「馬鹿やろォーーー!!!!」
嵐を乗り越え、風も波も穏やかになった船の上。レオリオの怒号が響き渡る。その横にいるクラピカも怒り顔だ。
叱られていたのはゴン。彼は気が抜けたのか尻餅をついていた。
ちなみにルメーネは呑気に甲板で横になって様子を見守っている。
「ゴン! なんて無謀なんだ下は激流で人魚でさえも溺れると言われる危険海流なんだぞ⁉︎」
「そうだ! 俺たちが足を掴めなかったお前は海の藻屑になってたんだぞ‼︎」
「でも掴んでくれたじゃん!!」
能天気なゴンの言葉に怒る気も失せてしまう二人、ルメーネもゴンの態度を見て彼は大物になると感じていた。
怒れなくなった二人はルメーネ方を向く。
「ルメーネよ、本当に大丈夫だったか?」
「本当にすまない、私達が争っているのを気にしていていたせいであぁなったのだろう?」
「んぇ、別にいいよ。さっきも言ったけど私は空中歩行があるからね……ただ試験中に喧嘩したのだけは反省しなよ」
「おっしゃる通りだ」
「本当に反省している」
「違う違う‼︎ 私に言わないの。迷惑をかけたのは船員の方々でしょ?」
「それもそうだ……船長、申し訳ねぇ‼︎」
「我々が争わなければこのような事故は起きなかったかもしれない。本当にすまなかった!」
「ま、結果として死者は出ていない。お前らも反省する点は見えているようだしな」
船長は二人の行動を許してくれた。しかしルメーネはまだ船長から合格の言葉がないのに気づく、そしてどうするかを思考する。
だが彼女が答えを出す前に少年が動いた。
「レオリオ! クラピカ! 助けてくれてありがとうね‼︎」
「「ゴン……」」
「いや、お前が飛び込んでくれたから助かった。それとレオリオ“さん”、非礼をお詫びする」
「水くせえよ、レオリオでいい。俺もさっきのは人として駄目な言葉だった。すまない」
喧嘩組が仲直りを終えたところでルメーネも一つの手を思いつき行動に移す。
「仲直りしたね、それじゃあその証にこのジュースでも飲みな」
ルメーネはコートにしまっていた瓶ジュースを四本取り出し三人に手渡す。ただし、ルメーネの悪戯付きだが。
瓶の蓋を開けて三人はグイッとジュースを飲み込む。それを見たルメーネも悪魔のような笑みで飲み干す。
「「「酸っぺぇぇ!!!」」」
「かはははははははははっ!!!!」
三人が飲んだジュースはルメーネの“練”で通常の何倍も酸味が増していたのだ。それを勢いよく飲んでしまい、吹き出してしまった。
そして、その三人の姿を見た彼女は腹を抱えて大いに笑う。
「テメェ、ルメーネ‼︎」
「なんて悪質なイタズラなんだ‼︎」
「酸っぱかった〜っ!」
「悪人の私からジュースを受け取って、疑わずに飲むなんて素直だねぇ〜かはは‼︎!」
「くっくっくっ……ははははは‼︎ お前ら、気に入ったぜ! 今日の俺は凄く機嫌がいい! お前ら四人は俺が責任持って審査会場最寄りの港まで連れて行ってやらぁ‼︎!」
反省会とジュース騒ぎで機嫌が良くなった船長はルメーネ達を宣言通り、港まで連れて行ってくれた。
ルメーネは船から降りる前に船長に一言礼を言おうと、話しかける。
「船長さん」
「おっ、どうしたお仲間は降りてるぜ」
「ありがとうございました、仲間を認めていただいて」
「気にする事はねぇ、俺はお前らを見てて面白い連中だと思っただけだ。お前が何をしたかはさっぱり分からなかったがな」
「かはは、企業秘密って事で」
「そうかよ、アイツらを。特にゴンのやつをよろしく頼むぜ」
「かはは、どうだろねぇ?」
ルメーネはそう言いながら船を降りてしまう。船長の最後の一言を聞く事なくだ。
「……お前は例え悪人でも人を見捨てる人間じゃねぇよ」
船を降り、クラピカ達と合流したルメーネ。しかしゴンはまだやって来ない、どうやら船長と話をしているようだ。
なので彼女はゴンが来る前に適当な店で食事を購入して、彼の到着を待つ。
「もぐもぐ……美味」
「なに食ってんだよ?」
「?……ホットドッグだけど」
「いやそうじゃねぇよ! 何人前買ってんだって話だ‼︎」
「また君はたくさん食べて、どこに消えるというんだ」
「たった三十人前よ、すぐに食べ終わるわ」
ホットドッグが残り数個になったところでゴンがようやくやって来る。ちなみにゴンが来た時見たのはホットドッグ二個を口に入れてリスのように頬を膨らませたルメーネの姿。
彼女以外の三人はその姿を見て笑い転げていた。もちろんルメーネは不機嫌になった。
「ゴンが遅いからこうなるのよ」
「変な顔だった、むぐっ!?」
「ははは言えて、グェッ!?」
「すまなかった、うっ!?」
機嫌が悪いので、彼女は三人の口にもホットドッグを詰め込む。突然のことで慌てる姿を見たルメーネは少しだけ機嫌を直すのであった。
「機嫌直してよ、ルメーネ」
「スッキリしたからいいよ。で、ゴンは情報を得た? 私はホットドッグ買うついでに情報漁りしたけどヒントすら無かったわ」
「情報収集もしていたのか……」
「当然よクラピカ。ただ思ってたよりも情報持ちはいないわね、地道に行くしかない」
「情報といえばね、船長があっちの山の一本杉に行けって言ってたよ」
ルメーネでは入手できなかった情報、それを仕入れてきたゴン。ルメーネも驚いたが情報源は船長と聞いて納得していた。
船長の情報を信じるか否かで少し論争したが最終的に信じて行ってみると決まった。
目印の一本杉へと一行は進む。すると見えてくるのは街は街でもスラム街のようで不気味な雰囲気を出している。
「気味の悪いところだな、人っ子一人いないぜ」
(“円”を使うまでもないが、既に私達の周りに何人かいるな)
「気をつけて」
「いっぱい人がいるよ」
「うむ、油断するな」
「な、何でわかるんだよ。全くわからないぞ」
「聴力と感覚が優れていれば察知できるよ、あとは環境次第」
そうこうしていると周りの人は動き出し、彼らの前に姿を現した。その数二十人は超えている。その中心にはまとめ役なのだろう婆さんがいた。
「……ドキドキ」
「ドキドキ?」
「ドキドキ二択クイ〜〜〜ズ‼︎」
婆さんの口から出た言葉に唖然とする四人、そして周りの住人らしい人はクイズを盛り上げようとしているのだろうか拍手をしている。
「お前たち、一本杉を目指しているんだろう? あそこへ行くならこの街を抜けないといけないよ」
「通してくれないってこと?」
「聞きな、これからクイズを一問だけ出す。考える時間は5秒。不正解なら今年のハンター試験は諦めな」
婆さんの説明からこれもハンター試験のための関門だと理解する四人。そのまま婆さんは説明を続けた。
「答えは①か②で答えること、曖昧な返事は間違いとみなす」
「待った、もしやこの問題って四人で一回なのか?」
「その通りだよ」
「四人で答えがわかった人が答える制度、難しいね。みんなはクイズに自信ある? 私は色々答えれるけど歴史とかなら無理よ」
「オレはクイズ苦手!」
「俺も得意ではないな」
「私はそれなりに」
どうしようと四人が考えていると後ろにいた気配が動くのにルメーネは気づく。
「おいおい早くしてくれよ、何なら俺が先に答えちまってもいいんだぜ。そこのボウズと船長の会話を盗み聞きしててな」
「どうするかい?」
「どうぞー、どんな問題なのか知れるし」
「お先に」
盗み聞きしていた男はニタニタとしながら婆さんの前に立つ。その顔は先に行って罠を仕掛けてやる、と彼女には見えていた。
(私の実力を見破れない時点でコイツは駄目ね)
「それでは問題。お前の母親と恋人が悪人に捕まりお前は一人しか助けられない状況だ──
「「「「⁉︎」」」」
(まさかこんな問題を出してくるの⁉︎ キツイなぁ、①と②以外の答えなら協力者を呼んで助けるけど…………どちらかを見捨てるなんてできないよ)
男もどちらが正しい答えか悩んでいるのだろうか。否、どちらの答えが婆さんにとってプラス評価になるかを考えているのだろう。
婆さんからすれば母親を見捨てない方が好みの答えであろう。そう男は判断し、①と答えた。
「何故そう思う」
「母親はこの世に一人だけ、恋人はまた見つければいいからな」
(うわ、最低)
「…………通りな」
簡単に恋人を捨てられる人間は母親だろうと捨てる。この男が婆さんの機嫌取りのために①を答えたのだと彼女は察して機嫌を悪くする。
そしてそうとは気づかずとも不機嫌なのはもう一人いた。
「ふざけるんじゃねぇ! こんなクイズがあるかボケェ‼︎」
レオリオだ。
「こんなのは人によって
レオリオの言葉にルメーネは気づく、この問題の本質に。しかし怒っているレオリオ自身はまだ気づいていない。
(そうか! この問題は人によって答えが違う。そしてそれは正解と決めれない。①も②も正解ではないんだ、だから正解はないため黙るしかない)
一歩遅れてクラピカも「っ!」と閃いたようで熟考している。その横でゴンはまだ答えを考えている。レオリオは帰ろうとしていた。
「俺は引き返すぞ! 別ルートで行かせてもらうぜ!」
「もう遅いよ、クイズ辞退なら即失格にする。ハンターにはなれないよ」
「…………!」
「待つんだレオリオ!!」
怒りに任せて帰ろうとするレオリオを止めるためにクラピカは説得を始めた。話が終わらなくなる前に婆さんが静止し、これ以上の話もさせずにクイズを受けろと忠告をしてくる。
「ここからは余計な発言は不合格とする。さぁ答えな、このクイズを……①受ける ②受けない」
「①よ」
空気が悪くなる前にルメーネがクイズを受ける選択をする。レオリオは彼女を睨むが無視され、クラピカはホッとしたのか小さく溜息をした。ちなみにゴンはまだ答えを出せていない。
「それじゃ問題だ。息子と娘が誘拐された……一人しか取り戻せない。①息子 ②娘 どちらを取り戻す?」
「5……」
この問題に四人は答えない、そのうち二人はわざと答えず。一人は我慢の限界を超えて、一人は答えがまとまらず。
「4……」
レオリオが動く。
その先は角材が置かれている場所で、手頃な棒を手に持つとぶんぶんと振るう。
「3……2……1……」
カウントが減るたびにレオリオは婆さんに近づいていく、目が既にやる気のようでクラピカも動く。
ルメーネは。
「終〜〜了〜〜」
レオリオが振り下ろした角材を
「なっ⁉︎ 思いっきり振ったってのに!!」
「かははは、何してんのさ」
「レオリオ! 折角の合格を棒に振る気か⁉︎」
「……は?」
まだ彼は気づいていない。彼が一番最初にこの答えに気づいていたというのに、それは彼が情に厚いからだろうか。
答えのない問題を答えろと言われて彼はそんな事は出来るはずがないと感情的になってしまった。故に気づけなかった。
「この問題は①と②を答えるのは×、さっきの奴の思い出して見て。婆さんは通れとは言ったけど正解なんて一言も言ってないのさ」
「レオリオが言っていた通りこの問題に正解はない。そして①と②でしか答えれない場合は沈黙するのが正解だったんだ」
怒っていた彼は冷静さを取り戻す。そして婆さんに手を出そうとした事を謝罪する。
やはり彼は直情的だが人としては善人なのだろうと、ルメーネはクスリと笑む。
「お前みたいな奴に会いたくてこんな事をしている、謝る必要なんてないよ。頑張りな」
「……ありがとうよ」
「そら、本当の道はこっちさね。2時間ほど歩けば一本杉に着く、そこに住む夫婦は試験会場までの
三人はその道へと進もうとする。しかし
「どうしたのさ、もうクイズは終わったよ?」
「うーん……やっぱり答えは出ないや。でも、もし本当に大切な二人のうち一人しか助けれない場合は…………どうする?」
レオリオとクラピカはゴンの純粋な問いに固まる。思考が停止する感覚だろう。
しかしルメーネだけは違った。
「どうしようもない場面にしない。常に最低を想定して動くのが仕事をする上で私が気をつけている事だしね……それでもその選択をする時が来たら。……来たら」
ルメーネは少しだけ思考するも放棄した。
「──その時は、その時に決めるさ」
彼女は考えるだけ無駄だと思った。自分にとって家族と呼べるのは流星街の時から付き合いのある幻影旅団のメンバーだけ。
そして仲間と呼べるのはおそらくゴン、クラピカ、レオリオの三人くらい。
そんな自分がどちらかを選ぶしかないという場面になる訳がない。彼女は思っていた。
その選択、後にしなければならない状況になる事をまだ彼女は知らない。
第5話終了です。
ルメーネは結構イタズラ好きです。
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励みになりますので…