美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!?   作:伸縮大王

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前回までのあらすじ!

・愉快なバイト仲間を紹介するぜ!
・関西弁擬きの男の娘に「いのちだいじに!」と注意されたぜ!
・悪漢イベントが起きたので介入します

の三本です


十五話 たこ焼きって美味しいよね ってお話

 

──雨上がりの夕方。

コンクリートに点々と残された水溜りは、紫に染まった空を映している。

 

「”■■■■■■■■(はいはい、さっさと立てよ、おチビちゃん)”」

 

少年、隆弘(タカヒロ)が通りを歩いている最中聞こえたのは、()()()()()の言語たる()()で話す男の声だった。

彼はまだ、外国語に関しての知識は浅い。

小学校で習うものとはいえ、まだ慣れる為の英文の聴き取りが主だ。

ましてや、スラング混じりの英語など、習う筈もない。

 

しかし、男の声だけでも只事ではない事に、彼は肌で感じ取れた。

 

思わず身を隠し、声のした方。

人が通る道とは言えない路地裏を覗くと、そこには尻餅をついて、傷だらけとなった男性とおぼしき姿と、謎の仮面を被った二人組。

先程の声の主はこの仮面の男達らしく、彼等は倒れている男性の腹へと蹴りを入れた。

 

 

ドスッ

 

「ぐッ……!」

 

腹部に叩き込まれた衝撃に、倒れた男性は苦悶の声を漏らす。

そしてハァハァと荒い息を立てながらも、彼は仮面の男達を睨んだ。

 

「”■■■■■■■■(おうおう、まだイキの良い目してんな)”」

■■■■■■(なぁ、さっさと殺すか、こいつ)

■■■■■■■■■(馬鹿言え。連れ帰んだよ、アジトに)

 

言葉は分からずとも、良からぬ雰囲気を漂よわせる仮面の男達に、隆弘は恐怖を抱いていた。

 

今まで、見た事も無いような光景。

彼の短い人生でも、その光景は異常だというのは分かった。

足が震え、頭の中はどうすれば良いのか分からず混乱していた。

 

どうしよう。

どうしよう。

どうすれば良い。

 

固唾を飲んだまま、身動き出来ずにいた隆弘は、しかし定まらぬ脳内の中で、ある言葉を思い出す。

 

『──弱った人に暴力を振るうのは、強い者ではありません。弱った人を守ってあげられる人こそ、真の強い者なのです』

 

親代わりに育ててくれた、養護施設に務める職員の一人。

隆弘は身寄りの無い子供であり、その施設に務める者達には子供なりの恩義があった。

だからこそ、彼女の言葉を反故にする事は、彼には出来ない。

 

彼女から受けた言葉を、頭の中で反復させた隆弘は、意を決したように歩を力強く進める。

 

震えは止まらない。

怖くて堪らない。

でも、ここで見捨てるなんて間違ってる。

 

少年は強い眼差しを仮面の男達に向け、彼等に向かって震える声で大きく吠え立てた。

 

尤も。

子供ならば、立ち向かうのでなく、助けを呼ぶ事こそ、正しい選択だったのかもしれないが。

 

「──や、やめろよ!!」

「……”■■(あぁ)”?」

 

迫力の乏しい幼子の声に、仮面の男は煩わしそうに隆弘に視線を向ける。

その仕草に、またも恐怖がぶり返しそうになるが、彼は必死にそれを抑え、倒れた男性の前へと躍り出た。

そのまま、彼を庇うように両手を広げる。

 

「なんでこんな事してんだよ! オカシイだろ!」

「……”■■■■■■?(なんだ、このガキ?)”」

 

突然の乱入者の登場に、仮面の男達は鬱陶しそうな素振りを隠しもしない。

そんな彼等に、隆弘は尚も大声を張り続ける。

 

「サスラさんが言ってたぞ! 弱ってる人は傷つけちゃダメなんだって! イジめるなって!」

「……”■■■■■■■■■”(いきなりやって来て何言ってんの、お前)

「”■■■■■■■■?(おい、この餓鬼バラすか?) ■■■■■■■■”?(それとも透明にしちまうか?)

「”■■■■■■■”(良いな、骨まで溶かすか)■■■■■■■■■(ここじゃ売るのもムズけーし)

 

隆弘の言葉を無視し何やら語り合う男達に、隆弘は言い様のない身の危険を感じた。

それでも、彼は両手を広げたまま、震えそうになる身体を必死に抑える。

 

「……駄目……逃げて……」

 

そんな彼の後ろで、倒れていた男性がか細い声を絞り出した。

逃げる事を促す言葉に対して、隆弘は後ろを振り返り、拒絶の言葉を張り上げる。

 

「ヤダ! 逃げるなんて、イヤだ!」

「”■■(あーあ)■■■■■■■■■■■(なっさけねぇな、こんなチビに守られて)”」

「”■■■■■■(おーい、おチビちゃーん)? ■■■■■■■■■■”(ヒーローみたいでカッコいいねー)■■■■■■(とりま殴ったげようか)?」

 

目の前の少年の言葉に、仮面の男達は揶揄うように、貶すように囃したてる。

それを、彼等の言葉が分からずとも、不快と敵意を持って隆弘は睨みつけた。

 

「オマエら、こんな事して恥ずかしくないのかよ! ダメなんだぞ! 人をイジメたら!」

「”■■■■■■■■■■(うぜぇな、このボウズ)”」

「”■■■■■■■■(えーニッポン語だと)”……、おイ、イいからドけ、クソガキ」

 

未だ守るように手を広げる隆弘に、辛抱出来なくなったのか、仮面の男の一人が流暢とは言い辛い日本語で語りかける。

いや、脅迫とも言っていいその低い声に、しかし隆弘は強い眼差しを彼等から逸らす事は無かった。

 

ここで引く訳にはいかない。

自分がここで逃げたら、後ろにいる人が何をされるか分からない。

 

子供ながらの正義感を掲げ、恐怖に押し潰されそうになりながらも隆弘は果敢に仮面の男達の前を阻む。

 

それを、面倒そうに眺めていた一人は。

 

「……■■■■(そうかい)

 

短く、淡々と。

まるで、蟻を踏み潰す事も厭わぬ子供のように。

 

■■■■■(じゃ、死ね)

 

懐に入れていたナイフを、卒なく取り出し。

躊躇なく、目の前の少年へと振り下ろした。

 

突然迫る、銀色の刃。

理解が追いつかず

躱す事もままならず。

隆弘は、身に迫る死に、反応も自覚も出来ないまま。

恐怖に染まる隙すらなく、呆然と眺めるしかなく。

後ろの男性による制止の声すら、彼の耳には届かず。

ただぼんやりと、施設にいる友人達の顔が、隆弘の脳裏を過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だらァァああああ!!!

 

 

 

 

その情景を。

迫りくる死を。

突然放たれた雄叫びが、暴風の如く掻き消す。

 

ナイフを持った男は、突如の事態に顔を声の方へと向けることしか出来ず。

彼の視界には、今にも自身へ飛び蹴りを見舞わんとする、新たな乱入者が映っていた。

 

「───”ぎゃひっ!?!?”」

 

声の主による洗礼(蹴り)を頭部に受け。

呻き声を上げなから吹き飛んでいく。

 

雨上がりの地面から、土汚れが混ざった激しい水飛沫を立てながら地面に激突する仮面の男。

彼を蹴りあげた者は、同じく泥水を激しく散らせながら着地する。

 

隆弘は、その者を見開いた目で凝視した。

男を蹴りあげた声の主に。

唐突に現れた少年に。

 

その姿に、既視感を覚えて。

 

 

 

はい、という訳で蹴ってしまいました。

どうも、馬鹿です。

なんで火種に飛び込んでるんでしょ私。

やった後で後悔してきた。

暴力ダメ、絶対。

 

「──”テメェ!?”」

 

さてと、もう一人。

しかも、要件聞かずに殴りかかるポーズをしてらっしゃるお方。

分かるよ。何も聞かないで蹴りかかったからね。

そりゃ対話無しで喧嘩売ったんだから、そっちも暴力で来るよね。

それはそれとして俺は歯向かうぞ。

自分が可愛いので。

 

すかさず、もう一人のゲーミング野郎の頭部目掛けて、俺の頭を叩き込む!

 

ガンッ!!!

 

「”ぎっ!!??”」

 

うん、こっちも痛い。

仮面かてぇな、この野郎。

マジで何? そのゲーミング仮面。

何処で売ってる奴?

 

変な声出しながら吹き飛ぶ仮面野郎に内心気になりつつも、ぶつけた額を擦る。

 

さて、どうすりゃいいんだろ、この状況。

マジで数分前の自分を殴りたい。

なんで蹴ったの、俺。

考えるの面倒だったからね。

ホント物考えようよ、だからやらかししか出来ねぇんだよ、馬鹿。

これで相手の命奪ったとか洒落にならん事してみろ。

どうやって償うつもりだこの野郎。

 

……とはいえ。

俺の後ろ。先程まで襲われかけてた少年。そして、ボロボロになったYシャツ姿の男性。

彼等の安否が最優先だ。

 

「──大丈夫? 怪我は無いか?」

 

なるだけ優しい声色を気を付けつつ、少年の方へと振り返る。

言い訳出来ない程に気狂いみたいな登場してしまったのだ。

幾ら事実であろうと、ヤベー奴がもう一人増えたと思われるのは御免である。

 

「──って、は!?」

「……お、おじちゃん!?」

 

顔を見た瞬間、俺は驚きの声を上げてしまった。

一方の少年も、仰天した顔を此方に向けていた。

 

「タカヒロ、お前なんでここに……!?」

 

あまりの事に仮面野郎を忘れそうになる。

すかさず奴等に視線を戻しつつも、タカヒロの方を横目で伺った。

 

タカヒロ。

サスラさんが務める養護施設でお世話になっている子供の一人。

ヒナタよりも年下で、子供らしく真っ直ぐな少年ではあるが、まさか暴行を止めるような胆力があったとは。

そこはもうちょい落ち着いた行動もして欲しかった所であるが、俺も人の事は言えない。

 

でも、なんでここにいんの、君?

施設、こっから遠いよ?

今、夕方よ?

余暇時間だっけ? それ過ぎてない?

大丈夫? 今頃大騒ぎになってない? 施設。

 

「え、えっと、えと………」

 

当のタカヒロはというと、言い辛いのか、それとも混乱しているのか。

目を辺りに彷徨わせながら、言葉を纏めるのに四苦八苦しているようだった。

 

その間にも、頭突きした方の仮面野郎がようやく立ち上がるのが見える。

蹴飛ばした方は未だに回復する気配はない。しかし、それで楽観視出来る程、状況は甘くは無いだろう。

 

時間がない。

すかさず俺はスマホを取り出して、タカヒロの方に差し出した。

 

「ま、まぁいいや。とりあえずタカヒロ。このスマホ持って、出来るだけ遠くに。ある程度距離取ったら警察に電話しろ」

「え!? で、でもおじちゃんがっ……!」

「時間なら稼ぐ。それより今いる場所の名前と電話の掛け方、分かるな?」

「う、うん。一応……」

「オッケー、じゃあ頼んだ」

 

早口に捲し立てて、タカヒロにスマホを押し付ける。

急な事にタカヒロは驚いているが、正直それを宥めてる余裕も時間も無い。

 

「行ってくれ! 早く!」

「……っ! わ、分かった! すぐ呼ぶからな! 待っててな!」

 

俺の促しに弾かれたように声を詰まらせたタカヒロは、しかし意を決したように叫ぶと、そのまま大通りへと駆け出した。

 

何とか回復したのであろう仮面野郎がそれを見てか、慌ててタカヒロの方へと迫ろうとする。

 

「”ざけんな、ガキ! 行かせるか!”」

「こっちの台詞だ」

 

そんな奴を阻むように、道を塞いで睨みつける。

忌々し気に仮面野郎は舌打ちをすると、懐から警察とかが持つような警棒を勢いつけて取り出した。

 

……お前も武器持ちかよ。

そりゃそうだわな糞っタレ。

 

「”……糞餓鬼が、覚悟は良いんだろうなぁ。あ゛ぁ゛!?”」

「それもこっちの台詞だ! サラリーマン狩りとか舐めた事しやがって! しかも顔隠して路地裏でコソコソと! 終いにゃ子供に凶器向けるとか巫山戯てんのか!? アンタ等蹴った俺が言える立場じゃねぇけどな、警察への申し開きの余地ぐらい残しやがれ!!」

 

見えないが多分顔真っ赤であろう、ゲーミング野郎の煽りに、こちらも負けじと声を張る。

 

うん、本当何してんのアンタ等?

そんな分かりやすい悪党ムーヴしてなんか得あんの?

逆に強要させられてるとかそういうパターン?

アニメとかゲームじゃねぇんだからさ。

ゲームだったわ。

 

いや、でもやっても損なだけやろ。

今時居ないよ? アンタ等みたいな「ボクたちやられ役でーす! ヒーローに倒される為だけの引き立てでーす!」みたいなの。

ヒーロー居るかは知らんけどさ。

悪党ってのはもっとバレないようにするもんでねーの?

社会ってのは二元論で片付く程単純じゃねー筈ですわよ?

 

って、今は愚痴に思考割いてる場合じゃない。

兎に角、タカヒロと約束した以上、時間を稼がなくては。

喧嘩は……した事はあるけど、正直不安。

しかも、相手は武器持ちだ。

出来る事なら、目の前に立つ仮面野郎の相棒。

未だに復活出来てないもう一人の仮面。

アイツが回復するのは勘弁願うが、かと言って応戦するとなると手早く終わらせる必要あり。

実力に自信でもあればこんなに悩む必要もねぇが、無い物強請りしたって始まらない。

 

せめて、相手がケアレスミスかます程に頭に血が昇れば勝機の頭もひょっこり出てきてくれるかもしれんが、そんな甘い展望じゃ勝機さんも頭を振るだけか。

 

頭の中で考えを捏ねくり回しながら仮面野郎を睨み続ける俺に対し、野郎は面倒だという思いを隠しもせずに苛立った声を上げ続ける。

 

「”またニッポン人かよ! 少しは外国語喋りやがれ、アジア風情が!”」

「”それはそれはすいませんでした! 英語とか苦手なんだよ俺は!”」

「”喋れるじゃねぇか、舐めてんのかクソガキ!!”」

「”舐めてねぇわ! それより言い分は? どうせお互い警察にこっ酷く絞られるし、寧ろ話した方が色々と都合良くない? ほら、実はのっぴきならない事情があるんですとか”」

「”うるせぇ死ね!!!!”」

 

死ねて。

沸点低く過ぎんねん。

もうやだ。

勝てる気せへぇんて。

 

怒り心頭のまま、全速力で迫る仮面野郎。

そのまま、奴は俺に向かって警棒を払うように振り回し──っておい!?

 

 

──バチチチチッ!!

 

「”チィッ!!”」

 

寸での所を身を屈めて避けつつ、仮面野郎の腹に掌底を撃ち込む。

上手くカウンターが決まり、奴との距離は取れたが、問題は野郎の持っている警棒だ。

 

それは、青い雷光が迸っていた。

薄暗い路地裏で、その警棒は一際目立つように光を纏っている。

その光景を見た瞬間、毒づかずにはいられなかった。

 

「……なんでこう。フィクション全振りでいくかなぁ、クソッ」

 

スタンロッドかよ。

しかも目に見えるくらい放電してるよ。

そりゃ電極付きの警棒って実在するらしいけどさ。

現実であんな派手なのねぇでしょ。

ゲームの世界かよ。

ゲームの世界だったわ。

もう何回やってんだ、このくだり!!

 

心の中で文句を言いつつも、兎に角今は相手の動きを避ける事に集中する。

あんなん一発でも当たったら、電撃で意識が即座に持っていかれる。

 

「……”作り物(フィクション)じゃねぇ、現実(リアル)なんだよ!!”」

 

笑うように仮面の男はそう叫ぶと、俺に向かって突進し。

そのまま、奴はスタンロッドを薙ぎ払ってくる。

 

「っ!」

 

慌てて身を引いて躱す。

頭上スレスレを通っていく雷光に目をやられないよう、薄目にしながらも首を後ろに仰け反らせる。

というか、髪掠った。

めっちゃ焼けたゴム臭い。

 

しかし、相手は一回攻撃を外したくらいで止まってくれるような奴じゃない。

振り払ったのを避けた瞬間には、今度は振り下ろしの雷光が上から迫る。

 

それも何とかギリギリで避け、数歩下がる事で距離を取る。

 

……幸いと言うべきか、奴の動きは大振りだ。

豪速と言わんばかりに風を切りながら縦横無尽にスタンロッドで攻撃してくるが、早いだけで何処を狙って攻撃するかまでは判別出来る。

避ける事に専念さえすれば被弾する事はない。

逆を言えば、先程のような反撃のチャンスが見えないという事でもあるが。

 

脅威だが単調。

強力だが単純。

ならば、それを利用して隙を作るしかない……!

 

仮面野郎は姿勢を低くすると共に、スタンロッドを下から突き上げてくる。

ここに来て、奇襲の振り上げ。

眼前に迫る雷光に視界に入れつつも、半ば反射的に横へと逃げる。

そのまま、奴の脇腹まで滑るように回り込み。

何とかその脇腹に、拳を叩き込いれようと構え──

 

「──”甘ぇ!!”」

 

──奴の声が聞こえると同時に。

俺の腹部に、奴の回し蹴りが食い込んだ。

 

「ぐっ………!?」

 

余りの苦痛と衝撃に、苦悶の声が洩れる。

吹き飛ばされそうになるのを何とか、何とか足で擦りつけるようにバランスを保つが。

 

勿論、俺のそんな姿を。

隙を晒した敵の姿を、奴がぼーっと眺める訳がない。

 

「”終いだぁ!!”」

 

高らかな勝利宣言と共に、仮面野郎は天高々と掲げていたスタンロッドを振り下ろす。

その矛先は、俺の顔面。

迸る青い雷光が、高速で目の前に迫るのを、視界で捉えながら。

 

 

俺は拳を振り上げた。

 

 

 

ガンッッッ!!!

 

「”がっ……!?”」

 

仮面の男から、苦悶と驚愕の声が聞こえる。

顔色は見えないが、きっとその表情は信じられないものでも見たかのような顔をしてるんだろう。

 

振り下ろされる筈だった仮面野郎の腕。

その手首に向かって、俺は拳を下から叩き付けていた。

 

吸い込まれるように綺麗に撃ち抜かれた奴の手から、スタンロッドが弾かれるように吹き飛んでいく。

 

カウンターが出来ないのなら、出来るように誘導すればいい。

敵の動きに合わせられる環境。

敵が油断している状況。

敵が予想しえない一打を。

 

……まぁ。

想像というか、理想としていた動きには到底及ばなかったけど。

結果的に奴の攻撃手段を一つ潰せたのは変わりない。

 

それに。

 

俺は打ち付けてた拳を解き、そのまま奴の手首を掴む。

そして、もう片方の手で奴の腕を捉えた。

ある意味、奴の片腕を封じたような形。

 

まだ、やりようはある。

 

「”ぐっ! はな──”」

 

離せ、と。

拘束から逃れようと腕に力を入れながら、奴は悪態を吐こうとする。

 

一瞬の事。

奴が悪態を言い終わるまでには、仮面野郎はもう片方の腕で俺の手を払うだろう。

だからこそ、奴が『力を入れた瞬間』を利用する。

反発するように掴んでいた腕を、仮面野郎が力を込めていた方向に合わせるように引っ張る。

急に予期せぬ方向に、力を入れていた方向に引っ張られた事で、容易に奴の身体は動いた。

仮面野郎の力による手助けを得ながら、俺は。

 

 

跳ぶように、ありったけの力を込めて、その身を大きく捻った。

 

「”──は?”」

 

空中へ引き寄せられるように浮く、俺と奴の身体。

グルグルと宙を回転しながら。

無防備な身体を晒しながら。

仮面野郎は、顔から地面に叩きつけられた。

 

「”がふっ!!”」

 

くぐもった奴の呻き声を聞きながら、俺は足と手を使って、地面にぶつかる前に着地する。

そのクラウチングスタート擬きの拙い姿勢から、すぐさま全力で奴の眼前へと駆け出した。

 

「……”っ、クソ──”」

 

受けた衝撃で意識が朦朧としているのか。

手間取りながらも、奴は上半身を両手を使って僅かに起こす。

その頭部(急所)

顎下であろう部分目掛けて。

 

「”──ぎっ!!!??”」

 

駆けた勢いすら腕に乗せ。

地面に手の甲が削られるのも厭わず。

奴の顎へと、下から拳を打ち付けた。

 

──アッパーカット。

仮面野郎の頭部ごと振り上げた拳によって、奴はバク転途中かのように勢い良く仰け反る。

その勢いによって、後頭部を地面に叩きつけられ。

大の字にひっくり返ったまま、奴の身体は動きを止め。

辺りは、今までの争いが嘘のように静寂に戻っていった。

 

……いや、マジでしんどかった。

無策で飛び込んだとはいえ、行き当たりばったりが過ぎた。

恰好良く戦えるキャラとか、心底羨ましい。

そんな贅沢言ってる訳にもいかないんだけれど。

というか、俺の立ち位置的に本来そういうの要らない筈なんだけど。

 

兎に角、過程はどうあれ暴れん坊二人を倒せたのは事実だ。しかも、喧嘩する前に先制攻撃で一人の意識を沈められたのは大きい。

二対一とか絶対タコ殴りされる。

 

そういう訳で、俺が先制攻撃した方の仮面野郎も確認する。

まだ伸びてるなら都合が良いが、意識を取り戻そうものなら──

 

 

ヒュンッ

 

 

──振り返った刹那。

銀白に光る軌跡が、風音と共に。

俺の眼前に迫っていた。

 

「──ッ!!??」

 

──咄嗟だった。

避けなければ、なんて頭にあった訳がなく。

攻撃された瞬間よりも、その刃を視認したのが早かった事。

突然の眩いナニカが迫る事に驚いた事。

それ等が重なり、躱せたのは幸運だった。

 

だから、頬から伝う液体の感触と。

走るように刺さる痛みだって、運が良かった故の結果と言える。

……痛いは痛いが、それでもだ。

 

付けられた切り傷を確認するのも惜しんで、斬りつけてきた野郎から、視線を外さないよう心掛ける。

 

ナイフを振るってきたのは、最初に蹴り飛ばした仮面野郎だった。

あの時の蹴りで壊れたのか、顔の半分が仮面の奥から露出している。

肩を揺らすようにぜいぜいと息を荒くしつつも、破損した部分から見えるその片目は、獰猛な獣のように血走っていた。

 

「”……ろす”」

「えっ──」

 

突然の、奴の呟き。

聞き取れない程のか細い声に、俺は間抜けな声しか出せず。

充血した目をこちらに向けていた仮面割れは、その目をかっと見開くと同時に。

再度、俺へとナイフを突き立てた。

 

「──っ!!」

 

再開された攻撃。

息を呑みながらも、それらへの回避に集中する。

横への薙ぎ払いには、身体を逸して刃先を避け。

斜め下からの振り上げには、身を屈めて軌道から逃れる。

間髪入れず、奴はナイフを回転するように持ち替え、振り下ろし。

それを、裏拳を奴の腕に当てるようにして跳ね除ける。

 

……文字だけにすれば簡単にやってるようだが、はっきり言って全てギリギリだ。

あのビリビリ棍棒を大きく振り回してた奴とは違い、ナイフ野郎は得物のサイズが小さいの相まって、動きが非常に早いし、視認も難しい。

アレでも避けるのに精一杯だったってのに、こんなん回避だけなら……なんて言えるレベルじゃない。

マジで集中力切れたら死ぬ。殺される。

あのナイフでバッサリ捌かれる。

ホントもう、なんで急にバトル漫画みてぇな死の危険性ありの状況やらされてんのかな今更だけど!!

 

弾かれた反動を利用して、奴は回転しながら俺から距離を取る。

そして、それをこちらが確認する暇も与えないとばかりに。

瞬く間に奴は俺へと、ナイフを真っ直ぐ突き立てる……!

 

「……ぐっ!!」

 

一瞬の、得物による煌めきが迫る。

それがこちらへと。

眼前へと。

一直線に刺突される。

 

──寒気と共に、手が勝手に動いたのは、反射的と言ってよかった。

掌底などという技術とは程遠い、反射的な叩き。

それが迫る奴の腕を弾き、軌道を此方からずらせたのは、これまた幸運だったかもしれない。

勿論、後の事なんて考えていない。

咄嗟の行動。ノープラン。

防いだから終わり、ではない。

寧ろここからどうにしかしなければならない。

 

だから、少しでも速く、この状況をどうにしかしようと足りない頭を動かして。

目に映る情報の少しでも、何か手掛かりがないかと目を巡らせて。

 

奴の、窃笑(せっしょう)を含んだ瞳と視線が交わった。

 

 

ガッ!!

 

 

「ぐッ──!!??」

 

突然の、喉元への衝撃。

 

その衝撃になす術無く、圧されるまま壁へと押し付けられた。

急な奇襲に、頭が追い付かないながらも、視線を首の方へと向ける。

 

弾いた筈の、奴の腕。

ナイフを持っていた右腕が、押し潰さんばかりに、こちらの首を圧迫している光景と。

そのナイフが、奴の手元から離れ、落ちていく光景。

 

──そして。

空いた左手。

ナイフを持っていなかった方の手が、落ちていく得物を掴み取り。

俺目掛けて、その凶器の先端を突き立てようとする瞬間だった。

 

「────!!」

 

それが視界に入ったと同時に、体が動いていた。

こうしなければ危ない、なんて賢い事を悠長に考えられてた訳もなく。

仮面割れが振りかぶったナイフ。

それを掴むように此方の右手をかざして。

 

 

グシュッ……!!

 

 

受け止めたと共に、激痛と。

指と指の狭間に刺し込まれた刃物、赤くぬらりと汚れていく切っ先が見えた。

 

「ズッ──ぐッ──!!」

 

傷は浅い筈だが、それでも想像以上に鋭い痛みが指間腔(指の合間)に走る。

よく漫画やアニメで敵の攻撃を自分の体を犠牲にして防ぐシーンを見るが、マジでようやるわと改めて実感した。

なんで涼しい顔とかニヤリとか出来んだよ。こっちは歯ァ食い縛って耐えるので精一杯やぞ。

 

その間にも、奴の刃先はフルフルと震えながらも俺を貫こうと接近してくる。

まるで目玉を抉り抜かんと言わんばかりに、切っ先が眼前に迫っていく。

先端恐怖症じゃなくて心底良かったと思う。

首をちょいと動かしたら目に刺さりそうな距離って普通の人間でも本当に怖いもんなんだなって。

泣くって。

発症してたら発狂するって。

 

それを痛みやら傷やらで感覚が鈍くなってきた右手で受け止め続けるのは、それはもう堪える訳で。

何だったら、首絞めの方もちっとも緩くならないので、ビクともしねぇ奴の腕を左手で掴んで息と意識を確保するのも一苦労な訳で。

そんなこんなで俺の両手は大忙しな訳で。

 

詰んでんな、これ?

というか苦し過ぎて頭ボーッとすんだけど。

失神間近かしら、これ……!

 

「”──……”」

「ッ……?」

 

と。

気を失いそうなせいで絶望する暇もない中、奴によるドスの効いた呟きが耳に入った。

そういえばコイツ、さっきと言い、攻撃を仕掛けて来た時と言い、ボソボソと小さい声を出していたが。

不思議に思い、奴の方へ辛うじて視線を移す。

そこには割れた仮面から狂笑と憤怒の炎を孕む血走った目が、こちらを射刺さんと凝視してくる。

その仮面の奥から、耳を済ませてやっと聞き取れる程度の囁き、いや独り言が放たれていた。

 

 

 

「”──……ろすコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロ──”」

 

 

……うーわ。

呪詛吐いてるよコイツ。

引くわ。マジでこんな『殺すコール』する奴居んのか。

フィクションの世界だけと思ってた。

イタいだけだって、それ。

 

いや、でもそんなに怒る事した……したね、うん。

蹴りましたね。

そこは本当に申し訳ありません。

時と場合によっちゃ慰謝料もんでしょう。

 

まぁ、でも。

今、奴がお怒りムーヴで頭一杯なのは。

(すこぶ)る、此方にとって都合が良い。

 

 

「”コロスコロスコロスコロスコロ──ガッッ!?!?”」

 

ゴンッッ!!

 

息継ぎどうなってんの? と、疑問になるほどにずっと呪詛を吐いていた奴の口が、止まった。

代わりに放たれたのは、予想だにしなかった激痛から驚愕を含んだ呻き声。

 

さて。

今確かに私めは首を奴の腕で圧迫され、少しでも緩めようと無駄な足掻きをしております。

更には目ん玉目掛けてナイフを突き立てられて、それを防いでる状態です。

つまり、上半身はなーんにも出来ない訳ですね。

()()()は。

 

……コイツの頭にも血が昇ってたお陰で、また命拾いした。

下半身。

足の甲。

人体の急所の一つ、なんて言われてる場所。

そんなガラ空きになった所に、すんなりこちらの踵で打撃を与えられたのだから。

 

捩じるように叩き込んだ踵落とし。

突然の痛みに、仮面割れは一瞬蹌踉(よろ)めく。

首を締めていた腕の力は緩み、ナイフを持っていた手の力は弱まる。

ただ、それでも振り払える程弱まってる訳じゃない。

 

そんなもん百も承知。

そもそも上半身の方は諦めてる。

だから。

 

奴の下半身。

もう一つの急所。

心臓をぶら下げているようなもの、なんて有名な漫画が言ってたような場所。

ご存知、男性器。

 

それを、踵落としをした左足。

その膝で蹴り上げる──!!

 

 

ドムッ!!

 

「”ギッ………!!??”」

 

僅かに浮く仮面割れの身体。

こちらと奴との間は、少しだけとはいえ広がり。

奴の両腕からの力は完全に薄れた。

かと言って、直ぐ様振り解けるかは微妙だ。

奴にも、体勢を整える時間を与えかねない。

ならば、このまま畳み掛ける!

 

金的をかました膝を引き。

全体重を乗せるように。

 

 

「ドラァ!!!」

 

奴の身体に、渾身の膝蹴りを叩き込む!!

 

 

──ダァン!!!

 

「”がぁッッ!!”」

 

路地裏を挟む建物の壁に大の字で叩き付けられ、悲鳴を上げる仮面割れ。

そのまま気を失ってくれたら良かったが、そうもいかず。

蹌踉めきバランスを崩しそうになりながらも、奴は両足で踏ん張って意識を保っていた。

 

「ケホッ! コホッ! コホッ……ッ!」

 

一方こちらも、(ようや)く解放された喉を抑えながら咳き込む。

 

そして、喉が落ち着くと共に。

仮面割れが吹き飛んでも尚、離れてくれなかった置き土産。

俺の左手に刺さりっ放しになった、血塗れのナイフをもぎ取り、そのまま投げ捨てた。

本当は取らない方が良いかもしれないが、正直自分じゃこの痛みに耐えられそうにない。

……取ってもズキズキ痛むのは変わらないし、血もドクドク流れているけれど、刺さってる状態よりかは精神的に言えばマシだ。

 

ホント、やっぱ傷だらけになっても闘志とか正気とか保てる物語の主人公ってスゲーですわ。

こっちはたった一センチくらい指の合間を刺されたくらいで、手の半分割かれたのかと思う程に痛いってのに。

ジンジンどころかズキズキした痛みで意識遠退きそう。

頭も何でかすっごく怠い。

これが一人の状況だったら絶対泣き喚いてパニクってる。

 

「”……チッ、クソッ……!”」

 

とはいえ。

泣いてる暇も、気を失ってる暇も無い。

仮面割れは震える脚を鼓舞して立ち上がり、()り足のように此方に近付いて来ているのだから。

割れた仮面から覗く目は、今まで以上に怒りに燃えている。

いや、これはもう殺意というべきか。

先程よりも大きなドス黒い感情が、その瞳にメラメラと映し出されていた。

 

「”テッ……メェ……!! ”よくもッ……!!”」

「…………」

「”……コロス……ゼッテェ、ぶっ殺して──”」

 

「御愁傷様」

 

「”や─────は?”」

 

奴の感情の全てを乗せた殺害予告を、割り込む形で切り捨てる。

嘲笑う訳でもなく。

憐れむ訳でもなく。

ただ、淡々と。

事実を告げるように。

 

……単に、感情の脚色出来るような余裕が無いだけ、とも言うけど。

 

突然の俺の言葉に理解出来ず、奴の瞳は怒りから困惑に変わる。

同時に──

 

 

バヂヂヂヂヂッ!!

 

 

──仮面割れの背後から、青白い閃光が弾けた。

 

「”─────”」

 

仮面割れは目を見開き、その身体は閃光から逃れようとするかの如く仰け反る。

しかし、うなじに押し付けられているであろう光から逃れる事は出来ず、奴は悲鳴すらもあげられず。

見開いた目の瞳孔は、ぐるんと上を向き。

 

……そして、閃光が止んだと同時に、仮面割れはゆっくりと膝をつき、そのまま前のめりに地に伏した。

 

「…………ふぅ」

 

事の顛末を、俺は一息つきながら見守る。

血だらけの痛くて堪らない手を抑え、壁に寄りかかりながら。

視線を、仮面割れを倒した雷光の方へと向ける。

そこには、避けるのに必死になっていた、飛ばした筈のスタンロッド。

そして、その凶器を持っているのは。

 

「……ハァ……ハァ……」

 

壁に手をつきながら、息を荒くする、ボロボロのYシャツ姿の男性。

仮面野郎達に襲われていたであろう、被害者。

俺を助けてくれたのは、俺が助けるべきだった筈のサラリーマンさんだった。

 

「……すんません、助かりました」

 

そう言って、俺は命の恩人に頭を下げる。

 

……いやほんと、情けない。

ダサ過ぎる。

頭の可笑しい乱入をしてまで恰好つけといて、その結果が他人頼みとは。

 

首絞められてた時に揺らっとサラリーマンさんが立ち上がり、スタンロッドを掴んでるのが視界の端に映ったとはいえ。

期待通りに動いてくれるかの賭けだった。

悪く言えば、丸投げしていた。

 

あぁ、ホント物語の主人公達ってすげぇんだなぁ。

ちゃんと決めるとこ決めるもん。取りを飾る! みたいなさ。

俺、結局他力本願じゃん。

肩透かしも良いとこよ。

あー、せめて格好良い台詞吐いて締めたかったぁ……。

 

勝手に自己嫌悪と馬鹿げた妄想に浸ってる中、サラリーマンさんは疲れた様子ながらも苦笑いする。

……失礼なのは重々承知だが、何だか外国人さんっぽい顔つきだが、それにしては特徴が無い……というか。

何だろう、覚えにくい顔してるなーと。

間違っても本人には言わんけど。

 

「いや、こっちの台詞なんだけど……。それよりキミ、何かやってた?」

「え?」

 

急に来た変な質問に、思わず疑問符が出る。

何か……って、なんです?

 

「やってた、って言いますと?」

「えっと、その。キミ、何だか動きが慣れてたから、体術とか習ってたのかな、って……」

「……あー」

 

そういう事か。

いや、動けてたと言っても、大したものじゃなかった筈だ。

プロはやっぱ凄い。

いや、真似する気も出来る気もしねぇけど。

 

つってもなぁ。

正直に言って、引かれたりしないだろうか。

 

「……笑わず、かつ呆れないで貰えるのなら、言えますけども」

「うん」

「…………ゲームで、覚えまして」

「……………………うん?」

 

聞き間違いか? みたいな顔をしながらサラリーマンさんは此方をガン見してくる。

うん、分かる。そういう反応するよね。

コイツ舐めてんのか? 運動とか舐めてんのか? と思われても仕方ない。

 

でも本当なんです。

子供がアニメとか見てチャンバラやごっこ遊びするようなもんです。

ゲームとかになると物覚えが良くなるみたいな特技あるとか俺こいてたじゃないですか。

それの応用版みたいなもんです。

勿論、人間が鍛えれば出来る範囲であり、それも劣化版と言うのも烏滸がましい代物だ。

動きを完璧に再現するなんて土台無理だし、ビームとか人外染みた動きなんざ出せる訳ねぇ。

でも一般人との喧嘩とかなら結構良い線いくんですよ、これ。

流石に今回みたいな危なそうな奴等との殺し合いみたいのでは全く歯が立たなかったけど。

分かっていたつもりだったけど、改めて現実突き付けられると凹むわ。

中途半端過ぎんねん、色々と。

俺の性格に合わせんでくれ。

俺だって格好良い活躍したい思春期の年頃なんです。

中身おっさんだけど。

 

「……本気?」

「あい。ほら、家に押し入った強盗を撃退出来たお婆さんの話とかあるじゃないですか。テレビの空手番組を覚えてて実践したら上手くいった、みたいな。ああいうノリです」

「えぇ……」

 

ルーマニアの話、だっけ?

確か75歳のお婆さんが30歳の強盗の男をテレビで見た護身術を試して取り押さえた、みたいな話。

前世で見たニュースだが、この世界でも同じような事は起こってたらしく。

あそこまでは凄くはないが、俺だって似たような話の筈。

似たような話であって欲しい。

あのお婆さんの武勇伝に俺も(あやか)りたい。

 

サラリーマンさんはというと、完全にドン引いてらっしゃる。

ナギサ達にも似たような反応されたっけ。

イヤイヤイヤ、無理無理無理、みたいな。

うるへー。君達なんか、俺よりも百倍凄い動きを後々する事になるんやぞ。

こっちはゲームの猿真似、ナギサ達はゲームそのものの動きやぞ。

天と地の差、月とスッポン。

メインキャラとやられ役みたいなもんである。

自分で言ってて惨めになってきた。

 

「ま、まぁ……。君の変わった特技で助かったのは事実だしね。有難う」

「いえ、ですから助けて貰ったのはこっちの方なんで。なんか、身の丈に合わない褒められ方されるとむず痒いっス」

「ははは……」

 

俺の情けない返答に、力無く笑うサラリーマンさん。

その顔は困惑と珍妙な物を前にするよな笑みが現れていている。

ただ、額や頬には、じっとりとした汗が大きな粒となって浮き出て──

 

「──って、ちょっ!?」

 

一瞬。

サラリーマンさんの笑みがフッと消えたかと思うと、そのまま電源が切れたかのように彼の体は前のめりに倒れそうになった。

 

慌てて、その体を支えようと前に出て、彼の身体を抱えた瞬間、本来無いはずであろう激痛が衝撃と共に手に伝わる。

 

「……ッ」

 

……考え無しで怪我をしている方の腕で抱えてしまった。

痛みで顔は歪むが、そんな事よりも。

 

「大丈夫ですか!?」

「…………」

 

直ぐ様、彼の様態を確認するが、返ってきたのは声ではなく、首の動きによる返答だった。

声が出せないのであろう。俺の言葉にコクコクと頷く彼は、とても大丈夫そうには見えない。

 

「しばらくジッとしてましょう。多分、もうすぐ警察が来てくれます。それまでは──」

「……! ……!」

 

突然、慌てたように彼は頭を横に振る。

息はまだ荒く、声を出すのもやっとの筈であろうに、彼はまるで懇願するかのように言葉を絞り出した。

 

「警察は……駄目……」

「はぁ!?」

 

警察!? 駄目!?

なんで!?

寧ろこういう状況ならすぐにでも来てほしい人達では!?

 

理解が追いつかない此方を余所に、まさかのサラリーマンさんは動くのも大変だろうに、俺の腕から力無く離れようとしている…………って、は!?!?

 

「いや、ちょっ!? 何してんスか!?」

「…………」

「あぁもう、ジッとしてて言うとる! 動くのもやっとじゃないっスか!」

「だい……じょうぶ。しんぱ……ハァ……ハァ……しないで……」

「大丈夫じゃない時のテンプレ吐かない! ほら、息も切れてるし! 動いちゃ駄目ですって!」

 

ゼェハァゼェハァ言ってるサラリーマンさんはそれでも俺の言葉を聞き入れず、少しでも早くこの場から離れようと躍起になっている。

 

えぇ……?

もしかして、この人も仮面野郎達みたいな警察にお世話されちゃう系の人なの?

だから逃げようとしてんの?

犯罪とか免罪とかそういうノリ?

何かとんでもないイベントに巻き込まれた? 俺。

 

でも、ここで放っとく訳にもいかないし、でもこの人は警察嫌っぽいし、だからって警察程安全なとこ無いだろ? って話だし、けどこの人は警察と会うのは不味いっぽいし、かと言って無理矢理警察に突き出すなんて真似は気が引けるしぃ……。

 

「あぁ、もう!! 分かりました! そこで動かないで下さいよ!」

 

もうヤダ。

考えるのは止めました。

 

取り敢えず、サラリーマンさんを壁に預けた後、自身への応急処置として自らの服を割くように破く。

勿論、充てがうのは指の間を切られダクダク血を流してる左手だ。

それをグルグルとキツく巻いて縛りあげると、今度は慌てて乗り捨てていた自転車へ向かう。

派手に転ばした我が愛車を急いで立てて、籠から落ちていた荷物を放り込む。

そのまま自転車に跨り、痛む左手に顔を歪めながらも彼の元まで戻ると。

目を丸くしたサラリーマンさんに向かって、俺は声高に叫んだ。

 

「──乗って! 早く!!」

「────」

 

もうどうにでもなーれ! とやけっぱちに叫ぶ俺を見たサラリーマンさんの顔は。

何してんのコイツ? みたいな。

信じられない生き物でも見るかのように、驚いた表情をしながら固まっていた。

 

 

 

 

「……で? どうするよ……」

 

そのまま、サラリーマンさんを後ろに乗せ、迷路のように入り組んだ路地で自転車を走らせて。

サラリーマンさんのか細いながらも、しっかりとしたナビも受けて辿り着いたのは。

 

「……もう、絶対これからの人生でも縁が無い場所やろ、これ……」

 

路地裏に錆びた非常階段を伸ばし。

そこに続くのは無骨な扉が手招きする、完全に存在意義が分からんビジネスホテルだか事務所だかに見える建物でした。

 

……いや、本当ナニコレ? って代物だ。

サラリーマンさんを背負って非常階段を昇り、そのまま中に入ってみるも、建物内は無人。

故に電気は通ってないのか暗く、内装と言える物も無く、壁紙とかも無く天井の鉄骨とかも露わになっている。

 

聞いた事はあるが居抜き物件、もしくはスケルトン物件、という奴だろうか。

ホラー作品とか肝試しにはピッタリの舞台だ。

 

「……ここ」

 

そんな中で、サラリーマンさんの指示の元、一つの部屋に入る事になった。

 

扉のない一部屋。

中は他の場所と変わらず殺風景。

窓ガラスから覗く都市の光が、唯一の光源で、それはとても心許ない灯りだ。

だが、目を引いたのは僅かにだが人が住んでいる形跡が残されている事だった。

 

セメントレンガを二個ずつ積み上げたものが四つ並び、その上に木の板とタオルがひかれた即席の机。

その机の上には、普通なら粗大ゴミ行きになりそうな年季の入ったカセットコンロ、穴の空いたフライパンに食べかけ……なのか、どう見ても道に生えた雑草を炒めたらしきものが乗っかっている。

見た限り、塩とか調味料のような味付けらしきものはなく、そのまま食べていたようだ。

他には、割引シールの貼られた消費期限が過ぎている惣菜パンやらの小包が空のまま数枚、ビニール袋に入っている。

多分、スーパーとかコンビニで廃棄されていた物だろうか。

 

更には、どうやって持ってきたのか、どうやって見つけたのか。

ボロボロになった折り畳みのマットレスや布団が何枚も重ねてあるそれは、汚れ塗れのタオルケットも置いてあり、ベット兼ソファ代わりになっていそうだった。

 

……完全に関わったらヤバい状況じゃなかろうか。

ホームレスで無かったら、この有様はお尋ね者の潜伏生活のようなもんだ。

そして、サラリーマンさんは警察に対して謎の拒否反応を示している。

 

答えじゃん。

 

「…………はぁぁあ」

 

変なイベントに巻き込まれた事を確信し、思わず長い溜息が洩れる。

ヤバいって。俺なんかやられ役とか噛ませ犬とかすら務められんって。

最悪、死に役で雑に処理される。

嫌やって、俺まだ生きたいって。

このまま何事もなくフェードアウトしたいって。

自分が関係者だと自惚れて結局何も接点無いまま消えるモブの方が万倍マシだって。

今すぐお前無価値な役回りやぞお前、ってネタバラシして下さいよ世界さん。

死ぬとなったら俺は抵抗しますけど。

 

兎に角、サラリーマンさんをおんぶしている状況を何とかしなくては。

彼をベットに下ろすが、顔色は未だ優れず、どこか顔も青白く見える。

脂汗も引いておらず、息も苦しげだ。

 

「……なんか、飯とか水とか買ってきます。他に欲しい物とか、ありますか?」

 

彼にそう告げるが、返ってきたのは沈黙だけだった。

言葉を返すのもシンドいのだろう。意識を保ってるのがやっとの様子だった。

 

側にあるタオルケットを彼に掛けると、俺は荷物を置いてそのまま部屋を後にする。

そして人気の無い空ビルから出て、自転車に戻るまで、頭の中は正直混乱で頭がパンクしそうだった。

 

出来る事ならこのまま逃げたい。

だって警察を嫌うホームレスみたいな生活している人、みたいなヤバい件とこれ以上関わるとか最悪命の危機だ。

後、正直動くのしんどい。

服と身体はボロボロだわ、気付かなかったがなんか泥塗れだわ、完全に不審者の出来上がりである。

 

が、あの状態の彼を見過ごすのは論外。

本当なら病院に連れて行きたいが、彼の様子から見てそれも断るだろう。

一先ず、彼を回復させるのが最優先。

何より、命を助けて貰った恩がある。

それを返さないでこのまま逃げるのは人としてどうか、という話だろう。

 

それに。

 

「……ナギサ達への連絡もあるしなぁ」

 

タカヒロに無我夢中で押し付けた、今や俺の手元にない携帯電話。

通話手段が無くなった俺にとっては、それを探すのも重要だ。

つまり、食料を調達出来て、尚且つ公衆電話が有りそうなコンビニ辺りが狙い所、なんだけど……。

 

「……あるかなぁ、公衆電話」

 

自転車に再度跨りながら、ズキズキと痛む手も相俟って。

思わず、深い深い溜息が出た。

 

 

 

あの変なビルがある路地裏から街並みに出た時。

思ったのはただひたすら、眩い、という感情だった。

 

高御巣(たかみす)町。

ネオンライトだの何だの、光る看板がよく映えるこの街は、まさに夜にこそ活気を増す派手な場所だ。

居酒屋やバブ、スナックバー等の飲み屋、ネットカフェや様々なホテル、キャバクラやホストクラブ等のナイトスポットが目につく、大人が練り歩く街であり。

昼に飯食いに行くとか買物しに行くなら兎も角、夜に高校生が出歩く場所としては不適切な街。

 

こんな所を夜中に少年少女が歩こうもんなら、如何わしい商売に手を出してるか、若しくはキナ臭い案件に巻き込まれたか、それともヤンチャな憧れか、どっちにしろ補導されるのが目に見えている。

それでも、この街を夜中に闊歩したい若者は少なくないようで、彼等の目的はライブハウスやらダンススタジオやらアイドルやら。

そこら辺は分からんでもないのだが、よく上がる問題はここに居着いてる若者達だ。

家庭環境に問題がある、普段の生活が生き辛い、拠り所が無くない、場に馴染めないといった色々な訳ありの人間が路上に集まり、交流所として使用している。

 

どうやら俺が子供の頃からその件は問題視されており、正直、別次元感が否めない。

かと言って彼等にとっては楽しいから、類は友を呼ぶというように感性が合うからと集まる憩いの場でもあり。

しかしだからと言って放置など言語道断、と日夜警備員さん達が見回りする羽目になったり。

最近じゃメディアが話題作りで『居場所の無い者の駆け込み寺』みたいに取り上げられて、そのキャッチフレーズに釣られてカジュアルに来る子も多くなったとか。

推し活だけに人生捧ぐ子とか。

小学生とか。

 

サスラさんが務める施設の方も、どうにか出来ないか四苦八苦してるが、結果は芳しくない。

補導されても何食わぬ顔で直ぐに溜まり場に戻る彼等にとって、大人の干渉やルールの縛り付け、上下関係というものは煩わしい物らしく、彼等を思う行動もそれが彼等に響く事は滅多に無い。

それはサスラさん達に対しても例外無く、漫画にあるような誠意を持って接する事で心を開く、なんて上手い話が起きる程、都合の良い方へとは進まない。

結果、昼間の清掃のボランティアや炊き込み、相談に乗るといった事が精々で、希望者が居れば寝泊まりの場を設けたり保護の受け入れをする。

当然、危ない事に巻き込まれないよう施設側は目を光らせたり、夜の外出を控えさせるので、それを嫌う者が多い故に希望者の集まりも少ないときた。

強いて挙げるなら、本当に人生の瀬戸際に立たされて、自力でSOSを出す気力も無い子供くらいだろうか。

それもまた、難しい話でもあるのだが。

 

一応この街は、闇金とかヤのつく怖い人とか薬売るような阿呆は居ないとはいえ、だから悪人が居ない、という訳ではない。

悪い大人は耳障りが良く甘い言葉で子供を利用するもんなのである。

最悪、彼等がその悪い大人になる可能性だってあるのだ。

前世と違って飲酒や喫煙等といった迷惑行為は聞かないが、あくまで外野の自分が知らないだけかもしれない。そして、その外野ですら、身売りしている少女といった風紀の問題を耳にする時点で頭が痛くなる。

 

なんちゅーややこしい問題抱えてんの、高御巣町。

ここまで作り込む必要ある? そういう趣味か、そういう世界で生きてたんですか、クリエイターさん。

現実よりかは生温いかもしれないが、それでも前世の頃は対岸の出来事のような光景を直に目にするのは、俺の感性では刺激が強過ぎる。

 

そんなこんなでも現実の夜の街に比べたらまだ比較的マシ……かどうかは分からないこの街で。

食べ物やら飲料をある程度買い漁さり、コンビニでは見ないであろう大きなビニール袋を持って店から出た俺は、しかし途方に暮れていた。

 

勿論、買い過ぎてしまった、なんて事ではない。

 

「……やっぱ無いやん……」

 

そう。

物によって色や形は様々だが、大抵は緑色の四角い電話箱。

それを囲む透明なボックス。

あの公衆電話が、コンビニはおろか、街の何処にも無いのである。

 

確かに、前世でも公衆電話が減っている、って話は有名だった。

それでも、間違ってなければ市街地じゃ五百メートル圏内に、そうでなくとも一キロメートル内に必ず一台設置する義務がある、という話だった筈だ。

 

なのだが、無い。

市役所の人達が何をトチ狂ったのか、それともゲームを作った開発者さんが公衆電話に対して必要性を感じなかったとかそういうメタ的な理由なのか何なのか、兎に角無い。

 

何でやねん。

おかしいやろ。

リアリティ無いと思います。

実際困る事もあるでしょうが。単なる俺の我儘だけど。

 

そして、だからと言ってこの街を念入りに探す訳にもいかない。

こんな所を警備員さんに見つかったら御用は確実だ。

見た目は若いガキが、傷だらけで、夜中に歩いている。

完全に事件である。話を聞くに決まってる。

何度も一緒にボランティアで清掃活動してるので最悪、顔見知りの警備員さんに会ったら死ぬ。

もう収集がつかなくなる。

寧ろ会って協力を仰ぐべきかもしれないが、サラリーマンさんの事もある。

今、バッタリ出くわすのは出来るだけ避けたい。

 

無駄に作り込んでる原作じゃ使われもしなさそうな裏設定が反映された夜の街と、俺のヘンテコな現状が負のご都合展開かましてきやがる。

なんでこうなった、ちくしょう。

自分のせいだね、こんちくしょう。

 

「……仕方ない」

 

グチグチ文句言ってても始まらない。

兎にも角にも、食料は確保出来た。

軟膏やら包帯もあったのは僥倖だ。

ちょっとコンビニを拡大解釈してねぇかと思うが、利用するこっちからしたら『何でもある』ってのは便利に越した事は無い。

 

店員さんビックリしてたな。

顔に生傷ある汚いガキが夜中に食べ物大量に買って来たんだもの。

しかも片手は血だらけの即席包帯してるというオマケ付き。

俺だってビビるわ。絶対関わりたくない。

違うんです、決して怪しい者じゃないんです、違うんですと必死に弁明をした。

多分余計にビビらせただけだったと思う。

 

あぁもう、本当になんでこうなった。

全部俺のせいだよ、くそぉ。

誰にも八つ当たり出来ねぇ。

自分の計画性の無さが憎い。

 

我が身の愚かさを呪いながら、周囲の目につかぬように自転車を走らせる。

あぁ、街並みが眩いよぅ。

色んな人達が沢山歩いてるよぅ。

背広のおじさんやバックを背負った若い人とか、外人さんやお洒落した女性とか、女装したおじさんとか色んな人種が盛り沢山だよぅ。最後の何?

 

なんか今日も髪染めた子供達とか、俺より若そうな子とか、胸元曝け出した厳つい風貌の兄ちゃんとかたむろってる。

あと、地雷? ぴえん系か量産型だっけ? 可愛い服着た綺麗な女の子達もいる。

スゲェな、アイドルみてぇ。

 

警備員さんも遠くではあるがチラホラおる。

離れているのもあってか、皆、子供達に目を配らせて此方には気付いていな様子だ。

人通りが多いのもあるのだろう。

このまま何とかこっちに視線が来ませんように! と祈りながら、俺はキコキコ自転車を漕いでゆく。

 

──そんなこんなしてると。

 

「……あ」

 

思わず、自転車を漕ぐ足が止まった。

警備員さんに見つかった訳ではない。

俺は、あるものに目を留めていた。

 

視線の先。

活気ある最先端の街の中で、少し時代錯誤にも感じる小さな屋台。

周りにはスマホを弄ってる人や様子を眺めてる人もいて、それは冷やかしではなく()()が出来上がるのを待っている客だというのは、屋台のお婆さんの声掛けに応じ、商品を受け取っていく様子で分かった。

 

その様子を見て、少し躊躇い。

しかし、意を決して。

されど、周囲の視線を気にしつつも、俺はその屋台へと向かった。

 

 

 

 

「──遅くなっちった」

 

コンビニで買った食料を入れたビニール袋に加えて、ホカホカに温かい小さな袋を手に俺はサラリーマンさんの隠れ家に着いていた。

 

思い付きの物であるが、きっと喜ぶに違いない。

 

たこ焼き。

 

神産巣日町でも屋台を出しているお婆さんによって作られた、八個三百円の代物だ。

トロトロした生地とソースも絶品でしてね。

我が月読高校の学生の間でも、放課後のおやつの一つとかで人気だったりする。

俺もちょくちょく買ったりする人間の一人です。

 

特に、あのサラリーマンさんの風貌からして、食い付いてくれるのではという甘い期待もあった。

 

……お婆さんに、俺の様子に驚かれた時は、マジで焦ったが。

兎に角、静かにして貰うようお願いして、たこ焼きを二箱買ったのだが。

サービスという事で二個分追加を一箱ずつして貰ったのは、感謝してもしきれない。

その分値段を払うと言っても大丈夫! 大丈夫! と押し切られてしまい、申し訳なく思いつつも有難く頂戴した。

 

いやぁ、人の優しさが暖かい。

甘え過ぎとも言う。

何だろうね、百合に挟まる事さえしなければ世界の暖かみを享受させよう、という世界様からの有り難いお恵みなんですかね。

端っからそんなもん興味ねぇし、そもそも百合見ても愛好家様みたく尊いとか思わん分らず屋なんで今すぐにでもナギサ達とは関係無い一般ピーポー役に変更してくれませんか?

誰得なんだよ、俺の立ち位置。踏台役だっつってんだろ! と言われても断固拒否しますよ?

俺の我が身の可愛さ具合舐めんなよ?

自己愛の塊やぞ?

ナルキッソス君もドン引きぞ?

おしゃべりエコーさんも口閉じて冷たい目を送るぞ?

 

頭の中で世界様に文句を垂れつつも、暗いビルの中を進んでいく。

目的の場所に着いた所で、俺は入口に入るついでにサラリーマンさんに声をかけた。

 

「遅くなってすいません。今、戻りまし──」

 

そう、言いかけた所で。

中の異変に、やっと気づいた。

ボロボロになったマットレスを積み重ねたベット。

そこに横になっている筈のサラリーマンさんが、消えたかのように居なくなっていた。

 

「あれ……?」

 

思わず、入口前で様子を伺う。

もう暗くなっているのも合わさって、本当にお化け屋敷に入ったかのような緊張感だ。

 

「……あのー……?」

 

おずおずと呼び掛けるが返事は帰って来ず。

どうすれば良いのか分からなくなってしまった。

 

……折角、買って来たしなぁ。

一先ず、テーブルにビニール袋置いて、退散するべきなのか。

何なら、書き置きも残すべきか。幸い、バックには筆記用具くらいならある。要らない紙でも使って、買ってきた商品の内容と無理をしないようにと注意書きでも書いといた方が良いのかもしれない。

そう思い、部屋へと足を運ぶ。

 

 

瞬間。

いきなり、俺の身体は後ろに引っ張られた。

 

「!!??」

 

何が起こったのか理解出来ず、されるがままに引き寄せられる。

入口付近の部屋の角隅。

そこに連れ込まれたと同時に、首元に何か冷たく細いものが押し付けられた。

その感触に、一瞬ゾワリと悪寒が走る。

反射的に、その首に当てられた何かを確認しようと首を動かそうとして。

 

「──”動くな”」

 

即座に後方から放たれた、低く太い声が俺の動きを静止させた。

 

あの仮面野郎達と同じ言語。

前世の時とは別の名前となった国、いや、前世の面影を残しつつ、しかし面積も風習も変わってしまった国の言語を。

 

だが、俺はその声の主に聞き覚えがあった。

なんだったら、ここに出る前に聞いた声だったのだから。

 

その人は、あの仮面野郎達の力には到底及ばない程のか弱い力で俺のを身体を固め。

刃物か何か、俺の首に当てた物を持つその手は維持するのもやっとなのか、何処となく震えていて。

後ろから聞こえる息遣いは、如何にも苦しそうに荒く。

しかし、それを悟られぬようにと、声は凄みを保ちながら。

 

「”動いたら──その喉を掻き切る”」

 

そう脅しをかける、その人は。

 

 

仮面野郎達に襲われ、そして俺を助けてくれた筈の。

サラリーマンさん、その人だった。

 





人生でなんやかんやあって色々とゴタゴタしてとってもアタフタしながら生きてました
上記の内容には嘘がありますが私も興味無いので鼻で笑いながら鼻糞でも投げてやってください
石とかは痛いので優しく投げてください
もしくはクリームパイ
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