三学期が始まった。
ある日、生徒会の仕事をしていると皐月先輩と二人きりになった。
生徒会のエースである彼が居ないというのは少し珍しい。
「……よし。これで大丈夫……のはず」
「見せてみて? ……うん、大丈夫みたいね」
「良かったぁ……うぅ、やっぱり皐月先輩が居ないと不安です」
「もう間もなく私は卒業しちゃうから。頑張ってちょうだい」
「そんなぁ……留年とかしてくれませんか?」
「それは無理ね。三年生の三学期はテストが無いから今更留年のしようがないわ」
「ですよねぇ……うん、ただの冗談です」
やっぱり先輩の存在は偉大だ。今後が凄く不安である。
「あ、そう言えば皐月先輩」
「何かしら?」
「もうじき卒業っていうので思い出しましたけど、先輩は『伝説の樹』の話って知ってますか?」
「……ええ。知っているわ。
『卒業式の日に女の子からの告白で生まれた恋人同士は永遠に幸せになれる』
誰が言い出したのかも分からない、ロマンチックな伝説ね」
「はい。
……あれ? 何か違ったような……?」
「どうしたの?」
「う~ん…………あ、そうだ。
伝説の樹の話って、女の子からの告白からじゃないとダメなんですか?」
「私はそう聞いているわ。私の親戚の人がそう言っていたの。
あの人は伝説を成し遂げた当事者だから間違えているという事は無いと思うけど……」
「うーん……」
私の知っている話ではそんな条件は無かったはずだ。
一体どちらが正しいのか。いや、そもそも正しいのかも分からないけど。
「皐月先輩は……誰かに告白したりするんですか?」
「そうね……相手が居たらよかったのだけどね」
「そ、そうですか」
皐月先輩と釣り合う男子なんてそうそう居ないだろう。
「正直に言うと、私はあの木の伝説に憧れてこの学校を選んだの」
「そうだったんですか!?」
「ええ。伝説を成し遂げた私の親戚の女性と、その恋人の様子がとっても眩しくて、私の憧れだった。
だから私も……なんて思ってたんだけどね。相手が居ないとどうにもならなかったわ」
「そうですね……」
そんなの当たり前じゃ……なんて突っ込むのは野暮だろう。
「あ、でも彼なら皐月先輩と釣り合いが取れるんじゃないでしょうか?」
「『釣り合う』なんていう言い方も上から目線で評価してるみたいだからちょっと失礼だけど……確かにそうかもしれないわね。
でも、私自身が彼に恋しているわけではないし、それに……」
「それに?」
「……いえ、何でもないわ。
ところで、あなたは誰か告白したい人は居ないの?」
「え? い、いえ、私まだ二年生ですし」
「そんなの関係ないわ。もし三年生に気になる人が居るなら今年告白する事は何ら不自然じゃないわよ」
「確かにそうですけど……でも気になる人なんて居ませんよ」
「本当に? それじゃあ、誰かに告白を『しなければならない』としたら誰に告白する?」
「しなきゃいけないんですか? それだったら……」
誰か一人を選ばないといけないのならば、それは勿論……
「っっ!?!?」
「あらあら、顔が真っ赤よ? 大丈夫?」
「だ、だだだ大丈夫です、はい!」
あれ? 今、私は誰を思い浮かべた?
頭の中で私は迷う事なく『彼』の姿を思い浮かべていた。
私は彼が好き……なのだろうか?
いやいや、そんな訳は無い。あんな……こう……テストがいつも満点で運動神経も抜群で生徒会でも凄まじい働きをしているような人なんて……あれ? これだと単に凄く良い人なのでは……?
という訳で数日後。
「どう思う、小林くん」
「何で俺が他人の惚気話を聞かなきゃならねぇんだよ!!」
いや、他の人にも彼の名前は伏せて相談したんだよ? つぐみとか、富美子ちゃんとか。
でもつぐみは何か怒っちゃうし、富美子ちゃんはよく分かんないって言うし。
「……報酬は、バレンタインの義理チョコ」
「いいだろう! この小林学に何でも話してみたまえ!!」
こんな事しなくても去年と同じように全員に配るつもりだった事はナイショにしておこう。
「んで、悩み事ってのは『気になる男子が居るけどこれが『好き』なのか分からない』って話だっけか?」
「うん、そう」
「そういう時はアレだ。
そいつと他の女子がイチャイチャしてる姿を想像してみろ」
「どういう意味?」
「いいから、やってみ?」
「ん~……」
イメージしてみよう。
例えば富美子ちゃんと……
『凄い! 流石は放送部のエース!』
『この程度当然だ。
あ、生徒会に呼ばれてるからじゃあな』
『うん、頑張ってね~』
……あれ? イメージができない。
いやいや、きっと人選ミスだっただけだ。それじゃあ郡山先輩は……
『後輩クン? 今、時間あるわよね?』
『生憎と紅茶を飲むのに忙しいんで。いやー、残念だなー』
『そう、良かったわ。丁度紅茶に混ぜるタイプのサプリメントを……』
『さらばっ!!』
…………おかしいな、やっぱりイメージできない。
き、気を取り直してもう一度。皐月先輩ならどうだろうか?
『……うん、今日はこんなものかしらね』
『お疲れ様です』
『そうだ。良かったら帰りに喫茶店に寄って行かない?』
『いいですね。おい、一緒に行くぞ』
『え?』
自然と私が入ってきた!? 一体どうなってるのイメージの中の彼は!?
「ダメ、全然イメージができない!」
「なぁ、俺帰っていいか?」
「ダメ! うーん、どうしてだろう」
「あいつ女っ気無いからなぁ……そのせいじゃねぇの?」
「なるほど……ん?」
何故名前を言ってもいないのに特定されているのだろうか?
……いやいや、きっと気のせいだ。そういう事にしておこう。私の心の安寧の為にも。
「ちなみに、このイメージって何の意味があるの?」
「イチャついてるのをイメージして嫌な気持ちになったら恋心らしい。
『取られたくない』って思いが混ざってる事を確認できるとか何とか」
「なるほど……」
大事な部分は『取られてしまった』っていう部分な訳だね。
じゃあ次はその辺を重視してイメージしてみようか。多少非現実的でも良いから極端に……
『皐月先輩! 好きだ!!』
『ええ! 私もよ!!』
『結婚しよう!!』
『ええ!!』
……確かにこれは、嫌だ。
イメージの中の彼と先輩が強烈過ぎて嫌だっていうのもあるけど……とにかく嫌だ。
「確かに嫌だったよ。ありがと、小林くん」
「おうそうか。チッ、あの野郎。羨ましいヤツめ!」
「あ、あはは……」
「それでどーすんだ? 告白とかするのか?」
「こ、こここ告白!? いやいやいやいや……」
「でも好きなんだろ?」
「そ、そそそそうだけどっ! そうだけどさ!!」
「じれったいヤツだな。そんなんだと誰かに取られるぞ。
あいつ有名人だから女子の知り合いも結構多いし。ムカつく事に」
「うっ! それは……そうだけど……」
文化祭の時には私が把握しているだけで3人の女子と電話してた。しかも凄く話し慣れてる感じで。
彼の交友関係を全て把握してるみたいなストーカー染みた事はしていないからハッキリした事は言えないけど、その中に凄く仲のいい女子が居る可能性は普通にあり得る事だ。
「とりあえず……じっくり考えてみるよ。ありがと、小林くん」
「おう! チョコ忘れないでくれよ!!」
「うん。勿論だよ」
そういう訳で、バレンタインの時期になった。
え? 彼との関係? そんなすぐに進展したら苦労はしないよ。今まで通りに一緒に仕事したりするだけの仲だよ。
ただ、最近は目が合う回数が増えた気がする。気のせいかもしれないけど。
「それじゃ、今年もチョコを作って行こう!」
「お~!」
去年と同じように富美子ちゃんと一緒に作る。
量産品の義理チョコと、あとは本命チョコを……作らないと。うぅ、渡せるかな?
「それじゃあ湯煎でチョコを溶かして~」
「お~!」
「型に流して~」
「お~!」
「冷蔵庫に入れて放置!」
「お~!
去年とは大違いだね。さっすが!」
「うん、せめて同じ失敗はしないようにしないと」
「それだけでも誰にでもできる事じゃないよ~」
「そうかな?
……でも、ここからが今年のチョコ作りの本番だよ」
「うん。精一杯手伝うよ!」
名前は伏せているものの『本命チョコを渡す相手が居る』という事は伝えてある。そもそも小林くんよりも前に相談してるし。
富美子ちゃんはそっちも手伝ってくれるとの事だ。なお、報酬は失敗作のチョコ。
太らないのだろうかと心配になるけど……まぁ、富美子ちゃんなら太らないだろう。羨ましい。
「それで、何を作るかはもう決めてるの?」
「ただ溶かしただけのものだと味気ないから何かしようとは思ってるんだけど……コレっていうのがねぇ……」
「それじゃあ、いっそのことケーキでも作る?」
「えっ、できるかな……?」
「ガトーショコラとかなら簡単だよ~。ちゃんと手順通りにやれば大丈夫!」
「そう? それじゃあやってみようか。
あ、でも一人に渡すのにケーキだと大きすぎるかな?」
「一人用に切り分けちゃえばいいし、それに余ったら私が食べるから大丈夫だよ!」
富美子ちゃん、自分が食べたいからわざと余りを出させようとしてないよね……?
まあ、いいや。協力してくれる事に変わりは無いんだし、精一杯やってみるとしよう。
……数時間後……
「後は型から取り外して……これで完成!! 今度こそ大丈夫のはず!!」
「おめでとう! 一時はどうなるかと思ったよ~」
「あはは……」
富美子ちゃん曰く『手順通りにやれば大丈夫』なガトーショコラ作りは結構難航した。
重量計が故障していたせいで分量を間違える、メレンゲがなかなか泡立たない、クッキングシートの作成に失敗して焦げ付く、等々。
一番ショックだったのは砂糖と塩を間違えるとかいうベタ過ぎる失敗をやらかした事だ。完成したと思って味見した時に発覚したので、その味も相まってダメージが大きかった。
「富美子ちゃん、今日はありがとね」
「ううん、私の方こそありがとうだよ。美味しいチョコがいっぱい食べられたから。
私も応援してるから、頑張ってね!」
「うん! これだけ頑張ったんだもの。絶対に渡すよ!」
バレンタインは明日だ。頑張ろう!
「ハッピー、バレンタイン!!」
「プレゼント、ふぉーユー!!」
「ふぉぉおおお!! ありがとう! ありがとう!!
ホワイトデーのお返しは期待していてくれい!!」
「うん! 沢山のお返し待ってるよ!」
とりあえず小林くんへの義理チョコを富美子ちゃんと一緒に渡した。
彼は……今は居ないみたいだ。本命チョコは最後にしたかったので丁度いい。他の人の分も配り終えておこう。
「一応訊くけど、七河くんは……」
「ああ、そういや今日は見てないな。どうせ学校ごとサボってんだろ」
「だよねぇ~。じゃあ、はいコレも」
「二つ目!? 俺が貰って良いのか!?」
「うん。念のため、本当に念のため七河くんの分も作ってきたけど、そもそも来てないなら渡しようが無いからね。
去年と違って二回目だから予備も多分要らないし。在庫処分……って言い方もどうかと思うけど、せっかくだから小林くんにあげるよ」
「ありがとう!! よっしゃ! これでチョコ三つだぜ!! 去年のアイツより上だぜ!!」
私の分を二個とカウントして良いのだろうか? 本人が良いなら構わないか。
「それじゃ、他の人達にも配ってくるね~」
「おう! あと……健闘を祈る!」
「……うん! ありがとう。じゃあね!」
そして放課後。ようやく本命チョコを渡す時が来た。
「あ、あのっ!!」
「あんたか。待ちくたびれたぞ。
……念のため聞いておきたいんだが、チョコを渡しに来てくれたんだよな?」
「勿論だよ! はい、どうぞ!」
「感謝する。
……去年の溶かして固めただけのものとは違うんだな」
「う、うん! そそそそうだよ!」
「ふ~ん……そうか。ありがとな。
後でじっくりと頂くよ」
「うん! ちゃんと味わって食べてね! そ、それじゃっ!!」
心臓が凄いバクバク言ってるけど無事に渡せた。
ほ、本命のチョコだって気付いてたかな? 彼は結構察しが良いから気付いてたと思う。
迷惑がられたりしたらショックだ。後で感想を聞いてみよう。
と、思っていたのだけど……
チョコの感想が彼の口から出る事も無く、こちらからも怖くて訊けず、
結局感想が聞けたのはテスト明けのホワイトデーになってからだった。
「ほい。チョコのお返しだ」
「え? あ、うん! ありがとう」
去年と同じように彼から紙袋が差し出された。また手作りの飴だろうか?
「あ、そうそう。チョコ美味しかったぞ。砂糖と塩が間違っていた事を除けば」
「ええっ!? まさか失敗作が混ざっちゃってた!? ごめん……」
「はは、冗談冗談……ちょっと待て、そんなベタな間違いをした失敗作自体はあったのか?」
「うぅ……はい、そうです。あ、でも渡したやつはちゃんと大丈夫だったんだよね? そうだよね!?」
「ああ。普通に砂糖入りで美味しかったぞ。完全に冗談のつもりだったんだが、何と言うかスマン」
「ううん、元々は失敗した私が悪いんだから」
「その詫びというわけでは……全然無いんだが、しっかり味わってくれよ。
去年よりも豪華にしておいた」
「ありがとう! 何が入ってるのかな~っと……」
「貰ったものが手作りケーキだからな。こっちもパウンドケーキを作ってきた」
「手作りのケーキ!? 凄い!」
「いや、あんたのバレンタインも手作りケーキだったろうに」
「いやまあそうだけど。私の場合は富美子ちゃんにかなり手伝ってもらったし」
「その柳から大分苦労して作ったって事は聞いてるよ。十分凄いさ」
「そっか……えへへ、ありがと。
それじゃ、家に帰ったら大事に食べるね」
「ああ。それじゃ、オレは飴玉を配ってくるから。じゃあな」
これは後から聞いた話だけど、今年の彼は結構な量のチョコを貰っていたらしい。
だけど、ケーキまで用意したお返しは私にだけだったとか。
あと、チョコの美味しさの順位としては私は二位だった、との事だ。
少し悔しく思ったけど、後に一位の人と会った時に納得した。勝てなくてもしょうがない、と。
ホワイトデーから数日後。卒業式が始まった。
去年はただ何となく眺めていただけだったけど、今年は私が生徒会長として送辞を行う。
普段なら生徒会の仕事は皐月先輩にチェックしてもらっていたけどこればっかりは見てもらう訳にはいかなかった。私と、あと彼が協力してくれて原稿を仕上げた。
卒業生代表の答辞は元生徒会長として皐月先輩がやるとの事だ。当然だけど内容はまだ知らない。
無事に卒業式が終わった。
送辞の時は緊張して噛みそうになったけど、事前の練習のおかげか何とか乗り切った。去年のクリスマスプレゼントも役に立った……のかもしれない。
この後はどうしようか。
少し考えて、私は生徒会室に向かった。皐月先輩が居る。そんな気がしたから。
そんな私の予感は見事に的中した。扉を開けた先には先輩が居た。
「こんにちは、皐月先輩」
「あら、来たのね。
こんな所でどうしたの? 今日は生徒会の活動も無いはずだけど」
「理由は特に無いんですけど……何となく、皐月先輩に会いたくなったので。
あの……ご卒業、おめでとうございます」
「ふふっ、ありがとう。あなたの、いえ、あなた達の送辞も素晴らしかったわ。
あれなら安心してここを旅立てる」
「そう言っていただけて光栄です。と言っても、殆どは彼が書いたんですけど……」
「それでもよ。何でもあなた一人でやる必要なんて無い。卒業しない役員だけで送辞を仕上げた。それで十分よ」
「ありがとうございます。彼にも伝えておきます」
「彼なら私からの言葉なんて必要ないと思うけれど……そうね。伝えておいてちょうだい。
この後あなたはどうするの?」
「特に予定も無いですし、帰ってのんびり過ごすと思います」
「……本当にそれで良いの? 今日は卒業式なのよ?
あなたにはまだ来年があるけど、それでも次の機会は1年後になるのよ?」
「? 何の話ですか?」
「『伝説の樹』」
「っ!」
「あなた達の事を私がとやかく言う権利は無い。だからこれは単なる質問よ。
あなたの今日の予定は、本当にそれで大丈夫なの?」
先輩の言っている事は極めて単純だ。
『あなたは告白しないのか?』
彼も言っていた事だけど伝説にあやかる為には何も自分の卒業式である必要は無い。
その考えで行くと確かに今日はチャンスだ。
私は……明日になっても後悔せずにいられるのだろうか?
そんなものの答えは、とうに分かり切っている。
やらない事を後悔するよりもやった事を後悔する。そうやって二年間過ごしてきたのだから。
「……皐月先輩。ちょっと急用ができました。失礼します」
「ええ。私では叶わなかった事を成し遂げて来て」
「はい!」
教室に戻ると彼はまだ残っていた。
「ごめん、ちょっと来て!」
「何だ何だ突然。今日じゃないとダメなのか?」
「ダメ! 今日じゃないとダメ!」
「ふむ……どこに行く気だ?」
「それは……言えない。とにかく来て」
「そうか。分かった。他ならぬあんたの頼みだ。黙って付いていくとしよう」
この日に『伝説の樹』の下に呼ぶという行為自体が告白になってしまう。
だから直接伝えてはならない。そう言っていたのはキミだったよね。
そして、校庭の外れにある一本の古木の下へ。私たちは辿り着いた。
「まぁ、そんな予感はしていた。
一応訊いておくが、今日この日にこの木の下に呼び出すという事がどういう事か、ちゃんと理解しているんだろうな?」
「勿論だよ。知らなかったらわざわざこんな所まで引っ張ってきたりしないもの」
「そりゃそうだな。それじゃあ聞かせてもらおうか。あんたの『告白』を」
こんな時でも彼はいつも通りに飄々としていた。
だからこそ彼らしい。そう思って苦笑いしながらも私は私の想いを言葉に紡いだ。
「最初の頃はね、キミの事はただの変わった人だとしか思ってなかった。
いっつも部活ばっかりやってて、同じ部活の富美子ちゃんにもちょっぴり引かれるくらいに打ち込んでいた。
でもだからこそ、キミの頑張りはずっと見えてた。その努力してる姿はずっと見てた。
初めて一緒に遊んだのは夏休みの時の遊園地だったね。
あの時からキミはずっと周囲を見て気配りをしてくれていた。
文化祭では一緒に回ってくれたよね。小林くんを見返す為だって言ってたけど、それでも私は楽しかった。
一緒に展示を見て、そして生徒会室に間違えて入って。あの時の事が無かったらきっと今の私は無かった。
それから一緒に生徒会に当選して、一緒に仕事をして。
キミは何でもこなしちゃう凄い人だった。けどよくよく思い返してみればそれはキミが頑張ってきていたからだった。
思い返せばちゃんと思い出せる。いつからだろうね。キミの姿をずっと見ていたのは。
その姿はとっても綺麗で、私の憧れになってた。
キミに負けないように私も頑張ろうって励みになってた。
でも、それだけじゃなくって、いつからかは分からないけど、私は確かにキミに恋しててたんだ。
その気持ちに気付いてから、私は色んな人に応援されて、そして今日この場所に立ってる。
キミの事が好きです。
そう伝える為に。
これが、私の『告白』だよ」
言葉を紡ぎ終えて、そしてそれを聞き届けた彼は沈黙していた。
その時間が長かったのか短かったのか、私には分からない。緊張し過ぎて時間の感覚なんて消し飛んでいたから。
「そうか。要するにずっと……二年間見てきて気付いたら好きになっていたと」
「いや、あの、何で要約しちゃうかな? 私精一杯頑張ったのに」
「これがオレだ。諦めろ」
「はぁ、そうだったね。何でこんな人を好きになっちゃったかな」
「幻滅したか?」
「全然!」
「難儀なものだなホント。さて、告白の返事だが……」
「あっ、ちょっと待って! 心の準備が……いや、もう返事は良いよ。私が伝えたかっただけだから!」
「おいおい、言わせてくれよ。こっちはあんたがオレを教室から連れ出した時からどう返事しようかずっと考えてたんだぞ?」
「そうだったの!? うぅ、完全にバレバレだったんだね」
「正直な話、来るとしたら来年だと思ってたんで焦ったよ。
さて、結論としては『付き合ってください』的な告白の返事としてはOKなんだが……」
「OKなの!? いや、もうちょっと何かこうムードというか何と言うか……」
「これがオレだ。諦めろ」
「さっきも聞いたねそれ。分かってるよ」
私が好きなのは、どんな時でもブレない彼だ。
ちょっとくらい動揺して欲しかった気持ちが無いわけではないけど……あ、そうだ。
「ちょっと手貸して」
「引きちぎったりするという意味でなければ構わないが」
「怖いよ!? 普通にちょっと触るだけだよ!!」
彼から差し出された手を取り、手首の所に指を当てる。
……なんだ。本当に『顔に出ない』だけでちゃんと心は動いてくれてたんだね。
「満足か?」
「うん。あ、そうだ。この後どこかに行かない? 手を繋いで」
「予定も無いし構わないぞ。さぁ、どこへ行こうか」
繋いだ手の先から暖かさが伝わってくる。
彼の想いが、伝わってくる。
「ところでさ」
「どした?」
「こんな事言うのもどうかと思ったけど、私なんかで良かったの?
キミだったらもっと……凄い人と付き合えたんじゃないかって」
「何だそんな事か。そうだな……こんな言葉を知っているか?
『深淵を覗く時、深淵もまた覗いている』」
「一応知ってるけど……何で突然?」
「これは『悪い物を見る時は悪い影響を受けないように注意しましょう』的な格言なわけだが、もっと単純な話として『視線が通ってる相手には相手からも視線が通ってる』という事だ」
「そういう意味だったかな……?」
「そして、あんたはオレの事を見ていたんだろ? つまり、そういう事だ」
言われてみれば、とても単純な話だった。
その瞳の見つめる先に、いつもキミが居た。
その見つめる瞳の先に、ずっと君は居た。
以上で本編完結です。
本作のコンセプトとしては『パラメータ厨な主人公』と『その努力を陰から見ていたヒロイン』の物語となっています。
構想自体は数年前からあったのですが、今回ようやく文章に起こせました。脚色やら何やらも加わって当初想定した物語の流れとは結構ズレましたが、一応無事に終わって何よりです。
今後の予定としては『付き合い始めた2人がひたすら仲良くする3年生編』を書きたいです。いつになるかは分かりませんが。
それでは、また次回お会いしましょう!
・主人公
努力し続けるストイックさと努力すればするだけ成長する天賦の才を合わせもつ紅茶厨。
感情が表に出にくいタイプでありほぼ完璧な偽装が行えるが、直接接触する事である程度心の動きが読めるとかいう鏡花水月みたいな能力が気づいたら生えていた。
どんな相手でも基本的には平等な対応をするが、『彼女』に対しては割と暖かい対応をしていた……かもしれない。
・『彼女』
本作のヒロイン。と言うか主人公。
明確なモデルが存在しておりタグでもネタバレしているのだが、実は正式な名前は設定されていないキャラ。
理由としては解釈違いが起こってもいいようにというもの。と言うか筆者自身が書いててなんか別人っぽい仕上がりになった。
多分、主人公として動かした事と、『彼』がボケ倒していたせいでツッコミ役に回らざるをえなくなった事が原因な気がする。
おまけ 『彼女』のテスト成績 2年目3学期
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 美術 | 順位 |
| 86 | 82 | 80 | 83 | 78 | 53 |
順位は同学年の『200名』からの順位