試験官サトツを追いかける試験が始まって、早数時間が経過。
その間に数十人の受験者がスタミナを切らし、とある女にリタイアさせられていた。
「かはは、道は長いねぇ。……あらよっと」
「が……⁉︎」
また一人、彼女の手によってリタイアさせられた。彼女がこのような事をしているのに理由はない、強いて言うならば限界を迎えた者をそのまま放置するのが嫌だったからだ。
他者が余裕なのに対して自分は劣っていると、限界を迎え心が折れた者から聞こえてくる慟哭。彼女はそれを聞きたくなかった。
それからも受験者を落としていると突然、サトツの足音が僅かに変わる。彼女が集中して耳を澄ませてみると一歩踏み込んだ後の音が少し時間をかけて響く。彼女はサトツが階段跳びをしていると予測を立てた。
(ここからは階段もあるって訳ね、更にリタイア続出しそうだけどしょうがないか)
少し走ると予想通りに先が見えないほど伸びた階段が見えて彼女はより気を引き締める。
それから彼女は自分が降りてきたエレベーターの事を思い出す。降りるまで時間が掛かり、着いた時の表示は“地下100階”。鍛えた人であろうと階段を登り切るとなると大変な思いをするだろうと。
しかしながら彼女にはまるで試練にならなかった。念を覚える前から鍛えに鍛え抜いていた彼女は今までと変わらずに諦めた受験者をリタイアさせながら余裕で登る。
そして光が見えた。
「ゴールっと」
マイペースに最後尾を走った彼女がゴールを迎えた後、サトツは出口にシャッターを降す。
ダメだった受験者は“不合格”、そしてここまで来た受験生に“もう君達は逃げれない”と伝えるために。
「おぉ、ギリギリ」
「ルメーネ!」
彼女がゴールしてきたのを見たゴンが寄ってきた。周りの受験生の中には既に限界を迎えていそう者も少なくはない。対してゴンはまだまだ元気そうで軽く汗をかいている程度なのを見てルメーネは感心した。
少しすると試験官サトツが全体に向けてある事を話し始めた。それは今いる場所はヌメーレ湿原、通称“詐欺師の
そして2次試験会場はここを抜けた先にあるため通らなくてはならないがこの湿原にいる生物は人間をも欺く危険で貪欲な生き物であるため十分に注意せよ、と。
サトツは最後に一言いい、話を終える。しかしその一言は受験生を引き締めさせた。
「もし騙されると死にますよ」
試験官は伝え終わると「それでは行くので騙されずについてきてください」と言い背中を向けた。私達もさぁ行こうとした瞬間だった。
「騙されるな‼︎」
大声がした方を向くとそこにいたのは怪我をした男がいた。ソイツは自分が本物の試験官でありそこにいるサトツは偽物だと告げた。
周りの受験生がざわざわと騒ぎ出すとソイツは引き摺っていたサトツそっくりの人面猿を私達に見せる。
確かにそっくりであった、しかしそれに騙される私ではない。ソイツは目立つために大声を上げている、だからこそ見えた。
動物特有の獰猛な牙が何本も奴には生えている、賢いようだけど頭は悪いみたいだ。
ソイツは長々と演説を続けていた、正直面倒なので始末しようと思っていた矢先。私の背後から高速でトランプが通り過ぎてソイツの顔面に突き刺さる。ソレは「がっ……」と呻き声を上げて死んだ。
後ろを向くとそこにいたのは危険人物の
ちょっとするとソレが連れていた人面猿が逃げ出そうと様子を窺っているのが分かったのでコートに仕込んでいた使い捨て用のナイフを取り出して投擲し仕留める。
「……へぇ♥︎」
直後、嫌な気配がした。まるで獲物を見つけた獣のような視線が私に向けられている。しかもそれは44番であったため私は気が狂いそうになる。絶対に目をつけられた。
しかしこちらを見つめるのをやめて、44番は「試験官はそっちが本物だね♠︎」と言いサトツの方を向いた。
サトツは冷静な態度を維持したまま「次から私への攻撃は即失格にします」と警告した。さすがの44番も不合格になるつもりはないようで素直に従っている。
嫌なくらい殺気を飛ばしまくっているが。
「それでは2次試験会場に参りますよ。決して見失わないように」
そう言い残し、サトツの試験は再開された。
私は再び後方からゆっくりと進んでいた。前を走るであろうヒソカと距離を取るため、そしてここでリタイアする奴を……楽にするため。
さすがにヌメーレ湿原で迷った奴は死ぬ、さっきの人面猿騒動の際に周りにハンター協会の人間はサトツしかいないことは確認していた。
だからこそ分かる、ここで迷えば間違いなく非情なる絶望の死が訪れる事を。故に私は彼らを始末する、苦しむ前に一瞬で楽にしてあげよう。騙された奴は無視するが。
しばらく走っていると霧が出始め濃くなっていく。少しするだけで周りの受験生の姿さえも朧げになってしまう程だ。
そうしていると前方から悲鳴が聞こえてくるではないか、どうやら遂に犠牲者が出始めたらようだ。
それは一つから二つそして三つと止まらずに響き続ける、あぁ可哀想。
私はその悲鳴を無視しながら進み続けるとアイツが近づいてくるのを感じとった。
「やぁ♣︎ こんにちわ♦︎」
「どうも」
「君いい眼をしているよね♠︎ 僕、気になっちゃって♥︎」
「私は別に構ってほしくないんだけど……」
また先程と同様に殺気を向けられて若干不機嫌になるもヒソカと会話をしながら私達は走った。しばらくするといきなり「止まれ!」と呼び止められる。
そこには10人くらいの男達がいた。
「ヒソカ‼︎ 貴様のような奴がハンターになる資格は無い! 二度と試験を受けられないようにしてくれる!」
「うーん……もう少しだけ大人しくしておこうと思っていたけど、仕方ない♦︎ 不要な人材を間引いていくとしよう♠︎」
「ちょっと、私を巻き込まないでよ。それに実力差を考えなさいな、アンタら全員でやったって返り討ちの未来しかないよ」
これは本当のことだ。
念能力もなく武術の達人程の実力もなければ相手の実力を見極める思考力も備わっていない愚か者がヒソカに敵うはずもない。
忠告はしたからね。
「何だと、ルーキーが……! ヒソカなどを擁護するというのなら貴様も一緒に排除してくれるわ‼︎」
なぜか私までターゲットにされてしまう。
いやいや馬鹿なのか、私にまで喧嘩を売る必要はないだろ。ここまでされると私も引き下がる事なんてできないんだが?
そしてヒソカはさっさと来いと言いたげな仕草で奴らを挑発する。その誘いに彼らは食いついてしまった。
その場にいた連中が一斉に私達に襲いかかる。一人一人が遅い動きでくるので反撃の準備は余裕で間に合ってしまう、馬鹿だな。
握り拳を作り中指の第二関節だけを突出させて奴らの首筋に軽く当てる。
「…………」
「お、おい! どうした⁉︎」
無理無理、もう死んでるよ。私の【
「うん♥︎ 良い切れ味だね♦︎」
こうして私に襲い掛かってきた数人は始末され、残りはヒソカが首を切り落としていた。残るのはリーダー格の男ただ一人。
「ま、待ってくれ……助けて!」
「アンタさぁ……殺そうとした相手に命乞いなんて惨めだと思わないの?」
あぁ……愚かすぎて腹立たしい。殺す価値もないが生き残ったことで調子に乗られるのもよろしくない。
だから私はコイツを
「……助かっ——ギェ⁉︎」
私がやらなくてもヒソカが見逃す訳がない。
「で、そこの2人はどうしたい?」
「…………?」
ヒソカが向いた先にいたのはクラピカとレオリオだ、迷ってこっちに来ていたのか。せっかく仲良くしてきたけどこれで台無しになったかな…………残念。
でもせっかく私と仲良くなってくれたお礼はしよう。私はアイコンタクトで2人にさっさと逃げろと伝えた。
「ねぇヒソカ……まだやり足りないのかい」
「ん〜……そうだね♠︎ 我慢していたけどもう抑えられないからもう少し狩っていこうかな♣︎」
アレでよく我慢していたとか抜かせるなぁ、サトツが姿を現した瞬間から殺気を飛ばしまくっていたくせに。
まぁいい、
「ここにアンタを満足させられる大物がいるんだけど、どう?」
「へぇ♥︎ それは魅力的だね♣︎」
今だ、逃げろ!
私の合図と同時に2人はこの場から急いで逃走する。瞬時に気づいたヒソカは向かおうと構えるがそうはさせない。
私がコイツの前に立ち塞がる。
そこから言葉は必要なかった。ヒソカはトランプを数枚投げつけて距離を詰めてくる。私も手は抜けないため背中に隠していた武器“ハルパー”を取り出しトランプを斬り牽制を挟む。
分かっているのだろうヒソカも牽制を最低限の動きで躱してアッパーを仕掛けてきた。
【凝】を常に行なっている私には分かる、この拳をまともに受けてはいけない。とはいえハルパーを防御に使えないので空いている左手で受け止めた。そして手には何かが付着したのを感じとった。
「(【
ヒソカがアッパーをした右腕をグイッと引くと私の左手がそれに合わせて奴の方へと引っ張られた。粘着性のオーラ……距離を取りながらでも自分の方に寄せれるのも強い点だ。シンプルだがそれ故に厄介な能力‼︎
だけど……私にはシンプルな能力では勝てないよ。
私はヒソカのオーラを
「(僕の【
私は変化系を極めたと自称している。オーラそのものに切れ味を持たせる変化、オーラで食べ物の味を変化、オーラをあらゆる性質状に変化させることだって私にはできる。
名前こそつけているが変化系の修行の応用と言っていい。まぁあらゆる性質を取得するのには時間をかけたが。
戦闘が始まって数分、長くなるであろう戦いは1人の乱入によって崩された。
「やっぱダメだわ……
レオリオ⁉︎ 何で戻ってきたのさ、コイツが強さ以前にやばい事くらい分かっていたでしょ?
レオリオの一撃は当然ながらヒソカには通じず空振りした。そしてヒソカは反撃に移ろうとしている。まずい!
焦るルメーネと獲物を仕留めようとするヒソカ、双方は反応が少し遅れた。
深い霧の中、突如と現れた
「ゴン⁉︎」
ヒソカを攻撃した相手を見るとそこにいたのはゴンだった。スタート時は先行していた筈なのに何で後方まで戻ってきたのさ⁉︎
いや、だとしても何故気づけなかった……凝をしていなくても私なら人の気配くらい気付けるのに。まさか絶? いやまさか。
ゴンが来たからと言って状況は改善していない。ヒソカの興味の対象がゴンに移っただけだ、逃げろゴン!
「(邪魔はさせないよ♠︎)」
ヒソカのやつ、こっちにトランプを‼︎
捌く時間の間にやられちゃう!
ヒソカの時間稼ぎにやられた私はただ見守ることしかできなかった。ゴンを見ているヒソカにサイド攻撃を仕掛けてあっさりと返り討ちに合うレオリオを、そして2度目の釣り竿攻撃をあっさりと躱されて首を掴まれるゴンを……
「大丈夫、彼も君も殺さないよ♥︎ だって君達は合格だから♦︎ いいハンターになりなよ♣︎」
「待ちなよ、ヒソカ」
どこかへ行こうとするヒソカの肩を掴む、コイツが何をしでかすか分からない今……コイツを自由にしていい訳がない。
ヒソカは私の腕を切り落とす事もなくただこちらを向いて「続きはまた機会がある時にやろう♥︎」と言って無線機を取り出した。どうやら同じハンター試験を受けている協力者がいたようだ。
「彼は気を失っているだけだから大丈夫♣︎ 僕はゴールに向かうよ、それじゃあね♠︎」
そう言い残してヒソカは霧の中へと消えていった。残されたのは私とゴン、気絶したレオリオ。そしてヒソカから逃げたクラピカがまだ戻っていない。
……私もゴールに行かないと。
「ゴン、確か鼻が効くんだよね。レオリオのコロンの匂いを追うことはできる?」
「いけるよ!」
「じゃあクラピカと合流して私を追ってきて、レオリオを早く休ませるために私が先行する」
「分かった、任せて!」
よし、さっさとヒソカを追いかけないと。奴の肩に仕掛けた私の粘着オーラが切れる前に追いかけないといけない。さっきのお返しだ。
クラピカの事をゴンに任せて私はレオリオを背負い、ヒソカを追いかけた。
しばらく追いかけて湿地帯の森を抜けるとレンガの壁が見えてくる。そして先にゴールした者達が門の付近で休憩していた。
ゴンやクラピカが無事に来れるかは心配だが、まずはレオリオの治療が先だ。レオリオを木陰に寄せて持ってきた道具で治療した。しかし殴られた右頬はしばらく腫れてしまうだろう。
でも無事でよかった。
私とレオリオ、そして少し遅れてゴンとクラピカが到着。私達4人は無事に第一の試験を突破することに成功したのであった。
【
使用者 ルメーネ(変化系)
・オーラをあらゆる形・性質に変化させることができる。オーラを刃物状にして切れ味を上げる事もイタズラで食べ物の味の濃さを変化させる事も自由自在。ただし再現するものは本人が体に取り込んでみたり研究して理解したもののみ。
・応用技で具現化系を合わせる事で塩酸などを即席で用意することができる。
・本人も言っているが変化系の修行を本人なりに極めた事で出来るようになった。
・オーラを変化させる為に色々な条件がある
【
使用者 ルメーネ(暗殺術の一つ)
・中指の第二関節のみを突出させる。これは殴打による攻撃ではただのパンチ、擦り当てる事で的な皮膚や肉を裂く。
・【千変万化】で切れ味あるオーラを纏う事で更なる攻撃力を持つ事も可。
【
使用者 ヒソカ(変化系)
→自分のオーラをガムとゴムの性質を持つオーラに変える。ガムのように粘着性がありゴムのように伸縮性があるため牽制や抑制など様々な使い道がある。
→一番恐ろしいのはシンプルなこの能力を駆使し戦闘を行うヒソカである。
【ハルパー】
使用者 ルメーネ(武器)
→刃の部分が鎌のように弧を描いており、刀身が内外両側についている刀剣。
→大きさは背中に隠しておけるサイズ