ルメーネ=マーキュリーは不機嫌である。嵐の中、揺れる船内で吐瀉物避けゲームをさせられたからだ。
どんなに避けても不快な匂いは鼻を刺激し、こちらまで気が悪くなるのを我慢できず彼女は甲板へと駆け出す。
嵐は過ぎ去り太陽が大海を照らしている。外に出たルメーネは気分を良くするために目を閉じて深呼吸をする。
潮の匂いが心地よく、リラックスする事ができた彼女は欠伸をする。
「くぁ〜…………最悪の船旅だ」
「あなたは大丈夫だったんですね」
「ん、アンタは」
「カッツォです。毎年恒例なんですよ、ハンター試験を受ける人がこの嵐で駄目になっちゃうのって」
「かはっ、ハンターになろうって人間がこの程度の船酔いで駄目になるって駄目だこりゃ」
「船長もよく言ってます、情けねぇって。それじゃ俺は仕事に戻りますんで」
軽く手を振って船員と別れたルメーネは日向ぼっこを満喫していた。そうしていたら、くじら島から船に乗ってきた少年がやって来た。
「元気そうで何より、何しに来たの少年」
「ちょっと外の空気を吸いに」
「ところで君はどう思う? この嵐について」
「嵐?」
「そ、嫌な予感ってやつがするのよね。もういっちょ荒れるんじゃないかなって」
「うーん……確かに風が生温くて塩気が多いね。ウミヅルも注意しあってるからさっきのよりも強い嵐になりそうかも」
ルメーネは驚いた、自分の直感に自信がなかったわけではない。むしろ彼女はこれまでの危機を直感で切り抜けた事もあるため勘には自信があった。
しかし少年は経験と鳥言語から嵐が来ると理解していた。彼女は少年の能力の高さに感心してしまう。
「おーい、どうしたお前ら?」
そうしていると船長がやって来た。少年は先程ルメーネに伝えた内容を船長に話す。
そうすると船長もルメーネのように驚いていた。そして少年を見つめている、その様子は昔の仲の知り合いを思い出したかのように。
「……小僧、くじら島からの入船だったな。お前の親父は何してる?」
「ハンター‼︎ 写真でしか知らないけど尊敬している‼︎」
「そうか……」
その様子を見てルメーネは理解した。
この少年こそ、くじら島に入る前に船長が話してくれていたハンターの息子だと。
そして興味を持った、自分とは違う素直でまっすぐな光のような少年に。
(いいなぁ……あの子)
「小僧、嵐の規模と到来時間の予測は出来るか?」
「波はさっきの倍くらい、このスピードなら三時間くらいで衝突すると思う」
「よし、来い! 操舵のコツを教えてやる」
「うん‼︎ それじゃ!!」
「あいよー」
少年は船長に連れられて行ってしまった。
しばらくすると船内アナウンスが響き渡る。
『これからさっきの倍近い嵐の中を進む、命が惜しい奴は今すぐ緊急ボートで近くの島に引き返しな』
「これで引き返す奴なんて対していないでしょ、ハンターになりたい思いは吐き気に負けるのかって」
ルメーネは思っていた。ハンターになりたい連中はそれ相応の強い思いで受けているはずだと、ハンター試験は志望者の死は毎年起こる。
それも十人とかの規模ではなく何百人、試験会場につかない行方不明者も含めれば一千人は超えると言われる程だ。
それでも受けるというからには自分の死さえも覚悟できている人間が多いのだろう、彼女はそう思っていたのだ。
「ヒィー!! やってられるか‼︎」
「二度とこんなの受けるものかー‼︎!」
「クソボケー!!」
「…………アホしかいないのか、この船は」
こんな事ならあの港でもっと多くの志望者を間引いておけばよかったルメーネは思ってしまった。
機嫌がさらに悪くなった彼女は何か食べようと船内に戻っていく。当然ながらゲロの臭いは消えていない。
「流石にルメーネは残っていたか」
「クラピカが残っていて私は安心したよ、レオリオもいるようで感心感心」
「嵐程度でハンターを諦めてたまるかよ」
「かはは、その通りね。でもここの三人とさっきの少年と合わせて四人なんてつまらない、そう思いませんか、船長?」
彼女の言葉にハッとした二人は船長が姿を現したのに気づく。もちろん少年も一緒に来ていた。
「残った客は四人か、名前をいいな」
「オレはゴン!」
「私の名はクラピカ」
「レオリオという者だ」
「ルメーネ=マーキュリーよ」
「お前らなぜハンターになりたいんだ」
「おい、面接官でもない奴に言う必要があるのかよ」
「いいから答えろ」
「何だと?」
私は別に答えてもいいのだが、とルメーネは思うも二人はそうはいかないかとも理解していた。
「はい! オレの親父が魅せられた仕事がどんなものなのかやってみたくなったんだ!」
ゴンは素直に理由を話す。彼には後ろめたいことは何一つ無いから当然ではあるのだが。
しかしルメーネ以外の二人は反対をする、少し揉めてきたところで船長が口を挟む。
「だったらお前らも船から降りるんだな」
(あ〜……そゆこと?)
何を言っているんだこの船長はという視線のある中、ルメーネは理解した。この船長がいきなり理由を聞き出したことを。
「二人とも、話せる限り話しなよ。多分これは試験だ」
「「何だって⁉︎」」
「そいつのいう通りだ。俺たちはハンター協会に雇われた試験官代理ってところだな。お前ら以外の乗客は既に全員失格にしてある」
「つまり船長を納得させるのがこの試練ってところなんだよ、機嫌を損ねたら一発アウトかもね」
「じゃあルメーネ! お前は堂々と言えるのかよ‼︎」
「私は、闇の仕事人……『ヘルメス』の名で通っている。殺しや盗み、諜報から護衛まで金さえ払えばなんでもやる人間さ。試験を受ける理由は仕事と顧客の幅を広げるため、ハンターってのは便利だからね」
「つまり契約ハンターってところか。よく素直に話したな」
「ヘルメスの名前は有名だからね、協会ならそれくらい簡単に調べがつくでしょ」
彼女は正体を隠す気はなかった。あのハンター協会がその程度で不合格を叩きつけると思ってなかったからだ。
何せ幻影旅団のメンバーでさえハンター試験に合格している。素性を隠して受けたのだろうが、そんな人物が取れるなら自分でも可能だとルメーネは判断した。
なんなら願書には本名とともにヘルメスの名前もしれっと記載している。
「ま、協会からお前が来たら気をつけろって紙は渡されていたけどよ。暴れないでくれて助かるぜ」
「流石に何でも殺しなんてしないよ、面倒くさい。メリットがなければ私はただの平和主義者さ」
「そうか、でお前らはどうする?」
「…………私はクルタ族の生き残りだ。四年前に私の同胞を皆殺しにした幻影旅団を捕まえるためにハンターを志望している」
「ほう、
「死は恐れていない。それよりもこの怒りが風化してしまうかもしれないことが一番怖い」
クラピカの目が最初に出会った時と同じ目をしていることに彼女は気づく。彼の瞳の奥は怒りというもので塗り潰されているようで美しいとさえルメーネは思う。
(まさに闇の瞳……緋の眼ではないけどこれはこれで良い!)
「敵討ちのために何でハンターになる必要があるんだよ」
「私に似た理由さ。幻影旅団が一般人の入れる地域だけをアジトにしているとは限らない。危険地域にいる場合、ハンターであれば行けるってわけ」
「彼女の説明に付け加えるならハンターであれば聞ける情報やできる行動があるからだ」
「で、お前はどうなんだレオリオ?」
船長はレオリオにも理由を言うように問う。するとレオリオは頭を何回か掻き、諦めたように理由を話し出した。
「わぁったよ、話せばいいんだろ! 金だよ、金‼︎ 金があれば何でも手に入るからな、でかい家だろうと車だろうと酒でもな!!」
「品性は金で買えないよ、レオリオ」
「クラピカは言い過ぎだっての、レオリオだって本来は……」
「表へ出ろ、クラピカ。クルタ族の血を絶やしてやる」
「何だと……取り消せ、レオリオ」
「レオリオさんだ、来な」
「望むところだ」
二人は船内から出て行ってしまった。船長も試験を受ける気がねぇのかと声をあげるも届いていない。しかしゴンは放っておけと説得、船長も嵐のため放っておくことにした。
「船長さん、手伝うよ。あの二人が何かの邪魔になるかもしれないし」
「オレも手伝うよ!」
「よし、ついてこい‼︎」
外へ出ると嵐が予想よりも酷い。台風ほどでは無いが風も強くバランスを崩せば吹き飛ばされてしまうのでないかと思わせる程に。
ルメーネとゴンは他の船員が引いているロープを手伝う。
「よし良いぞ、その調子だ!」
その作業を行う中、二人の男は睨み合っていた。
「余計な一言はやめることだな、クラピカ」
「お前こそ簡単に絶やすなんて使うんじゃない、レオリオ」
(馬鹿なの⁉︎ こんなところで協力もせずに喧嘩なんて、邪魔なら失格。死んでもなんとも思われないのに‼︎)
ルメーネの意識が二人に向いた直後だった。突風の影響でマストの一部が折れてしまった、そしてそれは偶然ルメーネがいた方に飛んでくる。
「グッ!?」
普段の彼女なら犯さないミス、仲良くなった二人の喧嘩に彼女の注意力は散漫していたのだった。しかもそれに巻き込まれたのは彼女だけでは無い。
「ぎゃっあう⁉︎」
「カッツォ‼︎」
「「なにっ!?」」
その光景は喧嘩していた彼らにも見えていた。自分達の目の前を高速で通り過ぎていく二人の男女の姿を。
「くそっ!!」
「……ッ!」
レオリオが先に一歩踏み出したのちにクラピカも続く、二人を助けるために。側にある柵を掴み身を乗り出して助けようとするも二人には届かない。
「「ルメーネ‼︎」」
(やらかしたなぁ……他者を気にしないでいればこんなミスはしなかった。でもカッツォさんを助けなきゃ、彼は関係ない)
二人が悔しそうに叫ぶ中、二人の目の前をもう一人飛んでいくのが見えた。それはゴンだ。
自分の身を顧みないで飛び出した結果、ゴンはカッツォの足を掴むことに成功する。
それを見たレオリオ達はもう一度、手を伸ばす。なんとしても彼らだけでも助けるために。
結果は成功、ゴンとカッツォは少し海に浸かるもの無事に引き上げられる。
しかし彼女は助けれなかったと、重い顔を二人は上げると信じられないものを見た。
そこは海と空の境界線だった。波は荒れ狂い船さえも呑み込もうとしている、しかしだ。
空中に放り出されたであろうヒトはその場から動いていない。
なぜか、なぜなのか。そう思っていると能天気な声が聞こえてきたのだった。
「危なかったぁ〜、さすがに海流に呑まれたら生きていなかったよ」
【
彼女は軽くジャンプをすると大きく跳び上がり甲板に着地する。騒がしいのは嵐だけ、他者はあまりのことで固まってしまうほど驚いていた。
「ゴン、良い動きだったね。二人のことをよく信じて飛び込んだよ! そして二人とも喧嘩は良くなかったけどゴンを掴んでくれてありがとう」
「な、な、な⁉︎」
「何で無事なんだ……?」
「えぇ⁉︎」
徐々に起きた出来事に対して認識し始めた全員は言葉を発し始めるも言葉が上手く出てこない。
間違いなく死ぬはずのことを、彼女は跳ね返していたのだ。
「何やったんだお前はッ‼︎?」
「浮いていただろう!?」
「かははッ、実は空中歩行が出来るんだよ。カッツォさんが飛んできた時は掴もうと思っていたけど先に助けてくれて感謝さね」
空中歩行の正体は念能力と呼ばれるものだが彼らはまだ念を知らないため理解できない。
しかしルメーネという女性はやはり只者では無いとその場にいる人間に改めて理解させられたのであった。
【
・変化系・具現化系能力
履いているタラリア(サンダル)の下に透明な板を具現化し空中を自由自在に駆け回れる。どこに板を生み出すかはルメーネ次第。
さらに
第1話でも空を走って逃げていた。
発動条件『テンペスタース社製のタラリアを履いた状態で使用すると念じる』
何故この靴限定なのか⇒自分のお気に入り靴メーカーだから。
制約と誓約『具現化した板が持つのは15秒、それ以内に次の板を生み出さなければ強制絶の状態で落下する。落下するまでは念を発動する事はできない』
ちなみにルメーネの系統は変化系。