低限強くなったとはいえヒソカどころか、多分カストロにも勝てないレベルだからね」
「ヒソカに倒されたあの人……」
「確かにあの虎咬拳は受けたらと簡単にやられていたかもしれないな……どうやったら防げる?」
「やられる前に【発】などで攻撃して勝つ。または【堅】の防御でダメージを減らすに限る、練度が高い念を使えるなら無傷もあり得るね」
「その【発】ってどうやって開発すれば良いの?」
「まーこういった能力を作りたいと構成を練り、自分なりに鍛錬を積むことかな。私にはオーラをあらゆる性質に変化させる能力があるんだけどそれは研究をし尽くした上で可能となったし」
そう言いながらオーラを電流や熱といった性質に変化させるルメーネ。【千変万化】を自由に使うために彼女も多くの研究を重ねた結果である。
するとルメーネはハンター試験の時ですら一度も脱がなかったコートを脱いだ。
素肌が見える腕や脚などにあらゆる切り傷や火傷などによる無数の傷跡が残されている。
「その傷跡……」
「これはもう治らない傷。私の能力の場合、仕事に使うからね。威力や殺傷力を高める為にまずは自分の身体で体感。その感覚をオーラで再現するといった感じで」
「だから傷だらけって訳か」
「キルアだって毒や電気に対する耐性つける訓練をやっているよね。ゾルディックならやるでしょ」
「まぁね」
「それとほぼ一緒。キルアは変化系だからといって真似する必要はないよ、自分がこうしたいと思う能力の方が強力になる」
「自分がこうしたい能力……」
「【発】は簡単に決めるものではないからねゆっくり決めなさいな。ただ敵の念能力者はみんな能力を持っていると思う事ね」
ルメーネが警告をするとキルアが少し暗い顔をしながら彼女に質問する。
「念能力者と敵対した時は、もし分析して敵わない場合は……どうすればいい?」
キルアはイルミの念で思考を支配されている事に気づいていない。だが素直に洗脳されていたと彼女は告げるつもりはなかった。キルア自身で乗り切って欲しいから。
ルメーネはキルアの頭を両手で抑えて屈み、目と目を合わせる。そして少しだけ申し訳なくイルミの念針に対してオーラを流し込んだ。
「逃げなさいな、怖いから負けたくないから逃げるんじゃなく“勝つ為に逃げなさい”」
「勝つ為に……」
「そうね、その為に逃げるなら“ゴンと一緒”にね。二人でやれば私にだって抵抗出来たんだ。二人が協力すれば面白い事になると思うよ」
イルミの洗脳は解けない、ならば僅かでもいいと自分の言葉をキルアの片隅に残るようルメーネは施した。
「(クソ兄貴と似た事をしてごめんよ、キルア)」
「ま、今度はどれだけ成長したか試してあげるからさ。頑張りなさいな、キルアもゴンもね」
「ちなみに次ってどんな感じに……?」
「かはは」
ルメーネは軽く笑い、構えた。
「武術家として、かな」
そう告げたと同時にルメーネはゴンとキルアの前から姿を消した。突如として居なくなったルメーネを探し、右往左往していると。
「ほら油断すんな」
とルメーネの一声だけ聞こえて、カコンと音がしたと思うと意識が遠のく。
「(あ……れ……)」
「(まじか……掌底打ち……)」
彼女の姿を一瞬だけ見えたキルアはまだまだ実力の差が計り知れない事を理解し、そして視界は暗転。
意識を失った。
「今度はヨークシンで会いましょう。二人とも」
こうしてルメーネはゴンとキルアをベッドの方に運び、ウイングとズシに別れの挨拶を済ませて天空闘技場から去っていく。
「さてとオークションまであと数ヶ月……どこに行こうかな。ん、メール来てるじゃん」
ルメーネがメールを見るとそこにはハンター試験で知り合った友人からの仕事を一緒にしないかという誘いのメール。
それを見た彼女は面白そうと思い、ヘルメスとしてではなくハンターとして、ルメーネ=マーキュリーとして仕事を引き受ける事にしたのであった。
お疲れ様でした。今回は以上になります。
よろしければ評価やコメントをお願いします。
作者の創作意欲、モチベーション向上に繋がります。
今回はゴン対ギドのリベンジ戦、ゴン達の卒業試練でした。
次回からはヨークシン編までの間の物語になります。