美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!? 作:伸縮大王
前回(11話)までのあらすじ
・主人公君はヘタレ
・主人公君へのヒロインアタックのレベルが上がりました(朝起こしや屋上であーん)
・主人公君、未来予知ちゃんに不幸に合うよというお告げを受ける
の三本です
「「ち、血塗れッ……!?」」
ヒナタからの、世界様によるお仕置き宣言。
それを隣で聞いてたナギサとユイは、顔面真っ青にさせて、滅茶苦茶切羽詰まった声で驚いておられます。
凄いね。ここまで綺麗なハモりでこんな不穏ワード現実で聞く事になるとは。
人生何があるか分かったもんじゃない。
その煽り受けてんの、俺なんだけどね。
人生マジクソ食らえ。
と、まぁ。
驚く役は二人がしてくれてるので、こっちは情報整理と洒落込もう。
ヒナタの夢は原作同様、現実に起こる正夢を映す時がある。
それはまさに、未来予知に近い。
彼女の予知夢は非常に精度が高く、それはまさに百発百中と言っても良い。
根本を変えるようなアクションを取らない限り、現実は彼女の夢の通りに進む。
もっとも。
彼女の予知夢は、彼女の思い通りには見られない代物だ。
未来予知が発動するタイミングも、その内容も不規則でバラバラ。
見たい時に予知出来ない事はザラにあるし、見たくもない予知を見せられる事もある。
犬のフンを踏むとか、病気にかかるとか、些細だが不幸な予知をする事もあり、その時のヒナタの萎え具合は、本当に見てて心が痛む。
未来を知って覚悟するのは幸福、とかなんとか有名で名作な漫画の悪役が言ってたと思うが、人間そんな単純なら苦労しねぇのである。
寧ろ、上手く使いこなせない能力に対して、彼女なりに上手く付き合っているヒナタは偉いという他ない。
……原作だと能力を歪に進化させ続けているらしく、その設定に合わせた独自AIを組み込まれていた。
一回戦目はそこまでではないので退けさせるのは容易だが、二回戦目頃からプレイヤーの操作傾向を勝手に学習してメタを張ってくる。
ヒナタと戦うのは、ナギサ、ユイルートでは最大四回程だが、最終戦とかはこちらの動きを読むかのようなスタイルで襲ってくるので苦戦は必須。
回避自体も出来なくないので、ヒナタを無視してクリアするのが初見の定石だが、戦うとなると対ヒナタへの対策を万全にしないと話にならない。
その学習ルーチンが、某ネクロなモーフさんに追い回されるゲームを彷彿とさせる嫌らしさもあって、ネットじゃ『ヒナタリアン』とか呼ばれてたっけ。
生憎、この世界のヒナタはそんな恐ろしくも、便利な力は持ち合わせてはいない。
だが、彼女に対して以外の夢を見る事も出来るようになっている。
正確には、彼女と親しいと感じる人間に対して、予知夢を見れるようになったとか。
それこそ、俺の血塗れ光景とかね。
他人を思いやれるようになった、この世界のヒナタだから出来る、原作とは違う部分であろう。
ならば、それに甘えてしまうのも人のサガというものです。
そういう訳で。
オロオロしてる二人を他所に、俺は電話越しのヒナタとリナちゃんに話しかける。
「ヒナタ、リナちゃん。危ない事は分かったけどさ、他に情報とかない? 例えば、見た時の色とか。血塗れっつっても、どれくらいの量か、とか」
《……どう? ヒナタ》
《ぇ、えっとぉ……》
俺の問いと共に、リナちゃんもヒナタに確認。
ヒナタは、考え込むような口振りをしつつも、ポツポツと、記憶を探るように話始めた。
《さっき見たのは、色が白黒、だったよ。血の、量は……、たくさん、かな?》
「うーん、血って確証とかある?」
《く、口から出てたし、服もボロボロだったから、そうだろうなって》
「なるほどな。白黒って事はモノクロ状態で、機械とかは分かるけど、細かい所は分からない、って感じ?」
《う、うん。何か、古そうなのは分かった。それで、お兄ちゃんは壁? を背中にして座ってた》
「ふむ……。機械ってさ、至る所にある感じ? デッカいパイプとかあった?」
(えっと、そんなにはなかった、っぽかった。パイプは……無かった、かも? 映像、飛び飛びだったから、間違ってるかもしんないけど……》
「そっかぁ。……コンクリートってのは、何か理由あったり?」
《し、白色だったから、かな? あと、なんかそれっぽいから》
《テキトー》
《う、うるさいな! 黙っててよ、リナ!》
「まぁまぁまぁ」
喧嘩しそうな二人を宥めつつ、一応ヒナタからの情報を纏めてみる。
まず『白黒の映像』。
これはヒナタの未来予知の夢の中では、初期段階に当たるものだ。
すっ飛ばして色付きになる事も多々あるそうだが、白黒の場合、今日明日と、すぐに降り掛かる内容ではない。
しかし、あくまですぐに起きない、というだけで、明日にでも色付きで同じ夢を見たら危険信号と見て間違いないだろう。
『血塗れ』に関しては、寧ろ気楽に考えず、最悪の想定をしていた方が良いだろう。
これでオイル被ってました! とか変なオチなら笑い話で済むが、本当に血深泥になるようなヘマかましてたら失笑もんである。
出来ればダメージ少ないと良いなぁ、とは思ってしまうが。
次に、『機械とコンクリート』。
ヒナタは工場だと予想していたが、現状聞く限りだと別の可能性も大きい。
工場と言えば、設備や器具で埋め尽くされた風景を思い浮かべるが、ヒナタの話を聞くに、夢の光景は広い空間を連想させる。
この時点で、工場というより広い倉庫や地下ホールの方が近く思える。
コンクリートの予想も白だから、という理由なら、確実性も薄い。
ケイカル板も考慮するなら、病院、研究所とかも視野に入れなければならない。
そして、『古い』というワード。
ここが引っかかる。
長年使われている場所の可能性もあるが、最悪、廃棄された建物の光景を見ている可能性も捨てきれない。
となると、廃墟のショッピングセンターとかすら候補に入りかねない訳だが。
うーん。
絞り込みには、まだ情報が足らんなぁ。
そう思い、ヒナタにもう一押ししてみる事にした。
「他に見えた物とか、特徴とかは?」
《……ごめんね。今の所は、あんまり。夢の映像も何かランダムっぽかったし……》
「ランダム……、今までの話からすると、今回は結果だけ見せてくるタイプか……?」
ヒナタの夢は、大方二通りに分けられる。
未来の光景を一繋ぎの映像として映す『過程型』。
そして、今回のようなただ起きた事を映す『結果型』。
前者は、ナギサ達家族の事故の時が近い。
過程を映すとはいえ、未来を変えるのは簡単じゃないのは変わりないが。
原因も映してくれるのでやろうと思えば未来から逸れる事も出来なくもない。
そういう意味では結果型は、過程型よりも未来を変えるのは遥かに難しい。
なんせ、原因が不明だから。
よくてもぶつ切りの映像くらいしか見せられず、どうしてそうなったのかは結局分からず仕舞い。
楽しい未来なら兎も角、損をするような物だと面倒極まりない。
ヒナタは随分、この結果型の予知夢に、笑顔やらゲンナリ顔やら、表情をコロコロさせてたもんだが。
まさか、俺も同じ目に合うとは。
《……ヒナタ。そのランダムの映像の特徴とかは無かったの?》
リナちゃんからも質問を受けて、「うーん」とヒナタは更に考え込むような声をあげる。
少しして、自信なさげながらも、ヒナタは追加情報をくれた。
《……広かった、かなぁ? あと、大きいシャッターとか、チラッと、見えた……気がする?》
「……シャッター、ねぇ」
彼女の言葉に、オウム返ししながら、新たな情報に少し手応えを感じた。
この情報はでかいんじゃなかろうか。
大きいシャッターというと、搬入口が最初に目に浮かぶ。
あらゆる場所の可能性は依然あるが、その場所の倉庫やバックヤードだと考えると、筋は通りそうだ。
問題は、なんでそんなとこに俺がいるのか、って事なんだけど。
纏めてみると、今回のヒナタの夢は、初期段階の結果型。
ヒナタが関係する可能性は低い、俺だけが損をするパターン。
工場でないかと彼女は言ったが、全く違う可能性も無くはない。
原因も不明。そもそも、結果自体が意味不明。
手詰まりじゃねぇかな、うん。
もっとこう、格好いい閃きが出来る頭が欲しい。
「うーん、大っきい倉庫とかの線も増えたけど、余計に分からんくなったなぁ。俺、態々そんなとこに行くような事せんし」
《ご、ごめん……、変に混乱させちゃった……?》
「あぁ、いや。ヒナタは悪くないよ。寧ろ、色々教えてくれてありがとな。結構纏まってきたわ」
ヒナタの心配そうな声に、すかさずフォローを重ねる。
確かに聞く情報だけなら、俺が自発的にそういう所に行く可能性は薄い。
となると、何か事件に巻き込まれたとか、そういう感じだろうか。
生徒会が秘密裏に警察に注意勧告されているらしい厄介事もあるし。
それに関わってしまった、と考えると結構腑に落ちた。
いやー、我ながら自分のやらかし具合に溜息もんである。
未来の俺さん。
貴方、また何をしでかしました?
「まぁ、何か危なそうな事に首を突っ込んだか、巻き込まれた、って感じだろうな。聞く限りだと」
「……いや、あの、え!? 翔!?」
「あい?」
とりあえず結論を口にすると、今までフリーズしていたナギサが息を吹き返した。
ユイも同じように、いつも以上の困り顔でこっち見てるし。
何でそんな慌ててんの、君達。
もう情報整理終わったよ?
曇った顔も素敵だねとか言うべき?
俺そんな趣味ない筈よ?
百合世界様からも怒られそうだし。
「いや、その、落ち着き過ぎじゃない!? 血塗れなんだよ!?」
「うんにゃ? めっちゃビビってるけど?」
「う、うう嘘だ! 全然涼しい顔してるもん!」
「ホラゲーやる時にあるやん。周りに過剰に驚いてる人いると、なんか自分は落ち着くってやつ。それ」
「ぇ、ぇえええ……」
「……翔」
あり得ないって感じに引いてるユイさんと、本気で心配しているナギサさん。
まぁ、物騒なワードを聞いちゃ、普通は狼狽えるよね。
でも、こっちとしちゃ、寧ろやっと来やがったか、って感じなのである。
正直、今までが運が良かったというか、見逃しされまくってたのだ。
何にも彼女達にしてやれないで、ただ彼女達の親切にぬくぬくしてた間抜け。
よく分からん好意を向けられて、ぬくぬくぬるま湯に浸ってた阿呆。
しかも、百合ヒロインの邪魔になるようなヘイト稼ぎである。
ねー、ご飯をあーんして貰ったりねー、何様って話だよねー。
これが百合謳ってる作品なら詐欺だし、炎上必須よ。
極刑言い渡されても可笑しくない。
もうそろそろ痛い目に合うとは戦々恐々していたが、いざ来るとなると、結構そこまで慌てないもんなんだなーと。
流石に。
真の百合ヒーロー様が現れて、彼女達の心を焦がすとかなんとかして、俺はその踏み台にされるとかの尊厳死は覚悟してはいたが。
そのダメージが出来るだけ少なくなるよう、心掛けてきたつもりだったが。
まさか物理的に命の危機に晒されるとは思わんかった。
物騒だなぁ、ホント。
現実世界やぞ、一応。
まぁ、とにかくだ。
ひとまず、ナギサ達を落ち着かせなくては。
「それにさ。血塗れっつっても、死ぬとは限らんじゃん?」
「いやっ……えっ?」
ナギサは困惑した表情のまま、ますます頭に疑問符を浮かべてる。
まぁね。
そりゃ、血塗れ=死は連想するのは簡単だが。
俺だって死にたかねぇのである。
あと、ナギサ達にこれ以上悲しそうな顔をさせるのは忍びない。
どうにか安心させたいもんなのです。
「あくまで、ヒナタが見たのは俺が『血塗れになった姿』だけ。火葬場に行くとか、安置所で横になってるとかは無い訳だ。──だろ? ヒナタ」
《へ!? ……あ、う、うん》
唐突に話を振られたヒナタだったが、取り繕うような感じでもなく、ぎこちないながらも俺の言葉に肯定した。
うむ、ナイス返答だった。
これで死体だったよ! とか、骨出てたよ! なんて断言されてたら、もう俺には手がつけられん。
最悪、逃げてました。うん。
最低だね。
「つまり、何かしらの危機には合うけど、生存の有無はまだ確定してないって訳。俺の未来は、未来の俺のみぞ知るって事だな」
「……いや、あの。全然納得出来ない」
「そんな……」
「そんな、じゃない!」
今度は怒られた。
いや、怒る気持ちも分からんでもないけど。
こんなのほほんとしてたら、ヒナタの言葉真に受けてない感じだもんな。
でも結構、理に適ってると思うよ、俺の理論。
そりゃ、俺だって、出来る事なら死にたくねぇし。
ある意味、希望的観測である。
「血塗れなんだよ!? 怪我する、って事なんだよ!? どうして、そんな落ち着いていられるの!?」
ナギサが、これ以上ないくらいに泣きそうな顔で迫ってくる。
もう、立ち上がって、悲壮感溢れる顔で俺を睨んでいる。
ナギサ達のこういう顔は、ホント見たくない。
俺のせいでこうなってるのだから余計だ。
心配してくれてるのは、凄く分かる。
俺だって、他人がこんな状況なら、正直どうなるか分かんない。
ナギサ達がそんな目に合うなら、尚更だ。
自分に何か出来る事があるのなら、是非にでも阻止したい所だが。
今回は俺の事だしなぁ。
事情が事情、ってのもある。
「だから、落ち着いてないって。ほら、余りにショック過ぎて実感が後から来る、って言うだろ? そんな感じだから」
「はぐらかさないで!!」
「してないって……」
もう完全に涙目なナギサに詰め寄られてしまった。
声も責める感じじゃなくて、震えてるよ。
もうめっちゃ無理させてる。
気分悪い。
なんだ、このやらかし状態。
何でここに来て、また胃痛イベントなんだよ。
何でバッドコミュニケーションしか出来んの、俺。
十中八九俺が悪いのは分かるけど、どうすりゃ良いの、これ。
気分は、ネットとかで見る浮気バレの駄目男。
処されるわ。
いや、本当心配しないでくれよ。
大丈夫だって。
死んでも、世界が元の鞘に収まるようなもんだし、何度も言うけど、俺だって死にたい訳じゃない。
何で、またナギサ達にこんな顔させてるかな、俺。
殺されても文句言えねえって、マジ。
「ほら、俺いつも何かしら怪我したりするじゃん? ヒナタの夢も、そういう俺のやからしだって」
「……また、やらかし。……いっつも、そう言う……」
……今度は、俯かれてしまった。
ヒナタもユイも、リナちゃんも黙ったまま、しんと静まり返ってる。
マジで居心地悪い。
空気が絶望的に死んでる。
いらんいらん、こんな訳分からんシリアス展開いらん。
これがアニメか何かなら、絶対俺ぶっ叩かれてる。
俺も一緒に、俺をぶっ叩きたい。
もう、ヒナタの夢関係なく、ここで首吊りたい。
でも、今はそんなの後回し。
今はナギサへの説得が優先だ。
「……ナギサ」
「……」
「俺だって、怖いのは本当なんだよ。何で俺が? ってのもあるし、さっきのも、死にたくないっていう俺の願望でもある」
「……」
「でもさ? 今ここで慌てても、どうにもならないだろ? 対処しようにも何も出来ないんだから」
「……お父さんとお母さんの時は、何とか出来たよ」
絞り出すように。
俺の言葉を黙って受け止めていたナギサは、両親の時の事を例にあげる。
あぁ、あれね。
あれこそ、原作知識のお陰でもあるが、それ以外にも、今回と違って運が良かった事例だ。
「あれは情報が得やすかったり、対処が容易だったからだ。月読市の風景写真なら集めやすいし、日にちもヒナタのお陰で特定出来た。でも今回のは、いつ起こるか分からないし、場所も特定しずらい。一々気になった建物の内装を直に見て回るつもりか?」
「……そんなの」
出来る訳がない。
それは理解しているのだろう。
ナギサは、悔しそうに唇を噛んでいた。
そう。
今回の事は、不確定要素が多すぎる。
俺に起きる事だから、原作にない事象ってのもある。
そして、ヒナタ達に降り掛かる筈だった不運とは違い、自然災害ではなく人的被害の可能性が高い。
俺が単にしくじる予定なだけなのかもしれないが、本当に何らかの事件に巻き込まれる未来だってある。
今回のヒナタの夢では、原因の描写は抜けて、俺が血塗れになったという結果だけが映されている。
この時点で、対策しようにも出来ないんだから。
「……で、でもっ。だからって、諦めるなんて嫌だよ」
次に口を開いたのは、ユイだった。
彼女もまた、乞うような瞳で、俺の事を見つめている。
本気で、俺の事を心配してくれている。
いや、マジで良い子達だ。
幼馴染ってだけで、ここまで親身に俺の安否を気にかけてくれるとか、心が綺麗過ぎる。
こんな彼女達を心配させてるとか、どこの鬼畜の所業だよ。
俺だよ。
百合世界様が怒るのも納得だよ。
怒るのは良いから殺さないで?
追放なりなんなりして?
お命だけは許して?
「諦めてる訳じゃない。言ったろ? 俺だって死ぬのは嫌なんだよ。もし、ヒナタの夢通りになったとしても、それなりに抗ってみたいさ」
「……」
俺の言葉に、まだ言い返し足りないのだろう。
無念の表情を浮かべ、しかしユイもまた、顔を伏せて黙ってしまった。
暗い表情を変えぬまま。
いや、駄目過ぎだろ、俺。
何でフォロー試みて失敗してんの?
何でナギサ達を悲しませる事しか出来んの?
何か正解コミュニケーション無いの!?
助けて誰か。
もうマジ無理。
胃が痛い。
百合世界様からは血塗れ云々で本格的に動かれてるし、ナギサ達へは困らせてばかりだし、なんなんもう。
こちとら主人公ムーヴ決められるタマちゃうねんぞ。
人を困らせる事だけは一丁前やぞ。
自分勝手に生きて、このザマやぞ。
マジで周りの環境に甘えて生きてんな、俺。
「本当に、心配してくれてありがとな。でも、自分が無力だー、とか責めてんなら、それは間違いだかんな?」
とりあえずこれだけは、はっきりさせとかなアカン。
人間、出来る事と出来ない事があるんです。
ましてや、世界様からの俺に対するお仕置きに、ナギサ達は何の咎も無い。
確かに、知り合いが傷付く未来が待っているというのに、自分達は何も出来ないというのは歯痒いかもしれない。
でも、それで自分を責めた所で、ナギサ達には何も良いことない。
ただ負のループに陥るだけだ。
そんな彼女達の姿は見たくない。
「俺も俺なりに色々頑張るからさ、応援しといてくれよ。な?」
そう言って、ナギサ達に笑いかける。
こんなふわふわした言葉じゃ、納得しきれないだろう。
でも、納得して貰わなきゃ困る。
俺の事でナギサ達に要らぬ心配をかけさせるのは、本当に勘弁したい。
今までだって心配させて苦労させて、それにずっと甘えてただけなのに、まだ、いや更にナギサ達に嫌な思いをさせ続けるとか最低野郎だよ。
しかし。
俺の説得スキルが低いのは明確で。
ナギサは、強い瞳で俺を見つめて、静かに口を開いた。
「……私、翔の側にいる。授業とか関係ない。ずっと側にいる」
「いや、それは駄目だって」
授業はちゃんと受けて。
俺のせいでナギサの生活に支障きたすとかマジでやめて。
あと、我儘だけど側にいる発言もやめて。
殺され度増すから、世界からの。
「だって! 翔が、翔が傷付くのを黙って見てるなんて、そんなの……!」
ナギサはそう言って、悔しそうに歯を食いしばっている。
彼女の事だ。
例え効果が無かろうと、出来る事でも何とかしたいのだろう。
ここは妥協案を出さないと、ナギサは引っ込みがつかない。
彼女の諦めの悪さは原作同様だ。
それは、個人的には美徳ではあるが、それで彼女達に余計な気疲れをさせては本末転倒。
世界からの地雷判定も増すだろうが、それで四の五の言ってる場合じゃない。
「じゃあ、こうしよう。定時連絡。俺は無事だぞ、ってナギサ達に毎日報告する。それじゃ駄目か?」
「……一緒にいれば、そんなの必要ないよ」
「まさか四六時中いる気なん? ナギサにだってナギサの生活があるだろ。部活の事も、サスラさんとこの手伝いもある。それを俺のせいで棒に振らせるなんて、俺は嫌だぞ」
「私は良いよ。翔が無事でいられるなら、私の事なんか──」
「頼むから辞めろ」
ナギサが巫山戯た事を言い掛けた所で。
本気で、怒るような声色で、彼女の言葉を止めた。
こっちはね、ナギサの人生を縛るような真似したくねぇのです。
我儘ばかり言って彼女達を困らせてばかりなのは、重々承知だ。
そして自覚出来ずに、やらかしてばかりなんだから手に負えない。
そんな俺でも、俺だけの為に彼女達に自分の人生を捧げさせる、みたいな馬鹿馬鹿しい事させる訳にはいかない、ってのは分かる。
結局、これも我儘で押し付けかもしれないけれど、ナギサ達の生活を壊す存在にだけはなりたくない。
「──」
ナギサは、俺に怒りとも、悲しみとも取れぬ表情で睨みつけてくる。
俺もまた、それを黙って受け止める。
悪いけど、こればかりは譲れない。
正直、こんな空気誰かブッ壊してくれ、胃が痛いから勘弁してくれ、誰も望んでねぇってこんな阿呆シリアス擬き、とか頭の中は悲鳴をあげてるが。
ここで折れる訳にはいかない。
二人で押し黙ったまま、視線を合わせ続ける。
一瞬なのか、数分なのか。
思わず目を逸らしたくなるくらいの、長く感じる時間。
そんな状況を壊してくれたのは、リナちゃんだった。
《……お邪魔して悪いんですけど、常磐さんの考えに私は賛成です》
「……ごめんね。リナは黙っててくれると嬉しいかな」
リナちゃんの声に、ナギサは冷たい瞳でスマホを見る。
いや、あの、ナギサさん。
声怖い。
そんな喧嘩越しにならんで欲しい。
ナギサがリナちゃんとあんまり仲良く無いのは分かっているが、それでもそこそこの交流はあるので。
ヒナタの友達でもあるんで。
ここで俺のせいで亀裂が入るとか洒落にならん。
マジで俺のせいで関係滅茶苦茶になる。
疫病神かよ。
俺、死んだら?
《……私も、リナの意見に賛成》
と。
予期せぬ所で、リナちゃんの援軍がいた。
ヒナタだ。
彼女の声に、ナギサは驚いたように目を見開く。
「な、なんで……」
《そりゃね? お兄ちゃん、いっつも変な所で怪我するし、ヒヤヒヤするし、放っておくと何起きてもオカシくないし》
「そ、そうだよ。だから、私達がいないと。ヒナだって、翔が夢の通りになるなんて嫌でしょ?」
《うん。嫌だよ》
「なら──」
《でも、お兄ちゃんが本気で嫌だ、って言う事なら、私は絶対にしたくない》
「……っ」
ヒナタの力強い発言に。
ナギサは、絶望に顔を歪ませ、たじろいだ。
自分の妹すら、同士どころか敵に回ったからか。
それとも、ヒナタの言葉に思う所があったのか。
彼女は、何も言い返す素振りすら見せず、寄る辺を失ったかのように、後ろに蹌踉めいた。
「……ナギ」
そんな彼女に、ユイは優しく語りかける。
ナギサは縋るように、幼馴染である彼女へと視線を向けた。
「ゆ、ユイ……」
「気持ちは、分かる。……でも、翔ちゃんは、こうだって決めたら梃子でも動かないよ。私達が何言っても多分、無理だと思う」
「……」
「だからさ、翔ちゃんの案で手を打とう? そうしないと、ずっと平行線のままだよ?」
「………」
ユイの穏やかな声色に、しかしナギサは口を噤んだまま。
そのまま、顔を伏せてしまった。
スカートの裾を握りしめて。
表情は、前髪に隠れて見えない。
ただ、その口元は、唇を噛み締めて。
「……ぅっ……うぅっ……」
やがて、彼女は嗚咽を漏らし。
ポロポロと、小さな雫が地面へと落ちていくのが見えた。
そして、ヨロヨロと俺に近づき、しがみつく。
しがみついた彼女からは、小さな嗚咽が聞こえた。
「……なんでっ……なんで、翔が……こんな目にっ……」
ナギサはそう、声を詰まらせて。
ただ、俺に縋りつくように啜り泣いた。
……あー、うん。
ナギサさんに、こういう事させてるからじゃないですかね。
心配する女の子を安心させてあげられずに、終いにゃ泣かせました。
男として最低ですね。
打ち首獄門確定です。
いやもう、世界さん。
八つ当たりさせてくれ。
何でこういう展開させるん?
ホント、何したいん?
ナギサ達に嫌な思いさせて何か得あるんですか?
殺すなら黙って殺して下さいよ。
俺のパニクる姿見たいなら、こんなネタバレさせずにさっさとトドメ刺して下さい。
ナギサ達に一々教えんでええねん。
ヒナタに俺のショッキング映像見せた所で誰得やねん。
あれですか。俺の度量の低さと立ち回りの悪さを彼女達に見せ付けたいんですか。
前からバレバレですよ、そんなん。
さっきから自分の事しか考えてねーっちゅうの。
マジで気配りスキルくれ、マジで。
更なる胃痛に悩まされながらも、俺は彼女の背中を優しく擦る。
大丈夫大丈夫、と何の慰めにもならん言葉も投げかける。
何このシュチュエーションって思いながらやってる。
ユイさんも、曇り顔でナギサの頭を撫でてくれてます。
自分だって思う所あるだろうにね。
俺のせいでこうなってる。
何これ。
《……とにかく、常磐さんが危ない目に合う可能性は高いです。私も、何とかしたいんですけど……》
「良いよ良いよ。ありがとな、二人共」
《……本当に、お気をつけて》
《うん……。ちゃんと、連絡してね? 約束だよ?》
「おう、任せんしゃい」
ヒナタとリナちゃんに返事を返すと、二人は「それじゃあ、これで」と、別れの言葉を残しつつ通話を切る。
残されたのは、泣いているナギサと、顔を曇らせたまま、ナギサの頭を撫で続けるユイ。
そして、そんな二人になーんにもしてやれない、馬鹿な俺。
胃痛のレパートリー増えすぎである。
もう、マジで空気変えなきゃ、今ここで死んじまう。
「……ナギサ、ごめんな。心配ばっかりさせて」
「……そんなこと」
俺の言葉に、ナギサは震える声で返してきた。
その表情は、俺に蹲っているせいで伺えない。
見えるのは、長くて綺麗な銀髪のみ。
それでも、小刻みに震える肩を見れば、啜り声が聞こえれば、未だ涙が止まらないんだろうなと思えた。
「……なぁ、放課後、部活あるっけ」
「……うん」
「じゃあ、終わるまで待つわ。一緒に帰れば、安心してくれるか?」
「……」
彼女に、ちょっと調子乗った案を投げかけてみると、ナギサはゆっくりと顔を上げた。
その顔は、涙でくしゃくしゃになってる。
眉も下がってね、ボロ泣きです。
綺麗な青い目もウルウルさせて。
それでも。
彼女は、小さく頷いてくれた。
ユイに視線を移せば、彼女も首を縦に振ってくれている。
そうやって、ナギサ達を慰めるのに四苦八苦して、暫く。
ようやくの、昼休みを終える予鈴のチャイムが鳴った事で、俺達は解散した。
顔を曇らせたまま、俺の腕を離そうとしないナギサを説得するのに、とても時間を費やしたが。
本当に、色々あった昼休みだった。
……いや、本当に。
めっちゃ長かった。
体感何時間分やねん。
ホンっと、胃が痛かった。
昼休みにやる話ちゃうぞ、これ。
ちなみに。
「……明日、翔のバイト先、行っても良い……?」
「それは、許して」
「駄目……?」
「うん。ナギサ達も、明日サスラさんとこの手伝いやるんだろ? だから駄目」
放課後。一緒に帰る途中で。
テンション低めなままのナギサから提案を頂き。
俺は理由をかこつけて、却下させて貰った。
その時も、ナギサは悲しそうな顔をさせたが。
朝起こしだけでも、と粘ってきたので、それは了承して。
その日は、何事もなく帰路についた。
ナギサ達が来なくて良い理由に、嘘は言ってない。
普通に、様子見に遊びに来たりするし。
ただ、バイト先も、まぁ色々ありまして。
今日の世界様からのお仕置き予告とか、知られたくねぇなと。
同僚の人達とか。
あと、セイジさんとか。
さてまぁ。
昨日の、傍から見たら何してんの? みたいな展開も終えて、朝もしっかり三人に、今度は正式に玄関から上がられて、一緒に朝ご飯も食べまして。
ヒナタの夢に進捗が無いのも確認して。
そんなこんなで、今は朝の9時頃。
しとしとと、窓越しに小雨の音が聞こえる、そんな中。
俺は無事に、バイト先のカフェで、ホール清掃をやっていました。
今日は、客の数は少ない。
雨が降っているのもあって、わざわざ外食しに行く人も少ないのだろう。
そんな日は暇なので、店の清掃に精を出すにうってつけだった。
バイトの話は高校に上がる直前にナギサの父、セイジさんから話を頂いた。
『個人でやってるカフェなんだけど、良かったらウチでバイトする?』
ラ・ポーズ、という名のカフェ。
どうやらセイジさんが務めていた前職を辞めて、そこから始めてたものらしい。
原作ではそんなカフェがあった記憶無いし、そもそも原作じゃセイジさん故人だし。
始めた時期も、例のヒナタ悪夢事件の後だ。
ゲーム脳の俺からしたら、その事件関連がフラグだったのかな、と思ったり。
兎に角、俺は二つ返事でそれに乗った。
元より学生では収入源など高が知れている。お小遣いなど当てには出来ず、年一回の実入りイベントなるお年玉も、高校生に上がれば激減するだろう。
代わりに子供にはおねだりという手段もあるが、いくら子の頼みとはいえ、親が出せる金には限度がある。
何も知らなかった前世の頃ならいざ知らず、金を稼ぐ大変さを少しながらでも知ってしまった身では、あまり無茶は言えないし、そもそも、やはり高校生になればそのおねだりも使えなくなるのは明白だった。
子供の自分にとって金銭とは大人以上に高価なものであり、入手難易度も馬鹿高い。貯めなきゃ一万未満どころか五千円未満のものすら碌に買えやしない。
接客経験は前世で数回経験済みとはいえ、飲食店は未経験、カフェなど当然初挑戦。それでも俺はこの話に乗る気しか無かった。
『やります! 買いたいゲーム山ほどあるんで!』
『……言っとくけど、そんな羽振りが良い訳じゃないよ?』
『うっす!』
高校生にとっちゃ休日出勤の少ない収入でも貴重なんです、セイジさん。
これで、これで買いたいゲームを悩む事も出来ず諦める生き地獄から解放される……!!
とまぁ、こんな風に当時の俺は浮かれていた。
大丈夫かなぁ、なんて心配されて入ったバイトだが、結果として、俺にとってはやって良かったと言えよう。
個人店にしては広いが、やはりチェーン店などと比べたらこじんまりとしている。
それでもそこそこ客の入りは良いらしい。
時には多忙に駆られるが、どういう経緯なのか人件費どうなってんだとか疑問はあるが、バイトの人数は結構揃ってる。書き入れ時などに人手が足りない! とヒーコラ言う経験は少なかったように思う。
唯一、不満があるとすれば、暇な時はとことん暇という所だろう。客がニ、三組しか来ないなんて事もある。
最悪、誰も来ず閑古鳥が鳴いたまま店を閉めるなんて事も。
マジで維持費とかどうなってんだろう。
こういう暇な日というのは、何をすれば良いのか困る。
休日とかなら、ゴロゴロしまくってゲーム三昧で楽しいもんだが、仕事となるとバイトとはいえ、逆に面倒くさい。
する事がないのに遊べない、ってのは退屈にも程がある。
器用な人は、こういう暇な時間を利用して人目を盗んで遊べるらしいが、生憎俺は不器用もんである。
更には、俺は切り替えというのも難しい生き物なのだ。暇に慣れ過ぎてしまったら、いざ忙しい時に使い物にならないのは目に見えていた。
なので、こうして念入りにお店を綺麗にしてるのですね。
「──センパーイ、そんな真剣にホール掃除しても、今日は客来ないですってー」
そして。
俺が仕事という名の暇潰しに勤しんでる中、客席の方から可愛らしい声が飛んでくる。
まるで知り合いかのような声だが、断じて俺の学校の後輩では無い。
じゃあ、何で先輩だとか呼ばれているのかと言えば。
作業の手を止め、声のした方を見やる。
もう、これでもかと面倒くさそうな瞳で見ちゃう。
そこには、五人程の、高校生くらいの年齢の少女達。
その一人。
後髪を纏めた、何て言うんだっけ。
高い位置にお団子作って、毛先が上から出てるやつ。
そんな髪型をした赤毛っぽい少女が、頬杖を付きながら、何が楽しいのか小悪魔めいた笑みを浮かべて。
「それよりセンパーイ。私達とお話しましょー? ピチピチJKの花園ですぜー? 可愛いバイトの後輩と仲深めよーぜー?」
それはもう。
この百合世界じゃ、自殺行為な事を、バイトの後輩ちゃんは宣いやがりました。
……おうおう。
俺の安息地は何処じゃ。