暁光聖杯戦争   作:B・R

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第五話 思った以上に良い目をするね

 

 

『────戦いにエゴを持ち込んでください』

『エゴ? 信念ってこと?』

 

「ええ、そうです」とセイバーは頷いた。

その言葉について、その真意について考えを巡らせてみるが思い当たる適解は一つのみであった。

 

エゴ。エゴイズム。我。一言に主張とか譲れないモノとか、わがままと言っても良いのかもしれない。広義には他にもいろいろあるだろうけれど、まあ彼女が言いたいのは肯定したように信念だとかそういう物だろう。

時々聞く話だ。何かを成し遂げるためには強い意志が必要だとか、そういうの。アタシも根性論は嫌いじゃない。

 

『何でも構わない。戦いの中で貴女が貫きたいモノ、全てが変わってもこれだけは押し通したいと願う意志だ』

『なによ、随分と大袈裟じゃない』

『騎士と言うよりは戦士の戦い方だが、マスターには合っているだろう。騎士とは仕える者であり、戦士とは王たる者だ』

 

セイバーの言いたいことはなんとなく理解できる。

確かにアタシには騎士のようにお姫様を護ったり、国の為に命を張ったり、教義に人生を捧げるなんていうのは向いてない。むしろ、一から十まで自分のやりたいようにやる方がよっぽどアタシらしい。

だからと言って自分が王サマの器だとは思わないが。

 

『貴女に教えた魔術は結局のところ馴染むかどうかだけが肝心であり、そして少なくとも使えるだけの能力は備わっているようです。ですが、それだけで相手を倒せるほど戦いというものは容易くありません』

『ふーん、それで?』

『この時代ならば、なんと言うべきでしょうか。理不尽に勝てるだけの幸運を持ち続ける、もしくは呼び出せる力。その場その場で自分だけに望ましい未来を掴み取る素質。理不尽になれる勇気、英雄に成り上がる将来性』

『……もしかして、ご都合主義の事を言っているのかしら?』

 

物が物ゆえにあまり良い気分にはなれず、しかし自分の記憶にある中で一番相応しいであろう言葉を出せば、セイバーはそれだと頷いた。

そこまで漫画や小説などに明るいわけではないが、ご都合主義と呼ばれる展開の仕方が存在することくらいは知っている。そしてそれが多数に忌み嫌われていることも。

アタシもまた、あんまり好きではない。好きになれるはずがない。

 

けれど、セイバーはそんな風潮などお構い無しに説明を続ける。

 

『そのご都合主義を自由自在に扱うのが英雄だ。そして、その為にはご都合主義的な展開を作り出せるに足るわがまま、エゴ、抑止に突き付ける主張が大切というわけだ』

 

酷く抽象的なようでいて、どちらかと言えば理路整然と本質的な事を話しているのだろうが、アタシにはちんぷんかんぷんだ。全く実感が湧かないし、結局はご都合主義の話をしているのだとすれば快くはなれない。これが現代を生きるアタシと、過去を生きた人間の価値観の差というものなのかもしれない。

そんなアタシの内心を察したのか、セイバーは説明を切り上げて要するにとまとめた。

 

『そのエゴが貴女を支え、そのエゴが貴女の敵を討ち滅ぼし、そのエゴがいつか貴女にあるべき終わりを与える。これまでのように戦いを知らない無垢で居たいというのであれば必要の無い物ですが』

『愚問ね。アタシはもう戻らないわよ』

『まあ、そうだろうな。マスターはそういう人間のはずだ。だから、その強い我だけでも持ち続けていてくれればそれで構わない』

 

そこまで言い切ってから、セイバーは神妙な面持ちでこちらを見詰めると声のトーンを少し落として再び口を開く。

 

『……私が縁によって召喚されたということは、恐らくマスターにはその資質がある』

『資質? 何のよ。もしかしてご都合主義のこと? ぶっ飛ばすわよ』

『それは貴女がその内理解するものです。私の口から答えを言う訳にはいきません』

『ほんと、秘密の多い騎士サマね』

 

ふんと鼻を鳴らして抗議の意志を訴えてみるが、セイバーは一切取り合うつもりは無いと口を紡ぐ。

しかしまあ、もう慣れた。彼女が秘密主義なのは召喚三日目にして既に呆れるほど理解している。

アタシはそれを承知の上で、セイバーとこの聖杯戦争を戦い抜くと決めたのだから。

 

『マスター、先に謝っておく。これから何が起きようと、全ては私の責任だ』

『どうしたのよ。変なセイバーね』

『必ずしも悪い方向に事が運ぶとは限りませんが、貴女には大きな運命を背負わせてしまったことに変わりはありません』

『ああ、コレのこと?』

 

アタシが自分の胸元に手を置いて聞き返せば、セイバーは申し訳なさそうに眉を顰める。

それはアタシがこの戦いに巻き込まれた証明であり、アタシが今生きている証拠でもあり。確かにアタシは一般的に大切な物を失っている。

だが、これに関してセイバーが罪悪感や失意を抱く理由は無い。

 

()()の一つや二つ如き、どうでもいいわ。結果として生きているなら、それでね』

『……マスターは無茶苦茶だな』

『無茶苦茶で結構。さっさと行くわよ』

 

苦笑するセイバーを置いてアタシは早足に目的地へと、アタシ達の初戦の舞台へと向かった。

 

 

 

 

「そう遠くはない、はず……!」

 

駆ける。駆ける。駆ける。

鋼と鋼の打ち合う剣戟の音、それなりの質量がぶつかり合って爆ぜる音、建設中の建物がガラガラと豪快に崩れる音。

それらを背後に、アタシは駆ける。そうして辿り着いたのは比較的ビルディングが完成間近な区画。

 

夜のセイバーのマスターはこの区画にいる。周囲に立ち並ぶシートに覆われた建築物群を見渡して、目に付いた建物を片っ端から当たっていく。

特別な能力も無ければ、魔術について学も浅いアタシには索敵能力が無い。正確にソイツが何処にいるかは分からない。

 

だが、必ずいる。それだけは()()()

 

「出てきなさいよ、セイバーのマスター」

 

ちょうど十軒目の建物。ブルーシートに風がふきつける八階。

ここだ。ここに居る。確証は無いがここにいると思った。

 

だから、なんとなくアタシの投げ掛けた誘い。

まあ正直な話をするなら、流石に直感を信じていると言ってもそこまで精度が高いとは自分自身思い上がっていなかったし、当然出てくるどころか答えが返ってくるとも思っていなかったのだが。だって場所が知られていないというこれ以上無いイニシアチブを自ら放棄するヤツがどこにいるのかという話だ。

しかし、どうやらソイツは変な奴だったらしい。

 

コツコツと靴音を鳴らして、その男は柱の裏から姿を現した。

 

「初めまして、お嬢さん」

「へえ。てっきり大抵の魔術師は高みの見物決め込んで自分じゃ戦わないヤツばかりかと思ってたけど、アンタみたいなのもいるのね。正々堂々の騎士道精神?」

 

アタシがそう言って睨めつけると、その男は無精髭の生えた顎を擦りながらカラカラと笑った。

オールバックにした薄茶色の短髪、細く垂れ気味の碧眼。西洋人風の顔立ちや紺色のスーツ姿に悪い意味でよく似合う軽薄そうな雰囲気も相まって、どことなく歓楽街のホストを連想させた。

しかし、それが本性を隠すためのカモフラージュという可能性はある。その振る舞いがなんらかの魔術的記号の可能性だって捨て切れない。セイバー曰く、魔術師相手にはいくらでも疑ってかからなければ命は無いと言うし。

 

「はは、そういうわけじゃないさ。僕は魔術師だぜ? 騎士なんて全くガラじゃない。単純に面白そうだからけしかけてみただけだよ。君の前にこうして出てきたのもそれだけ」

「ふうん。魔術師は面白そうなんていう理由じゃ動かない、効率的で遊びのない生き物だと思っていたのだけれど」

「いやいや、魔術師だって千差万別さ。君みたいに決め付けるのが得意な子もいれば、僕みたいに好きなことを好きなようにやりたいヤツだっている」

「あっそ」

 

面倒臭そうなヤツ。

早々に目の前の男の人間的評価を低めに見積もったアタシは、いつ仕掛けられても良いように身構えながらも再び男の佇まいを分析する。

 

武器の類いは持っていないように見える。何の構えも取らない自然体の様からはなんらかの武術を嗜んでいるようには思えないが、無策で相手の目の前に出てくるような魔術師ではないだろう。少なくとも、未知の敵相手に逃走を成功させる以上の身のこなしは身に付けていると見るべきか。

いくつもの仕掛けを用意した魔術偏重の戦闘スタイルか、もしくは魔術で身体能力を強化して肉弾戦を仕掛けてくるタイプか。どちらにせよ、アタシよりかは練度も高そうだ。

 

しかし、アタシだって勝ちの目の一つも見出さずにのこのこやってきたわけではない。

 

「アンタ、名前は?」

「うーん。僕たちの界隈じゃ、名前を教えると呪われるからなあ」

「初対面の相手に呪ったりなんてしないわよ。性に合わないわ」

 

名前というのは神秘の世界においてはかなり重要な物だとセイバーからは聞いている。こうして渋られるのも承知の上だ。

しかし、ずっとこの男だとかコイツだとかでは不便だろう。この一夜でどちらかが消える可能性もあるわけだが。

正面から見詰め続ければ男はくつくつと喉を鳴らして笑い、やれやれと頭を振ってから応えた。

 

「くく、君はやっぱり面白そうだ。僕の名前はユリウス。ユリウス・フォン・コルネリウス、魔術師兼便利屋をやってるよ」

「アタシは瀬能機空祢。ただの学生よ。よろしく、とは言わないわ」

「それが良いね。なんなら名前を覚える必要も無いさ」

 

それでも、アタシは戦う相手の名前くらいは知っておきたい。

できることなら相手のことを知り、アタシなりの答えを突き付けて乗り越える。

そしてアタシは忘れない。ソイツもまた、アタシの道を作るモノだから。

 

 

 

それがアタシが戦いに持ち込むエゴだ。

 

 

 

「うん。思った以上に良い目をするね」

「それはどうも」

 

ユリウスと名乗ったその男は、何が面白いのか笑みを零してそう言った。

彼がどういう人間なのか。正直全く分からないけれども、その分からない、予測も付かないという事実が彼の人間性を現しているのかも知れない。

……さて、お喋りも思索もこれくらいにして。

 

早速目の前のこの男を蹴散らしてしまおうかと構えたその時。

今日何度目とも知れないその感覚がアタシの背筋を迸り、気が付けばアタシは手を目の前に翳してその言葉を紡いでいた。

 

「【護りよ(シチート)】ッ!」

「【ラグズ】」

 

目の前に現れた魔力の障壁が、ユリウスの指先から放たれた穿つような鋭い水流を受け止めてすぐさま砕け散る。

だが、アタシが攻撃を回避してから次のアクションを練るだけの、そのほんの一瞬の時間は稼げた。それだけで構わない。

 

あらかじめ魔術で強化した脚での跳躍回避。そのまま空中から、男に向けて手のひらを翳して魔術回路を励起する。

自分に出来る最速にして最高威力を最効率で弾き出し、()()の魔術を紡いだ。

 

「【消し飛べ(アゴーニ)】!」

「っ」

 

放たれた魔力は空気を巻き込み、かなりの威力を伴って男に迫る。そして着弾。

砕け散ったコンクリートが爆風で煙を立てる。普通の人間が食らえば死にかねない威力だ。けれども相手は魔術師、一切の油断はできない。

 

「人が死ぬ威力の空気砲なんて撃っちゃいけないってお母さんに習わなかったかい?」

「……アンタこそ、ずいぶんと物騒な水鉄砲じゃない」

 

しかし、男はまるで効いていないとでも言うかのように余裕そうな顔で姿を現した。

 

「魔術の腕はそこまでないように見えたけど、魔力量と魔術回路の質は悪くなさそうだし、戦闘論理の組み立て方はもう既に一人前みたいだね」

「反省も謝意も無し、と。じゃあ、心置きなくぶん殴らせてもらおうかしら」

 

アタシを試したかのような物言い。気に入らない。

悪いけど、アタシを試せるのはアタシだけだ。それを思い知らせてやる。

獰猛な笑みを浮かべて、アタシは目の前の敵へ食らいつくべく飛び込んだ。

 

「いいね、いいね。そういうの僕は大歓迎だよ」

「【黙りな、さい(ウダリーチ)】ッ!!」

「おっと」

 

殴打の意味を乗せた言葉がアタシの握り締めた拳に宿り、ユリウスの顔面目掛けて襲い掛かる。

 

アタシがセイバーから教わった魔術は、言葉から魔力などを含めた自然の力、超常的な現象を呼び起こすというモノらしい。体系化されてはいるがこの魔術に具体的な種別は存在せず、知識ある者から学んだ修練者が感覚さえ掴むことができれば扱い自体は可能な物だとか。一般的な魔術師が考える根源を目指すための研究手段としての魔術ではなく、より生活や生業に密接に関わる目的を達成するための技術としての魔術。それが言葉という形態を取ったモノ。

要するに目的の為に言祝ぐ、もしくは目的の為に呪う言葉の魔術というわけだ。

 

そして目の前の男が使う魔術は、アタシのソレと似て非なるモノ、言わば文字によって現象を引き起こす魔術だろう。セイバーから聞き及んでいる魔術知識の中に、一つだけぴったり当てはまる魔術の名があった。

()()()()()。ルーンの字を刻み、対応した現象を引き起こすモノ。アタシの言祝ぐ魔術とソレ、どちらも即効性の高さと単純さが一見ウリだが、アタシよりもコイツの方が明らかに練度が高い。

 

「面白い魔術を使うね。スラヴ系の言葉の魔術か、時計塔にも使い手はあまりいないレア物だ」

「あっそう! 【射抜け(ストリェラー)】!」

「【ライゾー】」

 

そしてコレだ。

男の脚先がブレる。甲高い音を立てて、アタシの掌から放たれた矢の魔術が打ち砕かれる。魔力の破片が飛散してユリウスの背後の光景をズタズタにする。

 

言葉にすればなんということはない。

()()()()()のだ。

 

恐らく予め脚に刻んでおいたルーン文字を起動させて蹴りを加速、威力を得た一撃で相殺してみせたのだろう。

アタシはその事実を認めて、冷や汗が流れるのを自覚した。

 

「ツイてないわね」

 

本当にツイてない。いきなり近接もできる魔術師が相手とは。

 

アタシは当然ながら体育の授業で習った以上の身のこなしは身に付けていない。

本当なら柔道や新体操、ダンスなんかも習ったからにはやれるところまでやりたかったのだが流石にそれは自重した。そうせざるを得なかった。

勉強と違い、体の動かし方というのは筋力や身体の靱やかさなどある程度の下地が無ければ完全に身に付くものではないからだ。

残念ながら、アタシは天才じゃない。どこにでもいる一人の秀才だ。

だからこそ自分の限界は知っていなくてはならないし、その上で最大値を求め続けなくてはいけない。

 

それだけがアタシに許されたやり方だから。

 

しかしそんなアタシの考え方とは裏腹に、男は少しだけ真面目な面持ちでアタシにとって想定外の所感を口にした。

 

「なるほどね。君は魔術師としてはまだ二、三年かそこらだろう? でも戦闘論理の構築と体の軽さはそれなりみたいだし、仮に僕が体術、接近戦に明るくなければ捕らえられる可能性もあっただろうね。ぶっちゃけそれが狙いだろ?」

「……そう見えるかしら?」

「ああ。個体基礎科(ソロネア)呪詛科(ジグマリエ)……後はそうだな、考古学科(アステア)辺りか。時計塔で教室に入ればいい線行くんじゃないか? 僕も詳しくは知らないけど」

 

意外だった。

もちろん額面通りに受け取ることはないが、それでもアタシの魔術は鍛え始めて数年の腕前には見えるらしい。

てっきりアタシとしては、良くて一ヶ月程度だと思っていたのだが。セイバーも素質はあるとは言ってくれたものの、上達速度については明確に言及してきたことはなかった。

 

彼に本当のことは言わないけれども、一切忖度される要素の無い相手からの評価、それも微かでも才能があるということを知れて少しだけ気分が良い。

アイツを追い越して前を走り続けられる、その目があるかもしれない。

だとすれば……。

 

「アンタなんかに躓いている暇は無い、ってわけね」

「へえ。なんだか分からないけど、さらにやる気になったってことかい? それは良かった」

 

そんなところよ。

返答の代わりに、殴打の言の葉を乗せて殴り掛かる。

ユリウスは楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

周囲を瓦礫に囲まれた中で、二つの人影が高速でぶつかり合う。

 

「はぁあ!」

「ぐっ!」

 

人外の膂力で以て振り下ろされる黄金の剣。それを自身の得物で受け止めながらも、明のセイバーは苦々しい顔を見せる。

 

ステータスの差。存在としての根本的な能力値の優劣。恐らくは神話の時代、神代を生きた英雄か怪物だろう。

当たりを付けたセイバーは現状を打破せんと、剣を傾けることで威力を逸らす。そのまま返す太刀をカウンターの一撃としようとするが、既にそこには夜のセイバーの姿は無く、斬撃は空を切り裂くだけに終わった。

 

だが、斬撃は彼女が言祝いだ瞬間に魔力の刃となる。

 

「【刃よ(リェーズビィエ)】!」

「この程度の小細工、意味はありません」

 

さりとて、明のセイバーが英雄だとすれば夜のセイバーもまた人外魔境と名高き神代を生きてきたモノ。

まるでそんなものは子供騙しだとでも言うかのように、夜のセイバーは左手を振り払うことで魔力の斬撃を黄金の篭手で打ち消してしまう。

 

「巧いですが、巧いだけでは私の敵ではありませんよ」

「……そのようですね」

 

心苦しさはあった。

マスターである機空祢には告げていないが、自身はかなり特殊なサーヴァントであり、英雄としての格はそれほど高くない。特に今目の前にいる夜のセイバーといった純粋な格上は性質上得意ではあれども、相性は良くない。

やはり付属品、私という魔術師では力不足か。ならば純粋な英雄として戦うべき? いや、それでも目の前のサーヴァントには及ばないだろう。

逡巡する間にも再び突っ込んでくる夜のセイバーになんとか対応する。

 

暗雲が立ち込めて、光はどこにも差していない。

それは生前自分が潜り抜けてきたいくつもの死地を思わせて。

 

「はは、悪くない。悪くないな、この感じ」

「何か愉快なことでも?」

「ええ、とても。正に英雄の冒険、幾度も越えてきた物語と再び相見えているのですから」

 

その言葉に、否、その目に夜のセイバーは露骨な不快感を宿して言葉を返す。

ソレが自分や娘達、母様を見るヤツらの目にそっくりだったから。

 

「その目は嫌い、です」

「申し訳ありません。ですが、これが私という存在なれば」

「でしたら、ここで切り刻みます」

 

カチャリと鳴らし、再び黄金剣を構えた夜のセイバー。対して明のセイバーは驚くべき行動に出る。

 

「ここはこれでやろうか」

「……血迷いましたか。()()()()()など」

「いや、至って真面目さ。殴り合いが有効な手合いだっているだろう?」

 

なんと銀剣を地面に放り、拳を握りしめて構えたではないか。

 

セイバー、剣士のサーヴァントというからには基本的にその武器は剣である。そして大抵の場合はその剣が宝具、つまるところその英雄そのものを現しているものだ。

だと言うのに容易く己の武器を放棄する辺り、明のセイバーというのはブラフであり、実際はライダーかもしくはバーサーカーのサーヴァントであったりするのではなかろうか。

 

()()()()()()()()()()()()()

「すぐに切り伏せます」

 

何か策があるのだろうが関係無い。何かをされる前に切り捨てるだけだ。

三度突貫してくる夜のセイバーに、武器も持たずに身構えるだけの明のセイバー。筋力、耐久、敏捷の各ステータスで劣り、その上武器も無い。これ以上無いほど不利であるというのに、明のセイバーはニヤリと獣の如く獰猛な笑みを浮かべるのみ。

 

今度こそ終わりにする。強い意志を伴った斬撃が明のセイバーに襲い掛かる。

 

 

「っ!?」

 

「怪物を素手で殺すのは、英雄の特権ってやつです」

 

 

視界が反転する。

明のセイバーのものではない。夜のセイバーの視界だ。

体勢を崩し、身体が宙に浮く。全力で飛び込んだ分の力がそのまま流された。

 

 

───()()()()()

 

 

「くっ!」

「流石にこれで決めるのは難しそーですね」

 

追撃の拳を視界に捉え、夜のセイバーは無理な姿勢から自身との間に愛剣を滑り込ませて間一髪のところでガードする。それでも威力は削り切れず、夜のセイバーはコンクリートの壁に思い切り叩き付けられた。

 

ダメージは大したことない。これといって身体に不具合も感じられない。あれは単なる殴打だった。

しかし、先程までとは圧倒的に重さが違う。

手加減されていたとは考え難い。ならば、何らかの方法で推力を得ているのか。

 

身体の上に重なる瓦礫をどかしながら這い出れば、明のセイバーは姿勢を低くして獣のような独特の構えを取っていた。

 

「何らかの能力、ですか?」

「……まあ、間違いではねえですが」

 

言葉を交わしてふと違和感を覚える。

夜のセイバーはそれをそのまま問い掛けた。

 

「貴女、そのような話し方でしたか?」

「あ? あー、まあそうですね。多分違うと思いますけど、説明すんのも面倒だから気にしねーでください」

 

人が変わったかのようであった。先までの誠実そうな男と、貞淑そうな女の混じった明のセイバーとは雰囲気が全く違う。

いや、アレは実際に変わっている? そんなことが有り得るのか?

 

「そんなことより、さっさと戦いたくてウズウズしてんですよこっちは。構えやがれください」

「……何が何だか分かりませんが。まあ、切り捨てれば全ては一緒です」

「はっ、そのいー感じに人じゃないところ、嫌いじゃねえですよ」

 

考えても意味の無いこと、そこまで興味の無いこと。それら全てを一旦忘れて、夜のセイバーは再び剣を構えた。

 

「英雄らしく、とくと殺し合おうじゃねえですか」

 

どちらからともなく踏み出したその時、五時を告げる鐘が第二ラウンドの合図を鳴らすかのように響き渡った。




感想、誤字脱字報告お待ちしてます。また、リハビリの一環でお遊び企画を立ち上げましたので良ければそちらの方にもご参加くだされば幸いです。
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