二人のハンター試験受験生と出会った次の日、ルメーネの体調は万全だった。アルコールもトイレの心配も全て済ませてある。
早朝に船が来る場所へと向かい待機するとそこには既に他の受験生であろう人間が今か今かと船を待っているようだった。
「ほほー、三十人は既にいるのか。こりゃまた大勢なこって」
近づくと何人から鋭い睨みや殺気などを飛ばされるも無視して先頭に向かう。ルメーネからすれば「なんで素直に一列作ってんの、これって競争でしょ」である。
「テメェ、なんで並ばねぇ!」
「「そうだそうだ!」」
「馬鹿じゃないの」
そう言いながら文句を言い出した連中の一人を掴んで海へと放り投げる。投げられた男は悲鳴をあげる間も無く海へと落ちていった。
そうなると周りも我慢の限界だったのか一斉に彼女に襲いかかる。剣を槍を拳法をと次々と攻撃を仕掛けるも容易く処理されて最初と同様に海へと消えていく。
「弱っ……こんなのでハンター試験よく受ける気になったよね」
「化け物かテメェ⁉︎」
「いやまぁ横入りしたのは悪かったけど襲いかかったのはそっちだからね。どうする、まだやる?」
にっこりと微笑みながら彼らを生暖かい目で見つめるルメーネ。しかし他者から見た彼女は悪魔のように思われていた。
その場にいた受験生の半数は実力の差から試験を諦めてしまう。残った半数も自信を失っており既に私は駄目ですと諦めが顔に浮かんでいるほどだ。
とある二人を除いて。
「やぁ二人とも、おっはよーさん」
「朝から何で喧嘩しているんだお前は!」
「見ていたこっちまでヒヤヒヤしたぞ!」
「「ん?」」
ルメーネの知り合いだった二人は軽く自己紹介を済ませて、彼女へのクレームを改めて行う。何故、周りに喧嘩を売るのかと。
普段から何も気に留めない話だが、珍しく彼女はその言葉を聞き入れていた。
(なんか、嬉しいな……こうやって間違ったことを正そうとしてくれる人なんて、あいつらくらいだったな)
彼女のいた流星街では彼女を叱る存在は現在の旅団にいるメンバーだ。筋肉馬鹿の兄貴分とアホなことをして叱ってくれる兄貴分姉貴分を思い出し、彼女は素直になっていた。
それからして船は到着した。乗客は乗り込み荷物の運搬や準備を済ませて出港した。ここからは数日をかけて国や島を経由してドーレ港へと向かう。
目的地へ向けて船は進む、止まっては人を乗せ。船内には多くの受験生達が屯しているがルメーネは群れない。レオリオとクラピカとは話すことはあれど共に行動はしない。
「ふぅ……はぁ……」
彼女がひたすら行うのは側からみれば精神統一かイメージトレーニング。実際は四大行の基礎である“纏”と“練” そしたその二つの発展系である“堅”を行っている。
それに気づく者はこの船にはいない。
ルメーネの堅は戦闘中に維持できる時間は数時間を超える。普通のハンターでも十分なレベルだ。しかし彼女は毎日鍛錬を欠かさない。
(一回、やめるか……。どうしようかね)
そう思いながら船の先の方に向かっていくと少し遠くであるが島が見えている。あの島はなんだろうとデコに手を水平に当てて見ていると後ろから話しかける声がする。
「あれはくじら島だ」
「うぇ!? 船長さん、いたの?」
「まぁな……くじら島はあるハンターの故郷でな。そのガキがあの島にいる」
「へぇ。いいハンターなの?」
「俺が知ってるハンターの中で一番の男だ」
「でもどうして私にその話をするのさ」
「さぁな、昨日から予感がして誰かに聞いてほしかったとかかもな」
「かはは、その子が来るといいね」
「そうだな……」
そう言い残し、船長は戻っていく。ルメーネはその子供がどんな人物なのか、面白いのだろうかと気になりだしていた。
少しすると島はどんどんと近づいてきてその姿をくっきりと見せる。港には島民がちらほら来ているようだった。
『これからくじら島で荷下ろしなどを行う、しばらくの間は待機していろ‼︎』
「はいはい、大っきい声でアナウンスしなくても聞こえてっての」
暇そうに甲板から港を見つめるルメーネ。手には下の方から貰ってきた林檎を持っている。
「なーに暇そうにしてんだよ」
「レオリオ……刺激が足りないのよ。私は結構過激な仕事もしているから」
「クラピカだったか、あいつの話からするとお前は裏社会の人間だってな」
「そうだよ、不満?」
「いや別に、そんな人間がどうしてハンターになろうとしてんのかってな」
「仕事のため」
「公共施設などの無料使用のためか、なるほどな。少しでも経費を浮かせたいってことか」
「かはは、その通り」
そう言いながらナイフを取り出し、持っていた林檎を二つに分けてレオリオに差し出す。
「ほい」
「お、サンキュー!」
二人は同時に林檎に齧り付く、口に入った林檎はシャキッと甘味が広がる……と思いきや。
「「酸っぱ‼︎?」」
「食感は良くても酸味が強ぇ!」
「まだ熟してないやつを出荷したな⁉︎」
文句を言いながら顔を窄めているお互いを見ると自然と文句は消えて別のものが湧いてくる。情けない顔をしている相方に対しての笑いが。
「かはははははっ!!」
「ハハハハハっ!」
「いやぁレオリオのその顔を見ていたらつい笑ってしまった。でも暇な気分が飛んだよ」
「俺こそお前の珍しい顔を見れて愉快だったぜ。冷静そうなお前からは想像できない顔だったからな」
そんな会話をしながら時間を潰す二人。なんやかんやしている内に出港の準備はどんどん整っていく。
そうしていると一人の少年が船員に話しかけているのが目に入る。釣り竿を持った黒髪の少年は船の方を指差し話を続けていようだった。
(まさか、この船に乗る気? ハンター試験を受けるつもりなの、あの子が?)
「もうすぐ船が出るんなら、俺は船内には戻るわ」
「どうぞー」
レオリオが船の中に戻っていくとほぼ同時に先ほどの少年が甲板に来た。そしてルメーネの近く、つまり港を見渡せる側に来ると港の人たちに別れの挨拶を始めた。
「元気でねー!! 絶対に立派なハンターになって戻ってくるから‼︎」
手を振りながら港の人たちと別れを告げた少年。その近くでボソリと話す声が聞こえたのか、彼は声の先に振り向いた。
「くくく……舐められたものだ。ハンターになりたいのは俺たちだけじゃねぇ。十万人を超える志望者がいて受かるのはほんの一握りの世界なんだぜ?」
「仲間同士で殺し合いになるのも珍しくねぇ職業だ、あまり甘いことを抜かすんじゃねぇぜ。坊主……ッ⁉︎」
少年の別れ声に揶揄いたくなった
一般人のデコピンなら痛い程度で済む。だがこれを行ったのは世界有数の仕事人であったため、被害を受けた彼は可哀想なことになった。
「あ、あが、がッ‼︎」
力を一点にこめて放たれた一撃は男の頭蓋骨に穴を開けていた。
可哀想なことに動けないだろう。
「子供相手に情けない、それでも大人なの? ほれ少年、ここには怖い大人がいるから船内に行った行った」
あっちに行けと手を軽く振りながら周りの
周りの連中は今朝の出来事を思い出し、大人しく引っ込むことになった。
不機嫌になった彼女は甲板で昼寝をしていた。少しすると船長に叩き起こされた。
これから嵐の中を進むため安全のために船の中に行けとのことだ。それに応じ彼女は船内へと戻る。
そこから先は地獄だった、荒波は激しく船の中はあっちこっちに揺れ動いて人々も散らばっていく。船酔いしてゲロを撒き散らしながら。
ルメーネ自身はこの程度の揺れで吐き気を催すことはないがゲロを被るのだけは回避するために必死になるのであった。
3話終了でございます。
原作主人公ゴンも登場しましたがまだ会話も何もしてません。
ゴンとの会話は4話になりますのでお楽しみに。
1話の時点でお気づきでしょうが彼女は念能力者です。
念がなければ銃弾をノーダメージで受け流しはできませんので。
※彼女は銃弾くらいなら平気です、ライフル弾は普通に怪我します。
ルメーネの兄貴分姉貴版は三人います。
筋肉馬鹿の兄貴分は簡単ですね。
他のメンバーとの関係は後々に。