メジロアルダンとの過ごす幸せな日々   作:ZVW30-SCP

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アルダンと夕焼け

濃いめの味付けを食した後、サービスエリアのレストランを出て愛車に向かった。

 

ちなみに、今回は右腕に抱きついてこなかったので指を絡め合って歩いている。

 

「ふぅ…」

 

案外美味しかった。正直なところ、味には特に期待していなかったのだが、意表を突かれたものだ。濃いめの味付けとはいえ中々美味しかった。

 

「うぅ...」

 

頬を朱に染めてうつむいている愛しい愛しいメジロアルダン。

勢いであんな大胆な行動に出たようだが、相当恥ずかしかったらしい。

 

「まさかアルダンがあんなに大胆だったとは...」

 

「もうっ...!言わないでください...」

 

真っ赤になった顔を隠すように俺の腕に顔を埋める姿が大変愛らしい。

 

空色のロングヘアから花のような甘い匂いがふわりと香って来た。アルダンの愛らしい行動とその甘い香りによって俺の心拍数はどんどん上昇していった。

 

「あ....トレーナーさん」

 

何か思いついたようで、アルダンは俺の耳元に顔を近づける。

『美』と『可憐』を凝縮してウマ娘という形で生まれて来たようなアルダン。そんな彼女が至近距離に迫って来るのは心臓に悪い。

 

「....今度は私の唇に...トレーナーさんのココで塞いでくださいね...?」

 

柔らかい指が俺の唇にそっと触れられた。

 

頬を染めながら甘ったるい声で囁くアルダンは妖艶で、狙った[[rb:獲物 > トレーナー]]を逃さないメジロのウマ娘の強い意志が感じられた。

 

「...後でな?」

 

仕返しにふわふわのスカイブルーの耳に囁く。まあ、アルダンほどの破壊力は出せないけれど。

 

「...っ!」

 

案外効果は有ったらしい。

 

 

..................................

 

 

助手席のドアを開け、アルダンの乗車を手伝う。

 

「よい...しょ」

 

透き通るように白く、しかしアスリートらしいしなやかな足を足元に入れ、両手でシートに手をついてフルバケットシートの助手席に収まる。

 

乗り降りし辛いスポーツカーだというのに随分と器用に乗降できるようになったものだ。

 

「このペースだとあと2時間くらいでチェックイン出来ると思うよ」

 

俺も運転席に乗り込み、キーをひねる。

腹の底に響くような重低音とともに2000ccターボに火が入る。

 

「わかりました。今日のトレーニングはどのように致しますか?」

 

明後日がレースで、明日は調整の為に1日使う予定だ。

 

「今日は軽くストレッチにしておこうか。明日の午前中に調整して、午後からはミーティングと休憩だ」

 

本番に疲労が残らないように調整しなければならない。その後は部屋に戻って対策とストレッチだ。

 

「わかりました。よろしくお願い致しますね」

 

「ああ、任せてくれ。じゃあ出発するか」

 

「ええ。よろしくお願いします、トレーナーさん♪」

 

ご機嫌なアルダンに癒されつつ、安全確認をしてゆっくりとクラッチを繋いだ。

 

 

..................................

 

 

6速90km/hで走行車線を走行中、周りの景色を見ると、木々の影が長くなっていた。なんとも冬の足音を感じさせる風景だ。

 

「ふふふっ....」

 

「ん?」

 

ふと、アルダンが笑い声を漏らした。

 

「あ...いえ。いつもありがとうございます、と思いまして」

 

「そんなこと、むしろこちらから言いたいよ」

 

何の特徴もない平凡な俺を愛してくれて。

 

「私も、ですよ。いつもトレーニングメニューを考えてくださり、私の体調も気遣っていただけて...」

 

そう言って微笑むアルダン。走ることが大好きな彼女は、満足に走れるようになった今がとても幸せだと以前に話していた。

 

「良いんだよ。俺はアルダンが全力で楽しんで走れるように少し手助けしているだけさ」

 

「それでも...私は嬉しいです。私がひとりでもがいていたときには見えなかった世界が、トレーナーさんのおかげで明るくなったのですから」

 

囁くような優しい声が俺の心の深くまで響いてくる。

 

「私は...幸せです。トレーナーさんと一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜け、URAファイナルズにもメジロアルダンという名前を刻むことができました...」

 

なにか...辞世の句を聞いているような気がしてきた。

 

「アルダン...体調が悪かったりするのか...?」

 

毎日バイタル等はチェックしているつもりだったが、なにか見落としていたか...?

 

「え?いえ、絶好調ですよ♪」

 

「それなら良かったけど....なんだか、そのまま別れを告げられそうな言い方だったからさ」

 

アルダンに、あなたが嫌いなので契約解除してください、など言われた日には...そのまま離職票を理事長に提出しに行くことだろう。

 

「そんなお別れだなんて...ふふっ。以前お話し致しませんでしたか?」

 

肘置きに置いている左手をアルダンが柔らかくて熱い右手で包まれ、吐息がかかる程の距離に近づいた気配が甘い声で囁いた。

 

「...貴方を逃がさない...と...♡」

 

ああ...トレセン学園の諸先輩方は担当ウマ娘にこうして籠絡されるのだな、と理解した。

 

「アルダン...」

 

俺は左手を裏返してアルダンと貝殻繋ぎをする。

 

「顔真っ赤だぞ」

 

「...トレーナーさんはいじわるですね」

 

菫色の瞳はメジロのウマ娘らしく強く美しく妖艶なものだったが、アルダンの純情な部分は隠しきれなかったようだ。

 

 

..................................

 

 

「トレーナーさん、どうぞ」

 

アルダンが蓋をあけたペットボトルを手渡してくれた。

 

「ありがとう。丁度喉が渇いたところだったんだ」

 

先ほど購入した緑茶のペットボトルだ。アルダンのこういった細やかな気遣いには本当に育ちの良さを感じる。メジロ家当主のおばあさまの教育方針は....まあ、一部の極端な部分を除いて本当に素晴らしいと思う。

 

「いつ頃の到着でしょうか?」

 

「そうだな...そろそろ見えてくるよ」

 

トレーニング施設が併設してあるホテルなのでそれなりに大きい。ウマ娘やその関係者が多く利用するので、プライバシーの保護に力を入れていところも良い点だ。

 

....そのおかげか、宿泊料は個人的に利用するのを躊躇う程ではある。

 

「今日も同じ部屋ですよね?」

 

「まあ...そうだな」

 

俺たちは今の関係に進む前からホテルは同室のことが多い。

元々はアルダンになにかあった際にすぐに対処できるように、という目的だった。

 

彼女の体調がある程度落ち着いてきた頃にホテルの部屋を分けたことがあったのだが、今度はレースの調子が悪くなってしまったのだ。

 

アルダンの性格から考えて自分の欲求の為にわざと手を抜くようなことはしないので、本当に無意識な部分で調子を崩していたようだ。

 

2,3度試した結果、毎回同じ部屋で泊まることになったのだ。

 

「ふふふっ...2人きり、ですね?」

 

「いつも通りだけどな」

 

「違いますよ。今回は違います...♡」

 

まあ、確かに同じではないか...

 

「...終わったらデートにでもいくか?」

 

「...はいっ!」

 

ああ...この笑顔に弱いんだ...

 

 

..................................

 

 

「そろそろ見えてくるよ」

 

日本海に沈む夕日を眺めつつ海岸線を流していると、やがて森林に道路が飲まれていく。そして防風林の松林を抜けると、大きなホテルが見えて来た。

 

駐車場の建物から少し離れた場所に愛車を停め、リアから取り出した自分のトレンチコートを羽織った。

 

アルダンのダッフルコートを手に持って、助手席のドアを開けて手を差し伸べた。

 

「お手をどうぞ、お嬢さま」

 

「まあ...ふふふっ。ありがとうございます♪」

 

おどけていても上品なところがアルダンらしい。

 

美しい空色の長髪に似合うファーが付いた小麦色のダッフルコートを羽織うアルダン。

 

「夕日が綺麗ですね...」

 

茜色に輝く夕日が紺色の空と交わる黄昏時。

目を細めるアルダンの白い肌もオレンジ色に反射していた。

 

「そうだな...この時期は空気が澄んでいて良い」

 

「そうですね...くしゅんっ」

 

暖房が効いた車内から急に冷えた屋外に出たせいだろう。アルダンが可愛らしいくしゃみをする。

 

「身体が冷えるぞ。早くチェックインしようか」

 

トランクから黒いボストンバッグとパールホワイトのスーツケースを取り出す。

鉄板むき出しだったトランクルームは、純正品の内装を何とか探し出して付け直した。

 

「はい。...あの、トレーナーさん...?」

 

アルダンが少し頬を染めながら上目遣いで見つめてくる。....可愛い。

 

「...どうした?」

 

「あの...ホテルの近くまでで良いので...手を...繋ぎませんか...?」

 

一応、俺たちは秘密の関係だ。今回のレースは知人に会う可能性は低いとはいえ、あからさまに腕を組んでイチャイチャするのは躊躇われる。

 

しかし...この美しい夕焼けを背に、少しロマンティックな雰囲気にあてられた俺に断る理由はひとつもなかった。

 

「ホテルの近くまで、な」

 

本当は部屋までずっと離したくはない。

 

しかし...ここは我慢だろう。

 

「...!ありがとうございます...」

 

俺は右手でアルダンの手を取る。その小さな手はすっかり冷え切っていた。

 

「ふふ...」

 

そのことを指摘しようかと思ったが、この幸せそうな笑顔を見ると後回しでも良い気がした。

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