有馬チャレンジ・マリタイムシッパー編   作:ZAP97

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第2話 いや目指してませんけど

 あの不思議な目覚まし時計を見つけてから2ヶ月が経っていた。

 しかし体感時間としては2年以上だ。

 

「すごい……これ、ほんとにほんとに本物のタイムマシンだ!」

 

 不思議な目覚まし時計についてわかったことをメモにまとめる。

 

 

一.レースが終わってウイニングライブまでに鳴らすとレース日の朝に戻る。

  その再にレースの枠番が変わり、レース展開も大きく変わる。

 

一.それ以外で鳴らすとその日の朝に戻る。ただし月末に鳴らすと1ヶ月前に時間が戻る。

  例として、4月29日に鳴らすと4月29日の朝に戻るが、4月30日だと4月1日に戻る。

 

一.時間が戻ると皆の記憶が消える。ただしわたしは記憶を保持している。

 

一.時間が戻ると鍛えた体は元に戻る。

 

 

「ズルはできないよね」

 

 検証ののち最初に思ったのは「これを使えば、わたしなんかでも未勝利を脱出できる……!」というものだった。でも選抜レース戦で試すと、だめだった。ミホノブルボンさんとか超強力な人は、根本的に、基礎能力がぜんぜん違っていたのだ。

 スピード。スタミナ。加速力。

 どれをとってもわたしはトップの人達には遠く及ばない。

 

 それでも同程度の相手、10回やって1-2回はチャンスがある『時の運』で勝てる相手なら、時を戻すことで、わたしが勝てる世界線に行けたかもしれない。でも――。

 

『やったやったやったあ! トレーナーさん、わたしやったよー!』

 

 ピンク髪の選抜レース優勝者さん。

 ぴょんぴょんと跳ねて抱きついて喜んでいる。確かハルウララさんと言ったか。

 わたしは目覚まし時計を使って、その笑顔を巻き戻して、なかったことにした。

 そしたら。

 

『えへへー。惜しかったよね、でもでも次はぜーったい、もっと走れると思うんだ!』

『……あう』

 

 変わらぬ笑顔。でも前回よりもちょっと曇った笑顔。

 ざくりざくりと心臓をヤリで刺されたみたいな感覚を覚える。

 そしてわたしは思った。

 

『レースをやり直すのはダメだよ』

 

 それは勝ったウマ娘の笑顔が失われてしまうということだ。

 わたしが祝福したマリタイムシッパーちゃんの笑顔を嘘にしてしまうということだ。

 それに耐えられるほど、わたしは悪人ではなかった。

 

『だから。うん、やり直すのはレース以外……練習とかだけにしよう!』

 

 まったく使うのをやめないあたりがわたしの中途半端根性がにじみ出ている。

 そういうわけで――わたしは練習のやり直しをしている。

 一人で夜中にひっそりと。

 なんでかというと、めちゃくちゃ危険だからだ。

 

「さーて。今日もがんばるぞー!」

 

 練習のやり直しができるということは、いくらでもリスクを取れる。ケガしても死ななければやり直せるのだから。ただ死んじゃったら終わり……というか普通に怖いから、さすがに高速道路を走るとか無茶な練習はできないけどさ。

 というわけでわたしは今日も平均台の上を全速力で走っている。

 バランス感覚を鍛えるためだ。落ちたら間違いなく、ケガをする。

 で、するっ!

 

「あっ! きゃううううううーっ!?」

 

 ぐきいー!

 足首をひねった。いたい。涙が出る。

 でもなんかなれてきたぞ。だってこれ37回目だし。

 すかさず時計を取り出して、じりりりりーん。

 すると、ぱちり。

 わたしは布団の中で目を覚ました。

 ケガしたのはなんと悪い夢だったのだ!

 えへ、えへへへー。今度は失敗しないぞ。いくらだって練習できるぞー!

 そう自分を勇気づけて、布団をはねのけようとする。

 が。

 ぐきっ!

 

「はぐう!」

 

 布団が重すぎて手首を痛めたみたいだった。うわ、わたしの手首、よわすぎ!

 しょうがないもっかいやり直しだ、きょう38回目の朝を……!

 と、目覚まし時計に伸ばした手が、ぴたりと止まる。

 

「……あう」

 

 ぽろりと、なぜか涙が出た。

 

「………………なぜか、じゃないよねー」

 

 理由はわかってる。

 今日38回目のやり直し。つまり38回目のケガなのだ。

 

「痛いよね。つらいよね」

 

 今のわたしみたいなアニメあったよね。死に戻りって。あれ実際体験すると、ほんとあの主人公すごいと思った。わたしと違ってほんとに死んでるわけだし。よくやるよ。ふつうは絶対に耐えられないよ。ケガでさえつらいのに。

 目覚まし時計に伸ばした手がイヤイヤをしている。

 もう諦めようよ。心の奥底で誰かが言った。

 たぶんそれは正しい。

 おまえなんかが永遠にがんばりつづけるなんて、できない。

 

「でも」

 

 それでもわたしは手を伸ばす。

 

『やったやったやったあ! トレーナーさん、わたしやったよー!』

 

 わたしは彼女みたいに、ハルウララさんみたいに笑ってみたかった。

 たった一度だけで良いから。だから。

 

「だからがんばろう、わたし」

 

 躊躇の思いを振り切ってわたしは目覚まし時計のスイッチに手を伸ばした。

 そのときだ。

 

「やめとけよ。その先は地獄だぜ」

「えっ!?」

 

 突然の声に振り返ると、部屋のドアを誰かが開けていた。

 知らないウマ娘だ。長い銀色の髪。腕組みをしてわたしを真剣な目つきで睨んでいる。

 

「アルタイル人から時空振動を検知したと連絡を受けてやって来たんだ。やめとけアンタ。それは廃人への道だ」

 

 え、この人、事情を知っている!?

 

「あなたはいったい!?」

「アタシの名前はゴールドシップ」

 

 びしっと腕を交差させる謎のポーズを取り。

 ゴールドシップさんはキメ顔で言った。

 

「アンタと同じくエデンを目指す、通りすがりのウマ娘さ!」

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