仕事人『ヘルメス』   作:八坂ノ宮

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ハンター試験本番
シケン×ガ×ハジマル


 

 深夜の空中旅行を終えて、ザバン市に着いた一行は一人を残して凶狸狐達と別れる。

 

「ツバシ町の……ここが10番地で。うん、向こうにある建物だな」

 

 一行が見たのは大きなビル。ついに試験会場に辿り着いた事で四人は改めて気合を入れ直す。

 

「あれが会場ね」

「うわー」

「ここに世界各地から集まった……」

「ハンター志望の猛者が集まるんだな」

 

 そして、さぁ一歩踏み出そうとしていた時。

 

「おいおい、試験会場はこっちだよ」

 

 凶狸狐が指差した方を見るとそこにあったのは小さな定食屋だった。

 

「マジかよ⁉︎」

 

「ここなら毎年、数百万人の応募があるハンター試験の会場とは誰も思わないだろ?」

 

(はぁ〜……なるほど。()()って訳ね)

 

 一行は店内に入っていく、中はやはり至って普通の定食屋。客もいれば店主は忙しそうに炒飯を炒めている。

 

「いらっしゃい、ご注文は?」

「ステーキ定食を四人前」

 

 凶狸狐の注文を聞いた店主はピクっと反応する。どうやら合言葉のようだ。

 

「焼き方は?」

「弱火でじっくりコトコト飽きるまで」

「はいよー」

「奥の部屋へどうぞー」

 

 奥の部屋へ通されて、中に入るとステーキが置かれていたテーブルがあった。

 

「一万人に一人」

「へ?」

「ここまで辿り着く確率さ、お前達は新人にしちゃ上出来さ。頑張りな、もし来年も受ける事になったら案内してやるぜ」

 

 そう言い残して凶狸狐は部屋から出て行く。少しすると部屋が揺れて動き出す。

 

「何⁉︎」

「エレベーターかな、この感じ。お腹空いたしそこの肉食べちゃいましょ」

 

 四人は席に座り、ステーキを食べる。

 

「しっかし失礼なもんだぜ、俺たちが今年受からないみたいに言いやがって」

 

「三年に一人らしいぞ。初受験者(ルーキー)が合格する確率は」

 

「かはは、確か過酷だったりベテランによる潰しのせいで受けれなくなったりするらしいよ」

 

「でもさ、なんでそんなに辛い思いをしてまでみんなはハンターになりたいのかな」

 

 ゴンの純粋な気持ちは他の三人を驚かせる。まさかそれすら分からないのか⁉︎と。

 

「ゴン〜それ分かんないかなぁ」

「ルメーネの言う通りだぜ‼︎」

「全くもってその通りだ」

 

「「「ハンターは最も」」」

 

「便利な」 

「儲かる」

「気高い」

 

「「「仕事なんだよ!」」」

 

 十人十色、皆答えは違うものだった。

 

「全員違う答えだね」

 

「ハンターが持つライセンスカード、これさえ有れば殆どの国には入国出来るし公共施設も使用可能。危険地帯にも入れるし、仕事で使うには便利なんだよね。多少のやらかしもハンターなら許されるし」

「人と自然の秩序を守るのがハンターの仕事だ、ただ狩るだけでなく希少な生物や文化遺産を保護し存続させることが大事なんだ。それらをこなすには様々な分野の知識などが求められハードだがやり甲斐のある仕事なんだよ!」

「世界の大富豪ランキングのベスト100にはハンターが半数以上占めているんだぜ。このカードを売るだけで何代も遊んで暮らせると言われるこのカードはまさに富と名声の象徴なんだぜ‼︎」

 

「「「ゴンはどんなハンターになる⁉︎」」」

「どんなって言われてもな〜」

 

◇◆◇◆◇

 

 そんな会話をして食事を終えると、目的地の地下100階に到着した。エレベーターが開くとそこから見えてきたのは大きなトンネルの中にいる数百人の人集り。

 彼らはエレベーターから現れた四人に睨みを効かせてすぐに目を逸らす。

 

 クラピカとレオリオは周りの人間が街にいた連中よりも遥かに上回る事を察していた。

 ルメーネだけはいつも通りの平常心で辺りを観察していた。

 

「ふーん、ぼちぼちだね」

 

 彼女は何気ない一言を漏らした。その瞬間周りの人間が殺気を飛ばしてくる。自分達はある程度の分野で優れている人間だと思っている故に、ぼちぼちと評される事が不愉快だったのだ。

 

「お、おいルメーネ!」

「流石に挑発するのはまずいぞ……」

「かははは」

 

「おいおい、ルーキーが目立ち過ぎるのはやめといた方がいいぜ?」

 

 四人の後ろから声をかけてくる男がいた。

 16番の番号札を付けた少し太めの男で名前はトンパ。

 挨拶をする中でプレートを渡されて四人も胸元に付けてトンパと会話する。

 

「オレは35回も受けてるんだがアンタみたいな奴が潰されるのはよく見てきたから忠告してやるよ。ベテランからのアドバイスだ」

「かはは、そりゃどうも」

 

 ルメーネはトンパを観察する。35回も受けて落ちる人間が何故、諦めないのか。惜しいところまで行く実力者なのか……それとも新人を潰す事に快感を覚える側なのかと。

 ゴンがトンパから他の受験生の事を聞いている中で、ある男が事件を起こす。

 

「俺の腕がぁぁ!?」

「いけないなぁ♠︎ 人にぶつかったら謝らないとね♦︎」

 

(うわっ……あの男、念能力者だ。関わると後悔しそうだから近づかないでおこう)

 

 ルメーネが危険人物(ヒソカ)を警戒しているとトンパは懐からジュースを4本取り出した。

 

「お近づきの印に飲みな」

 

 しかし船の上でルメーネによる悪戯ジュースを飲んだせいで三人は他者から渡される飲み物に警戒していた。

 ルメーネは気にせずに飲む。

 

 トンパは生意気なルーキーが潰れたと思い、こっそりとほくそ笑む。

 しかしそれは普通の人間相手ならば通じる程度の悪戯に過ぎない。

 

「ふーん、それなりの下剤ね。でも残念だけどこの程度なら効かないよ、でも三人は絶対に飲まないで」

「へ⁉︎」

 

 トンパは知らない、彼女は()()()()()でありとあらゆる毒の耐性を持っている事を。

 例えトンパが彼女に効く毒を用意出来たとしても、特殊体質のせいで分解されてしまうのだが。

 

「さてトンパさんだったね、私さ……これの数十倍の効果がある下剤を持っているんだけど飲むかい?」

 

「す、すまなかったぁぁ‼︎」

 

 トンパは逃げ出した。

 ルメーネはどうでも良いから放っておく。

 

「本当に平気なの?」

 

「かはは、こんなんで腹壊すやつが闇の仕事人なんて出来っこないさね」

 

「なるほど、ああいうのが新人潰しをやったりしてるわけか。油断ならねぇな」

 

「とにかく今は油断せず待とう」

 

 少しすると、ジリリリリという音がトンネル内に響き渡る。鳴っている先を見ると一人の男がベルを持って立っていた。

 

「只今をもって受付を終了致します。ではこれよりハンター試験を開始致します」

 

 試験官であろうスーツの男が試験開始を宣言、辺りに緊張が響き渡った。

 

「一つだけ確認致します、ハンター試験は大変危険なもので実力や運が無ければ良くて怪我。最悪の場合、死に至ります。それでも構わないという方のみ私について来てください」

 

 男の言葉で臆して試験を止めるものは一人もいなかった。ヒソカにやられた一人を除いて。

 そしてそれを確認した男は歩き始めた。

 

「誰も帰らないか」

「今更って話さね」

 

 トンネル内に男の足音が響き渡る。

 最初はゆっくりと歩いているようだったが、少しずつ周りが騒がしくなってくる。

 

「な、何だ⁉︎」

「段々と歩くペースが早くなっている!」

「前の方が走り出したんだ!」

 

(なるほど、これが一次試験かな。試験官を見失わずに着いていく耐久力のテスト!)

 

 ルメーネ達も周りに合わせて走り始めた。

 少しすると試験官の男が話しだす。

 

「申し遅れました、私は一次試験官のサトツと申します。これから皆様を第二試験会場までご案内致します」

 

 サトツの案内で一次試験の内容がルメーネの想像通りと確定した。

 到着時刻は不明、精神力(メンタル)も試されるようだ。

 

「そんじゃ、皆は頑張りな。私はマイペースでゆっくりと行かせてもらうからさ」

「分かった、無理すんなよ」

「かはは。私にそれ言う?」

 

 そう言いながルメーネはゆっくりとレオリオ達と距離をとる。彼女が後ろに回ったのは複数の理由があった。

 一つはヒソカが前にいるため距離を取りたい、一つは囲まれるのが面倒、そしてもう一つは面白そうな存在を見つけたため。

 

 ルメーネは()()()()()()()()()に声をかけるのであった。

 

「やぁ少年」

「……何?」

「君、暗殺者だろ。目を見れば分かるよ」

「アンタこそ只者じゃないね、何者?」

「“ヘルメス”って仕事人さね」

「“ヘルメス”……⁉︎ 本物かよ」

 

 少年はヘルメスの名前に反応を示す。それもそのはず、ヘルメス(ルメーネ)はありとあらゆる仕事を請け負う仕事人。

 その仕事の腕前は専門家にも劣らず、失敗も数えるほどしかないプロ中のプロで闇業界の新星なのだ。

 

「で君は何者?」

「……キルア・ゾルディック」

 

 ルメーネは少年の苗字に驚く。ゾルディック家は闇の業界でも知らない人間はいないと言われる程の暗殺一家。

 ルメーネも初期の頃、護衛の仕事でゾルディックの人間と相対し任務を失敗した事があった。

 

「ゾルディックか……もしかしてさ。君は当主の息子なの?」

「まぁね、親父のことを知ってんのか」

「開業して四件目の依頼でさ、アンタの親父と殺り合って依頼主を奴にやられた。名前が傷ついただけの仕事になっちまったよ」

「親父とやり合って生き残っていたのかよ⁉︎ しかも四件目って事はまだ無名の時期だろ」

 

 ルメーネの失敗談は少ない。ゾルディック家に殺された件、他の暗殺者にやられた二件、幻影旅団が関わった件で四件。合計七件だけである。

 ゾルディックと殺し合い生き残った実力の高さもまた彼女が高評価される要因だ。

 

「まぁね、さてキルア。私はもっと後ろでゆっくりと行くから頑張りな」

「分かった、そんじゃ」

 

 マイペースにルメーネは最後方を走る、しばらくすると前方からペースダウンした男が見えてくる。

 どうやら彼がこの試験最初の離脱者なのだろう、そう思った彼女はちらりと男の顔を見る。

 

 「自分が駄目(リタイア)だなんて……」、そう言いたげな顔をしている。身体も精神も疲労して少しの刺激が加わるだけで壊れてしまいそうな憐れな顔。

 

「かはっ……⁉︎」

 

 ルメーネが(187番)追い越す瞬間、彼の首に軽く手刀を放った。当然ながら限界を迎えていた(187番)は一瞬で意識を失う。

 

(寝て起きれば次も頑張ろうという気になれる、今のアレはそのままなら折れる。せっかくここまで来たんだ、これくらい良いよね)

 

 それから彼女はリタイヤする人間の意識を刈り取り続けた。それは限界を迎えた者を放置するのを憐れんだ彼女の身勝手な慈悲である。

 しばらくすると次にペースダウンしてきたのは知っている(レオリオ)だった。

 

「はぁ……はぁ……くっそ」

「……レオリオ。ペース落ちてるよ」

「…………」

 

ルメーネは知人をリタイヤさせるか悩む、彼の動機を性格を知る彼女は悩み、他の受験者を気絶させておきながら知り合いだけは励ました。

 

「医者になるんでしょ…………気張れ」

「‼︎ っ、くっそぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 レオリオは呼吸を整えると、再度舞い上がった。持っていた鞄を放置してまで再び前に進みゴン達に追いつく。

 

「……ふふっ」

 

 遂にリタイアが出始めた一次試験。

 しかしそれはまだ中盤にも差し掛かっていない。




第7話以上になります!

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