荒野に残された彼女は夜明けの直前まで泣き続けた。泣き終えた彼女は先ほどまで引きずっていた感情を全て切り替え、現状を打破する策を練る。
「(私のミスはもう取り返せない……感情的になりすぎたせいで余計な足枷がついた。クラピカからの命令があれば私は従うしかない)」
彼女の枷はクラピカの命令を必ず従うこと。そして幻影旅団にクラピカのことを話してはいけないこと。
それを破った際に、彼女は死ぬ。
だけではなく彼女が支援するマーキュリー財団にまでマフィアの報復が行われるのだ。
「(だけど私に
ルメーネは考える。
自分が死ぬことになっても財団や孤児院にまで影響を及ぼさない為にどうするべきか。
「まずは……兄貴の埋葬からだ」
ルメーネはウボォーギンの遺体に寄り添い、手を顔に添える。開いていた目は閉じ、安らかに寝ているようにも見えた。
そして彼女は兄を背負い岩山のトンネルへと向かった。そこは先程クラピカとの戦いの中で彼が掘り進めたところである。
「(遺体を隠すなら土中よりもここだ。掘って埋めるのような遺体の隠し方しかできないマフィアには見つからない)」
彼女は入った入口と逆の道を封鎖し、土で埋めていく。その道が真ん中にまで埋めたであろうところで遺体を置き、さらに埋めていった。
大地を照らす太陽が差し込むようになった時間帯で岩山トンネルを完全に封鎖。
「兄貴、寝心地は良くないだろうけどゆっくりと眠って。私も多分、近いうちに……そっちに行くから」
声をかけた後の彼女はすぐさま携帯を取り出し、とある人物の元に連絡をとった。
「あぁ、もしもし……爺様お元気? ちょっと今日はお願いがあってね。実は…………」
ヘルメスもタダではやられない。
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ウボォーギンが決着をつけるといい別れてから半日が経過するも連絡がない。シャルナークは少し焦っていた。
「(まさか……ウボォーはやられた? いやだとしてもルメーネがついているはずなのに)」
「何焦てるか、アイツ簡単にくたばらないね」
「共有しておくけど……ウボォーにはルメーネがついているはずなんだ。ルメーネが仕事で連絡をしないなんてことあり得る?」
ルメーネという言葉を聞いた旅団員も現状が良くないのではと考え始める。彼女の実力を知っている者からすれば何も連絡がないのは違和感しかなかった。
「ウボォーがまだ戦闘中の可能性もあるよね」
「または両方がか?」
「みんな落ち着け」
幻影旅団の首領、クロロ=ルシルフルは落ち着きを乱し始めた旅団員を鎮める。続けて自身の考察を話し始めた。
「まず最初に、ウボォーギンを倒せるとしたら具現化系や操作系の類だ。操作系は条件さえ満たせば対象を自由に操る事もできる。そして具現化系は物体化した物に特殊能力を付与し、それでウボォーの力を封じたところか」
「鎖野郎は鎖を操作しているか、それとも鎖を具現化しているのか……どちらかといえば具現化系の方がありそうだね」
「ただ…………」
一呼吸をおいてクロロは話す。
「ルメーネがやられた可能性で全てが分からなくなった。あいつの能力はありとあらゆる戦いに対処できる……それがオレ達でもな」
クロロの困惑を聞いてノブナガは顎髭を弄りながらそれに同意する。
「空からも地からもあらゆる攻撃方法を有するあいつが簡単にやられるわけがねぇ……ウボォーだってそうだ」
「前に模擬戦で殴り合ったことがあるがアイツの拳法だったか? 威力、速さ、キレどれも桁違い……並大抵の格闘術じゃ対応できねぇぞ」
あの時の一撃は痛かったとフィンクスが当時殴られたであろう腹部をさする。
マチもまた彼女がやられたのは信じていない。
「前に天空闘技場で会った時も私や周りを【凝】で観察していた……あの癖が抜けないルメーネが搦手にやられるとは思えないね」
困惑をする幻影旅団。その中で二人だけ彼女がやられたと思わしき理由に関して思い当たる節があった。
「待って、あるかもしれない」
「あぁ……俺も可能性を見つけた」
「どういうことだ。パクノダ、フランクリン」
この二人。パクノダとフランクリンはルメーネが「兄」「姉」と特に慕われていた。彼女の性格をよく知る二人だからこそ、まさかと思いついたのである。
先に話し始めたのはパクノダ。
「あの子は確かに強いわ。私だったら太刀打ちできないほどにね……でもあの子は心。“精神”の方が“不安定”なのよ」
「何言てるか、ヤツが不安定なのは見たことないよ」
「そうね、私達は気付きにくいかもしれない。でもあの時……あの時のルメーネは本当に恐ろしかった」
彼女が語ったのは幻影旅団が生まれる前に起きたとある事件のこと。名前を伏せたが一人の少女が殺された事件。
その場にいた皆が心を痛めている中、彼女だけは少し違っていた。悲しみもあっただろう、怒りもあったのだろう。彼女は目が血走り唇から血が出るまで噛み、鬼のような憤怒の表情をしていたのだという。それは兄であるウボォーギン以上に。
そしてそれは解散した後の夜、パクノダはふと星が見たくなり外へと出たのだが……そこに彼女がいたのだという。
『……ルメーネ?』
彼女はゴミ山に放棄されていたのだろう赤い冷蔵庫の前に立っていた。
『…………やる』
声をかけても聞こえていないのか彼女はボソボソと何かを呟いている。そっとパクノダは近づく。
『殺してやる。あの子を、サラサを……傷つけてみんなから奪った人達をみんな……殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!!!』
『ひっ……』
冷蔵庫は元々赤いのではなかった。
それは見えている側面からわかった。
ルメーネはひたすら冷蔵庫を殴っていたのである。そう、白い冷蔵庫に彼女の血液が染み付くほどに。
彼女を止めようとパクノダは飛び出した。
『もうやめなよ、ルメーネ!』
『パク姉……』
『すごい血が出てる……すぐに治してもらわないと』
『パク姉ッ!! なんで……っ、なんでサラサが……こんな目に遭わないといけないの!? なんでも友達を奪われないといけないのさ!?』
『ルメーネ…………』
『わかんない……わ、かんなぃ…………わかんないよぉ!! うぅ……ぁ……!』
その時は一緒に悲しかった。
だが思い返すと怒りに支配されて暴れ、そして暴れた直後に滝のような涙を流して嘆き……感情のコントロールが不安定な彼女が心配になったという。
そんな事があったのか……と当時、流星街に住み暮らしていた旅団員は深く感じ取る。そしてヒソカを除く仲間もまた、自分達の知るルメーネにそんな事件があったことを同情した。
「(僕からすれば彼女の過去は別にいい……♣︎ だけど彼女ともヤリ合いたいからこの情報は何かに使えるかもね♥︎)」
「……俺の話も単純なものだ。ルメーネは大きな弱点がある、それは“あいつの甘さ”だ」
フランクリンが語るのもまた自分達がまだ世界を知らない少年少女の時の出来事。
その日、とある少年たちがとある男が支配下としているらしい地を散策していた。
すると現れたのは辺りを領土にしていると宣言しているウボォーギン一味。侵入者を確認すると追い払う為にやってくるのだ。
『おい、お前ら! また俺様の領土に侵入しやがったな! 容赦なしだ、行くぜぇ!!』
ウボォーギンの叫びと同時に飛び出す二つの影。それは二人の少女。
『げっ、マチとルメーネだ!』
『クロロ達は逃げろ! 俺が止めてやる!』
『いくよ、フラ兄!』
相手が向かってくる勢いを利用した飛び膝蹴りをルメーネが放とうとするも、途中で体勢が崩れ関係ない方へと転がっていく。
『……大丈夫か?』
『フラ兄の顔……蹴れない』
『お前なぁ……』
その後、ウボォーギンとフランクリンの殴り合いが繰り広げられたがルメーネがフランクリンを攻撃することはなかった。
彼女曰く、仲の良いフランクリンは殴れないとのこと。ちなみにクロロとシャルナークは普通に小突かれていた。
それから成長し流星街を出た後、幻影旅団のメンバーとなったフランクリンはヘルメスとして活動し始めた彼女と再会した時にとある相談を受けていた。
『……この前ね。とある依頼があったんだよ。ハッカーを始末してほしいってね』
『出来なかったのか?』
『それどころか依頼主を逆に消しちゃった……』
『は? なんでそんな事を』
『ターゲットが私が客としてよく利用している友達だったから……最初は本人に会って殺そうとしたんだよ。でもね、手が動かないの』
『仕事と割り切れなかったのか』
『多分、友達を手にかけれないと思って……それでも仕事はしないといけないから。だったら依頼主を消してしまえば狙う理由はないって』
『お前……流石にその発想はまずいぞ』
『私もそう思う。どうしよう』
それから彼女は依頼をすぐに引き受けずターゲットについて調べ、自分にとって殺せない人間だった場合の依頼は受けないようになった。
「つまり……ルメーネは親しい人間は殺せない?」
「前のままなら、だがな」
パクノダとフランクリンの話を聞き終えたクロロはルメーネがやられた理由のピースが埋まった気がした。
「そうか、二人の話で一つの理由が思いついた。ウボォーを倒したと思われる鎖野郎……奴はルメーネの友人である可能性が高い」
「あいつの友人だと?」
「ルメーネが兄であるウボォーを殺されて報復しないのは友人だから、ただ呆然として見ていただけだろう。ルメーネは殺されたか……または生きているだけの状態にされているか、だろう」
「「「…………」」」
彼女をよく知る旅団員達は改めて名前の知らぬ鎖野郎への怒りが湧き上がる。ヒソカはそれを楽しそうに眺めていた。
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クラピカはルメーネに死体処理を任せ、ホテルへと戻った。ホテルでは心配していた仲間が暖かく迎えてくれる。
仲間の無事を確認できたクラピカは安心した。
自分の部屋に入ったクラピカは今日の起きた出来事を振り返っていた。
「(旅団員を一人……それも戦闘員を始末できたのは良かった。だが、まさかルメーネが奴らと関わりを持つ人間だったとは)」
全てに絶望をした彼女の顔が浮かび上がる。
しかし今回のように縛らなければ彼女は自害を選んでいた。どうしようもない出来事なのだと受けれようとするも上手くできない。
すると部屋のドアがノックされる。
クラピカは警戒しながら覗き穴を見るとそこにいるのは同僚のセンリツであった。
「センリツか、どうしたんだ?」
「あなたがとても疲れているのが分かったから」
「……私は」
「いいから少しの間、椅子に座っていてちょうだい。リラックスできるのを演奏するわ」
そうしてクラピカは半強制的にセンリツの演奏を聴くことになった。ダルツォルネとの対立の際にも彼女の演奏のおかげで助けてもらったクラピカはその演奏にまた助けられる。
「あなたが無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。別れる時の音と違い、今のあなたの音は深く悲しみになっている……話せるなら話してほしい」
「……友人だと思っていた人が幻影旅団との戦いに乱入してきて妨害をされた」
「そう……その人はどうなったの?」
「気絶させるのに成功し、敵も倒した。そこまでは良かったんだ……話を聞こうとその人を起こしても答えない自殺するの一点張り」
クラピカは天井の照明を見つめて話す。
「私は死んではほしくなかったがそのままでは自殺をしてしまう為に……脅してしまった。マフィアとして使える手段を使って、な」
「…………その人は生きているのね?」
「あぁ、だがどうすれば生きる道を進んでくれるか思いつかない。あくまで死ぬまでの時間を先延ばしにしただけだ……」
「だとしたらその人が無事なうちに話し合う必要があるわね。私に協力できる事があるなら教えてね」
「……いいのか?」
「勿論、あなたの友人が悪人であるとは思えないもの」
「すまない。感謝する……」
クラピカは少し安心したのか、そのまま仮眠を始めた。
センリツも彼の睡眠の邪魔をしない為に音を立てないように部屋から去っていく。
僅かな時間でも彼には癒しの時間が必要なのだ。
ルメーネ=マーキュリーの弱点
Ⅰ.精神が不安定(尚、動揺させるには仲良くないと無理)
Ⅱ.友人判定した人間をを殺さない(一般人は速殺)
クラピカがルメーネと仲良くなっていたからこそ、
彼女に殺されず、彼女を生かすことができていた。
急展開すぎて読者の皆様を困惑させてしまい申し訳ありません。
これからも見ていただける作品を作れるように頑張ります。