美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!? 作:伸縮大王
物事というのは、如何なる時も原則、法則、ルールといったモノが設けられている。……らしい。
そして如何なる時も、例外というのは存在する。……だとか。
そして、それは決して突然変異のイレギュラーとか、ルールをぶち壊す異分子とかそういうロマンめいた話でなく。
単にルールが当て嵌まらなかったもの、つまり物事から外れた有象無象こそが殆どだ。
デザイアノーツもそうだ。
美少女だけが主役のこのゲームは、男の主演キャラなど当然いない。
勿論、彼女達に粉をかける男や好意を抱かれる男もとんと居らず。
現実世界では「男は家族以外この世界におらんのか?」ってくらい、男のおの字も見えない。
メインの夢世界では男も登場するが、彼女達をそういう目線で見ている人は、仲間みたいなサブキャラにはいたが、結局叶わず仕舞いだ。
時には味方キャラの男を念入りに退場させてくる辺りは、嫌に徹底してんなとプレイしながら思ったものだ。
特に敵側の男は中々の曲者揃いだ。個人的に格好いい敵もいるが、何というか「これは女性の敵だなぁ」みたいな奴もいる。所謂、踏み台って奴なのだろう。
情欲、というより支配欲? を向ける男なんて敵一択だ。そういう奴ほど、百合を育てる良い肥料になるんだって。人食い花かよ。
まぁ、そういうのもあって。
男の描写は例えあったとしても、ヒロイン達に深く関わる描写は原作に無い。
少なくとも、ヒロイン側が好意を寄せる男などいない、と断言していい。
しかし、言い換えれば。
やっぱり、例えファクションだろうとこの世界も人が生きているのであり、ヒロイン達との可能性を産まないというだけで世界に許された
「よーす、色男! 今日は幼馴染二人に腕組ませてたんだって? そんな面白イベント、なんで教えてくんないだよー!」
「許して」
「いや、そこは誰が色男だー、とか突っ込めよ……」
そう、例えば。
登校という名の引き回しの刑を終えた俺に向かって、地雷原を踏み荒らすような発言かましやがる彼。
秋山 ケンタのように。
当然、コイツがタップダンスしている地雷とは俺のではなく世界であり、その爆発の被害者こそ俺だ。
「痛い、胃が痛い……。幸せと恐怖でシェイクされとる……」
「おーおー、贅沢な悩みやのう、君」
「うるせー勝ち組。黙れ勝ち組。なんでお前はそんな人生勝ち組なん? どこで徳積んだか教えて?」
「ブーメランで自爆したいのお前?」
呆れるように言うがな、ケンタくん。お前の思う勝ち組と、俺の言う勝ち組は違うんだよ。
この、恋愛ゲーならよく見かけそうな友達枠っぽい男。コイツ、彼女持ちである。
恋人になって結構長いそうで、中学校からの付き合いだという。何なら小学校からの幼馴染だ。
良いね、純愛じゃん。コイツ彼女にベタ惚れだし、その彼女にも会わせて貰ったが、ケンタの事を心の底から愛してるのが伝わってほっこりする。
高校生なのに夫婦みたいで微笑ましいね。
末永く爆発すりゃ良いのに。
そう、コイツ。彼女持ちで、彼女も寝取られてないし、多分その危険も未来永劫無い。そんな事起きたら全力で阻止してやる。
それは兎も角、彼は正真正銘、スパダリの勝ち逃げ野郎なのだ。
何故言い切れるか? そんなん至極当然。
ヒロイン達に関わる要素ゼロだからである。原作にはコイツ、名有りで出演してすらもいねぇ。
つまりモブである。
空気である。
シュレディンガーの猫なのである。
少なくとも、デザノーの世界にとっては、モブ達がどうなろうと知った事ではないのだ。ヒロイン達が全てであり、ヒロイン達やその関係者の女の子に、男による毒牙とか被害がなければ、例え他所で三角関係だろうがハーレム築こうがお咎めなしなのであろう。実際、普通に男女のラブコメしてる人達いたからね。
羨ましいね、イージーゲームかよ。
「俺も、お前みたいにモブになりたかった……」
「何だろう。急に失礼な事言うのやめて貰っていいですか」
「俺にとっちゃ救いの単語なんだよ、この分からず屋っ……!」
テメェに分かるか、この恐怖が。
いつ百合の踏み台にされるか分かったもんじゃない。
より地獄に叩き落とす為に入念に、敢えて見逃され、
気分はまさに、現実逃避で幸せな頃を夢想して、首吊られる所で現実に引き戻される死刑囚だ。
息絶える所で全部仕組まれていたと絶望したりしてね。
なんですか?
俺、生きてるだけで罪なのですか?
「へぇへぇ、どうせ分かりませんよーだ。全く、ナギサさん達もこんな馬鹿の何処が良いのかねぇ」
「最後の最後で分からせる為じゃないですか? 身の程を思い知れと」
「煽りに皮肉なのか悲観なのか分かんねぇ事返すのやめろ。どう反応したら良いか分からん」
「悲観ですが?」
「オッケーお前が馬鹿のままで安心した」
「事実言って楽しいか、お?」
なんだ? やんのかこの人生勝ち組。
言っとくが俺は負けるぞ。秒で。
お前には性格も器量も敵わねぇんだよ。何で俺の友達してくれてんだよ神かよ。
土下座して靴ペロペロするぞコラ。
戦わずして敗北を味わっている俺を尻目に、やれやれ。と勝者の風格漂わせて首を振りやがる人生勝ち組。
様になっててムカつくねん。お前恋愛ゲーの主人公かコラ。似合ってるのが余計腹立つんじゃこのイケメンが。
「お前くらいだぞ、そういうネチネチネチネチ訳分かんない事で気持ち悪く悩んでんの」
「それはそう」
「もうちょっとさぁ、ナギサさん達の事大切に思ってんならさぁ。何悩んでんのか知らねぇがさ、男らしく腹くらい括れよ、バーカ」
「まさしくそう」
「もう何なんお前!」
遂に頭抱えちゃったケンタくん。
なんで俺コイツの事好きなの、ねぇ? とか空に向かって文句言っちゃってる。
やだぁ、照れるぜ。
「あーもう無理。もう知らん。付き合ってられん。お前なんかナギサさん達に嫌われてまえ。そしてそのまま干からびてまえ」
「捨てないで!」
「あ゛ーゔっざい!」
そんな事言わないでケンタくん。俺だって自分のヘタレ具合は分かってるつもりだから。
でもね? ケンタくん。君は世界の例外側だから良いとして、俺は百合ゲーヒロインにガッツリ関わってる男なんだよ?
例えて言うなら百合作品がアニメ化した際に、何処の馬の骨とも分からぬ男が急に生えてきて、ヒロインと無駄に絡むんだぜ? 何なら好意とかいう百合愛好家にとって良くない可能性を産んでやがる。
ヘイトどころの話じゃないね。アニメ制作は原作アンチとか、原作レイプとか叩かれそう。炎上どころか黒歴史じゃない?
なんでその役回りを俺がせにゃならんの?
俺別になんかこう、重たかったり悲しかったりな映える設定特に無いよ? 何かそれなりに人生エンジョイしてたよ? 見るも涙な過去で命を断ったとかすらないよ?
一人暮らしだって親と確執あったとかそんなんじゃないからね? 単に仕事する為に上京しただけの詰まらん理由よ? 大晦日とか元旦には実家に帰ってすらいたよ?
転生した理由もショボいよ? 休日前の夜にハマったRPGを始めて、休日の昼まで徹夜やってクリアして、そのまま寝落ちしたら、この世界よ?
そん時デザノーやってすら無かったのに?
これ俺に対する刑罰なの?
幾らだらしない生活してたからって酷過ぎない?
どこにでもいるごく普通とかいう普通って何やねんな奴あるやん? 俺にも前世っていう、『俺には一つだけ違う所が……』要素あるよ?
でもこの世界で、男の癖に前世の知識とか要らんねん。女の子限定の御子になれんから夢世界に行けねぇし。無駄が過ぎるに程がある。
そりゃ人間、本当の普通なんて居やしない。人の人生その人の物語と言うし、知らぬだけで皆色々なドラマを抱えている。自分が知らぬだけで皆特別で、自分の人生の主人公なのだ。
しかし結局、スポットを浴びるのは何かを持ってる人間だ。成し遂げられる人間だ。誰かの上位互換なのだ。
トラウマを抱えてるなら尚グッドだね。それを克服する話というのは古今東西好まれるものだ。
何も華が無い俺はどうしろと? やだよ、百合をより美しくする為の肥料でしかない第二の人生。そういう役回りはさ、百合愛好家さん達にやらせてあげて? 喜んで全うするんじゃないの? 知らんけど。
こちとらデザノーを真に愛してる訳でも、百合に全てを捧げてきた訳でもない。
転生するならハーレムが許された世界が良かった、そんな卑しい男やぞ。
そんな踏み台候補が、俺の事好きと言ってくれてる友人にまで見限られてみろ。
俺もう生きていけないよ。
半べそで離れるケンタの腕に必死にしがみついていたが、敢え無く振り払われる。
ゼーハーゼーハー、と肩で息をしつつ、ケンタは頭を押さえながら疲れた視線を俺に向けてきた。
「大体さぁ、お前。気持ち悪い顔で泣き付いてる間もさ、何か詰まんねぇ事頭の中で並べ立ててたんだろ? そういうとこだよ、お前の悪いとこ」
「それもそう」
「どうせ腕組まれてたって話も、お前のそういう悪い癖見て、心配してなんだろうな? もうちょっとさ、他人の事っつーか周りの事考えろっつーかさ。変な事考えるのは仕方ねーにしても、せめてそういうのは一人の時にやって、ナギサさん達の前では俺ん時みたいに馬鹿やれや」
「俺のこと超見てくれてるじゃん、聖人かよ」
「だからさぁ!」
大声で頭を抱えだすケンタ。分かるぜ、お前の目の前にいる馬鹿にはホトホト疲れるよな。それでも付き合ってくれるとかお前やっぱ最高だよ。
彼女にゾッコンのスパダリはやはり出来る事が違う。
まぁ、でもこればっかりはさ、ヘタレな俺を許してくれ。肥料になって死にとうないんや。
なんか遠い目をしながら「俺、周りからイジられ系のボケ担当って言われてんのになぁ」と呟く人生勝ち組。
え、俺達学生じゃなくて芸人だったん?
急な設定で初耳なんだけど。ツッコミ得意じゃないよ? ボケもだけど。
でも待って? 仮にコンビでなくとも芸人を目指すのなら、このハーレム天国のフリした挟まる男絶対殺すべしマンな世界から見逃されるチャンスでは?
生憎、人を笑わせるセンスも技術も熱意も皆無だが、ナギサ達に嫌われずに離れられる口実が出来るのなら、例え挫折するのが決まった、芸人舐めてる馬鹿にお似合いの結末だとしても、俺は一向に構わん!
善は急げと思わず立ち上がり、腕を真っ直ぐ掲げる。「何してんのお前?」とケンタの引いた目が冷たく刺さってくるが、このビックウェーブに乗るしかない。
まずは特訓だ。
「コントしよう」
「本当に何してんのお前?」
「ショートコント」
「やらんやらんやらん」
「『振られる』」
「エグいエグいエグい」
「あなたから付き合おうって言ったんじゃない……」
「それ見た奴ネットで見た奴、俺が好きな芸人のネタパクんなスベらすな殴るぞ」
「おかしいじゃない。最初、気のある素振りを見せて、付き合おうって言い出したのは貴方じゃない」
「続けんな続けんなてか巻き込んでる! クラスメイト巻き込んでる!! 筋肉くんの筋肉晒すな! 千円渡すな!」
「なのに何で別れを言おうとするの。そんなの納得いかない。私は、貴方と付き合って、」
「眼鏡くんのメガネさらっと奪うな! かけるな! その千円どっから出した!?」
ケンタと一緒に、ダイチくんとマサハルくんに平謝りさせれていた。
流石に悪ノリし過ぎたからね。二人も「な、何が何だか……」って引いてたし。
ゴメンなダイチくん、マサハルくん。でも君の眼鏡が魅力的だったから。君の筋肉が素敵だったから。
「まぁ、人間生きてれば逃げたくなる時もある。だが、今出来る事を全力でやればいいさ。頑張れ、常磐。そして千円は要らんぞ? ちょっとしたホラーだぞ?」
「……えっと、まぁ。あんまり思い詰めないでね、常磐くん。僕も力になるなら手を貸すからさ。あと僕も千円要らないからね? 意味分かんな過ぎて怖いよ?」
なんでか逆に慰めて貰った。
君たち、真の紳士か?
お小遣い増やそうか? あ、駄目?
……結局、渡した千円は返されてしまった。
悲しい。
なんならケンタに没収された。
いっぱい悲しい。
──そんな、騒がしい朝を迎えて。
その後は何事も無く、お昼休み。
片手に惣菜パン、もう片手に古本屋から買った小説の単行本と優雅な昼飯ライフを堪能していた俺にケンタが一言。
「お前にお客様だぞ、馬鹿筆頭」
「最後の酷くね?」
何事? てかそのあだ名やめて?
コントごっこやって困らせたのは謝るから。
あと二千円返して? それマサハルくんとダイチくんへのプレゼントだから。お金欲しいなら百円あげるから。ご飯代欲しいなら五百円やるから。
親指でジェスチャーしながら失礼な事言うケンタに、心の中で文句を言いつつ、俺は指し示された方に視線を向ける。
教室の入り口。
そこには見知った女性が、腕を組んで立っている。
艶めかしい黒髪を白いリボンでサイドテールにした、ちょっと童顔ながら、細い訳では無いが目尻が鋭くキリッとした瞳が真面目で凛々しい印象を与える女性。
……あーね。あの人ね。
オッケーオッケー。
「居留守使うわ」
「行きたそうにしといて何言ってんの?」
冷静な意見どうも有り難う。でもさ、ここは慎重に動くべきなのよ。あ、待っててくれてる女性がひらひら手を振ってくれてるよ。可愛いね。女神かよ。
ここで嬉しさを素直に表に出してみな? この世界は『ヒロイン』に関わった男絶対許さないワールドやからな? 触れ合い方間違えてみろ、一気に殺すべし判定だ。
でもここで変に意地張って見苦しい所を見せたくない。折角顔を見せに来てくれた人に対して、隠れる俺とかダサ過ぎる。
そんな事であの人に嫌われたくない。俺は小心者なのだ。
人の目なぞ知らん! 我が道突き進む! とか出来ない人間なのだ。
……いやでもあー、死にたくない。あの人はそんな事死んでもやらんが、世界がやる。
でもここでウダウダしたくない! 上手い方法で気付かれずに、最悪幻滅されずに逃げられる方法は無いもんか!?
「どうすりゃ良い、ケンタ!」
「そんな貴方にサプライズ・ゲストです。どうぞ」
「どうも、
「本人だ!」
お馬鹿! 何で教室内に入れてんだお馬鹿! この恋愛ゲー主人公! イケメン! 行動力があり過ぎる!
「オメェがウジウジしてる間に、会長にお呼ばれしましたので、
「ぐぅの音も出ねぇ!」
俺のせいだね畜生。
こういう事も想定して、さっさと行動に移すべきだったねこんちくしょう。
周り見てみろよ。
わぁ、会長だぁ。いつ見ても綺麗ー。とか、今日は教室にまで入っちゃったかー。とか、常磐ー、気ぃあるならちゃんとアタックしろー。とかワイワイ騒いでんじゃん。
可愛いもんね、会長。こんなアイドルみたいな娘が間近で見れるなんて俺達は眼福ものである。
当事者の俺は胃が痛いんだけど。
あと、アタックとか言ったそこの君。千円あげるから撤回して? そんな事したら人食い花大好き世界に補足されるから。
死ぬから。俺が。
無言でアタック発言くんに千円を見せると、真顔で首を振られた。
何でやねん。
「今日も変わらず奇行が多いな、君は」
「そんな俺に引くどころか仲良くしてくれてますからね、皆。フィクションばりの最高のクラスっすよ。あと千円要ります?」
「要らん。意味も無く他人に金を差し出すな、馬鹿者」
「退室料という事で」
「断る口実が増えただけだが?」
そっすね。つか最低な行為してるね俺。成金くんかな?
愛想つかされて根回しで転校とかになったりしねぇかな? 俺としては嫌いになって欲しくないのと渡りに舟なので半々なんだけど。
さて。
この
俺達の先輩に当たり、そして生徒会長でもある。
本来なら、後輩のクラスに来るような人ではない。呼び出しなら校内放送で済ませるのが定番だ。
じゃあ、何故来たか。
それは俺と彼女の関係に由来する。
「で、会長? 今日も常磐に手伝いさせに来たんで?」
「あぁ、翔太郎には申し訳ないが」
「何言ってるんですか。目一杯扱き使ってやってくださいよ」
ケンタくん? それ何権限?
俺に自由意思くらい持たせて?
いや、手伝いくらい喜んでやるけど。
それはそれとして、決めるの俺だからね?
「えっとぉ、今日の俺は何をすれば宜しいのでしょうか」
「役員を使うまでもない雑用だよ。かと言って、人が多ければ早く済むからな。他の者は今日の会議の準備で忙しく、顔も出せん。そこで君に協力を願いに、
そうなんです。
俺は何をどうしてか、目の前にいらっしゃる美少女生徒会長のお手伝いをしているのです。
臨時生徒会役員ってやつ?
前世じゃ考えられないポジションだよ。ちょっとアニメの主人公みたいでワクワクするね。もしかして恋に発展しちゃったり!? と勘違いしちゃいそうだ。
百合の世界じゃなかったらな、クソが。
可能性くらい持たせてくれよ、ボケが。
そう。
このヒヒギ会長はケンタのようなモブでは無い。
正真正銘、デザノーのメインキャラ。
「明日は別の会議があってな。それに使う資料に不備が無いか点検したい。少し手伝って貰いたいのだが、良いかな?」
デザイアノーツを手に入れる為に夢世界を救う御子。
百合とかいう人食い花ゲーのヒロイン様。
その一人なのである。
「……あい、喜んで」
……マジで何でこうなった?
俺の事そんな殺したい? 世界さん。