ようやく倒すことができた。
ヒソカからの情報以上に実力があり苦戦を強いられたが……私の能力なら奴等に通用する。
さて、この死体とこの仮面をどうするか。
私は動こうとするがどうも身体がうまく動かない。何か呪いのようなものをかけられたかと思ったがそうではない、想定時間を越えた緋の眼……【
緋の眼の状態の時だけ私のオーラは具現化系から特質系へと変化し、全ての系統を100%引き出せる。
しかしこれには大きな代償……制約がある。それは“一秒につき一時間、寿命が減る”ことだ。旅団を倒すためならばと長生きを捨てた能力だが、まさかここまで疲労がくるとは。
すぐに死体の処理はできない。
ならば、この仮面の正体を調べるとしよう。
「…………なんだ?」
私は何故か嫌な予感がする中、その仮面を取る。
取ってしまったんだ。
私はどうなった。
未だ全身の痛みが抜けない、少しでも動かすだけで全身が軋むような痛みで何もできない。
「起きたか」
あぁそうか。
そうなんだな。
君の声がすると言うことは、だ。
「……負けたんだね」
相性が悪いのは分かっていたさ、兄貴が戦いから退いたりする人間でないのもね。だからこそ私は兄貴にアドバイスをしたり直接助けたりしてしまったのに、それでもダメだった。
「まさか君が……いや、お前が旅団に関わりを持っているとは信じられなかったよ。ルメーネ=マーキュリー」
「かはは……そうか、もう身包みを剥いで私だって分かっていたんだね。クラピカ」
恐らく蜘蛛の刺青がないか見るためだろう。
クラピカは今どんな顔をしているかな。
そう思いゆっくりと瞼を上げるとそこにいるのは怒りなのか悲しみなのか様々な感情をぐちゃぐちゃに混ぜたような表情を浮かべるクラピカだった。
「さて、どこから話そうか」
「お前とそこの男の関係から……正直に話せ」
そう言ってクラピカが指した方を見るとそこには目から生気が消えた家族の死体が転がっていた。
彼女も覚悟をしていたはずだった。クラピカが生き残っている時点で兄は既にやられていると。
それでも──
「──────あ、にき?」
家族の死は受け入れられなかった。
「っ、兄貴…………っ……!」
ボロボロの身体に鞭を打って死んだ男の元へ駆け寄り、嗚咽を漏らす彼女の姿をクラピカは信じられなかった。
あのルメーネ=マーキュリーが、冷静沈着でありながら怒らせると恐ろしい彼女がただの少女のように見えたからである。
「君も……あいつらと同じなのか? 仲間に対しては深い情を持っているのに他者には冷たく何も考えずに簡単に殺せるのか。どうなんだ……!?」
クラピカは信じたかった。
仲間である彼女だけは違うと。どんな相手にも普通に接することができる彼女はそんな人間ではないはずだと。
しかし、それは裏切られる。
「…………殺せるよ。だって、“他人”だからね」
「ッ!!」
「何、ショック……受けてるのさ。私が
「黙れ!」
クラピカは怒りを鎮めて切り替える。
もうこの女を仲間として接してはいけない。奴もまた旅団と同じ穴の狢、油断してはいけない相手なのだ、と。
「次はお前とその男の関係だ、話せ」
先程までと自分を見る目が違うクラピカを見てルメーネは少しだけショックを受ける。しかしそれもまた仕方ないとルメーネは彼の問いに答えた。
「私と兄貴は同じ故郷の仲間で兄妹分の盃を交わした仲ってやつだ。進んだ道は別だったけどね」
「幻影旅団との関係は?」
「メンバーに同胞が複数いる。それの繋がりで情報のやり取りなどもやっていたよ」
「なら……メンバーについて話せ」
素直に話すルメーネに今なら旅団の情報を引き出せるかもしれない。そう考えたクラピカは彼女に問う、しかし。
「言わない」
「は?」
「言えないじゃないよ、言わないんだよ。仲間を……家族を売るわけないでしょ」
「私のことは話したくせにか」
クラピカは忘れていなかった。ウボォーギンとの戦闘中、彼が呟いていた『アイツの予想通りだ』というものを。
これは正体が分かっていなかったはずの自分について予測を立てていた相手がいるということ。
そしてその男の妹分であると話した彼女が自分について色々話したのであろうと推測した彼は容疑者を睨み付ける。
「そう受け取るのは仕方ない。言い訳させてもらうなら私はあなたのことは何一つ、兄貴にも旅団にも伝えていないんだ」
「嘘をつくな」
クラピカは彼女の話を見極めるために薬指の鎖に仕込んだ能力。【
「本当だよ、私はクラピカの性格からどのような能力にするかを予想して話しただけ。参考にしたのは陰獣との戦いの後、兄貴を攫った瞬間くらいかな」
鎖は反応しない。それは彼女の話すことが全て真実であるという証明である。
「まぁ……兄貴とクラピカのどちらが生きてほしいかと考えた時に、兄貴の方を取ったから最低なのは変わりないか」
ルメーネは自嘲的な笑みを浮かべた。
「まだ聞きたいことはない? 言っておくけど生き残っている旅団の能力やメンバーについての情報は売らないから」
「…………たとえ死んでもか?」
「当然」
鎖はまたしても揺れない。
彼女は既に死ぬことを恐れておらず、情報を引き出せないことを意味していた。
クラピカは悩む。
ここで彼女を殺すべきか、殺していいのか。
彼が顔を歪めている中。彼女はそれを見透かしたような言葉を突然、笑顔で放つ。
「ここで私を生かしても“自殺”するよ」
「なっ!?」
コイツは何を言っている!? とクラピカは驚きながら彼女の顔を見つめる。彼女は今まで見てきた中で一番穏やかであった。
「そりゃそうだよ。家族を見殺しにして、友達を裏切って、それにあなたの仲間も殺した……もう誰にも合わせる顔はないんだ。なら死んでもいいかなって」
こんな人殺しが自殺なんて本当は許されるわけないけどね、と付け加えて彼女はきっぱりと言った。
何故だ?
どうしてこうも簡単に死を選べる…………?
奴も、ルメーネも……何故なんだ!
……殺せない。
殺そうと考えても行動に移れない。だが放っておいても彼女は死ぬ、それは鎖が動かないことから事実だ。
どうすれば彼女の自害を止められる?
説得しようにも彼女の精神を揺るがすほどの言葉なんて思いつかない……くそ!
「かはは! 悩む必要なんてないよ、私は兄貴と共にここで死ぬ。疑うなら死ぬ瞬間からしばらく観察していればいい……死後の念を警戒するならさ」
違う!!! 私はそんなことを懸念しているわけじゃない!
「ルメーネ! 君は、君が死んだらゴン達はどうするつもりだ? 君のことだ、既に合流して一緒にいたんじゃないのか」
必死に思いついた言葉は効いたのか彼女は少し驚いた顔をした。これなら説得できるか?
「ゴン達にはさ、クラピカから緊急の仕事で街を去ったと伝えてくれないかな。無理なら私から死ぬ前に連絡するよ」
無駄だった。彼女の死ぬ意思は変わらない。
何なら君を止められる!?
「…………孤児院」
「え?」
「孤児院の子ども達はどうするつもりなんだ。君が支援を止めたら……!」
「もう大丈夫だから、私の死後は預金全て寄付する形になっているしね。まぁ心残りにはなるけど」
これもダメなのか? 君はあの時、試験の時よりも遥かにいい顔をしていたじゃないか。
いや……仲間を引き合いに出した時よりも彼女の反応は良かった。これを少し悪用すれば、止められるかもしれない。
生まれも考え方も旅団に限りなく近い人間であるルメーネ=マーキュリー、最初こそ知らないフリをして近づいてきていた彼女を酷く怒りを覚えた。
けど、彼女はどこかが違う。それに……自分もまたルメーネには死んでほしくないという思いがある。だから……恨まれてもいい。
「お前が死んだら……孤児院の子ども達は、マーキュリー財団は大変なことになるだろうな」
「な、なに言ってるのさ。クラピカ?」
「幻影旅団と深い繋がりがあるヘルメス。私達の仲間に手を出したことでお前の関係者は消されるだろう」
「ぇ……ぇ…………?」
「それはお前が深く関わっているマーキュリー財団、そしてその経営している孤児院にまで報復の対象になるんじゃないか?」
「待ってよ! あの子達は関係ないじゃない!! 私の首を持っていけばそれで!」
「悪いが、今の私はマフィアの一員だ。そんな戯言に従う義理はない……君がこのまま死を、自害を選ぶと言うのであればその事を上司を通じてマフィアンコミュニティに報告させてもらう」
「ふざけないでよ!? なんでそんな事を言うのさ……悪人の私がケジメをつけるのは分かるけど、なんでみんなまで──」
「嫌なら、ここで死なずに私に従え」
これでダメならもう手立てはない。
頼む、ルメーネ。ここで諦めてくれ。
本当にマフィアに密告するわけじゃない……だから、だからここで死ぬのだけは。
「…………………………ひどいよ」
「っ……酷いのはお前も一緒だ」
「…………は、はは。そうか、そうだよね。私がヘルメスなんかがそんな事言う資格なんて……かは、は」
ルメーネは両膝をついて力が抜けている。その顔は……感情が全て抜け落ちた虚無のようで見ていられない。
だが、それを選んだのは私だ。
選んでしまったからにはもう退けない。
「この際、旅団の情報は話さないでいい。だが私の為に動いてもらう……その為には」
クラピカは再度、緋の眼にする。
即ち【絶対時間】が発動した。
しゃらりと音を立てる小指の鎖が勢いよく伸びてルメーネの心臓部へと突き刺さる。
「うっ……」
「この能力は【
「はは、なるほどね……」
「ルールは複数ある。一つ、旅団員に私の事を話すな。接触禁止が一番だが偶然もあり得るからこれは入れない。二つ、私の命令には必ず従う事。以上だ」
「…………分かった」
ルメーネはそう一言だけ残し黙ってしまう。
「その死体はお前が片付けろ。ただし街に持ち帰るのは禁止、可能ならこの荒野に埋めてくれ」
返事は返ってこない。
「では、何かあったら連絡する。巻き込まれたくないなら、下手に出歩かない事だ。宿泊先のホテルに居続けるのも手だろう」
クラピカはそう言い残して荒野から姿を消す。
誰の気配も感じ取れなくなった時、彼女は。
「ねぇ、兄貴……私は間違えていたんだよね? こんな、こんな事になるなんて思ってなかった。
彼女を生かす為に、友達は脅すしかなかった。
彼女は脅されても、友達を恨むことはできなかった。
今回から“アンチ・ヘイト”タグを追加しました。