ルメーネはウボォーギンを解放し、脱出をしようとしていたところでインターフォンが鳴る。そこにいたのは黒スーツのマフィア達、彼を回収しにきたのかと警戒をしていたが、すぐに解いてしまう。
何故ならばそこにいたのは。
「もう兄貴は解放済みだよ、フィン」
『あ? その声、ルメーネか』
「そうだよ、地下二階にいるからさ」
そう言い残しルメーネは電話を切る。
「なんだ、あいつらもようやく来たのか」
「陰獣とやり合ってたんだ。私より時間がかかるのは仕方がないよ……それより兄貴はどうするつもり?」
「決まってんだろ、あの鎖野郎への借りを返す! やられたままではいられねぇからな」
避けられない対決にルメーネは悩む。友人の情報を売るべきか、それとも売らずに兄貴分を不利な状況にするか。
彼女にとって苦痛の選択である。
だが、やはり長い付き合いのある兄貴分を見捨てかねない行為を彼女はできなかった。
「鎖野郎の能力、分析した程度でいいなら話す」
「お前の眼はかなり良いからな……助かるぜ。普段ならヒントなんて聞かないところだが、アイツはちょっと違っていた」
「まず具現化系なのは確定。鎖の範囲はかなり広い……そして兄貴を捕らえた鎖は中指から伸びていた。他の指にも何か別の能力があるかもしれない」
彼女は予測していた。クラピカの五指から出る鎖にはそれぞれ別の能力があると。
「具現化系……厄介だな。ルールに嵌ったら完封されかねない能力を有している可能性が高い」
「これは予想でしかないけど、鎖の能力は幻影旅団にのみ使用することで拘束力を増している可能性があるよ」
「俺達限定……だとしたらあの力強さも納得がいく。成程リベンジ野郎か……!!」
「興奮しているところだけど兄貴、勝つ為に必要なのは【凝】だってことを忘れないでよ。相手は鎖を【隠】で隠すことが出来るから」
「おっとそうだったな。とはいえ戦闘中にずっと【凝】を維持できる集中力を持つのはお前くらいだろ」
ウボォーギンも念の応用技をこなす事は出来るが、そもそも巨体の彼は反応やスピードそしてパワーは旅団随一だが攻撃方法は大振りのため隙も大きいのが弱点である。
だが彼の全力による一撃の威力は陰獣である蚯蚓の下半身を吹き飛ばしたように破滅的威力があり、例えルメーネでさえ無事では済まない。それは敵であるクラピカであっても。
「油断すんなってことだよ。兄貴は漢らしいけど悪く言えば雑なところがあるからさ、もしもがあってほしくないんだよ」
「……お前の言いたい事は分かるけどな。こればっかりは止められねぇよ、お前だって分かるだろ。リベンジ狙いの奴をブッ飛ばす時の喜びをよ」
彼女は反論ができない。
彼女もまた
だからこそ彼女はそれを恐れる。
楽しいからこそ油断が生まれるのだ。
だがそれを説得する術を思いつかないルメーネは苦虫を潰すような渋い顔で俯くことしかできなかった。
「まぁアレだ、お前がここまで警告してくれるのは珍しいからよ。遊びは抜きでやる」
「…………わ、分かった」
彼女がなんとか声を絞り一言を発した時、入口の扉が開き旅団のメンバー達が姿を現した。
「よっ、ウボォー。お前が捕まったと聞いた時は驚いたぜ。ブラコンの妹がここにいるのはもっと驚かされたがな」
「うっさいよ、フィン。誰がブラコンだ」
「どこから見てもブラコンね」
ルメーネは黙って
「それじゃ撤退しよっか。陰獣は始末してお宝も手に入れたからね、
「ん、やめとく。兄貴には酒が必要でしょ、私がサクッと買ってくるよ」
買ってくるに反応するのはウボォーギン。
「んなもん殺して盗ればいいだろうが」
盗賊としての考えが染み付いてる兄貴分の言葉は他の旅団員も同意見のようだった。だが彼女は自身の考えを曲げない。
「私の主義の問題、仕事と関係ないのは殺す必要がないからね。これは例え
ルメーネの睨みに、旅団は互いに目を合わせて返答を考える。そして出た結論は同胞と喧嘩するのも馬鹿馬鹿しい、であった。
「…………誰もお前と喧嘩する気はねぇよ」
「温いね」
約一名を除いて。
フェイタンは腕相撲の因縁もあるが昔からよく彼女と喧嘩をする仲で、それは今でも同じ。
「温くて結構」
しかし喧嘩の誘いは面倒であることと、現在ウボォーギンを放置する余裕はない為に彼女はスルーした。
「ウボォーは酒を飲んでヒルを無効化したら戻ってくる……感じてはなさそうだね」
「当然だ! 団長に伝えてくれ、あの鎖野郎をブッ飛ばしてから帰るってな!!」
「あ、兄貴ったら……そんじゃ私も行くから」
先に行ったウボォーギンを追いかける為に友人達に別れを告げ、立ち去るルメーネに声を掛ける者が一人。
「待った! オレもついて行くよ」
それは先日、ウボォーギンと共に彼女の家で食事をしたシャルナークだった。止める理由がない彼女は友人の同行に何も言わず兄貴分を追いかける。
ウボォーギン達はとあるビルにいた。
そのビルの持ち主はルメーネ=マーキュリー。ここは彼女の隠しアジトの一つである。
部屋に設置してあるのはハンター
それをシャルナークは自身の持つ証を使い襲撃した通称“鎖野郎”の情報探りの為に使用していた。
「ウボォーを捕まえていたビルの持ち主はノストラード
ハンターサイトの恐ろしさは情報網の広さである。
調べたいことがあれば金を支払うだけであらゆる情報を得ることが出来るのだ。そうそれがマフィアンコミュニティ所属の組員であろうと、幻影旅団の情報であっても。
「兄貴ー、追加のビール持ってきたよ」
「おう適当に置いといてくれ!」
「シャルもほいよっ」
彼女はビール以外の缶飲料をパスする。
「サンキュ」
「ハンターサイトの情報の更新速度には参ったね。この前は
「ハンターになった弊害だね。試験の時に偽名を使わないからそうなるんだけどさ」
「まぁそれで私の情報を得たところでなんの意味もないけどね。やられる気はないし」
「流石」
それからも情報収集はあっさりと進み、構成員の情報やノストラード組が持つ物件、ここ数日の宿泊記録を調べられた。
「よし、大体調べ終えたな。これをしらみ潰しに探していけば明日には見つけられるはず」
「恩にきるぜ」
そう言ってウボォーギンはシャルナークのこめかみ辺りにキスをする。男にキスをされてシャルナークは嫌がった。
「それじゃ行ってくるぜ」
「兄貴、頑張って」
「油断禁物だよ!」
鎖野郎との決着へ向かうウボォーギンに向けてルメーネとシャルナークはエールを送る。
彼は「おう」と一言話すだけで目の前から消えた。
「さて、オレも帰るか」
「シャル……」
「ん、どうしたんだい?」
「私は兄貴を追う、このことを絶対に兄貴やみんなに伝えないでおいてほしいんだ」
「りょーかい!」
ルメーネは兄貴分のウボォーギンの行く先の跡をこっそり尾けていた。もちろん【絶】を使うことで完全に存在を消しながら。
夜が明けて朝を迎えてもウボォーギンは鎖野郎であるクラピカを見つけられていないのか血で濡れる量が増えるだけだった。
その間で彼女はこっそりと電話をする。
その相手は。
「あぁもしもし、レオリオ?」
『どうしたんだよルメーネ。そろそろ腕相撲を始めようと思ってんのに来ないなんてよ』
「うん、ごめん……数日は会うことができないかも。ちょっと昨日色々あったんだよ」
『あー…………分かった。』
「本当にごめん、こっちから連絡できる時には連絡する。あの二人のことを頼んだよ」
『任せとけ!』
電話を切ったルメーネは空を眺める。
そこには曇りがない綺麗な青空が広がっていた。
しかし、彼女の不安は拭われることはない。
レオリオは真の目的で頼りになるルメーネが合流できないことで少し困った顔をするが彼女にも都合があるから仕方がないと切り替える。
「えぇー! ルメーネ来れないの!?」
「ま、いいんじゃね。ルメーネが強すぎて昨日の時点であいつに挑むのほとんどいなかったし……まぁそれでもオレらに挑むのも減ってるだろうけど」
「とはいえ現在俺らには景品の貴金属合わせて1,800万、残金の240万、腕相撲での稼ぎ630万と併せて2,670万の予算がある」
「でも流石に腕相撲だけじゃ億まで届かないよね」
「昨日のが噂で流れたら多分誰も挑戦しねーよな……それに噂は尾鰭がつくもんだし」
困ったもんだとキルアは天井を眺めるもレオリオは焦る素振りすらない。むしろそれを待っていた。
「いいんだよ、それで」
「「え?」」
レオリオは真の目的を二人に話し、腕相撲を行う場所へと向かった。
始めてみるも昨日起きた出来事が既に有名な噂となっているらしく誰一人挑む者はいない。
その噂とは500人抜きや骨折者が二桁を超える、ゴリラに育てられた人間、元プロの格闘家娘など正しいものや間違いであるものまで様々である。
「やるぜ」
開始して数分、一人目の挑戦者が現れた。
それはレオリオよりも背が高く、ゴンやキルアの腕数本分の巨腕を持つ大男。
「あぁ? これでどうやって組めばいいんだ?」
当然と言えば当然だがゴンと腕を組もうにも大きさが違うので組むことができない。
しかしか獲物を逃すわけにはいかないのでレオリオが代役として腕相撲をしようとすると参ったが入る。
「別にケチをつけるつもりはないがそれは条件違反になるんじゃねぇのか?」
大男と共にいた小柄な青スーツの男の発言を予測していたレオリオは懐から500万を取り出し、勝てばダイヤモンドに加えて賞金のルールで腕相撲を提案。
すぐに同意を得られ腕相撲が始まった。
その結果はレオリオの圧勝である。
「がっ……ぐぁっ…………!!!!」
開始の合図と同時にレオリオは力を込めて相手の手背をテーブルが壊れる勢いで叩きつけた。
元々の筋力でゾルディック家の試しの門を2つ目の門まで開くことができるレオリオからすれば念の使えない筋肉自慢など簡単に捻れる。
怪力によって挑戦者の骨は折れていた。
そして昨日を合わせて初めての怪我人が出たことで観客の挑戦心も折られてしまう。
「いやぁ兄ちゃん強いね」
「そりゃどうも。だが後ろの二人の方が俺なんかよりもずっと強いんだぜ?」
「ほぉ……ヒマだったら午後5時までにここまで来るといい。面白いものがあるぜ」
そう言って青スーツの男は名刺に簡易地図を書いてレオリオに手渡す。その地図に書いてあるのはアングラ関係者が多いと言われる条件競売を行う会場が記されていた。
「いくぞ、お前ら。今日はもう商売あがったり
だ」
「あ、待ってよ〜」
午後5時になりレオリオ達は地図の建物へと入り、中にいる黒スーツの男達に招待状を見せると通される。
エレベーターで下ったフロアに着くとそこにあるのは格闘戦でもあるのかと思われるリング、そして殺気立った多くのチンピラ達がいた。
そして五時になった直後、辺りは暗転し中央にあるリングが照らされそこには奇妙な姿の男が立っていた。
『皆さま! 大変長らくお待たせいたしました。これより条件競売を開催させていただきます!!』
それから説明されたのは今回の種目は隠れんぼであり、七人のターゲットを一人でも捕獲できれば20億ジェニーの小切手を獲得可能である。
だが三人はそれどころではない。
ターゲットの顔写真を確認しようと配られているチラシには、昨日ルメーネと熱い腕相撲対決をしていたりゴンとギリギリの勝負をしていた彼女の知人達が載っていたのだから。
「これ……昨日の人達だ。どうしよう」
「こんな競売対象になるくらいヤバいだろうが捕まえれば目標の金額に大きく近づく。ならやるしかないんじゃないか、ゴン」
「確かに、一人当たり20億だから」
「全員捕まえれば140億!!!」
やるしかないと決めたゴン達は参加費用を支払い、条件競売に参加。周りで誰が聞き耳を立てているか分からない為、ゴン達はホテルへと戻った。
「さて、どうやってこの七人を捕まえればいいんだろうな。のんびりしてたら他の連中に──」
「慌てなくてもあんな連中じゃ捕まえられないよ。なんせマフィアが手を焼いてるんだから」
「どーゆーことだ?」
「条件競売と言いながら中身は賞金首探し。この時点でマフィアがこいつらを捕まえれないから多くの人員が必要となった」
あの場で冷静にキルアだけがこの件の本当の理由に感づいていた。本来ならリングでバトルをやる予定であったが急遽この七人を捕まえる必要があったこと。それは時間や金をいくらでも費やしても構わないであろうことを。
「マフィアが血眼狂いで探す理由……まさかコイツらに地下競売の品を盗まれたとかか!? それなら賞金をかけて多くの人員を導入する理由も分かるぜ!!!!」
「そ、マフィアから盗むなんてイカれている。でもオレ達にはそんな事を簡単に行える連中に心当たりがある」
「……おいおいマジかよ」
「“幻影旅団”……‼︎」
賞金首の正体は幻影旅団であると推測を立てた三人。そして幻影旅団といえばとこの場にいない友人のことが気になってしまう。
「そういえばクラピカは……?」
「もしかしたらだが幻影旅団がいることを察して何かしてるかもしれない……アイツは鋭いからな。なんなら既に捕まえている可能性もあるんじゃないか」
「ルメーネが昨日から姿を見せないのも旅団が関わってると思う。この中で知人が複数いる時点で偶然なのはまず無い……ルメーネ自身も旅団の一員かは分からないが深い仲なのは確実だよ」
「そういや今朝電話で色々あったと言っていたが色々ありすぎだろ……」
ゴン達がどうしようかと作戦会議をしている同時刻、ノストラードファミリーが少し前まで滞在していたホテルの一室で二人の男が睨み合っていた。
「…………一人か、感心だな。どこで死にたい? 死に場所くらい選ばせてやる」
「人に迷惑をかけない荒野がいい。お前の断末魔は五月蝿そうだ」
「上等だ」