自由気ままな傍観者になりたくて! 作:時間が無い
トアに情報を渡して数日だったし、そろそろシャドウガーデンも動くかしら?
アレクシア王女も誘拐されたけど、シャドウガーデンがアレクシア王女を助けるために動くかは分からないのよね。
シャドウガーデンはディアボロスの復活阻止が目的らしいから、アレクシア王女の救出はすると思うのだけれど……
まあ、なるようになるわよね。
私がベンチに座り屋台で買ったアイスを食べていると、トアが近づいて来た。
「エル、少し聞きたいことがあります」
「何かしら?」
「エルはこうなることが分かっていたのですか?」
「何のことを言っているのか分からないのだけれど」
トアは私の隣に座ると、周りを警戒するように一瞥して小さな声で答えた。
「今夜、シャドウガーデンが王都に存在する教団アジトを襲撃します」
「そう」
それは良い情報ね。
今から今夜が楽しみだわ。
「こうなることが分かっていてシャドウガーデンに情報を渡すように言ったのですか?」
「ええ、彼女達がどこまで分かっているのか知らないけれど、彼女達の目的を考えると動かないわけないでしょう」
「嬉しそうですね」
「ええ、嬉しいわよ。今夜面白いものが見れるのだもの。嬉しくないわけないでしょう」
彼女達がどれだけ悪魔付きの力を扱えているのかも気になるし、教団がどれだけディアボロスの力を制御できるようになっているかも気になるわ。
教団の研究と悪魔付きの力を制御したシャドウガーデンどちらが強いのかしらね。
それに悪魔付きの限界も知りたいわね。
「トアは今夜どうするの?」
「エルの監視です」
「……どうして?」
私の監視なんてする必要ないと思うのだけれど……
それに監視されるような心当たりもないし……
「エルを放置すると、シャドウガーデンと全面戦争なんてことになりそうで怖いので」
「私のことなんだと思ってるの?」
「簡潔に言うなら魔力の化け物ですかね。少なくともまともな生物ではないと思っています」
「どうして、ここまで酷い扱いをされるようになったのかなぁ……」
「普段の行いが招いた結果ですね」
そんな変な行動してるかな?
魔力の研究と異世界観光くらいしかしてないけど。
強くするためにボコボコにしたの怒ってるのかな。
「自覚がないから化け物扱いされるんですよ」
「私そんな変な行動してるかな?」
「はあ」
ため息をつかれた。
分からない。
確かに人類の中では最上位クラスで強いけれど、それだけのはずだ。
十五年魔力を研究すれば、私と同レベルに強くなれると思うのだけれど……
私も元は一般人と変わらないくらいの魔力量だったし、頑張れば誰でも強くなれる世界よね。
弱い人間は努力をしないのが悪いわ。
「まあ、私の監視をするって言うなら、トアも夜まで観光を楽しみましょう」
「……分かりました」
「それじゃあ、早速行きましょうか」
トアを連れて観光して夜まで時間を潰した。
長い付き合いだけれど、一緒に観光したこと少なかったなぁ。
トアと私が見晴らしのいい場所に移動している途中、すでにシャドウガーデンが動き出していた。
「すでにシャドウガーデンが動き出しているわね」
「エルがいつまでも観光しているからですよ」
「少し遅れたくらい良いでしょう」
私の言葉にトアが呆れたような視線を向けて来る。
もう慣れた視線は無視してシャドウガーデンの強い子を探す。
強そうな子は思っていた以上にいるわね。
強い子を探していると、建物が斬られた。
「あの建物斬った子は強そうね」
「おそらくデルタでしょう。七陰の一人で、実力はトップクラスです」
「実力は?」
「頭が良くないんですよ。技術でなく本能で戦うタイプです」
「なるほど、下手に関わると襲われそうね」
「エルなら襲われても大丈夫でしょうが、シャドウガーデンと敵対する可能性もあるので今は関わらない方が良いですね」
トアの話が正しければ、七陰とは言え、彼女に挨拶しても意味がなさそうね。
特に今は獣みたいに暴れているから挨拶どころではない。
他に挨拶できそうな七陰を探しましょう。
シャドウガーデンの子は百人くらいいるから、七陰のリーダーが来ていると思うのだけれど……
魔力の扱いの上手さを考えると、三人くらい候補がいるわね。
「七陰は全員女性なのよね」
「七陰だけでなく、リーダーのシャドウ以外は全員女の子ですよ」
やっぱり、なら彼がシャドウなのね。
確かに、彼が一番魔力の扱い上手みたいだし、間違いなさそうね。
あら?教団側、追い詰められて焦ったのかしら?
あんな出来損ないの化け物でどうするつもりなのかしらね。
「エル?」
急に建物の上で立ち止まった私にトアが不思議そうに問いかけて来る。
「トア、ここで待ちましょう」
「?どうして、こんなところで?」
「教団の研究結果を見ることが出来るからよ」
「え?」
トアの驚きの声と同時に建物の壁を破って大通りに化け物が姿を現した。
醜い巨体の化け物。
ディアボロスの片鱗ね、出来損ないの哀れな化け物の間違いでしょう。
「可哀想に」
「そう思うなら、助けてあげれば良いのでは?」
「最初に会った時に言ったでしょう。私は傍観者なの」
「それが助けない理由になるのですか?」
「ならないでしょうね」
「ならどうして?」
下の大通りで化け物に殺される兵士達を見ながらトアへの説明を考える。
私にとっては当たり前なことを説明するのは意外と難しいものね。
「トア、可哀想なんて助ける理由にはならないのよ」
「!?」
「弱肉強食が自然の摂理。平和を願う道化も摂理から逃れられないわ」
「平和を願うことがいけないのですか?」
「はあ、何も分かってないのね。トア、家畜は可哀想だと思う?人に食べられるために、育てられる彼らは可哀想じゃないの?彼らだって必死に生きている命に変わりはないのよ」
「それは……」
「家畜の話は意地悪だったわ。けど、結局同じなのよ」
「どういうことですか?」
「愛と平和が叶った理想の幸せな世界の結末は、食糧難による大勢の餓死よ」
「!?」
トアは目を見開いて私を見つめる。
どうして理想の幸せな世界で、そんな結末になるのか分かってないのでしょうね。
「人を殺す天敵がいなければ、人は増え続けるわ。増えた人が住む場所を確保するために森林を伐採し、土地を開拓する。食料を確保するために動物を殺し、広大な畑を耕す。最初は上手く行っても、徐々に狂い始める。開拓する場所はなくなり、動物も減り、畑も増やせなくなる。可哀想だから助ける。そんなことを続けても食糧難は解決しない。技術力を上げて食べれるものを、開拓できる土地を増やしても、いずれ同じ問題に突き当たる。そしていつか技術力を上げることが間に合わなくなり、大勢が餓死する。平等で平和な世界の結末なんてそんなものよ」
「……」
「だから、可哀想は助ける理由にはならないのよ。もし、誰かを助ける理由があるとすれば、一緒に生きたいと思った時か、ただの気まぐれよ。あっ」
化け物が暴れた騒ぎを聞きつけてアイリス王女が来たわね。
先ほどまでの何も出来なかった騎士とは違い、化け物を一太刀で両断する。
「流石ね」
「流石?」
「武神祭の優勝者なだけあって強いわね」
「……エルが言うと嫌味にしか聞こえませんね」
「確かに私の方が強いけど、私よりアイリス王女の方が剣の腕は上よ」
「そうですね。もっと、理不尽な力でねじ伏せますものね」
「そこまで理不尽ではないと思うけどねぇ」
トアと話している間もアイリス王女は化け物を斬り刻んでいる。
それでも化け物の再生を超えることは出来ず、未だに決着がついていない。
彼女が王国最強だというのだから、あんな出来損ないの化け物でも十分に脅威になりえるのでしょうね。
ん?彼女はシャドウガーデンの……誰か分からないけど、おそらく七陰の一人。
「トア、彼女は?」
「アルファです。シャドウガーデンの実質的なリーダーです」
アイリス王女を軽くあしらう程度には強いのね。
それに化け物を苦しめないために一太刀で倒した。
煙の中に姿を消し、騎士団の前から消えたアルファが裏路地に入ったのを確認して彼女の背後に一瞬で移動する。
トアを置き去りにし、魔力制御によって気配を消して背後に移動したから彼女はまだ気づいていないみたいね。
「初めまして、アルファ」
「!?」
いきなり背後から声を掛けられて驚いているみたいね。
彼女の反応が面白くて緩んだ口元を打掛の袖で隠す。
「貴女、何者?」
「何者だと思う?」
「答える気はないわけね」
かなり警戒しているようで、スライムの剣をアルファが手に取り、私の動きを伺っている。
私の動き何て見ても意味ないのに、からかって欲しいのかしら?
打掛の一部をスライムの刃に一瞬だけ変え、彼女のつけている仮面を真っ二つにする。
トアも反応出来ない私の最速の一太刀は、アルファにも反応出来なかったみたいね。
斬られて仮面が落ちるのを信じられないと言いたげな顔で見つめている。
そんな彼女との距離を一瞬で詰め、彼女の体を触る。
スタイルが良いのも分かってたけど、触り心地も良いわね。
「!?ふざけるな!」
私の手を払い、一歩下がったアルファは剣に魔力を込めて斬りかかって来るが、剣を振られる前にスライムの刃でアルファの剣を粉々にする。
「なっ!?」
「魔力の使い方もなかなか上手いわね」
「私のこと馬鹿にしているの?」
「素直に褒めているのだけれど」
アルファは少し距離を取って私を睨んだまま考え始めた。
逃げようにも逃げられない、どうするのが最適か考えているのかしら?
「エル、悪ふざけも大概にしてください」
「あら、もう来たのね」
「トア!?」
アルファはトアが急に現れたことに驚いているみたいね。
トアも私の行動に呆れているし、アルファへの説明はしてくれるでしょう。
「トア、彼女を知っているの?」
「ええ、彼女はエル。私が仕えている主です」
「トアの主のエルです。いつもトアがお世話になっているわね」
「……え?」
かなり驚いているわね。
トアは私のことを何も説明してなかったのかしら?
「前に仕えている人がいることは聞いてたけど……」
「アルファ、言いたいことはたくさんあるだろうけど、気にするだけ無駄よ」
「そう……苦労しているのね」
「ええ……」
トアがアルファの同情を肯定するが、そこまで苦労を掛けた覚えはないのだけれど……
まあ、今はそれよりも楽しいことがあるし、そちらの見学をしましょう。
「アルファ、話は後にして移動しましょう。貴方達シャドウガーデンの実力をもっと見たいわ」
「シャドウガーデンの実力を見てどうするの?」
「あら?さっき、貴方が言っていたじゃない。観客らしく舞台を眺めるのよ。少し邪魔しちゃったけど、これ以上邪魔するつもりはないわ」
「……」
「エルは本気で観客として見るつもりです」
アルファは私の言葉が信じられなかったようで、トアに視線を送り確認する。
しかし、トアが本気で言っていると返すと、『噓でしょ』と言いたげな顔を私に向けて来た。
「私のことは良いとして、アルファはこれからどうするの?」
「私の仕事は終わったから、他の子達が問題ないか様子見よ」
「そう、アルファの戦うところを見て見たかったけど、そもそも相手になる敵が王都にいないんじゃどうしようもないわね」
私の言葉にアルファは目を細めて私を見ながら問いかけて来る。
「まさか、王都にいる教団の戦力を把握しているの?」
「ええ、教団だけでなく、貴方達シャドウガーデンの戦力も把握しているわ」
「!?」
「今、貴方達のリーダーが、教団のラウンズ候補が戦っているわね」
「貴女、一体どこまで把握しているの?」
「アルファ、エルの知覚能力は特殊なのよ。遮蔽物関係なく対象を見て、音を聞くことが出来るらしいわ」
「それが本当なら、情報収集は簡単に出来そうね」
魔力を使って新しい感覚器官を作るのって、そんなに可笑しいのかしら?
より優れた知覚能力を得ようとするのは普通のことだと思うのだけれど……
「あら?あのラウンズ候補、覚醒者3rdになったみたいね」
さっきまでシャドウが圧倒してたけど、少しはシャドウの実力を測る物差しになってくれるかしら?
「覚醒者3rd、シャドウは大丈夫なの?」
「ええ、彼なら問題ないでしょう」
「そうね。あまり期待してなかったけど、覚醒者3rd程度じゃあシャドウの実力を測る物差しにはなりそうにないわね」
「覚醒者3rdを程度呼ばわりするのは、エルだけだと思いますよ」
「そんなことはないでしょう」
ん?凄いわね。
凄く緻密に練られた魔力。
私以外であそこまで緻密に魔力を練られる人初めて見たわ。
トアでもあそこまで緻密には練られないのに、彼一体何歳から魔力の訓練をしているのかしら?
それにしても彼、周りへの被害考えているのかしら?
彼が繰り出した奥義は、大地を、建物を吹き飛ばし、巨大な青紫の光の柱を作り出し、王都を青紫に染める。
「彼凄いわね」
「ええ、これほどの魔力を持っているとは思っていませんでした」
「トアもあれくらい魔力を扱えるようになって欲しいのだけどね」
「はあ、エルにはあれが規格外だということを理解して欲しいですね」
あれで規格外なら私はどうなるのだろう。
シャドウは私が見てきた中で一番強いのは確実だけど、魔力だけなら私が上でしょうね。
戦闘技術は私より遥かに上なのも間違いないわね。
まあ、今日は彼らの実力が見れただけでも良しとしますか。
「それでは、アルファ。私達はもう帰るわ。行くわよ、トア」
騎士団に見つからないように気配を消してアルファの前から立ち去る。
先ほどと違い全力ではないから、トアも付いて来てるわね。
さて、近いうちにシャドウにも挨拶して置きたいわね。
魔力についてもじっくりと話したいし。