久しぶりの投稿
……葉月のキャラが定まらぬ
葉月を皆で一通り弄った後の事。
「……で? 呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものを説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」
苛立たしげに吐き捨てる十六夜。
飛鳥も腕を組んで同意する。
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
(まったくです)
続いて述べた耀の台詞に、物陰に隠れて様子をうかがっていた黒ウサギはこっそりとツッコミを入れる。
もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着き過ぎている為にタイミングが計れないのだ。
「じゃあここら一体焼き払いましょう」
(!?)
葉月の物騒な発言に、黒ウサギはウサ耳を逆立てて驚愕する。
「ヤハハ! オイオイなんだよそれ、ちょっと面白そうじゃねぇか!」
「そうね。私もこの状況には不満を抱いていたところよ。鬱憤を解消するには丁度いいかもしれないわ」
「……確かに」
次々と葉月の提案に同意し始める問題児達を前にし、黒ウサギは盛大に慌て出す。
(ちょ、ちょっと何てことをおっしゃっていらっしゃるのですかこの問題児様方は!というか、それでは黒ウサギもピンチじゃないですか!)
冗談ではないと内心でツッコんだ黒ウサギは、意を決して姿を見せようとする。
しかし次に放たれた葉月の言葉に、その動きをピタリと止めた。
「まあ、そんな冗談は置いといて……そこにいる人に話を聞いてみるなんてどうでしょう?」
(バ、バレていたのですか!?)
ピーン!とウサ耳を逆立てて驚く黒ウサギ。
そんな彼女の動揺を尻目に、他の三人も葉月に続いて口を開く。
「なんだ、葉月さんも気づいていたの?」
「ええまあ。一応私は狼の血を濃く受け継いでいるので………十六夜さんも気付いていたんでしょう?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの猫を抱いてる奴も気づいてたみたいだしな」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「……へえ? 面白いなお前」
軽薄に笑うも、十六夜の瞳は笑っていない。
四人は理不尽な招集を受けた腹いせに、殺気を込めた冷ややかな視線を伸ばす。
その目線の行き着く先では、草むらからぴょっこりと青いウサ耳が飛び出していた。
ビクゥ!と身体を震わせた黒ウサギは、慌てて爽やかな笑顔を取り繕いつつ、ひょこっと草むらから姿を見せる。
「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに恐い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいのでございますヨ?」
そんな彼女に対する十六夜達の解答は以下の通りだった。
「断る」
「却下」
「お断りします」
「その肉かじっても良いですか?」
「あっは、取りつくシマもないですね♪………あと一番最後の方ダメに決まっているでしょう‼黒ウサギは食用ではありません‼」
バンザーイ、と降参のポーズをとりながらツッコミをいれる黒ウサギ。
しかしその眼は冷静に彼らを値踏みしていた。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、扱いにくいのは難点ですけども)
黒ウサギはおどけつつも、十六夜達にどう接するべきかを冷静に考えている──と、不意に耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、彼女の青いウサ耳を根っこから掴むと、
「えい」
「フギャッ!」
力いっぱい引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」
「……好奇心のなせる業」
「自由にもほどがあります!」
「へえ? このウサ耳って本物なのか?」
興味を引かれた十六夜が、右から掴んで同じように引っ張る。
「……じゃあ私も」
「…お腹空きました」
そこに若干そわそわとした飛鳥が加わる。
やはりお嬢様でも気になるものは気になるのだろう。
……若干1名ほど黒ウサギを見てヨダレをたらしているが。
「ちょ、ちょっと待──!」
結局、左右から力いっぱいウサ耳を引っ張られた黒ウサギは声にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊したのだった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「あ、有り得ない。有り得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
半ば本気の涙を目尻に浮かべながらも、黒ウサギはなんとか話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。
十六夜達は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、彼女の話を『聞くだけは聞こう』という程度には耳を傾けている。
黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて宣言した。
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ“箱庭の世界”へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」
耀は小首を傾げて問いかける。
「ギフトゲーム?」
「そうです! 既に気づいてらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者がオモシロオカシク生活できるために造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギに、今度は飛鳥が挙手して尋ねる。
「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う“我々”とはあなたを含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は、箱庭で生活するにあたって数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“
順を追ってこの世界の説明をしていく黒ウサギに、葉月が疑問を呈す。
「“
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として前者は自由参加が多いですが、“主催者”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解な者が多く命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“
「後者はずいぶん俗物ね……チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・名誉・権利・人間……そしてギフトを賭けることも可能です! 新たな才能を他者から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然──ご自身の才能も失われるのであしからず」
黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。
挑発とも取れるその発言に、同じく飛鳥は挑発的な声音で彼女に問う。
「なら、最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうすれば始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOKです! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているので、よかったら参加していってくださいな」
飛鳥はピクリと片眉を上げる。
「……つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
お? とウサ耳を反応させて驚く黒ウサギ。
「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩はことごとく処罰します―――が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手に入れることも可能だということですね」
「そう。中々野蛮ね」
「ごもっとも。しかし“主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり、奪われるのが嫌な腰ぬけは初めからゲームに参加しなければいいだけの話なのでございます」
黒ウサギはあらかたの説明を終えたのか、そこで一端会話を区切る。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に出しておくのは忍びないですし。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいです?」
「待てよ。まだ俺が質問していないだろ」
するとそれまで静聴していた十六夜が、威圧的な声と共に立ち上がる。
ずっと刻まれていた軽薄な笑みが無くなっていることに気づいた黒ウサギは、身構えるように聞き返した。
「……どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」
「そんなものは
十六夜は黒ウサギから視線を外し、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
そして、何もかも見下すような声音で一言、
「この世界は……
ただ一言、そう問うた。
葉月達も無言で返答を待つ。
彼らを呼んだ手紙には、確かにこう書かれていたのだ。
──『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて、箱庭に来い』と。
それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、四人にとって最も重要なことだった。
「──YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
彼女の答えに十六夜は再び軽薄な笑みを浮かべ胸を踊らせるのだった。
▽▲▽▲▽▲▽
“箱庭”の世界についての説明を一通り聞き終えた十六夜達は、黒ウサギの案内を元に外門と呼ばれる場所を目指していた。
しばらく歩みを進めていると、前方に目的地が見えてくる。
黒ウサギは大きく片手を上げると、その手を振りながら視界の先に佇む幼い少年へ呼びかける。
「ジン坊ちゃーん! 新しい方たちを連れてきましたよー!」
ジンと呼ばれた少年は、ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的な人物だった。
黒ウサギ達に気づいた彼は、居住まいを正しつつ柔和な表情で彼女達を迎える。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」
「はいな! こちらの御四人様が──」
クルリ、と満面の笑みで振り返る黒ウサギ………だがカチン、とそのまま凍り付く。
「……え、あれ? もう御二人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と、唯一耳を引っ張らないで、でも黒ウサギを見ながらヨダレを垂らしていた、どう見ても狼な御嬢様が」
言葉の中に葉月と十六夜に対する評価の差を見え隠れさせながら、黒ウサギは残っている飛鳥と耀に問いかける。
「あぁ、十六夜君と葉月さんのこと?彼らなら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”“お腹が空きました”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
そう言って飛鳥が指をさしたのは、上空4000mから見えた断崖絶壁。
街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて問い詰める。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「“止めてくれるなよ”って言われたから」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!」
「……“黒ウサギには言うなよ”って言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二方!」
「「うん」」
「……」
ガクリ、とウサ耳をへにょらせて前のめりに倒れる黒ウサギ。
新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい。
まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにもほどがある。
加えて、唯一まともかもしれないと思っていた葉月でさえも例外なく問題児であったことから、彼女のダメージもひとしおだった。
そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは顔を蒼白にして叫ぶ。
「た、大変です! “世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が!」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”の付近には強力なギフトを持った者も多くいます。出くわせば最後、人間ではとても太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。ということは、彼らはもうゲームオーバーってこと?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? 斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、当の二人は叱られても肩を竦めるだけである。
そんなやり取りを横目で見つつ、黒ウサギは大きくため息を吐いて立ち上がった。
「はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え?あ、うん。黒ウサギはどうする?」
「問題児様方を捕まえに参ります。ことのついでに──“箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたことを、骨の髄まで後悔させてやりますッ!!!」
悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある長い青髪を次第に淡い緋色へと染めていく。
やがて完全に髪色を変えた彼女は空中高く飛び上がると、外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がってその柱に水平に取り付き、
「一刻ほどで戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」
緋色の髪を戦慄かせ、足場に亀裂が入るほどの踏み込みを見せると同時に、弾丸のごとく飛び去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇うように押さえていた飛鳥は、呆れたように呟く。
「……箱庭の兎は随分と速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「兎達は箱庭の創設者の眷属ですから。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
ジンの心配を余所に、飛鳥は「そう……」と空返事をする。
「なら黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、お言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。御二人の御名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
ジンが礼儀正しく自己紹介すると、飛鳥と耀も彼に倣
ならって一礼する。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の門をくぐるのだった。