美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!? 作:伸縮大王
マジで話が進みません
「──でさ? 何してるの、君達」
「あ、あははは……」
「あははじゃなく」
朝。
珍しく目覚しで起きずに早起きしてる俺は、窓から俺の部屋に侵入しかけてる制服姿の幼馴染三人にベットから上半身を上げて、疑問をぶつけていた。
ちゅーか、起きたのも窓の方からゴソゴソ音がしてたからだからね。
何事? と思いながら寝惚け眼で見たら、ナギサ達がこちらのリビングに入って窓開けてた所だったよ。
家が近いと侵入もしやすくて困り物だね。
ホラーかよ。
ホント何してんの?
今までそんな事せんかったやん。
流石にプライバシーに関わるからそんな事しません、って言ってたやん。
そこの常識はあったやん。
昨日の内に皆ポンコツになったん?
「ちゅーか、何で俺の窓開けられてんの?」
鍵、かけてなかったの?
迂闊過ぎない? 俺。
「お、お義母様から、開けてるから入ってって、昨日」
「馬鹿親ぁ」
あの女郎。
何考えてんの?
というか、俺が帰ってくる前にそんな話してたの?
前世でも押しとかノリとか強い人だったけど、この世界でその悪癖にブーストでもかかってんの?
癖が強いのも大概にしろ。
頭の中で満面の笑みでVサインする母さんを振り払っていると、先程までビクビクしてたナギサが意を決したように立ち振る舞う。
「お、お義母様からは許可を頂きました! だから、実質不法侵入ではありません! これで朝起こすシチュエーションは完璧だね!」
「俺の許可よ」
「だ、だよね……」
部屋主の俺を無視すんな?
恥ずかしい物あったらどうすんの。
お互い気不味くなるだけよ?
あとね、そこの幼馴染達。
居心地悪そうにするなら、もうこんな事やめなさい。
やっぱり駄目だよねぇ、ってナギサさん。
そりゃそうよ。
親しき仲にも礼儀ありですよ。
ヒナタ、ユイ。
二人も視線を逸らさない。
思い至った時は良い案だと思ったけど、実際やってみて後悔するのは分かる。
人生、何事も経験です。
この経験をバネにして、もう二度とこんな事しないで下さい。
「明日から禁止な。そもそも、明日は学校じゃなくて、バイトだし。俺も母さんには強く言っておくから」
「い、嫌です!」
「なんで?」
怯えつつも、力強く否定された。
何故に?
ここまで押しが、強い事はあるけど。
でもちょっと、毛色が違うぞ?
「昨日、会長から話があったんだから! 『翔太郎に、もう少し踏み込んではくれないか?』って!」
「本当はもうちょっと詳しく言われてたんだけどね。省略するとこんな感じ」
「…………マァジかぁ……」
会長か……。
あの人、本気であの爆発発言実行する気か……。
期待ね、期待。
そんなことしたら死ぬんですが。
なんだよ、もー。
またかよー。
生き抜きたいって、昨日誓い直したばっかりですよー。
狼になっちゃ駄目なんですよ、会長。
勘弁してって、本当に。
ガチ目に。
死ぬんぞ? 俺が。
「そういう訳だから! 私達も翔に、今まで以上に遠慮しない事にしました! これからはいい加減、素直になるように!」
「そ、そうだよ! 昨日のあんな顔見せられて、尚更黙ってられないから!」
「私もいかどうぶんです!」
「ヒナタは難しい言葉を知ってて偉いなー」
「そ、そう? えへへー」
「偉いぞヒナー!」
「ナギ、ヒナちゃん。翔ちゃんに誤魔化されてる」
「「……はっ」」
「チィ」
流石ユイさん。
人を見る目は会長と同等の苦労人。
御子のツッコミ役ランキングTOP3を争うお方。
こんな下手なイカサマは通用せんか。
「……昨日の事は、な? 本当に心配ないから。俺の周りチート過ぎない? って自信無くしてただけだから」
ヤバい。
浸ってる時の感覚がぶり返してきとる。
兎に角、それっぽいこと言って誤魔化せ。
「……」
「そんな疑わしげに見られても」
「うー……」
「唸られても」
「……だって翔、信用出来ないもん」
「うそぉん」
ナギサ様?
ちょ、ちょっと、それは傷つきますが?
え、信用無かったの、俺?
それなりに信用されるようなムーヴ取ってきたつもりだったよ?
駄目でしたの?
え、殺される判定される、俺?
百合世界さんが、「やっとか……」って肩の荷下ろしてる姿が見えるよ?
怖いよ?
「……何考えてるか分かりませんが、そう意味じゃありません!」
「そ、そうなの? やったー」
「……もう。翔が話さないなら、私達も無理には聞かないけど、……せめて、もっと側にいさせて」
「……」
……最後の言葉は、絞り出すような声だった。
歯を食い縛るような表情を、下に向けて。
手をギュッと、スカートの裾を掴んで。
多分、まだ心配してくれてるんだろう。
俺の昨日の振る舞いに、気付いた上で乗ってくれたんだから。
本当に、良い子達だ。
その上で、信用出来ないってのは、俺が隠し事ばっかりなのを見抜いてる、って事だろう。
ごめん。
「……心配かけて、ごめん。それと、有難う。少し意固地だった」
「……じゃあ?」
「あい。明日からやんな、って話は無しです。もう好きにやっちゃって下さい。休日でも何でも好きな時にお願いします」
「……!」
俺の言葉に、顔を向日葵みたいに輝かせるナギサ達。
顔を見合わせて、やった! なんて小さく言い合ってる。
本当に、胃が痛い。
「約束だよ! 明日になって、やっぱり無しだなんて、怒るからね!」
「あい、もう素直になります。どうぞ、起こしに来て下さい。でも無茶はすんなよ。睡眠時間減らしたりしたら本末転倒だぞ」
「わ、分かりました!」
「あい、じゃあ……すんません。これから、宜しくお願いします」
「や、やったっ……、やったよユイ、ヒナ! 起こしに来ても良いんだって!」
「うん、うん! ありがと、翔ちゃん!」
「お兄ちゃん、大好き!」
「あい、俺も大好きです、こちらこそありがとうです、あい」
本当にもう。
ありがとうって。
大好きって。
どこまでこの娘達は。
本当に、幸せ者だな、俺は。
……
……いかん、考えがグッチャグチャだ。
寝起きで思考が纏まらん。
二重人格とかじゃなく、どっちも俺の思考なのが質負えねぇ。
兎に角、今は、そういうのは無しで!
自分責めて慰めるムーヴは無し!
心配させるでしょうが。
「じゃあ、起こしに来てくれるのは分かりました。なので、あい」
俺はそう言って、扉の方を指し示す。
しかし、彼女達は「え?」と首を傾げながら、要領を得ない表情をしていた。
んー……、分からんかぁ。
仕方ないので、指し示していた指を、服の方に持ってくる。
今、俺は寝間着です。
これから制服を着なきゃなりません。
つまりですよ?
一応、声にも出しますよ?
「着替え、するから。下で待ってて」
「「「…………あっ!」」」
やっと気付いた。
顔真っ赤にさせちゃってまぁ。
「ご、ごめんね! 直ぐに離れるから!」
「ゆ、ユイ姉ぇも! 早く行かないと!」
「うううううん!! ご、ごごごごめんなさい!」
慌てふためいて、急いで俺の部屋から退散する幼馴染達。
嵐のように出ていく彼女達を見て、何だか顔がにやけてしまった。
こっちは見られても別に減るもんないけどさ、ここは紳士的にいかないと。
百合世界から最低男の烙印押されちまう。
僕の裸で、命の危機です。
勿論、俺の。
「はぁ……、さっさと着替えよ」
待たせたら悪いしね。
明日も続くらしいしね。
早起きする意味なくなったなぁ、くそう。
……起こしにくんのかぁ、マジかぁ。
思わず頭を抱えてしまう。
気分は、死刑判決の日程が短くなった死刑囚。
幸せと恐怖のセットですね、やったぜ。
「……マジで胃が痛ぇ」
あぁ、お願いです。
神様。
仏様。
御百合様。
どうか。
どうか後生ですから。
後生ですから、わたくしめに。
お
「翔太郎ー! 早く降りてきなさーい! ナギサちゃん達、朝ごはん食べてないそーよー! 今手伝って貰ってるから、アンタも一緒に食べなさーい!」
そうですよね、無理ですよね。
知ってた。
ナギサ達による『ドキドキ!? 幼馴染が起こしに来るよ!』イベントが確約された後。
朝ごはんは一緒に食べ。
登校は手繋ぎ。
そんな羨まけしからん展開も味わいましたとさ。
めでたしめでたし。
いやー、幸せもんですね。
妬まれても可笑しくないや。
百合世界に殺されるっちゅーねん。
天国の皮被るのもええ加減にして?
本当に俺をどうしたいの、世界さん?
そんなホシ捕まえようとする刑事に、年がら年中張り込みされてる容疑者の気分を味わって、学校へ。
そのまま、お昼休み。
俺は借りてた本を返す為、図書室に赴き。
そこで、ある人間と目を合わせていた。
「──お、ツルギくん見っけ」
「うわ、出た」
おいこら。
出たて。
人をゴキブリみたいに言うんじゃありません。
「開口早々、それは酷かないかい?」
「だって、俺、お前嫌いだし」
「俺はツルギくんの事好きよ?」
「……そういうとこなんだよなぁ」
何だよ。
お前が俺の事嫌いでも、俺は好きでも問題ないだろ。
良い奴なんだから。
長田ツルギ。
なんだか
当然原作のデザノーに出ていないのだが、それでも、まさか生徒会の一員をモブの男がしてるとは思わなかった。
そりゃ、生徒会という割に役員の描写が女の子しか出てなかったとはいえさ。
最低限の人数しか描写してなかったんだなと実感させるのが、目の前の、ノートパソコンをカタカタさせている彼だ。
……ノートパソコン持ち込みオーケーなんですね、この学校。
いや、スマホもオッケーなのも正直びっくりするけどさ。
やっぱ前世の俺の高校ではそういうの禁止されてたから、何というか、常識の差で風邪ひく。
「ったく。会長にといい、役員の人達にといい、甘やかされてる奴はお目出度いな。自分が万人に愛されてるとでも思ってんの?」
「いる訳ねぇじゃん、そんな人。国民的愛されキャラすらアンチがいるんやぞ? 俺なんか世界に出てみろ。一瞬でニートぞ。叩かれる価値すらねぇぞ」
「……あぁ、そうだった。お前って嫌味言っても効かねぇで有名だったわ」
「普通に効くけど? 俺の事、過大評価し過ぎじゃない? ちゅーか有名って何?」
「逐一喚くな、鬱陶しい。効く奴は怒るとか、自分を良く見せる為に言い訳すんだよ、無敵の人かよ」
無敵って。
そんな奴になれるなら俺もなりたいよ。
だって死なないじゃん。
土管工のおじ様を思い出してごらん?
ピカピカ光ってあらゆる敵を薙ぎ倒すんだぜ?
それになれるとか、最高かよ。
落ちたら普通に死ぬけど。
「なりてぇな、無敵の人」
「……正気か? お前」
何故か引かれた。
先に話題に出したのそっちやん。
「俺言ったよな、お前の事嫌いって。何言っても暖簾に腕押し、馬耳東風の体現者。世間も知らずに幸せそうにヘラヘラしやがって、もう少し荒波で痛い目見ろよ。少しは世界の広さ、思い知るかもよ?」
「褒める上にアドバイス付きかよ。ツンデレか」
「今のでその解釈とかお目出度いにも程があるだろ、なぁ?」
そんな事言ってぇ。
嫌々ながらも、いっつも話に付き合ってくれるから、マジで良い奴だよ、お前は。
「……そんで? 結局何してたの、ツルギくん」
「見て分からねぇなら聞くな」
「見て分からねぇから聞いてんのに」
「……そうかい。じゃあ悪いが言わねぇ。図書室は静かにしないとなぁ?」
そう言って意地が悪そうな顔で、シーッと人差し指を口に持ってくるツルギくん。
うーん、憎たらしい。
だが、その顔には疲れた色が見える。
何故かと思えば、どうやら目の下の隈が原因だった。
……そういや、会長、昨日の会議は忙しいって言ってたな。
そんなに大変だったの?
寝不足なの?
「昨日の会議の奴だな? 駄目だろ、子供は良く寝なきゃ」
「……チッ。ホント、変な所で察しが良いな。あと、同じ子供が偉そうな事言うんじゃねぇ。
忌々しげに呟くツルギくん。
いや、一応俺、転生してるから精神面は年上だし。
……本当に俺、年上かなぁ。同世代の癖にツルギくんの方が大人っぽく見える。
それにしてもコイツ、口悪い割に内容自体はそこまでなのよな。
褒め倒してくるし。
そんな褒めても何も出せませんよ?
「せめて手伝おうか?」
「何がせめてだ。良いから素人は引っ込んでろ」
シッシッ、と片手でゴミを払う仕草をされた。
悲しいぞ、ツルギくん。
俺と君の仲じゃないか。
俺は生徒会のお手伝いさんだぞ。
……昨日の会議は俺でも聞けない、他言無用な内容とか言ってたね、そういや。
忘れてた。
「なるほど、生徒会だけの秘密って訳と?」
「そういう事。分かったらさっさと自分の用でも済ませて、可愛い幼馴染達に揉みくちゃにされな」
「何でそんな言うの」
そんな怖い事言わないでツルギくん。
俺の命の危機に拍車をかけないで。
君は百合世界の刺客か何かか?
俺の事嫌いだもんね。
え、嫌いってそういう事?
「マジでお前の反応する所、意味分かんねぇわ。ああいう絵に描いた美少女何人も引き連れておいて、少しは根性見せろよ」
「うるへぇ。お前だって、片思いの子がいる癖に、偉そうな口叩くんじゃありません」
「お前、マジで静かにしろよ。図書室的にも、俺のプライバシー的にも」
喧嘩を売った君が悪い。
喧嘩の手札の数は現状こっちの方が上やからな?
スペック格上やからって油断してるんじゃないぞ?
いやー、それにしても若いねー。
恋する学生。これもまた、青春の一ページである。
このツルギくん。実は絶賛恋煩い中。
お相手は園芸部の女子。
原作には出演していない、正真正銘ヒロインじゃないキャラである。
この時点でツルギくんの生存は確認出来たというもんだ。
羨ましい。
ホワホワした性格ながら、どんな事でも包み込むような優しさに、交流していく内に絶賛惚れたとかなんとか。
創作のキャラみたい。創作だったわ、この世界。
ついでに言うと、裏の性格があるとか創作あるあるなキャラ付けもない、正真正銘のホワホワキャラである。
そんな大和撫子の言葉が似合いそうな園芸ちゃんに、ツルギくんはそれとなくアタック中だ。
感想部と関わりはあるが、別の部活と同じく合同活動とする仲で、サブキャラのようなもの。
今の所、百合が咲く危険性もなし。
俺もツルギくんの悲しむ姿は見たくないので、それとなくサポートもしている。
一応得た情報では、園芸ちゃんは今もフリーだ。
友達は多いが、彼氏彼女の姿は確認出来ないし、ツルギくんのように恋慕を向けている人も、今の所おらん。
つまり、チャンスである。ここで呆けていたら、あっという間に僕の方が先に好きだったのに、状態だ。
彼女? とツルギくんには疑問を持たれたが、ここは百合世界やもん。
女の子も等しく恋敵になりかねない世界であり、そして女の子というだけでアドが取れる世界なのである。
しかも? 入学当時は恋とかよく分かんないし……だったそうな園芸ちゃんが? 最近、ツルギくんを気にする様子が見られてるそうじゃあないか!
ホントにチャンスやん!
ツルギくん! はよ園芸ちゃん落とさんと!
恋愛はゼロサムゲーム! ボーっとしてたら誰かに獲られちゃうぞ!
「いや、マジではよ、アタック数増やさな。キュンキュンな恋愛を堪能するんや」
「五月蝿い、俺があの子に釣り合う訳ねぇだろ」
「かー! かーっ!」
「小さい声で喚くな」
「いいかね? 釣り合うとか釣り合わないとか、そんなん付き合ってから確かめあえばええねん。告白する前からそんな及び腰じゃ、好きになって貰えるものも貰えないわよ?」
「口調統一しろよ、気持ち悪い」
「話をはぐらかすでない。園芸ちゃんからの君に対する好感度は日に日に高まっていると情報を得ておる。だがまだ、話してて面白い人止まりや! 慎重さと大胆さが求められる! ここで好感度稼ぎを放置でもしてみんさい! 即効で誰かに獲られるわよ!」
「マジでベラッベラッと。……会う度にこの娘の事、本当に好きになっていいのか悩む、こっちの身にもなれ」
もー!
何やねん! 何やねん、このヘタレ主人公!
今はまだ野に咲く1輪の綺麗な花かもしれんがな、それにかまけてたら瞬く間に摘み取られるか、百合に染まってもおかしくないんやぞ!
そっちこそ根性見せんかい!
俺は別にナギサ達が恋人作ってもええねんぞ!
君は違うやろがい!
園芸ちゃん獲られたくないやろがい!!
「俺に嫌われてるお前なら、俺の性格よく知ってんだろ」
「口悪い癖に、実は人の事よく見てるし、アドバイスも欠かさない、誰かを放っておくのも無理な、ツンデレの良い奴」
「聞いた俺が馬鹿だった。お前は誰でも良い奴判定するもんな」
「誰でもじゃねぇし。事実だし。嘘じゃないし」
「……俺は。前は気にならかった、こういう性格が、今はちょっと嫌になってんだよ。猫を被るのも出来ない、気遣う事も出来ねぇ。要らねぇ事も口走る。こんな奴、いつ嫌われたって可笑しくない」
「そんなん今更やん。あんだけ交流しといて、お前の性格バレてないと思ってんの?」
「手前マジで口が減らねえな」
いや、だってー。
園芸ちゃんからも「ちょっと言葉は強いけど、ちゃんと聞いてるとこっちの事をちゃんと思ってくれてるのがわかって、嬉しい」って太鼓判押されてるんですよー。
ここで更に交流しないと男が廃るぞー。
「もういいから離れろよお前。こっちは忙しいって言ったよな?」
「さっきから会話とノーパソのマルチタスク成立させてんのに?」
「気が散るっつってんだよ、馬鹿が」
怒られた。
流石にちょっかい掛け過ぎたか。
ツルギくん、頭を掻きながら嫌そうに文句を続けてくる。
「ほんと、頼むから離れろ。そろそろ二人が帰って来るんだから、お前がいると──」
「──お、常磐じゃん!」
「……あーもう、五月蝿い」
あら、ツルギくんが頭抱えちゃった。
ちゅーか、この声は、確か。
声のした方に目をやると、そこには筋肉くんに負けず劣らずなマッチョな男性と、眼鏡が似合う、髪をおさげにした小柄な女性。
「おー、マッスル先輩! マリ先輩も!」
「どうも、マッスルです」
「また会えて何よりです、常磐くん」
制服を捲り、腕の筋肉を見せるポーズをする男性の先輩と、朗らかな笑みでこちらに会釈する女性の先輩。
彼等もまた、生徒会の一員だ。
ボディビルダーな見た目は、マジで高校生か分かりません。
初見はマジでビビった。
何でモブなのにそんな癖強いんですか。
そのガタイの良さから、運動部に務めてそうな人だが、実際はサウナ部と生徒会の掛け持ちしてる人だ。
後輩である筋肉くんとも仲良しで、更に部活仲間でもある。
サウナ部に関しては、色々なサウナを体験する部活で、何なら学校にまでロウリュサウナを作った変態集団だ。
先生とかもお世話になってるんだって。
俺も度々サウナに入らせて貰ってる。
本当に学校か? ここ。
便利施設と履き違えてません?
生徒会では庶務とか広報の兼任だとか。
行動力オバケでもある。
そのポテンシャルは僕にはとても真似出来ない。
次に
生徒会では副会長を務める。
一応、彼女はデザノーでも出演しているサブキャラだ。
お淑やかという言葉が似合う見た目だが、原作じゃ会長に並々ならぬ心酔を抱いてる忠犬みたいな人だった。
狂信と言ってもよく、会長の意見が絶対、みたいな感じ。
原作の会長は開始時点ではピリピリしてたので、余計ヤバい光景になってた。
イノリ先輩とはまた別の意味でヤバい、というか重たい人、なのが原作でのキャラ付け。
この世界だと、そこまで怖くはない。
何なら、怖いどころか、包容力全開のお方でもある。
会長の事は変わらず信仰こそしているが、普通に話が分かるというか、見た目通りにお淑やかで皆を支える縁の下の力持ち、みたいな人だ。
時折、こっちを見る目が怖いけど。
『コイツ、本当は邪魔なんだよな……』的な敵意とかじゃないからまだ良いとはいえ、理由が分からんのでやっぱり怖い人。
どういう感情して見てくるんスか、先輩?
いっつも『ウフフ』で誤魔化さないで?
ホラーからミステリアスにジョブチェンジですか?
そんで、この二人が集合してるとなると。
一応、図書室なので、声のボリュームを下げて話しかける。
まだ、嫌そうな目は周りに向けられてないけど、調子に乗るのは駄目だしね。
「お二人も生徒会の仕事ッスか」
「そうそう、昨日の続き。会議の方は暫くしなくて良いんだけどさ、やる事は沢山あるんだよ」
「正確には昨日の内容に関して、ですけどね。今日もまた別の会議があるので」
「あー、昨日手伝ったやつですね」
「会長から聞きました。いつもいつも、本当にありがとう御座います」
「簡単だが、それ故に手を回す余裕がない雑用ってのは結構面倒だからな。お前がいてくれて助かるよー」
「もー、お二人ともお上手ー。誰がやってもいいやつでそんな褒めるとか、俺天狗になりますよー」
「……こうなるから嫌だったんだよ……」
小声で談笑に花を咲かせていると、ツルギくんったら死んだ目で天を仰いでらっしゃる。
フッ、俺の『大した事してないのに褒められるシーン』が気に食わないというんだろ?
分かる。俺もちょっとむず痒いもん。
やっぱ人間、なんかどデカい事して賞賛されたいもんである。
例えば、それこそ今の生徒会とかね。
先生差し置いて、警察と関わるとかどういうことやねん。
本当、ぶっ飛んでる。
で、その中心たるヒビキ会長がおらん訳だけども。
イノリ先輩も。
「そういえば、会長とイノリ先輩がいないんですけど、どうしたんです?」
「お二方は別の要件ですね。学校に許可を頂き、外出しています」
「それも、昨日の会議、に関係する事……だったり?」
「はい」
おぉ、マジでどデカい案件そう。
警察に指示仰ぐとか言ってたけど、地域の人とも話をしてたりするのだろうか。
これに関しては完全に外野なので、想像しか出来ん。
「常磐くんは、どのような用事で? ……なんて、手元の本を見れば分かりますか」
「まぁ、そんな所です。児童小説っすね」
「ほー、子供っぽくないか?」
「児童小説を舐めたら駄目ですよ、マッスル先輩。子供に読みやすいように、って事は誰にでも読みやすいって事なんです。名作とか言われてる奴なんか、スルスル内容が入るのに話はしっかりしてるから、マジでオススメです」
「常磐は何でも知ってるなぁ」
「ハッハッハ…………、いや、どう考えても先輩方やツルギくんの方が情報量も脳の出来も遥かに上位互換なので辞めて頂きたく」
「俺を巻き込むんじゃねぇ」
「会話に出しただけやん……」
いくら何でも、俺の事嫌い過ぎやん。
分かるよ? 色んな意味で不釣り合いだもんね。
でもちょっとくらい、仲良くしたいと思ってもええやん。
「もういいでしょ。作業を再開しましょうよ。時間あると言っても、猶予が無いのは変わりないんですから」
「そうですね……、でも、焦り過ぎると作業に支障が出ます。息抜きも兼ねて、常磐くんも一緒に居ませんか?」
「マリ先輩、コイツはいいでしょ。図書室を五月蝿くさせる原因になります。作業の邪魔にもなります」
「ぐぅの音も出ねぇ事言う」
「いいから早く行け」
ツルギくんはシッシッと、またも払うように手を振る。
実際五月蝿くさせてるしなぁ。
流石にそろそろ本を楽しんでる人の邪魔になるだろうし、何より生徒会の仕事の邪魔だろう。
「ツルギくんの言う通りっスね。俺が居ても何の役にも立たねーですし」
「なんだよ常磐。もう少し喋ろうじゃないか」
「図書室は喋るとこじゃ無いんですよ」
「と、正論が返ってくるので」
「……確かに、長田くんの言う通りですね」
「生徒の模範としては耳が痛いなぁ」
残念そうな二人に比べて、フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らすツルギくん。
……こんな様子だけど、仕事に集中しなければならないであろう事は確かなのだ。
大変な内容とか言ってたし。
いい加減、潮時というものである。
とりあえず三人に離れる事を告げて、本を返しに行く。
その後は、次は何借りようかな、とブラブラしていた。
小説でも良いなー、とか。
新しい本読みたいなー、とか。
読んだ事ねぇのばっかだけど、あんまり多すぎると、手に取るのは中々勇気というか、踏ん切りつかんなぁ、とか。
どうでもいい事を、考えていたところ。
何故か、ツルギくんに手招きされた。
めっちゃ嫌そうな顔で、手早くジェスチャーをしてる。
な、なんかやった、俺?
「ど、どうしました?」
「……はぁ」
ちょっとビクつきながら、ツルギくんに近づくと、彼は開口一番に溜息をついた。
「……お前、もう昼御飯は食ったか?」
「ん? 別に後で食おうかなって」
「バッカじゃねぇの、お前」
「や、だって。どのタイミングで食っても良いと思ったし」
「……そうか」
と、ツルギくんはどうでも良さそうに、いや、何か「ざまあみろ」みたいに笑って、扉の方を指しだした。
何ぞや? と思い視線を向けても、そこには誰も居ない無の空間。
なに? 何かおるの?
ちゅーか、何で昼飯の話を──
「──じゃーん」
突然。
ピョコっと。
図書室の入り口の影から。
可愛い可愛い、銀髪の少女が小声で顔を出したとさ。
何でいるの?
ナギサ様?
「探したんだと。偶々俺達が居て良かったなぁ。しかも昼飯も食べてないときた」
嫌味のあるツルギくんの声の方に、重たい首をギギギと向ける。
そこには、口の端を釣り上げて笑ってるツルギくんと。
微笑ましそうな温かい目を向けてくる、先輩方二人。
「お昼ご飯、一緒に食べたい。……だそうだぜ? 根性の見せ所ですよ? と、き、わ」
ツルギくんの勝ち誇ったような挑発。
それを受けながら。
俺は視線をナギサに戻すと。
「たーべよっ」
彼女は、天使みたいな笑顔で。
ちょっと大きく、可愛らしい柄の保冷袋。
それを両手で、こちらに見せつけてきたのだった。
……弁当イベントも始まんのかい。
どうにか逃げ、あ、駄目だ。
察したナギサ様に睨まれた。