美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!? 作:伸縮大王
人を増やし過ぎると読む人は大変だよと偉い人が言っていました
猛烈に反省しながら増やします
あと、感想はちゃんと返信しようねと、未来で生まれた姉に言われました
とりあえず今まできた感想に返信する事にしました
一歩を踏み出した引きこもりの美少女が返してるのだと思ってあげてください
──
月読高校も所在する、都心と言うべきデッカい街。
中央に行けば行くほど、沢山のお店を構えた高いビルやら何やらが至る所にあるので、遊びに行くならここ! ってくらいに活気がある。
そして、その神産巣日町と、ベットタウンとも言うべき天御中町の間くらいの、落ち着きのある所に構えるのが、このお店。
ラ・ポーズ。
古民家とも言うべきか和と北欧入り混じるシックな風貌のこのカフェは、料理を作れるキッチンと珈琲を提供するカウンター、中央を幾つも陣取る丸テーブルとファミリーレストランとかで見る四角いテーブルが壁際にあるのがホールがございます。
トイレもちゃんとあるよ。
因みに、カフェと喫茶店って同じなようで、営業する為の許可とかが違うらしい。
カフェは飲食店営業と言って、調理とか、ラ・ポーズではしてないけど酒の提供も出来る。
パスタとか、丼ぶりやカレーとか、ステーキとか出せたりする。
喫茶店だとその所難しいんだって。
ただその分、カフェは許可を取る要件が厳しいとのこと。
俺は働くまで同じもんだと思ってた。
物を知らん馬鹿と笑うがいいや。知識のアンテナ低いんじゃこちとら。
そんでまぁ、そんな無知な私めが働かせて頂いている、このカフェなのですが。
ここには可愛い……というか、なんか濃ゆいメンバーも一緒に働いております。
例えば。
「センパーイ、暇なら私達と一緒に喋りましょーよー」
「嫌です」
「えー、今日は誰も来なさそうだし、良いじゃないですかー」
「駄目です」
こんな、謎の逆ナンパをかましてくる、四角いテーブルの方についてる女の子達の一人である後輩ちゃんとか。
勿論、華麗に流させて頂きます。
だから、そこの赤毛の後輩ちゃん。さっさと諦めて一緒に働いてる友達と談笑してな?
俺は掃除再開するから。
「暇ですーセンパーイ、ふくよかパフェ来るまでお話しましょー? 今なら美少女達に囲まれる特典付きますぜー? モテなさそうなセンパイに天の恵みですぜー?」
「か、
「無駄よ、
「お? やるか
「……眠い」
「先輩とお話、楽しそうですねぇー。私はカズハちゃんに賛成かなぁー」
「
「女の子は押しが強くてこそですよぅー?」
「そ、そうかな……? そうかも……?」
「……zzz」
「やるに決まってるじゃない、この猿。先輩が今、仕事をなさってるって見て分かんないの?」
「ただ店ん中綺麗にしてるだけじゃん、私達と一緒にいるのは接客の一環ですよー? 何も間違ってませんがー? つか、なさるって何? キモ」
「よし殺す」
「おう殺し返す」
「……煩い」
和気あいあいとしてる女子達を尻目に、こちらは店の清掃を再開していく。
なんか若干二名が喧しくなってるのが見えるが。席まで立ってるし。
さぁて。
このキャラが濃ゆい五人組。
デザノーでは見たこともない、サブでもない、所謂モブの人達である。
まずは、さっきからテンション高めで喋り、ついにはお友達と睨み合ってる、えーと、お団子じゃなくて、くるりんぱ、だっけ? な感じのポニーテール。
そんな髪型をしている、赤毛の少女。
何か花火とか、爆発とかが好きな女の子。
時折スマホで爆発動画とか見てはしゃいでる。
凄い趣味をお持ちで。
サボりとかはしないが、かなりフリーダムな子で、勝手にホールの飾り付けを盛ったり、変な置物を置いてきたりとやりたい放題である。
次に、そのカズハと喧嘩している青みがかった姫カットの子。
真面目で、絵に書いたかのような優等生。
皆の纏め役らしく、お姉さん的立場でもある。
……のだが、どうやらカズハとは折り合いが悪いらしく、衝突はしょっちゅう。
自由気ままなカズハに眉間の皺を寄せたり、代わりに周囲に頭を下げる場面もあったりの、気苦労が絶えない子だ。
最近出来た、多分高校の後輩二人が可愛いらしく、名前は聞いてないが偶に話題に出していた。
そして、そんな二人にオロオロしている内気そうな、ボブカットの黒髪の女の子。
引っ込み思案なのだが、かなり働いてくれる健気な子。
しかし、ドジっ娘でもあるので、目を離すと大変な事になって、顔を青くさせてる場面が多い。
カズハからは、いい性格してると言われているが、時々自覚無しでチクチク言葉を使う時もあるのが、その所以かもしれない。
カズハと比べたら、可愛いもんだけど。
そんで、そのノアに話しかけられていた、何だかおっとり系のゆるふわな髪をしている少女。
謎。
偶に何考えてるか分かんない娘。
いつも笑ってる。
気付いたら後ろに立ってる時もある。
そん時も笑ってる。
怖い。
「先輩よく気が付きますね」的な事言うけど、忍び寄られてる時点で気付けてなくない?
前世はスニーキングミッションでもやってたの、君?
そして、さっきから眠いとか、もう寝ちゃってたりしてる自由な、ツインテールのちっちゃい子。
本当に寝てる事が多い子。
仕事は出来るのだが、寝ながらやってる。
胆力あるというか、凄い子である。
膝枕を要求してくるが、この世界的にアウトかもしれんし、そうでなくても距離感可笑しいので勘弁して欲しい。
結局やらされちゃうけど。
役得だね。
死ぬって、マジで。
あ、もうすぐ命の危機だったわ。
とまぁ、正直この子達でも作品とか作れそうな面子なのでありますが。
その一員たる、カズハとイサヨが一触即発状態な訳でして。
ホント、やめておくんなまし。放っといたら殴り合いとか嫌よ?
もういい加減頃合いなので、作業を止めて、額と額がごっつんこしそうなくらいに接近してる二人に注意を呼びかける。
「あのー、お客様方? 店内での暴力行為は禁止されておりますので、やめて頂けると幸いなのですが……?」
「すみません先輩。でも、この猿を駆逐しないと先輩や皆に迷惑かけるんです。だから止めないで下さい」
「だーれが迷惑かなー? ただセンパイと話すのがそんなに駄目ですかー? 何様か存じませんがイキがるのも大概にして欲しいなー?」
「あ゛ぁ゛?」
「お゛ぉ゛?」
「おし分かった。それ以上続けんなら二人共、看板『だけ』持たせて一日中、外に立たせるからな。あーそういや今雨降ってんだったなー、こりゃ大変だなー」
「「…………」」
一気に沈黙した二人は、睨みあったまま静かに席をつく。
いや、実際はしないけどさ。風邪引いたら駄目だし可哀想だし。
でもこれくらい怒ってんだぞ! って誠意が伝わって良かった。
いやー良かった良かった。まだバチバチが止まってねぇのがヒヤヒヤするけど、とりあえず良かった。
だから、まだ臨戦態勢取ってんのやめろ?
『……爆発猿が。アンタのせいで翔太郎様に嫌われたらどう責任とってくれんの? 死んでくれんの?』
『し、り、ま、せ、んー。お前だけ嫌われてろ、ムッツリスケベ。私はー、センパイにー、こんな所も可愛いって言って貰うからー。アハ☆』
『よし次任務で同行する時は背中も気をつけとけ。怪異以外から頭に風穴空けられても知らねぇぞ?』
『やってみろよ、様付けキモ女。お前こそ一人になる時、気を付けな? いつボカンって四肢と頭がオサラバになっても可笑しくねぇから』
「ふ、二人共っ、見てて情けないよっ……!脳味噌無くしちゃったの……!?」
「ノアちゃん辛辣ぅー」
「へ?」
「……Zzz」
……小声とはいえ、駄目だこりゃ。
話してる内容はてんで聞こえないが、どうせ碌な事ねぇ。学校とかで嫌がらせの応酬とかそんな下らない事に決まってる。止めねば。
思わずジト目で睨むと、それに気付いたカズハとイサヨは気まずそうに目を逸しやがった。
逸らすなら、そもそもバチバチ火花立てんな。折角可愛い顔が般若になって台無しだったぞ。
ノアは申し訳なさそうにペコペコ頭下げるし、ミレイは何を思ってか、にこやかにヒラヒラ手を振ってくるし、クスミは未だに寝てるし。
一見、可愛いらしい、というか相変わらずナギサ達に負けず劣らずのべっぴん揃いな彼女達ではあるが。いや、若干二名、ギスギスしてるのがいるが。
この娘達、何か空気感が今まで見てきた女子グループと違うんだよなぁ。
殺伐、とまではいかないが微妙に気が張っている? というか、ふわふわとは縁遠いというか。
あと猿とか殺すとか口悪くない?
あんまり女子高生で聞かんよ、そのワード。
まぁ、原作では見た事無い、現実世界の人達だ。いくら顔面偏差値が爆上げされてるようなこの世界でも、普通の高校生なのは変わらんだろうし、もうちょい仲良くダラダラしててもええんでないかと思う。
手? 出しませんよ。
この娘達、あくまでバイトの同僚だからね。
職場恋愛は百害だし、正直、皆可愛いので絶対彼氏か彼女か分からんが恋人とかいる。
そもそも、そういうのを期待してバイトする程、こっちはお年頃な若い少年でもねぇんだ、前世の歳も合わせたら。
それに。
幾らモブだからって俺の現状は本編開始前とはいえ原作からかけ離れてんだから。感想部みたいにナギサ達と関わってる可能性があるなら、触らぬ神になんとやらだ。
「翔太郎くーん。出来たよー」
と、彼女達の動向に思いを馳せてた所で。
マスターであるセイジさんが厨房から現れる。その手には盆に載せられた、彼女達が注文したデザートが見えた。
……いやぁ、いつ見てもヤバイな、これ。
「ありがとう御座います、セイジさん」
「いやー、何時もの二人が今日は休みでね、久しぶりで作りがいあったよ」
あははと軽く笑うセイジさんだが、本来、カズハ達が頼んだ料理は一人で作るような代物ではない。
しかも、休んだ二人というのはキッチンを担うこのカフェの要とも言うべき存在だ。
時々、私生活が忙しいのか片方しか居ない時もあるが、二人一緒に休むというのは稀。
俺もキッチンの手伝いをする時もあるが、勿論あの二人には敵わねぇ。
ダンディなおじさんと、寡黙な強面イケメンとかいう、男としても敵わなかったりする。
良いなぁ、セイジさん含めて三人ともイケメンで。
何も敵わない俺としては、少しでも良いところ見せて三人に追いつきたいものである。
「やっぱ俺も、手伝った方が良かったんじゃ?」
「いやいや、今日は暇だからね。翔太郎君も、あの子達と一緒に暇してて良いよ」
「すいません、俺の持病をご存知の筈では?」
「美少女云々、ってやつかな? よく分からないけど、ナギサ達にも可愛い可愛い言ってくれるのは僕も嬉しいよ」
「父親さん? 悪い虫ついてるって思え? それ単なる口の軽い男やぞ? 娘に近づく軟派への危機感持って?」
「あははは」
「笑うんじゃなく」
ほんまこの人は。
ナギサとヒナタにとって良い父親だと思うが、俺に対しても甘い節がある。
ちょっとは、コイツどうしようもねぇな……、とか、娘に近づくなよ不埒者が……、的な視線を向けて欲しい。
こんなにずっと甘やかされっぱなしだと、調子に乗っちゃうから。
今更だけど。
と、セイジさんの穏やかな雰囲気に、若干失礼な事を考えていると、テーブルにいるカズハが大きな声を飛ばしてきた。
「所長ー! あざーす!」
「だから所長じゃないよー」
カズハの元気がいい感謝の言葉に対し、セイジさんは苦笑いだ。対するカズハの周りの娘達の視線は、厳しい目を彼女に向けている。
なんかのドラマかアニメの影響か、毎回カズハはセイジさんを所長と呼ぶ。周りに咎められてもお構い無しだ。
そして毎回セイジさんに違うとやんわり釘を刺されるのが定番。
俺としてはあだ名とか愛称みたいで面白いので放置。
ほら、先生とか目上の人でも仲良くなるとあだ名で呼ぶものじゃん?
元々知り合いだったそうだし、親しい関係だと暗に伝わるのは見てて微笑ましいもんだ。
「じゃ、持って行きますね、所長」
「翔太郎君まで真似しないで……」
少し羨ましくなってカズハの真似をしたりするが、凹ませてしまった。
うーん、俺も結構親しくさせて貰ってるつもりなんだけどなぁ……。良いなぁ、カズハ。
ちょっと寂しさを覚えつつも、盆を受け取り、彼女達の元へと向かう。
このデザート、結構なデカさだからマジで重いし、視界が悪い。慎重に運ばなきゃ大惨事は必須だ。
無理しないでねー、と背中から誠司さんの声援を受けつつ、無事に彼女達へのテーブルへと辿りつくと、俺はそのデザートを盆ごと優しく置いた。
ドスンッ
……本当に優しく置いたよ? 嘘じゃないって。
コイツの重さがやべぇんだって。
「お待たせしました。パーティー・オーバースロー・パフェです。ごゆっくりどうぞ」
「ヒャッハー! ふくよかパフェだー! でかー!」
「……カウンターから見えてた時から圧巻だったけど。こう近くで見ると大迫力、というか戦慄ね……。本当に食べ切れるの、私達?」
「うん、カロリーとか大丈夫かな……」
「パフェにその言葉は禁句ですよぅー?」
「え? でもふくよかって」
「それはパフェの形の事ですよぅー?」
「……来たの? パフェ」
各々の反応を楽しみながら、俺はテーブルに置いたパフェを再度見やる。
パーティー・オーバースロー・パフェ。
通称、ふくよかパフェ。
よく見る縦長型のではなく、ボウル型に近い、取っ手部分の無いグラス。
それに十種くらいのデザート、四種のソースを何層も何層も、時には分断してまで被りも無く敷き詰め、頂点にもアイスとクリーム、また敷き詰めたものとは違うフルーツにお菓子にプリンを山盛りにしたトンデモパフェ。
これだけの情報ならまだサービス満点の色とりどりパフェだが、問題なのはそのデカさ。
人の顔二、三人は入ろうか。それくらいの巨大なグラスに満遍なく、隙間無く敷き詰め、頂点も盛り盛り。
その全長五十センチ。グラスで四十センチの筈だから、プラス頂点の十センチだ。さっきも言ったがグラスは縦長タイプではない。ボウル型。
これで推奨5、6人以上である。嘘つくんじゃねぇ。10人でも足りるか。
その重さ、30キロ。こんだけ色んなデザート敷き詰めてたら仕方ないね。セメントかよ。
値段は三千円だよ。原価どうなってんの?
パフェに使うデサートの量も相俟って、一日に1回しか出せない激レアパフェである。
挑戦者は指で数えられる程度だから、予約も何もないけど。
お残し厳禁だし。
確かにさ、これ以上にデカいパフェは探せばあるんだろうが、生憎デザートへのアンテナが低い俺はこれ以上見た事ないのよ。
生で巨大パフェ見れるなんてお得だね。
見てるこっちが引くわ。
その圧倒的スケールから、ついた異名が城砦パフェ。これから彼女達はパフェを食うのでは無い。巨大な城を攻め落とさなければならないのだ。
……まぁ、散々このパフェをさもヤベェと囃し立てたが。
実際の所、攻略難易度は見た目より遥かに優しいらしい。
そもそもこのパフェは見た目と違い、巨大パフェが目指す、食す人間への挑戦状のような作りではない。
食べる度に毎回別の味が楽しめるのがパフェのコンセプトの一つ。
寧ろそれに忠実に沿った作りだ。
味に飽きて手が止まる心配は薄く、胃袋の心配だけをしておけば良い、とは数少ない挑戦者方々の言。
つまり、甘さそのものが嫌いになる前に食い切れるかが、この化物パフェとの勝負の別れ道である。
あと、カロリーを気にしたらその時点で負けである。
「頼んだからにはちゃんと食べてくれよ。やっぱり無理でしたーとか聞きたかないぞ?」
「大丈夫ですよ、センパイ! アタシ達の実力、見せつけてやりやしょう!!」
「あー……、確かに良く見れば適当な攻略でもいけそうだけど……。うわァ……」
「だ、大丈夫だよイサヨちゃん! これはパーティーパフェ! 楽しく食べないとパフェに失礼です!」
「ノア……。そうね、私が間違ってた。見てて下さい、先輩。私達の楽しむ姿を!」
「意気込み合ってるか分からないけど、分かりました。頑張れよ」
「「はい!!」」
「あったぼうよ!」
三人の返答を聞き終え、俺はルンルンと頭を揺らしながらパフェを食すの待ち遠しにしてるミレイに顔を向けた。この娘、このパフェを前にしていつも以上のスマイルしてやがる。
「ミレイは楽しそうだな」
「当たり前ですよぅー。ここでバイトしてから、ずぅっと食べたくて仕方なかったんですからぁー」
「……パフェ、美味しそう」
「そうですねぇー。いっぱい楽しみましょうねぇー、クスミちゃん」
「うん……!」
いつもは眠そうな顔がデフォのクスミも、目をキラキラさせながらパフェに夢中だ。
凄いね、君大食いキャラだったん?
「では! これよりパフェ攻略作戦を開始する!!!」
そう言って、カズハは両手をバチンッ!と音を鳴らしながら合わせる。それに倣い、他の四人も各々手を合わせだした。
「これを食い切ったら、お前ら一緒にセンパイと買い物デートだ! ──それでは、いただきます!!」
「「「「いただきます!!」」」」
「「────って、は?」」
「は?」
カズハ?
聞いてないよ?
イサヨとノアも初耳らしくて、素っ頓狂な声上げてるよ?
「先輩とデートかぁー。楽しみですねぇー」
「パフェも食べられて、皆と一緒にデート……幸せだぁ」
そこの二人は納得しないで?
クスミ、幸せだぁ、じゃない。
君達だけでやりなさい。
「どーしたんすかぁ、センパーイ? あ、ナギサちゃん達ハブってるから、とかですかぁ? 大丈夫ですよー、ちゃんと誘いますよー?」
「違うって」
呼ぶんじゃないよ、お馬鹿。
いや、仮に呼んでも良いけど俺は抜きにせい。
荷物持ちとか預かりならやったげるから。
「……翔太郎、私達とのデート、嫌……?」
そう言って、寂しそうな顔でこちらを見つめるクスミ。
あの、ズルい。
そう言う顔されると、俺のちっぽけ良心が傷付くので。
優柔不断なヘタレ心が軋むのです。
いや、でもマジで待ってくれ。
何で世界様からお仕置き待ってんのに、まだ地雷踏み抜かなアカンの。
ちゅーか、君達は良いの。
ほら、イサヨとか、ノアとか。
「アンッタねぇ! 勝手に決めんじゃないわよ!」
ほら。
イサヨが顔真っ赤にさせて、カズハに詰め寄ってるし。
ノアは放心してる。大丈夫?
思わず声をかけると、口を開けたまま小さく頷いてきた。
本当に大丈夫?
詰め寄られてるカズハはというと、気にしない様子で、イサヨを受け流すつもりのようだ。
「んだよ、不満ならお前だけ来なくて良いよ? 私達はぁ、センパイへのハーレム活動楽しむからー♪」
「辞めて?」
本気で辞めて?
女の子が自らハーレムとか言わないで?
そういうのが許される世界ならこっちも鼻の下伸ばすけど、違うからね?
女の子同士の絡みを尊んでる世界様だからね、ここ。
何で俺、性別そのまんまでここにいるん? なぁ。
カズハの問題発言に静止のお願いをするも、「もー、照れちゃってー」と、カズハはニヤニヤするのをやめない。
照れてないよ。
胃が痛ぇんだよ。
「べ、べべ、別に嫌とか、言ってないでしょ!?」
イサヨも乗るな。
そういうのは、男は勘違いするから。
え、俺の事、もしかして……、とかなっちゃうから。
俺、勘違いしやすいから。
こちらの心配を他所に、イサヨは顔を真っ赤にさせたまま、まだ言葉を続ける。
「そうじゃなくて、何で先輩や私達と相談無しで勝手に決めてんのか、って話でしょうが! 先輩に、その、迷惑とか……、せめてこっちに話通すとかあるでしょ!」
「サプラーイズ♪」
「お前マジでぶっ殺すぞ!?」
「イサヨ、ステイ」
「あ、ぇ、あ、ご、ごめんなさい……」
カズハの気の抜けた返事にガチ切れしてるイサヨを、とりあえず諌める。
殺すとか日常会話で使うのは控えましょ?
百歩譲って使うにしても、冗談の範疇でね?
今のトーン、マジギレだったぞ。
聞いてるこっちの身が竦む。
ホント、この子達の会話は物騒が過ぎる。
でも、ちゃんとゴメンと謝れるのは素晴らしいぞ、イサヨ。
申し訳なさそうにこちらに頭を下げるイサヨに、うんうんと頷く。
何故か、そんなイサヨに勝ち誇った顔をしてる変な赤毛の子には睨みつけといた。
君は頭を下げるという事を知りなさい。
一緒に土下座の練習するか?
「あははー、翔太郎君モテモテだねー」
「マスター、本当にやめて下さい」
カウンターでこちらの成り行きを見守っていたセイジさんが、楽しそうに微笑みながら地雷発言をぶち込んでくれやがります。
アナタね、言っときますけど、地味にナギサ達も巻き込まれる可能性あんだからね?
父親としての危機感持って?
「ちゅーか、良いんですか。このままだと、ナギサ達もカズハによる横暴の渦中に引き摺りこまれますよ」
「友達が増えて何よりだね」
「めっちゃポジティブ」
「翔太郎君、ちゃんと責任取ってくれよ?」
「そして
何の責任スか。
ナギサ達が友達増やしたのは彼女達の努力でしょうが。
唐突に変な話にするのやめて。
ナギサ達自身の変化の賜物に何せぇっちゅうねん。
「センパイ、何が不満なんすかー。もしかして私達じゃ物足りないって言いたいんすかー? 案外女の子への要求値高いんすねー」
「全然違う」
「あ、童貞だからかー、だっさー」
「それはそうだけど」
「ちょ! ちょちょ、先輩!?」
声色は馬鹿にしたようなもんだが、顔を見ればニマニマ顔なので、完全に揶揄ってきてるのが分かる。
カズハさん、そういう挑発態度は男の子には毒ですよ?
ホント、勘弁して。
あと、イサヨ。
そんな慌ててどしたの。
もしかして、下ネタNGだった?
でも、カズハ達とバンバン汚い発言飛ばし合ってない?
「だ、駄目ですよ! そんな、この猿の無礼を真に受けては駄目です! こいつ、失礼と無作法しか脳に積まってない哀れな女なんです!」
「うっせーぞ脳ちん○」
「お前マジで頭吹き飛ばす」
「……あー」
もう、駄目だこりゃ。
俺にこの状況を纏める度量はない。
カズハとイサヨはまた罵倒合戦繰り広げだしたし、ノアは放心中。
クスミはじっとこっちを見ている。
何なんすか、この訳分かめ空間。
頭痛い。
ちゅーか、パフェはどうした、君達。
げんなりした思いで、デザートの巨城に目を移すと、黙々と楽しそうに攻略を開始していたミレイがそこにいた。
凄いな、君。こんなカオス空間でも我を通してやがる。
「……皆、デート云々は後にして、早くパフェを食べなさい。ミレイに全部食われるかもよ」
「え……あ!」
「美味しいですねぇー」
俺の言葉にイサヨが反応し、ミレイに目を見開く。
そんなミレイは、変わらず笑顔のまま、パフェに舌鼓を打っていた。
「の、ノア……! 早く戻ってきて! 魂飛ばしたままにしないで!」
「……はっ。あ、あぁぁ、ご、ごめん……」
慌てて、イサヨは隣のノアを揺すぶって正気に戻し、パフェの攻略に参戦する。
カズハはもう、完全に勝利に酔いしれた顔をしながら、優雅にパフェへと手をつけていた。
いや、デートの話は別に終わってねぇからね?
覚悟の準備は十分しとけ?
「ほら、クスミも早く食べないと。皆に美味しい所先取りされちゃうよ?」
「……うん」
さっきからこちらを見つめ続けていたクスミにもパフェ攻略を勧める。
あまり納得しきれてない様子だったが、渋々といった感じで、クスミもパフェに取り掛かり始めた。
クスミさん、デートの件で俺が乗り気じゃないのそんなに不本意ですか。
ゴメンなさい。
でも、世界様からお叱り受けてんのよ。
ただでさえ地雷踏み抜いて後先ねぇのに、これ以上狼藉増やしたら、えらいことになる。
もう、吹っ切って好き放題暴れようかしら。
女の子とベタベタしちゃうぞ! なんて。
寿命が縮まるだけなんで却下。
俺は少しでも長生きしたい。
そんな事を考えながら、俺はセイジさんが待つカウンターの方へと向かう。
彼は楽しそうに俺を迎えてきたが、こっちは頭と胃が痛いんです。
もう、キッチンに引っ込もうかな。
あと、カズハとイサヨ。
まだピリピリムードでパフェ食うのやめて。
せめてパフェの味楽しんで。
「……マジでホント、アンタ勝手が過ぎるわよ。先輩に迷惑しか掛けられないの?」
「うっさいなー、黙って食えよー。それとも何かな? もしかして独占したかったとか? キモ」
「んな訳無ないでしょうが、脳死猿。ちゃんと計画立てろ、相談しろ、つってるでしょ。サプライズなんてね、される相手が本当に求めてるものじゃなきゃ、失敗しかしないもんなの」
「あーはいはい、イサヨさんは物知りでちゅねー」
「あ? 何急に幼児退行してんの、アンタ?」
「お前がイキリ倒してるから気ぃ使ってるだけですが?」
「ま、まだやってる、二人共……本当学習力無いよね……」
口合戦が終わらないカズハとイサヨに、困ったような声でチクチク言葉全開なノア。
そんな三人に対して、クスミとミレイはマイペースを貫いている。
「もぉー、そんなに喧嘩してないで、今はパフェを楽しみましょー?」
「……うん、美味しいよ?」
「そうそう、イサヨは空気読めねぇなー」
「黙れ糞猿。……それで? 本気でデートとかふざけた事やる気じゃないでしょうね?」
「やる気だけど? しつこいなー、メンヘラかよ」
「何の計画も無しに思いつきで喋んなっつってんの」
「大丈夫だって。センパイは女の子に囲まれてウハウハ、私達は楽しく遊べてウハウハ。なーんも問題なーし」
「そうじゃねぇだろ、馬鹿猿……」
「そやそや、イサヨちゃんの言ってる事は正しいで?
君達、今はまだまだ遊ぶ暇ないとちゃうん?」
「そうよ、それもあるわ。私達は別に遊びでこの街に来てる訳じゃ………………は?」
突然、挟まれた声。
それに乗っかりそうになりながら、しかし違和感に気づいたイサヨは声のした方へと視線を移した。
イサヨのすぐ隣。
空席だったそこに、いつの間にか、居なかった筈の人物が座っている。
オレンジ色の髪をウルフカットにした、少女のような見た目。
黒くて身の丈に合わない大きいパーカーを羽織り、萌え袖と言うには、あまりに長い袖で手を隠し。
しかしその袖越しにスプーンを掴んで、パフェにありついている人物を。
「しっかしまぁ、このおーばー? すろーぱふぇ? 美味いなぁ。さすが、セイジくんやわ」
「「──りょ、
顔を綻ばせて、パフェを楽しんでいる人物に。
イサヨとカズハは、驚きの声を隠せず、息をピッタリにさせながら、その人の名前を口にした。
……あぁ。
また、濃ゆい人が増えた。
怪しげな関西弁で喋る、年齢不詳な人。
見た目は俺やカズハ達より年下っぽいのだが、セイジさんをくん付けする辺り、彼と同じ年齢か近いものかと思われる。
……俺も、気を抜いたら関西弁っぽい喋りになっちゃうけど、エセ関西弁だ。
多分、俺とリョウさんは本場の関西人の人達からしたら、怒られるかもしんない。
関西電気保安協会を言うてみーや! とか詰められちゃう。
そんでまぁ。
急に、誰にも気付かれずに席についているリョウさんだが、この人はスニーキングに優れたミレイに負けず劣らずの神出鬼没ぶりだ。
外は雨模様なのに、服は濡れておらず、何時からいたの? と聞きたくなる。
仕事も何してるか謎。
聞いてみても、「ひみつー」とはぐらかされるのがお約束だ。
こんな、如何にも何かありそうなキャラ付けされてる、絶対重要そうなポジションな人だが。
この人もまた、原作では見たこと無い。
所謂、モブの人である。
……もしかして、俺、デザノーの世界に転生した訳じゃないのかしら?
ここまでキャラの濃い人達に囲まれるとか、ちょっと可笑しくありません?
ちゅーかですね?
人が、増えすぎではありませんこと?
「なんや楽しそうな話しとるなぁ思たら、デートねぇ。アカンよぉ、カズハちゃん。キミ、まだ『宿題』残っとる筈やろ?」
「いや、あの、センパイの前では、ちょっと……」
のほほんと喋るリョウさんとは対称的に、今までテンション高めだったカズハは、打って変わってタジタジだ。
どうやらパワーバランスはリョウさんの方が上らしく、カズハはこの人に頭が上がらないご様子である。
イサヨとノアもまた、リョウさんの登場に驚いており、落ち着いているのはクスミとミレイ。
そして、セイジさんくらいである。
「……急にどうしたんだ、リョウ。君の友人は、今日は居ないぞ?」
「友人ねぇ。別にそんなんちゃうけど、揶揄うのは楽しいなぁ」
セイジさんの質問に、ケタケタと笑いながら返すリョウさん。
友人というのは、キッチンでカフェの料理人を担当している男性の一人の事だ。
彼もまた、濃ゆいキャラをしているが、今日は不在。
そして、そんな人とリョウさんが男女の関係かと言うと、断じて否。
「今日は単なる休憩。結構ウチも忙しないねん。やー、この老体には堪えるわー」
「身体を壊す、って質じゃないだろ。君は」
「何言うてんの。ウチも一応歳やで? 人は歳重ねるほど、アチコチ壊れる生き物なんよ?」
「そんな見た目の君がよく言うよ」
「見た目の話はきんしー」
カウンターから話すセイジさんと、テーブル越しに談笑を交わすリョウさん。
二人の雰囲気と違い、パフェを注文していた五人組は、凄い緊張した面持ちだ。
落ち着いている、といったクスミとミレイも、さっきの和やかなムードから、少し真面目な雰囲気を感じる。
「それよりな? 翔太郎くーん」
「あ、はい」
急に話題を振られ、間抜けな声が出てしまった。
セイジさんとのやり取りをぼーっと見てたせいで、こちらに声が向けられるとは思わんかった。
「ウチぃ、翔太郎くんのコーヒー、また飲みたいなぁ? 可愛い美少女の頼み、聞いてくれへん?」
「……聞きますけど、可愛いも事実ですけど、美少女は嘘でしょ」
「ひどーい。オバサンって言いたいん?」
「それを言うなら
猫なで声の、正に女性の声色で話すリョウさんに、思わずそう突っ込んでしまった。
……気付いた方もいるだろうが。
リョウさんは女性ではない。
声も、顔も、女性そのものだが、立派な男性である。
所謂、男の娘という奴ですね。
……年齢がセイジさん並の男の娘とか、マジでアニメの世界に生きてんな、この人。
「オジサンとか口わっるー。翔太郎くん、いつからそんな不良になったん?」
「元からっスよ?」
「およよよよー……翔太郎くんが、見ない間にこんなワルぶった子になってもうた……オジサン悲しい……」
「珈琲要らないんスか?」
「飲むー♪」
「何にします?」
「翔太郎くんのぉ、愛の、し、る、し?」
「ブラックっスね」
「やぁん、いけずー」
完全にマイペースなリョウさんを受け流しつつ、こちらは作業に取り掛かる。
一応、五人組にも珈琲はいるかと声を掛けると、
「か、カプチーノでお願いします……」
「あ、じゃあ、ブラックで……」
「わ、私はカフェモカで、良いでしょうか……?」
「エスプレッソをお願いしますぅー」
「……カフェモカ」
と、まぁ。
上から、カズハ、イサヨ、ノア、ミレイ、クスミの順で。
各々のリクエストが返ってきた。
流石に、大勢の注文を一人では捌くのは大変と。
セイジさんが加勢を申し出てきたので、それを有難く受け入れる。
まぁ、セイジさんの方が珈琲入れるの上手いのもあるけど。
俺は知識と技術もニワカもんですから。
とりあえず、予めお湯は沸かしておきつつ、彼女達のリクエストに大方応えられるような豆をチョイス。
といっても、選ぶのは日本人向けらしい
このラ・ポーズで良く使われるタイプのものだ。
グアテマラ? とか言う所の酸味とコクが特徴の豆を主体に、苦味と酸味のバランスが良く甘い香りが特徴というブラジルの豆と、コクを重視したコロンビアの豆を混ぜた王道の物だとか。
突き詰めると、もっと細かな分類で豆を選ばなきゃならんそうだが、多分俺には無理。
セイジさんはそこの選び方も上手いが、大抵俺の選択に合わせてくれるタイプの人なので、マジで頭が上がらない。
絶対、セイジさんが入れた良いって、やっぱり。
それを、ミルと呼ばれた豆を挽く道具で、俺はブラック注文のイサヨとリョウさんに合わせて雑味が出づらいという中挽きまで削り。
セイジさんは、カズハとノア、ミレイとクスミに合わせた中細挽きにまで。
中細挽きの方はエスプレッソマシンと呼ばれる、何か細長いヤカンみたいなのを使うらしいので、俺は時間の掛かる中挽きを片付ける。
セイジさんはミルクスチーマーで、泡のあるホットミルク作るし。
やるのはネルドリップってやり方と、カリタ式って言われるドリッパーでのペーパードリップ。
ネルってのは、言うなら専用のコットン布でドリップするやり方で、使う前に予め布を水に濡らして絞って置かないといけなかったり、専用の道具も温めたりしないといけなかったりと、色々下準備が必要な代物だ。
味ムラも出やすいので素人には難しいとのこと。俺も結構手こずった。
しかし、まろやかなコーヒーが楽しみたい人にはネルドリップは抜群だそうで、この入れ方を要望するお客様もいたりする。
今回は、スッキリ派のリョウさんはペーパー派。
まったり派のイサヨはネル派で攻めていく。
テキパキと作業を進めながら、両方のドリップに、豆に満遍なく、しかし少量の湯を垂らして蒸らしていく。
豆が膨らむのに二十秒から三十秒ほど。
蒸らしている間に、キラキラと細かい泡が沢山出てるのが見える。
それを確認しつつ十分に蒸らしたら、お湯を乗せるように注いでいく。ネルドリップの場合は、布に湯を当てないよう慎重に、ペーパードリップはカリタ式と呼ばれる物なので、数回に分けて入れるのが基本らしい。
二つのドリップから出る、珈琲豆の泡を消さないよう慎重に入れていく。この泡が雑味とか渋みを抑えてくれるんだって。
なので、泡が消えるくらいまで抽出しちゃうと、味が台無しになるそうだよ。気を付けようね。
俺はここに来るまで知らなかったので、泡まで絞ってた。馬鹿である。
とまぁ、順調に作業を進めていく中、セイジさんもミルクピッチャーとかいうステンレスの容器に、スチーマーで作った泡立ったホットミルクを入れてたり、豆を準備してたりとテキパキ動いとる。
ちなみに、泡がある方が、確かフォームミルクって言うらしい。
そんで、液体の方がスチームミルクだとか。
横文字多くて覚えるの難しい。
エスプレッソマシンにかけた珈琲豆は25秒くらいで抽出完了するらしく、これで作る時に出る泡はクレマと言い、飲んでも良い泡である。
エスプレッソって言ったら、この泡だよね。
このエスプレッソから、スチームミルクを使ったカフェラテやら、チョコソースも混ぜたカフェモカやら色んな種類に変わっていくらしい。
セイジさんが入れた、泡の厚いエスプレッソが、それぞれの形に変わっていくのを見つつ、こっちもドリップしたコーヒーを、温めていたカップに注いでいく。
お互いそれぞれの工程を終え、盆に六つのカップを置いていく。
そして、いざ届けに参ろうとした時だった。
「──そんな!?」
突然。
こちらが珈琲を作るまで、談笑していたのであろう中、イサヨが大きな声を上げた。
その視線の先には、頬杖をついたリョウさん。
彼の表情は、目を細めて面倒くさそうにしている。
「えっと、何かあった?」
盆をイサヨ達の元へと持ってきつつ、各々が頼んだ珈琲を出しながら尋ねる。
しかし、イサヨは目を伏せながら、何処か言いづらそうにしていた。
「い、いえ……、少し、驚いてしまって……」
「別に気にする必要ないで、翔太郎くん。この子達の後輩をここのカフェで働かせよーや、って案出してただけ」
「後輩……あぁ。もしかしてイサヨ達が仲良くしている、っていう例の?」
「お、知っとるん? いやー、二人共べっぴんさんやで? 翔太郎くん、役得やねー」
そう笑いながら、リョウさんは珈琲に口をつける。
うーん、絶品、だなんて満足そうにしている彼を他所に、五人組は何だか元気が無い。
特に表情が暗いのはイサヨだ。
しかし、解せない。
気にかけている後輩が、同じバイトで働く事をよく思ってないのか?
ここに来たら不味いとか、そんなんだろうか。
「……なんか、後輩さんがラ・ポーズに来たら嫌な事とかあったり?」
「あ、いえ……、ここに二人が働かせて貰う事に不満はありません。決めるのは二人ですし……。ただ……」
イサヨは言いづらそうにしつつも、ゆっくりと席に座り直す。
持ってきた珈琲を少し飲むと、小さく溜息をつきながら、ポツポツと喋りだした。
「二人は……その。今は忙しい状態で。出来れば、少しゆっくりさせてあげたいんです」
そう語るイサヨの表情は、暗いまま。
まるで、その後輩を心配しているような面持ちだった。
「別にすぐとは言わんよ。でも、出来れば早い方がええなーって。……セイジくんも、別にあの子達働かせてもええやろ?」
イサヨの言葉にリョウさんが続き、そしてカウンターにいるセイジさんに問い掛けをする。
当のセイジさんは、少し考える素振りを見せ、しかしすぐにリョウさんに向き直った。
その表情に何時もの笑みはなく、真剣な顔色。
「……まぁ、あの二人が良いというならね」
「え、セイジさんも知ってんスか?」
「……あぁ。彼女達とは顔馴染みだよ」
へー、意外な接点。
アレかね、イサヨ達と仲良いから、それ経由なんかな?
そう考えてる中で、セイジさんはリョウさんの質問を返した。
「でも、態々彼女達を月読市に呼ぶのか? 今、あの子達は……」
「そこは何とかなるやろ。二人の気持ち次第っちゅー訳やな」
……うーん。ますます謎だ。
月読市に居ないって、まぁ遠くにいるって事だよな?
でもイサヨ達の後輩だよね?
学校の、なら別に月読高校以外にも高校は沢山あるが、かと言って市外から通ってる、って感じでは話を聞いた限りでは思えない。
どういうこと……?
「ごめん、話が見えないんだけど。イサヨ達の後輩なんだよね? 市外にいるの?」
「え? あ、その……」
「翔太郎くん、無作法な詮索は厳禁やでー? 女の子はみーんな、ミステリアスなんやから」
疑問をぶつけてみたところ、応えたのはイサヨではなく、リョウさんだった。
尤も、その内容ははぐらかさすものであったが。
「翔太郎くんは深く考えんでええねん。可愛い子が増えたー! やったー! くらいでいけいけー」
「は、はぁ……」
「……まぁ、二人が良い子なのは確かだよ、そこは僕が保証する。翔太郎君も気に入ると思うな」
リョウさんの言葉に、セイジさんも微笑みながら乗っかる。
しかし、こちらとしては、ちょっと不可解な流れで納得しきれない。
イサヨは、別に後輩さん達がここで働くのは良いと言っていた。
なら、あの大声はなんだ?
ラ・ポーズに関係ない事、つまり後輩二人をこの月読市に呼ぶ事自体に関係している?
そしてイサヨはそれに関して、あまり良く思ってなさそうだ。
それは、後輩二人が何やら大変な状況だから、ってのが関係しているようだが。
私生活とかがゴタゴタしてるから、とか?
ならば、何故敢えてリョウさんはその後輩さん達をこの月読市に呼ぼうとしているのか。
リョウさんの真意が掴みかねない。
そもそも、後輩さん達が市外にいる理由をはぐらかす意味が分からない。
なんで……?
頭にある疑問符を拭えずにいると、リョウさんは徐ろに席を立ち、俺の方へと近づいてきた。
「翔太郎くーん、あんまり難しく考えこまんと。君もそれなりに大変なんやろー?」
「え、……え?」
リョウさんによる謎の言葉に思わず変な声を出してしまう。
それに構わず、彼は俺の側まで近づき、長い袖を揺らしながら屈むように催促してきた。
「ちょいと、背ぇ低くしてくれへん? 男だけの秘密の会話させて?」
「はぁ……」
言われるがまま、彼と同じ目線になるくらいに屈むと。
彼は抱き着くように、男性とは思えない程に甘い香りを漂わせながら、長い袖を俺の背中へと回し。
俺にしか聞こえない程の、小さな声で耳打ちした。
「──ヒナタちゃんの夢、ホンマに気ぃつけてな? ウチかて、本気で心配してんねんで?」
そんな、彼が知り得ない筈の言葉を口にして。
……………………………瞬間。
頭が、真っ白になった。
何故、この人は俺が予知された夢の話を知っているのか。
何故、話したことの無いヒナタの予知夢自体の事を認めているのか。
何故、ナギサ達しか知らない情報を得ているのか。
意味が分からず、脳と身体は硬直して。
「何で、知って」
「ナギサちゃん達に口止めさせてるんやったっけ? 安心しぃ、ウチもあの子達やセイジくんにもバラさへん。せやけどな? そら置いといて、ちゃーんとナギサちゃん達を泣かせんようにしぃ? ウチが目ぇ光らせてる間にでも無茶やったりしたら、ガチで怒るで?」
頭がパニックになりそうなのを必死に抑えながらも、リョウさんに真意を尋ねようとするが。
それを、彼は真剣な口調で押し込めた。
その瞳は、揶揄ったり、ふざけているようなものでなく。
本気で注意してくるような、大人の目。
「っちゅう訳や。君にも、ウチ等にも事情があるさかい。お互い、深堀せんでいこ? 夢の事は、ウチも何とか出来るか探ってみるから。ま、ウチも手が空いてる訳やないんで、期待させてあげられへんけどな」
「……」
「ホンマに、気ぃつけや。あの子達も、君といて楽しい。ウチも皆が楽しそうで安心。そういう、小さな日常を態々自分から壊すような真似だけはせんといて?」
「…………」
「……もしも、勝手に危険な場所に飛び込もうもんなら……そして万が一、命落とすようなヘマでもしたら……そん時は、容赦せぇへんぞ」
少し、ドスの入った言葉。
女性の声色ながら、大人が子供を窘めるような強い声色。
恐怖を感じさせるようなものではない。
だが、真剣な面持ちの、据わった目をしている彼に、俺は。
「は、はい……」
ただ、頷く事しか出来なかった。
「──説得完了! いやー、翔太郎くんが物分かりえぇ子で助かるわー!」
俺の返事を聞くと。
先程の声色は何処へやら。
今の光景が嘘のように、彼は朗らかに笑みを溢しながら、俺の背中を叩く。
それを、俺は頭の切り替えも出来ずに、ただ受け入れるしかなかった。
「りょ、リョウさん……今、先輩と何を……?」
「お、脅してた、とか……ないすよね……?」
「ん? 心配せんでもええよ? 後輩ちゃんの身の上話もしとらん。ちょいーっとお願いしてただけや」
「ほ、本当ですか!? 何か、そんな雰囲気じゃ無かったですよ!?」
「見ててすっごく怖かったですぅー」
「やっぱ脅してんだろ、アンタ!」
「しとらんしとらん! する訳ないやん! ただ、ほら! 翔太郎くん、ちょっと危なっかしいやろ? 釘刺しついでや。つ、い、で!」
「や、やっぱりしてるんじゃないですかぁ!」
「サイテーだこの人!」
「先輩! すぐに何言われたか教えて下さい! 内容次第じゃ、私達も本気でこの人叱りつけるんで!」
「待って! ホンマにしとらんから! 冷静になろ! な? な!?」
「……成敗しよっか?」
「堪忍して! クスミちゃん! 君が動いたらヤバイ! ウチでもヤバイから!」
何かあったら言ってくれと。
イサヨ達はそう言ってくれたが。
俺は、ただ乾いた笑いしか返せずにいた。
リョウさんが何者なのか。
それに関して、今まで気にもしなかったが。
初めて。
彼に対して、小さな疑問が生まれた瞬間だった。
──雨も上がり、夕方。
日は落ちかけ、辺りは夕焼け通り越して、何か空は紫ががっている。
イサヨ達とリョウさんに関してだが。
彼に対し彼女達が責め立ててた訳だけども、俺が何とか仲介して事無きを得た。
実際、リョウさんへの謎は残るが、言われた内容はこちらを心配しての物だ。
……正直、あの雰囲気は怖かったが、何で知ってんのって恐怖感もあるが。
同時に、何だか心強くもあった。
アレで百合世界の代弁者とかで、俺が死ぬのを待ち望んでいる、とかだったら、ちびってた。
恥も外聞もなく、土下座して許しを乞いてたかもしんない。
ちなみに、パフェは無事に完食された。
皆の懐に入ったカロリーと糖分。
せめて贅肉とならず、彼女達の活力として働いて欲しい。
そして、イサヨ達も和やかに帰り。
閉店間際のラ・ポーズにて。
俺も、帰り支度を始めていた。
「──じゃ、セイジさん。お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様。……明日は、ナギサ達の様子を見に行ってくれる、って聞いたけど?」
セイジさんの問いに、俺は思わず苦笑いをする。
そうなんスよね。
ナギサさん達ったら、明日も休日だからってサスラさんとこの手伝いに俺も同行させる気なのである。
いや、手伝いくらいは言われなくてもやりに行ってるけどさ。
今回の事情は、深いものでしてなぁ。
勿論、セイジさんに俺の血塗れ云々の話はしてないし、ナギサ達もしていない筈だ。
現に、彼はいつもの手伝いのように捉えているような節が見える。
ナギサ達が言わないでくれて本当に良かった。
要らん心配かけたくないし、言った所でセイジさんを困惑させるだけだし。
……いや、マジでリョウさんにも感謝だな。
あそこでネタバレかまされてたらどうなってたか。
皆、ドン引きするか、頭にはてなマーク浮かんでそう。
……でも、マジで何で知ってたの、あの人。
怖いんやけど。
プライバシーの侵害なんやけど。
「……リョウさんって、いつも何やってる人なんです?」
思わず、セイジさんに聞いてしまった。
だって、リョウさんと親しい仲だし。
気になったら聞いてしまうのは、誰でもそうと思いたい。
「うーん……何でも屋、って感じかな?」
「……探偵?」
「ちょっと似てるかもね。まぁ、強いて言うなら……」
そう言って、セイジさんは恥ずかしそうに笑うと。
「……影ながら皆を守る、自警団みたいな感じかな?」
「格好いいスね」
「あくまで本人の弁だよ。僕達はそこまで大層なもんじゃない」
思わず感嘆の声を洩らしてしまうと、セイジさんは苦笑いで否定する。
いや、でもやっぱ格好いいですって。
何かこう、街を守るヒーローみたい。
あの、親愛なる隣人を名乗る、苦労人のめっちゃ格好いいヒーロー。
あんな感じ。
マジで憧れるな。
なりたいかと言うと、ちょっと遠慮するけど。
ほら、ゲーム化されてたのもやったけど、街を縦横無尽に飛び回ってると直ぐ様犯罪が起きて、解決したらまた直ぐ起きての繰り返しだったし。
マジでヒーローって大変なんだなと実感した思い出。
……って、ん?
「セイジさん、辞めた前職って、リョウさんと同じ自警団だったんスか」
「あっ……いや、ははは……」
しまった、と言うような顔を浮かべながらも、苦笑いをまたも表情に出すセイジさん。
あれ? もしかして、あんまり触れちゃ駄目な奴?
「あー……、もしかして、聞いちゃ駄目でした?」
「いやっ、そうじゃないんだけど……。そうだな、確かに同じ職場の人間だよ。彼の場合は二足の草鞋みたいなもんだけどね。確か今は、……これは言っても良いかな。トクシュシヘンサンカってとこで課長もやってるそうだね」
「何か、特殊技みたいな名前の会社っスね」
「あはは、そうだね」
しかし、課長かー。
中間管理職で大変そう。
しかも言い方からして兼任っぽい。
マジで何モンなんだろ、あの人。
副業オーケーなん? 怒られたりしない?
クビにならないか心配である。
あと、見た目のイメージと全然合わん。
年下の美少女の見た目したおっさんとか、一緒に働く人の脳が壊れそう。
「あと、あくまで自警団みたい、であってそのものじゃないからね」
「そうなんスか?」
「だったら、その給料はどこから来てたんだってなるだろ?」
「……募金?」
「なんでさ」
突っ込まれながら笑われた。
や、だって。
自警団ってお金どう工面してるか知らないし。
やっぱ自腹切って頑張ってんのかな?
すげぇな、自警団の皆様。
聖人かよ。
僕にはとても真似出来ない。
「そんな訳でだ。リョウは色々やってる人間、と思っておけば良いよ。別に、悪意で動くような人間じゃない」
「それは分かります。良い人っスもん」
「ちょっと前は尖ってたけどね。さっき、同じ職場って言ったけど、正確には僕が辞めた後に、色々あって入ったから」
「へー」
「結局、手伝いでちょくちょく顔出してたから、ある意味一緒に働いてたもんだよ」
「セイジさんも凄いっスね」
「そんな事無いよ」
そう言って、セイジさんは穏やかに笑う。
マジで傍から見たら紳士のそれだ。
俺も是非あやかりたい。
爪の垢を飲ませて欲しい。
「……ちょっと喋り過ぎたかな。つまらない話して、ごめんね」
「まさかー。もう少し聞きたい気分です」
「そう言われても、大して話す内容も無いからね?」
「嘘だー。絶対リョウさんのやらかし話とかあるでしょ」
「職場の子達と派手にやり合ったとか?」
「何してんスか、あの人」
「言ったろ? 尖ってた、って」
「え、そういうレベルの奴……?」
ちょっと幻滅しました、リョウさん。
職場の人達とは、仲良くとは言わずとも一緒に働く同僚なんだから上手く付き合いましょうよ。
同僚=敵かライバルみたいな職場じゃなさそうなんだから。
ストレスでも溜まってたんか?
後でリョウさんに美味しい物でもプレゼントするべきかしら?
「でも、やっぱ面白そうな話多そうじゃないっスか」
「うーん……、やっぱり駄目だな。つい話しちゃいけない事までポロッて言っちゃいそうだ」
「あー、守秘義務って奴ですか」
「そんな感じだね。……そんな訳で、この話は今日はお終い」
ぬぅ。
もっと聞きたかった。
ほら、知り合いが昔何やってたかーとか、気になる時もあるじゃん。
流石にプライバシーまでは聞けんけど、話のネタとしてはそこそこ面白い話題なのよね。
……俺だけ?
「……分かりました。また、機会があったら、聞かせて下さい」
「翔太郎君が覚えてたら、考えとくよ」
「ぜってー話さない奴じゃないスか、それ」
俺がジト目でセイジさんを睨むと、彼は大きな声で笑った。
ぐぅ、完全に大人の余裕に振り回されてる。
くそう、俺だって前世込みじゃセイジさんには足元にも及ばないけど、そこそこ人生経験ある筈なのに。
全く勝てる気がせん。
ここは大人しく引き下がるのが吉だろう。
そう思い、改めてセイジさんにお疲れ様と告げ、ラ・ポーズを後にしようとした。
そんな、扉に手をかけ、外へ出ようとする俺に。
「翔太郎君」
セイジさんは、いつもと変わらず落ち着いた声色で呼びかけてきた。
「どうしました?」
「……今、君は楽しいかい?」
……?
どういう意図の質問?
「えーと……楽しい、と思います、よ?」
「ナギサとユイと居て、嫌な事とかも無い?」
「……一緒に居る事は、滅茶苦茶嬉しいっス。俺、マジで身の丈に合わねぇ幸せ得てます、あい」
ねー。
百合ヒロインの筈の皆に良くして貰ってねー。
ヤバイよ、完全にアウトだよ。
もし原作愛好家の人が俺の状況見てたら、キャラ崩壊させてんじゃねぇぞ糞餓鬼とバチボコに怒り狂われる。
だからあの血塗れというお仕置きですか?
世界様、そんな事しないで普通にあの子達を百合百合させればええんとちゃいますか?
俺、別に百合に深い造詣とか無いんで勝手にやってくれません?
こちとら原作愛も薄いお馬鹿さんだぞ、コノヤロー。
心の中で俺もバチボコに世界へと怒りながらも、顔は平然を装う。
セイジさんにまで、ついこの間のやらかしの二の舞を振るう訳にはいかん。
そんな決意を固めてる俺を見て、セイジさんは優しげな笑みを浮かべた。
「そっか……なら、良かった。ナギサ達をよろしくね」
「よろしくされまくってる俺には難しいスけど、セイジさんに頼まれたからには頑張っちゃいます」
「……あぁ、頼むよ」
セイジさんへサムズアップを見せると、彼も嬉しそうに頷いてくれた。
あったけぇ。
マジで人に恵まれるわ、俺。
良いよね、何してなくても肯定してくれてる優しい世界。
デザノー世界様。今からでも路線変更とか駄目でしょうか。
駄目ですよね。
百合の醍醐味、ナギサ達の時点で壊してそうだもんね。
無知な俺でごめんね。
理解のないオスでごめんね。
でも命だけは許して。
いっぱい許して。
いつもの世界様への愚痴も決めつつ、今度こそ、俺はラ・ポーズを後にする。
チャリンチャリンと、扉についた鈴を鳴らして外に出る途中で。
「──どうか、君達の日常が続きますように」
そんな台詞を、セイジさんが言った気がした。
──そんで。
「と、言う訳で、無事バイト終えました」
《うむ、よろしい》
《よろしい》
《……二人とも、何目線?》
自転車でラ・ポーズから少し離れたあと、通路の邪魔にならないように停めて。
約束していた、ナギサ達への連絡も済ませる。
定時じゃないじゃん! って突っ込まれたけど、ゴメン。やっぱ無理。
バイト中にスマホ弄るタマしてねぇの、俺。
《ちゃんと家に真っ直ぐ帰るんだよ? ブラブラしないこと》
「……スーパーに寄っていくのは駄目ですか」
《……》
《翔ちゃん……マイペース過ぎるよ……》
《ちなみに、なに買うの?》
「食料」
《最後の晩餐、とかふざけた事言ったら、本気で纏わり付くからね》
「俺信用無くない?」
誰が最後の晩餐じゃ。
するか、普通に夕飯のメニューとか、お菓子とかじゃ。
俺が休みん日は、夕飯担当俺なんじゃ。
《……買い物終わったら、すぐに連絡してね。そして、ちゃんとお家に帰ってね》
「……俺、扱いがお使いに行く子供になってない?」
《今の翔は似たようなものです》
《そうだそうだー、ちゃんとしっかり帰れー》
《翔ちゃん、言っても聞かないと思うけど、一応。諦めて、ね?》
「……あい」
諦めます、はい。
やらかし野郎に四の五の文句言う資格ねぇから。
気付かないでやらかすから、やらかし野郎なんだけども。
「そんじゃま、そろそろ切るな」
《うん……。明日は、一緒にお母さん所に行こうね》
「……あい」
《なーんで嫌そうなのかなー? きさまー? 怒るぞー?》
「切りまーす」
《あ、こらぁ!》
ピッ、と。
通話アプリのシャベルタの終了ボタンを押して、ナギサの追求を無理矢理回避する。
フッ、屑野郎と笑うなら笑え。
朝起こしとか言う地雷イベントがまた待ってるかと思うと胃痛が止まらないんじゃ。
ぜってー今までの流れからして、起こしに来る。
確信する。
なんで君達、そこまでこっちにアレコレしてくれるん?
マジで天狗になるぞ、ゴルァ。
死ぬけど、近い内に。
「……あー、死にたくねぇな……」
思わず呟いて、そして笑ってしまった。
なんだ、死にたくないって。
今日び、そんな独り言を吐かす人いませんよ。
死にたくない人はもっと必死なんです。
何だったら、死にたいと思う人も頑張って生きてるんです。
例え命を自ら絶とうと、その人の命だからね。
文句は言えない。不満はあるけど。
相談してくれー! って思う。
何も力になれんだろうけど。
でもそれまで頑張って生きただけでも偉いんや。
それに比べたら、なぁ。
全く、皆必死に今を生きているというのに、俺ときたら呑気なもんである。
マジで、脳死で生きていたい。
前世みたいに、胃痛に悩まされずに、まぁ大変な事とか普通にあったし、苦労もしたけど。
それなりに、やらかしとか気にせず、気ままに生きていたい。
この世界の生き方とか分からず仕舞いのまま。
結局、普通に、自分勝手に生きてきた。
そんな自分が、早く前世に帰りたいと思うのは、我儘やろうか?
……我儘なんやろうなぁ。
あー、はい。
もう変な考えに陥るのナシ。
さっさとスーパーに行こう。
そんで早よ帰って連絡して、飯作ってしまおう。
時間は有限なんです。
そう思い立ち、俺は再度自転車に跨り、漕ぎ始める。
場所は大通り。
天御中町と神産巣日町を繋ぐ交通の一つであり、ラ・ポーズもこの通りにある為、出勤する際はここを自転車で移動する。
家から十五分くらいの距離なので、途中で結構色んなお店が目につく。
そんで、その一つによく通うスーパーがあるので、今日も食材を物色しようという腹積り。
まだまだ全容を知っている訳ではないが、それなりに長く暮らすと地理とかも肌が覚えていくもので。
第二の故郷と言える月読市。
何処か懐かしさと風情を感じる情景もあれば、まさに都会! ってくらいにビルやら最新鋭の機械やらモニターやら色々ある街。
ちょっと、二次元だからってぶっ飛び過ぎてない? みたいな光景もあるけど、過ごして悪い事は無かった、と思う。
そんな、ノスタルジックとも言い難い感情を抱えて走行してたところ。
唐突だが、俺は自転車をUターンさせた。
……信じられない光景を目の端で捉えてしまい、自転車を押しながら歩いてその場に戻り。
そして、件の場所を覗き見る。
大通りの脇にある、小さな路地裏の一つ。
車の通らない、人が通れる程の道。
誰も気付かぬであろう、そんな小道の奥で。
「──ダメなんだぞ! 人をイジメたら!」
「”うぜぇな、このボウズ”」
「”えーニッポン語だと”……、おイ、イいからドけ、クソガキ」
倒れ込む男性らしき人影を庇うように立つ小さな少年と。
その少年に悪態をつく、ゲーミングめいた仮面を被った、外国語喋ってるやべー奴等がいた。
……マジで?
え、何この展開。
だからそういうイベント要らねぇって。
二次元も大概にせぇよ。
とりあえず。
「────だらァァああああ!!!」
何かもう、色々面倒臭かったので。
自転車捨てて、全速力で。
仮面の男たちに向かって、飛び蹴りをしました。
ナギサ達には後で謝ります。
今回のサブの子達は少女でフロントラインな雰囲気を参考にしました