「あんた、そのままだと永続的狂気に突入するぜ」
栗東寮のロビー。
ゴールドシップさんはルービックキューブをいじりながらキラリと歯を輝かせた。
「いいか。ループものの主人公に一番必要なのはSAN値の維持手段だ。アンタも正気度回復手段を用意しねーとウマ精神病院に強制入院でゲームオーバー直行だぜ。このアタシだって、ルービックキューブを完成させてなんとか正気を保ってるんだ」
「正気を保っている……?」
ごめんなさい。とてもそうには見えません。
でもこの人わたしがループしてるってことに気づいたみたいだし……。
アタシだって、ってことは、このゴールドシップさんもわたしと同じなのか?
「というかそもそもSAN値ってなんですか?」
「サラブレッズ・アルカディアン・ノストラダムス値。わかりやすく解説するなら、理想世界に抱くウマ娘の希望の光ってことだな」
「なにひとつわからないんですけど」
「ちなみにおめーのSAN値は上限45で現在値7だな。マジヤバってとこだぞ。あと数回タイムループしたら間違いなく発狂する。おまえだって自覚あんだろ?」
「うっ」
たしかに精神的につらいなー、こわれるかもー、とは思ってたけど。
「いいか。リゼロ式かシュタゲ式か他かは知らねーが、とにかく1日単位のタイムループはやめとけ。24時間以内のSAN値減少は常人が耐えられる負荷じゃねえ。最低でも1ヶ月、できれば1年周期にするんだ。このアタシだって三年周期が精一杯なんだ」
「り、りぜ……しゅたげ……?」
言ってる意味は7割以上わからないが、とにかく本気で心配している、ということはわかる。ルービックキューブをかちゃかちゃ回しながらも、ゴールドシップさんの目は本気そのものだ。ほんとにわたしの事情がわかっていて、心配している。
でも――。
「――それでもわたし」
ブリッジコンプちゃんの笑顔を思い出す。たった一回だけでいいから。
「わたしも、センターに」
たとえ心が壊れても。
わたしなんかの心を賭けて勝てるなら――かまわない、と思っちゃうのだ。
そんなわたしの様子を見て、ゴールドシップさんはぽりぽりと頭をかいて『んーっ!』と悩み顔になり。
「おまえ友達いるか?」
「へ?」
なんだいきなり。とにかくフルフルと首を横にふる。
もとから口下手だし、ループのせいで友達を作る余裕なんてぜんぜんなかった。
「いなけりゃ友達を作れ。そして仲良くなって一緒に練習しろ。タイムループは友達と仲良くなる、そのためだけに実行しろ」
「え、あの……なにを」
「友達候補は……この時間なら、グラウンドそばの植え込みにアイツが隠れてるはずだ。どんなウマ娘でも絆ゲージが1日で速攻でMAXになる天使みたいなウマ娘だ。仲良くなりたいっつって、話しかけてみな。きっとうまくいくぜ」
ゴールドシップさんは一気に喋り切る。あいかわらず言葉の意味の七割がたがわからない。でも、なにかものすごく重要なことを喋っている。それに何より、やっぱりわたしの今のタイムループについて理解して……わたしを心配しているのは、たしかみたいだった。
もっと詳しく、話を聞きたい。
わたしの現状を理解する人と、話をしてみたい。
そう思って口を開こうとしたとき。
「おっと時間だな。今回のアタシはここまでだ。今回は10分程度か。次回は15分に伸ばしたいとこだぜ」
「はい?」
「次回のゴルシちゃんの『黄金の旅路』で――会えることを願ってるぜ、同志よ」
バチコーン。ゴールドシップさんがウインクした次の瞬間。
びかあああっ! 黄金色のゴールドシップさんの全身が光った。
「きゃああああっ!?」
まぶしい光に目を閉じる。
やがておさまった頃、目を開けると、ゴールドシップさんは変わらずそこに立っていた。
「あの……? だ、大丈夫ですか?」
「お? スマンスマン、アタシ発光してたか?」
「してましたけど、それよりタイムループについて聞きたいんですけど」
「タイムループ? ははっ、いくらゴルシちゃんでもタイムマシンは作れないぜ?」
……あれえー?
その後ゴールドシップさんを何度問い詰めても『あははは、おもしれー夢だな』と相手にされなかった。わたしに話したSAN値とかについて、記憶を失っているようで、わけのわからないことを言うばかりだった。いやわけのわからないことは最初からだけど。
とにかくわたしはまたひとりぼっちになったのだ。
「……はあ」
ゴールドシップさんともっとお話したかったのに。お友達になりたかったのに。
『グラウンドそばの植え込みにアイツが隠れてるはずだ』
ともあれゴールドシップさんの言葉を参考にわたしはグラウンド近くの植え込みに向かい歩いていた。彼女のアドバイスに従うことにしたのだ。理解不能なことばかり言ってたけど、でも、言ってることはちゃんと的を射ていたし。
それに。
ケガしては時間を巻き戻し、にいいかげん限界を感じてたのも事実なのだ。
朝起きてすぐに泣いちゃう程度には。
「(……誰がいるんだろう)」
そんなわけで、わたしはグラウンドに来ていた。
いつもの練習フィールドには行かず、植え込みをがさがさと探していく。誰がいるんだろう。ゴールドシップさんいわく、天使みたいなウマ娘とのことだ。そんなすごい人が、わたしなんかの友達になってくれるんだろうか……?
不安に思いつつもとにかくガサガサと探してみる。
するとそこには。
「おほおおおおぉぉぉぉぉ! だだダイワスカーレットさんとマーチャンさんとウオッカさん、三人ブルマ姿での尻尾ハグですとぉぉぉぉぉ!? こんな天国があっていいのですかああぁぁぁ!? サービス過剰すぎませんかむっほおおおおおおうううううう!!!」
「……」
「のああああああああああああ爆発しゅるううううううううう!!!!」
あの。
なんか変態がいるんですけど。