響野さんの目撃情報を辿るとまたまた屋上に到着した。建物の日陰で壁を背もたれにして鬼気迫る表情でノートに何か殴り書きしている。
少し様子を見ていたらその手が止まる。するとページを破り取り、グシャグシャに丸めてその辺に放り投げた。
えっと……生徒会長としてポイ捨ては注意すべきなのだろうか? いや、今はそれどころじゃないんだけど。
「あの……」
「っ! 誰!?」
声をかけたら彼女らしくもない鋭い目つきで睨み返される。生徒会での彼の言動がよっぽど頭にきてたんだろう。
……これも計算づくなんだよね、彼。そんな事まで分かってるならもうちょっと手加減して欲しかった。
「あなたは……確か生徒会の……」
「う、うん。一応、生徒会長やらせてもらってます」
「生徒会長? 会長は皐月先輩じゃないの?」
「違うよ!? 先輩はもう卒業してるからね!? あなた三年生だよね!?」
「…………そう言えばそうだった。それで、生徒会長さんが何の用?」
忘れてたのが『自分が三年生である事』なのか『先輩が卒業している事』なのかは深くは突っ込まないでおくとしよう。
さて、どう持っていこうか? 手助けして欲しいって言われてるけど……
……ううん、難しく考える必要は無い。私ならできるって彼が言ったんだもの。私らしく動くだけだ。
「まず、その……ごめんなさい。うちの元生徒会長と助手が失礼な事を言ってしまって」
「……別に、気にしてない。
…………助手? 副会長とかじゃなくて?」
「あ、うん。彼、役職なんて要らないっていつも言ってるから」
「……どうして、あんなに偉そうだったの?」
「…………私にも分かんない」
「……そう」
あんなにも偉そうと言うか堂々としているからこそ逆に役職なんて箔は要らないという説もある。
まあそんな事は置いておこう。今は色々とアレな彼の事ではなく響野さんの事だ。
「それじゃあ改めて……うちの元生徒会長と助手が失礼な事を言ってしまってごめんなさい」
「別に気にしてなんかないからいい。
彼も皐月先輩も、無駄な嘘を吐くような人じゃないから。何かが足りなかった事は間違いないと思う」
「それは確かに。でも、凄く良い曲だったと思うのに。
専門的な事は言えないけど……うん、凄く良い曲だった」
「……そう。ありがとう。お世辞でも嬉しい」
「いや、お世辞なんかじゃなくて本音だよ。他の人たちも同じ事を思ってたと思うよ。
否定した二人も笑顔だったし、悪かったとは言ってないんだから曲自体は良かったんだよ」
「それは一応分かってる。私も自信作だったから。
でも、欠けているものがあったなら意味が無い。何がいけなかったんだろう」
最初の方に感じた響野さんの怒りの感情は大分落ち着いてきたみたいだ。
このまま原因を突き止めて解決! っていきたい所だけど……何が欠けていたのかは私にも分からない。
本人たちに訊くっていう手もあるけど、彼が私にも言わないって事はこの答えを悩む過程すらも必要だという事なんだろう。多分。
「何か無かった? 言いがかりのレベルでもいい。私の曲の欠点」
「言いがかりって言われても……うーん……
た、例えば、『欠点が無い事が欠点!』みたいな……」
「…………」
「ご、ごめん。変な事言った。忘れて」
「ううん、間違ってない。合ってもいないけど、決して間違いじゃないと思う」
「へ?」
「芸術っていうのは完璧すぎても感動できない、なんて話がある。
私が作った曲がそうだって言うつもりは無いけど、考え方の方向性としてはそういうのもアリだと思う」
ああ、そう言えば似たような事を聞いた覚えがある。
『完璧な演奏が聞きたいなら機械にでも任せておけば良い』だっけ? それと似たようなものかな。
「そういう風に考えると……多分、私の曲は無難過ぎたんだと思う。
学校の賛歌としては十分なものだった。それこそどんな所にでも『学校の賛歌』として提出できるくらいには。
けどそれじゃダメだった。この『きらめき高校の賛歌』として作られたものを期待されていた」
「えっと……この学校らしい曲じゃないとダメだったって事?」
「多分だけど、そういう事」
この学校らしい曲…………
頭の中でちょっと考えてみたけどイメージが全く湧いてこない。皐月先輩や彼の意図が本当にそれであるなら少々無茶ぶり過ぎやしないだろうか?
「と、とにかく、原因が分かったなら解決だね!
響野さん。改めて、曲作り宜しくね」
「…………無理」
「え?」
「原因は分かった。でも、この曲はきっと私には作れない」
「ど、どうして?」
「この曲は、この学校に思い入れのある人でないと作ることはできない。
今だからこそ分かる。この学校にただ在籍してるだけの私には、この曲は絶対に作れない」
「そんなっ! ど、どうにかならないの?」
「…………私一人の力じゃ、絶対に無理。
…………可能性があるとすれば……」
「何か方法があるの?」
「……分からない。けど、もしかしたらっていう方法は今思いついた。
本当に成功するかも分からない。それでもやってみる?」
「うん! 可能性があるのなら、やってみようよ!」
「……分かった。それじゃあ、協力して欲しい」
「うん! ……うん? 私に何かできる事があるの? 私にできる事だったら何でも言って!」
「それじゃあ、あなたには賛歌の作詞をして欲しい」
「…………え? 今、何て?」
「あなたに、賛歌の、作詞を、して欲しい」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
え? 私が作詞を? 何故!?
「きょ、響野さん? ど、どうして私に?」
「この学校に思い入れのある人が作詞して、それを基に作曲する。
あなたの気持ちを詞に籠めて、それを私が曲として表現する。
そうすれば、もしかしたら理想的な賛歌が作れる、かもしれない」
「そういうものかな……?」
「本当に上手く行くかは分からない。でも、可能性はある。
手伝ってくれるんだよね?」
「手伝う内容が完全に予想外なんだけど……うん、分かった。やろうって言ったのは私だもんね。
でも、私なんかにできるかな? 他の人の方が……」
「この学校の生徒会長さんなんでしょう? だったらきっとできる。むしろ、きっとあなたにしかできない」
響野さんは私の事を真っすぐに見つめてそう言ってきた。
そこまで言われたら、やるしか無いよね。
「任せて。とびっきりの歌詞を作ってくるから!」
「期待してる」
こうして、響野さんの、いや、私たちの賛歌作りは再びスタートしたのだった。
とりあえずやるべきは……
……事の顛末を生徒会の皆に報告する所からだね。それから作詞を頑張ろう。