生徒会室を出で行った響野さんを探して数十分後。ようやく彼女を見つける事ができた。
「居た居た。響野さん!」
屋上の給水塔の上に腰かけていた彼女に声を掛けると不思議そうな顔をしながらも降りてきてくれた。
「あなたは、誰? 私に用事?」
「えっ……あ~、えっと……」
どうやら私の存在は認識すらされていなかったらしい。まぁ、話していたのは主に彼だったから同じ部屋に居た生徒会役員なんてそんな気にも留めないか。
「あの、さっき生徒会室で会ったんだけど……」
「そうだったの? 気付かなかった。ごめんなさい」
「別にいいよ。個性の塊みたいな彼に比べたら影薄いのは自覚してるし。
ところで、一つ聞いてもいいかな?」
「何?」
「さっきの賛歌の話。受けない理由……じゃなくて、迷ってる理由でもあるの?
もし良かったら聞かせてくれないかな?」
「……まあ、いっか。と言ってもそんなに大した理由じゃない」
「それでも教えて?」
「正直な所、期待に応えられる自信が無い。
私、仕事があるから学校を休みがちだし、学校に対してそこまで思い入れがあるわけでもない。
そんな私が賛歌を作れるか、よく分からなかった」
なるほど、やりたいやりたくないとかではなく心配しているのは作品の質と。
彼が冗談めかして『プロだから失礼の無いように』みたいな事を言っていたけど、本当に彼女はプロなんだと改めて実感した。
しかし質かぁ……私みたいな素人が口出しした程度でどうにかなるものでも無いと思う。口出しできる程度の知識があるならそもそも響野さんに頼む必要が無い。
となると、そこは置いておいて別の所からアプローチしてみようか。
「響野さんは、この仕事を『やりたい』って思った?」
「それは……」
「もし少しでもそう思ってくれたのならやってみて欲しいな。
質なんてどうでもいい……っていうのは言い過ぎだし、むしろちゃんとしたのが出来ないとこっちも困るけど……とりあえず作ってみて、ダメだったらまた考える。それじゃダメなのかな?」
「とりあえず……作ってみる……」
「うん。ああでも、仕事としてやる以上はそれじゃダメなのかな? 働いた分だけお金とかもかかっちゃうし」
「……ううん。大丈夫。とりあえず、やってみる。
ただ、ごめんなさい。最近別の仕事が立て込んでるから賛歌に着手できるのはちょっと後になるかもしれない」
「全然大丈夫だよ! ありがとう!」
という感じで賛歌作りを引き受けてもらえた……というのが数か月前の話だ。
その後で私が生徒会長に就任したり、冬休みがあったり、皐月先輩の卒業式があったり、伝説の樹の下で……えっと、うん。
そして私たちが三年生になってしばらくして響野さんが賛歌を生徒会室に持ってきた、という訳だ。
この企画は皐月先輩が発案・主導したという事もあって提出日には皐月先輩もやってきた。中途半端に進めて卒業してしまったから結構心残りだったとか。
人数分コピーした楽譜を受け取り、皐月先輩と彼が容易しておいた楽器で軽く演奏する。
何と言うか、良い曲だと思う。こう……専門的な事は言えないけど凄く良い感じだ。
他の皆も聞き入っている。歌詞はまだ無いみたいだけど、曲としてはこれで十分過ぎるくらいだろう。
曲を最後まで演奏し終える。
二人は楽器を机に置いてから笑顔でこう告げた。
「却下ね」「却下だな」
あまりにもアッサリと、そしてあまりにも笑顔で告げたので聞き間違いかと思った。
しかし響野さんの呆然とした表情や他の役員たちの懐疑的な表情からも同じ言葉を受け取った事がハッキリと理解できた。
「どうして、ダメなんですか? この曲じゃダメなんですか!?」
という訳で冒頭に戻ってくる。
私にも分からない。普通に良い曲だったと思うけど、何故二人揃って却下するのか。
「響野、まず初めに言っておく。この曲に点数を付けるとしたら90点から100点の間くらいにはなるだろう。
良い曲である事自体は間違いない」
「え? だったらどうして?」
「私たちが求めているのは120点くらいの曲だという事よ。
彼が言ったようにこの曲は凄く良い曲よ。でも、これだと外部のプロに頼んだような、そんな雰囲気を感じるの」
「……それじゃ、ダメなんですか?」
「ダメではない。が、ベストでもない。正直、期待外れだな」
「ッ!!」
「お前がどうしてもこれが限界だというなら受け取ってやらん事も無いが……どうする?」
彼は楽譜のコピーをひらひらと突き付けながら嫌な笑顔を隠そうともせず問いかける。いつもポーカーフェイスな彼にしては珍しい。
それを受けた響野さんは顔を赤くしながら楽譜をもぎ取り、
「失礼します!」
とだけ告げて生徒会室から飛び出していった。
え~っと……どうするの、これ?
「あなた、三年生にもなって相変わらず強引な手段が好きなのね」
「いや~、フォローしてくれるであろう彼女が居るので」
「それはそれは……羨ましい限りね」
「という訳で、頼んだ!」
へ~、誰に頼むんだろう~。
そうやって現実逃避したかったけど無情にも彼の手は私の肩に置かれていた。
え? これに収拾付けるの、私の仕事なの?
「いや、あの、私にどうしろと!?」
「奴はプロだ。作品をバカにされたら絶対に奮起するに決まっている。だからオレはそうやって焚きつけた。
お前は奴と話して奴が正しい道に進めるように見守ってやってくれ。強すぎる怒りは目を眩ませるからな」
「も~、そこまで考えてるならあそこまで言う必要は無かったよね?」
「お前なら何とかしてくれるって、信じてるからな」
彼氏からの信頼が重いです。
はぁ……分かったよ。私なりに頑張ってみるよ。