美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!?   作:伸縮大王

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六話 サブヒロインって攻略可能とか不可能とかあるよね ってお話

 

「さて、と……大体纏まったか」

 

あの会長による爆弾発言の脅しの後。

作業自体は順調に進み、資料をトントンとさせて会長は作業の終わりを告げた。

俺も筋肉をほぐすように、片腕を上げて伸びをする。作業自体は俺みたいな外野の人間が出来るものとはいえ、やはり疲れるものは疲れる。

 

「長く付き合わせて悪かったな。差し入れに何か飲み物でも買って来よう」

「いやー、良いですよ」

「そうもいかん。頼むから何か奢らせてくれ」

「えぇ……、じゃあ、ミルクティーでお願いします」

「分かった」

 

そう答え、会長は生徒会室から出ていき、後にはパタパタと早足で遠く音が聞こえた。

急いでも走らないのは流石だなぁと思う。俺だったら激走りで即刻風紀委員さんにアウト判定だ。

 

会長がいなくなった室内。暇になった俺はソファに座ったまま、周りを見渡す。

 

 

前世じゃ、生徒会室なんて文化部の部室と大して変わらなかった。

複数繋げた会議テーブルとパイプ椅子、あとはホワイトボードがあるのが生徒会室だった。

それが当たり前で、文句なんて湧く訳なく、別に所属してた訳では無かったが、顔を出す事があっても、あの部屋を見ても失望すら抱かない。抱く訳がない。

寧ろ前世のあの部屋こそ生徒会室の本来の姿だと思っていた。

 

少なくとも、ここみたいに部屋が広くなく、

ソファもソファテーブルも置いておらず、

机が会議テーブルでなく高級そうな家具で纏められ、

椅子もオシャレなものではない。

床もなんか丸ごと絨毯みたいになっていないし、

金庫もでかくてハイテクそうな感じじゃない。

生徒会長の机なんてガッシリした書斎机ですらない。

そもそも生徒会長専用の机なんてものがない。等しく会議テーブルだった筈だ。

 

「ほんっと……、アニメみてぇな生徒会室だな……」

 

思わず、吐き捨てるように言ってしまった。

 

何故か分からないが、乾いた笑いが出る。自分が、本当に創作の世界に入った事の証明のように思えたからか。

こんな作りしといて、この学校が変わってる訳じゃないらしいよ? どんな権限してんだよ。

 

そもそも、前世の生徒会なんて、学園ドラマとか、少なくともこの学校みたいに大なり小なり権力なんて持っていないのだ。あくまで生徒と先生の橋渡しである中間職。それが、前世で記憶している生徒会という存在だ。

 

その常識を覆してくるこの生徒会室は、正直、忌々しい。

 

八つ当たりも良いところだが、俺に現実を突き付けてくるのが嫌なんだ。

 

宝生ナギサは顔も名前も似た別人で。

他の人物もデザノーの登場人物に似てるだけ。

ここは百合世界でも何でもなく、ただの平行世界にタイムスリップしただけ。

俺は挟まる男とか人食い花とか気にする事なく、ただ気楽に生きていけば良い。

 

そんな幻想を態々(わざわざ)ブチ壊してくれやがるのが、この創作めいた部屋に他ならない。

 

「……まぁ、身の程を改めるには良い場所だよ、ほんと」

 

俺が何者か。

どういう分際か。

生きて良い男か、否か。

 

それを思い知るには都合が良い所でもある。

ある種幻想的なこの部屋は、俺を現実に引き戻すのに最も最適な場所でもあった。

 

気分は最悪になるけどね。笑うしかないや。

 

「にしても、本当に豪華だなぁ、ここ。ワクワク自体は止まんないよね…………そう思いませんか先輩!!」

「ひゃい!?」

 

視線を辺りに向けつつもそう叫ぶと、コソコソと視線を切るように隠れていた女性が、鈴のような声を出して立ち上がった。

毛先がウェーブした焦げ茶の髪を、セミロングにした小柄な女性が、なんでバレた? みたいな顔をしながらこっちを見てる。

 

……会長が出ていったこの機に逃げようとしてたな、この人。

 

「あ、あははは……」

「あははじゃなく。何してるんです、イノリ先輩」

 

困ったように笑う彼女に思わず苦笑いで責める。部屋を見回す時に気付いて、嘘だろ! と目を疑ったが、この様子だと俺と会長が生徒会室に入ってきた時から隠れてたな?

 

確か、他の生徒会役員さん達、今日の会議の準備で忙しいって言ってたよな、会長。

いや、ホントこの人何してんの?

遊んでたの? 駄目よ?

怒られても知らんよ?

 

小野寺(オノデラ) 祈織(イノリ)。

生徒会の会計をしてる先輩だ。

何なら、デザノーでも出演してる女性。

所謂、サブヒロインと言うやつだ。

 

デザイアノーツはメインの舞台が夢世界なので、現実世界の描写は冒頭とエンディング程度になる。そこで顔見せがあったのを記憶しているが。

 

しかし、ここまで珍行動する人だったかなぁ。元気いっぱいな人だったとは思うが。

 

……いや、するかもなぁ。この人、会長に近づこうとする男子に威嚇する系女子だったし。

あと稲荷(いなり)というあだ名を言うと確実に凶暴化する、禁句ワード持ちだ。

俺も一度も言った事は無い。実際に切れてる場面を見れば冗談でも口に出そうとは思わなくなる。

 

狂犬じゃん。立ち回り間違えると忽(たちま)ち俺も彼女にゴミのような目で見られて敵判定される。

百合世界は伊達じゃないね、クソッタレ。

 

ちゅーか何で隠れてたの?

 

「何で手伝わなかったのか? とか生徒会の仕事はどうした? とかは言いませんけど、もうちょい堂々と部屋から出れば良かったんじゃ──」

 

そう言いかけて、視線を落とす。その先には、彼女が腕で抱えるように持っているお菓子の山。

 

……え、お菓子?

 

「あ」

 

視線に気付いたのか、先輩が間抜けな声を出すと、途端にその山を背中に素早く隠しやがりました。

 

いや、舞ってる。舞ってるから。

お菓子何個か落ちてるから。

 

先輩、首ブンブン振ったって意味ないから。

もう見てっから。

今でも見えてっから。

 

「違う、違うの! これはね? ええと、そう! 備蓄! 放課後用の備蓄だから! 賞味期限切れてたから! 食べてた訳じゃないから!」

「あ、はい」

 

食ってたね、この人。開封されたポテチの袋が後ろから覗いてるし。

てか生徒会の備蓄のお菓子と全然違うし、十中八九私物じゃん。

 

「いやー恥ずかしいとこ見られちゃったなー! バレずに出ていこうとしてたんだけどね? やっぱり翔くんは勘が良いなー凄いなー憧れちゃうなー」

「どうでも良いっスけど、口になんか付いてますよ?」

「!!??」

 

適当にカマをかけると、簡単に先輩は引っかかり、口に手を当てた。

あーあ、持ってたお菓子袋がボロボロ落ちちゃったよ。

 

暫くペタペタ口の周りを触って、何もない事が分かると、先輩が一言。

 

「騙したなぁ!!」

「騙したよぉ!!」

 

半泣きで怒る先輩にそう返した。

いやマジで可愛いなこの人。ちゅーか皆可愛いんだよな、この世界の女の子。

何でお近づきになっちゃ駄目なんだろう。

 

まだまだ怒りモードの先輩は、ズカズカと此方に近づいてくる。

 

「人を騙すなんて駄目だよ! お姉ちゃんは翔くんをそんな悪い子に育てた覚えはありません!」

「俺も校則破って嘘までつく悪い姉に育てられた覚えはありません!」

「ぬぅう!!」

 

何も言い返せなくなり、涙目で頬を膨らませる先輩。可愛いね、小動物かよ。

 

まぁ良い。

とりあえず今は先輩へのお説教だ。

 

「先輩……、お昼にお菓子食べちゃ駄目っすよ。校則で禁止されてるでしょ?」

「うぅ……」

「そりゃ気持ちは分かりますけど、放課後は幾ら食べても良いんだから、それまで我慢っすよ、我慢」

「うぅ……」

 

うぅしか言わなくなったよこの人。嘘がバレて恥ずかしかったのか、それとも後輩に諭されて情けなくなってるのか。

泣きそうな顔で落ち込んてる。

 

いやまぁ、ねぇ。

高校生なんてまだまだ腹が減りまくる年頃だ。間食もしたくなろう。

流石にちょっと責め過ぎたかもしれん。

 

「……まぁ、さっきも言いましたが、気持ちは分かります。俺は何も見てませんから会長が帰ってくる前に──」

「……だもん」

「はい?」

 

急に先輩がボソッと呟いた。

拗ねた感じだけども。

どしたの。

ガバッ!と顔を上げて、先輩は高らかに宣言する。

 

「せ、生徒会では、お昼にお菓子食べても良いもん!!」

「……」

「良いんだもん!!」

 

えぇ……。

嘘の上塗りしとるよ。

じゃあ何で隠れてたんスか先輩。

てか、もんって何スか先輩。

小学生かよ、可愛いけど。

 

「……へぇー、そうだったんだー」

「そ、そうだよぉ? 生徒会役員のスペシャル特権なんだから!」

「知らなかったーびっくしぃ」

「ま、全くぅ。翔くんは勉強不足だね! これはお姉ちゃんが優しく教えてあげなくちゃいけないね! ついでに部活も良いけど生徒会にも入ろうね! 翔くんなら喜んで歓迎するよ!」

「じゃあその前に、会長や先生に本当の事か詳しく聞いてきますね」

「やめてホントにやめてごめんなさい許してヒビギちゃんに殺される」

 

早ぇよ折れるの。

あと、どさくさに紛れて勧誘すんな。

がっつり聞いてたんかい、会長との会話。

あの会長の説教も? 恥ずかし過ぎるんですけど。

 

「じゃあ、特権は嘘なんですね?」

「嘘ですぅ……私、嘘をつきましたぁ……」

「何ですぐバレる嘘つくんですか」

「翔くんにとって格好いいお姉ちゃんでいたかったんだもぉん……」

 

無理があるって。

隠れてたのバレてた時から、格好いいとは程遠いって。

可愛いけど。

 

「格好いいかは兎も角、可愛くて素敵な先輩っスよ? 自信持って?」

「うぅ……お菓子要るぅ……?」

「要らんスよ?」

「そっかぁ……」

 

何で今のタイミングで聞くの?

お菓子を泣きながら差し出されるが即答で断る。

だから、そっかって言いながら俺のポケットにお菓子入れるのやめて? 要らん言いましたよ? 好きな奴だけど。

 

共犯にする気かな? 受けて立とう。

 

「本当にもう、生徒会って学生の模範なんでしょ? もうちょっとしっかりしましょうよ」

「うぅ……翔くんが正論でイジメる……」

「説教を苛め扱いしない」

「モラハラだ……」

「意味を吐き違えない」

 

モラハラは倫理や常識を超えた嫌がらせ行為や苛めなどのことを指します。

この人、俺より頭良い筈なのよ、確か。

なんでこんなポンコツなん?

 

「うぅ……生徒会大変だよぅ……今日の会議やだよぅ……権力振り回したいよぅ……」

「最後のは聞かなかった事にしますけど、なら何で入ったんスか」

「そんなの決まってるじゃん!」

 

うわびっくりした。急にテンション上げないで欲しい。

情緒どうなってんの。

 

突然笑顔になった先輩が、ズビシィッ! と此方に人差し指を向けてくる。

 

「私が生徒会に入った理由は唯一つ!」

「あい」

「それはね、ヒビギちゃんと一緒にいること!」

「おー、よくある理由」

「そしてね!」

「まだあんの?」

 

唯一って言ってなかった?

なんでこの人、学年TOP10に入ってんだろ。理不尽が過ぎる。

普段はふざけてるのに、実際は頭が良い人って創作あるあるだし、前世でもいるよね。それの極地をリアルで見せられちゃ、こっちの脳がバグるんよ。

二次元の世界かよ。二次元の世界だったね。

 

「それは────内申点だよ!!」

「つまんねー女」

「まって。待って待って、翔くんから予想しなかった言葉が来てかなり心にクる」

 

いやだって本当につまんねぇんだもん。

大体、前世の情報じゃ生徒会に入ろうと内申点なんてあんま変わらないそうだし。そういうのを狙うなら寧ろ入るだけ無駄らしいっスよ。

この世界の生徒会は権力あるんだからもうちょっと野心持って欲しい。

 

「ほ、他にあるじゃん? 腹黒いーとか、性格悪いー、とか屑とか。それなら心の準備というか言われ慣れてるというかノーダメージというか」

「つまんねー女」

「やめて! 翔くんからその言葉は結構傷つくから!」

 

そげな事言われても。

 

「で? つまんねー先輩はこのままお菓子もゴミも放置するんで?」

「はい、もういいです。つまらなくていいです。お姉ちゃんはつまらないお姉ちゃんです。つまら姉(ねぇ)ちゃんです」

「すいません言い過ぎましたほんとすいません」

 

だから隅で屈んで絨毯をイジイジしないで下さい。遊んでる暇ないですよ先輩?

先輩を抱えて立ち上がると、恨めしそうな目でこっちを睨んできやがりました。

 

「翔くんはイジワルだぁ」

「はいはい、すんません。だから、いい加減片付けましょ、先輩。手伝いますから」

「イジワル翔くんめ」

「しつこいなこの人」

「翔ワル(性悪)くんめ」

「やかましいわ。いいから、はよ片付けましょうよ。会長がお菓子散らばってるの見て何て言うか」

 

「少なくとも、私はいい気分ではないな」

 

「でしょ? 会長にこんな見苦しい所見せる訳には────」

 

ちょっと待って?

今、会長の声が入ってませんでした?

 

思わず、視線を声のした方へと向けると、案の定、手にペットボトルを持ちながら器用に腕を組んでいる会長様が居られました。

 

あー。

これ詰んだね。

 

先輩の方に目をやると、彼女も引くついた笑いで此方を見てる。いや、こちらを見られても。

 

「で? 何がどうしてこうなったか、教えて貰おうか?」

 

そう言って、会長は今まで見たことないくらいに。

爽やかで、滅茶苦茶可愛いスマイルをこちらに向けてきた。

 

背後にドス黒いオーラを出しながら。

怖いね。

 

だから、先輩はこちらを指差してこう言うんですね。

 

「────翔くんがお菓子持ってきましたァ!!」

「持ってきちゃいましたァ!!!」

「へぅう!!??」

 

へぅ、じゃなく。

先輩、売ったのは貴女なんですから「嘘でしょ!?」みたいな顔しないで下さい。

渡してきたお菓子出したのを、信じられないみたいな目で見ないで下さい。

 

「え、あれ? 何で? お菓子食べてたのは私で、その罪押し付けたのも私で、うん、ごめんね翔くん。でも怖くって。後でいっぱい撫で撫でするからね? あれ、でも翔くんお菓子出して、あ、あげた奴だ。私の大好きな奴なんだよね。翔くん気に入ってくれると良いなぁ。じゃなくて。え? でも持ってきちゃった、って、へ? なんで?」

 

どういうこと? と頭に疑問符を並べながら頭を抱えだす先輩。

いや。あの。

ボソボソ口に出すのやめません? もう会長の冷たい視線の標的が先輩になってるんすよ。

売られ損じゃないですか、俺。

 

「あ、いや! 違うのヒビギちゃん! 翔くんはお菓子を持ってきてくれたんだよ! 別に食べてた訳じゃないよ?」

「ほう」

 

どうやら俺を犯人路線から恩人路線に変える気らしい。

いやもう遅いですよ、先輩。

もうあの独り言聞いてるもんね。

会長の声色、滅茶苦茶怖いもん。

 

「ここに散らばっちゃったのは、私が翔くんをびっくりさせちゃったからなの! いやぁ、翔くんは生徒会思いの良い子だなぁって盛り上がっちゃってさー! ヒビギちゃんもそう思わない?」

「あぁ」

「でしょう!? いやぁ、これは放課後が楽しみだなー! いっぱいお菓子が食べれちゃうなー! てかもう翔くん入れてお茶会しようよー!」

「ところで、ここには監視カメラがあるのは覚えているかな?」

「ごめんなさい……」

 

早いよ先輩! 折れるのが早い!

あとお茶会はすんな、仕事しろ。

 

いや、確かに監視カメラあるけども。生徒会に金庫があるので泥棒対策なんだって。

大事な書類とか部活動の予算とかのお金を保管してるらしいよ!

なんで学生に大金保管させてんの? 怖。

先生とか校長がやって下さいよ。

子供を信頼し過ぎである。

これがフィクション世界の生徒会クオリティか。

 

「他の者が働いてるのに自分だけ遊び呆け、挙句に後輩に罪を擦り付けるとは見下げた根性だな」

「だってヒビギちゃんが怖すぎなんだもん……」

「理由になってないが? なんだ、イノリは我が身可愛さに、他人に濡れ衣を着せる事に躊躇が無いと言うことか? とんだ小悪党もいたものだ。私も、こんな小物と幼馴染とはとても信じられんよ」

「ヒビキちゃんは歯に衣を着せてあげて下さい……きっと寒がってるよ、歯が……」

 

会長の言葉責めにすっかりうなだれる先輩。いやぁ、確かに先輩が悪いんですけど、ちょっと居た堪れなくなる。

 

「えっと、会長? そこら辺にしましょ。ほら、片付けが罰という事で、どうか」

「翔太郎も翔太郎だ。擦り付けられたというのに否定どころか便乗するんじゃない」

「いや、俺が持ってきたんで」

「……今のやりとりを見てたか?」

「俺が持ってきたんで」

「そうだった。君は偏屈だったな」

 

助け船を出す為と話題を変えようとしたら、会長に呆れた顔をされた。

解せねぇ。

 

会長はその呆れた顔を変えぬまま、俺にペットボトルの一つを渡してくる。

 

「ほら、君が言っていたミルクティーだ。ブランドは聞いて無かったから手当たり次第の物だが、これで良かったか?」

「あざっス。メーカーは何でもいいっス」

 

差し出されたペットボトルを受け取り、礼儀のなってない感謝の言葉を述べる。

それに対して会長は何も文句も言わず、先輩にもペットボトルを差し出した。

 

「ほら、イノリ。君にも買ってきたぞ」

「へっ!? ヒビキちゃん……!?」

 

パア! と明るくなった表情で顔を上げた先輩は。

 

「そんなっ……ありがとう! ヒビキちゃ……ん?」

 

目の前のペットボトルを見て硬直した。

 

「青汁だ」

 

青汁だーい。

まさかのだーい。

 

因みにイノリ先輩が好きな物は甘いもので。

大嫌いなものは苦いやつだ。

つまりクリーンヒットである。

極刑執行である。

 

「なに、菓子を食べた口内に苦味のある飲み物は最適だろ? 健康にも良いぞ? 飲め」

「は、ははっ……アハハハ……」

 

会長の笑顔の通告に、先輩も遠い目で笑いだした。何か目尻に涙溜まってません?

今日泣いてばっかりじゃないですか、先輩。ハンカチ要ります?

 

てか、そっか。先輩にも買ってきたって事は最初から先輩が隠れてた事に気付いてたんだな。

俺なんてコソコソ逃げようとしてた時にようやく気付いたというのに、やっぱ会長の観察眼すげぇな。

 

「うぅ……いただきますぅ」

 

完全に死んだ目をしながら青汁とハンカチを手に取る先輩。しかも、あの青汁あれじゃん。滅茶苦茶苦いので有名な奴じゃん。

会長、先輩を懲らしめるのに本気過ぎである。

 

先輩はハンカチで涙を拭うと、次に口元に当て覚悟を決める為に深呼吸。

そして意を決して……無いね、これ。

嫌々ながらに蓋を開け、飲む前から苦そうな顔で口を近づける。

 

「お……お……」

 

口を近づける。

 

「おぅ……おぉ……」

 

口を、近づける。

 

「おぅふ……おぉふ……おふっ……」

「さっさと飲め」

「無理ぃ……」

 

無理だった。

涙目で首を振る先輩は、何というかもう、哀れだ。

 

あー、うん。

仕方ない。

ここは一肌脱ごう。

 

そう思って、先輩の青汁を奪い取る。「はえ?」と驚いた声を無視し、そのまま口に青汁を飲み干すように流し込んだ。

 

うーん、確かに苦い。

でも結構スッキリしてる。喉越しは悪く無い。いや、寧ろ良い。風呂上がりとかに良さそうだ。苦いけど。

匂いも草みたいな感じはなく無臭なので嫌悪感も無く、咽(むせ)ることも無い。飲みやすさもあるようだ。やっぱジュースメーカーが出すのは違うのかな。

でもやっぱ苦い。

 

「……っかー。結構苦いっスね、これ」

「翔くん……?」

「あぁ、すんません先輩。ほら、苦いので有名な奴だからつい気になっちゃって。思わず取っちゃいました。代わりになんですが、こいつをどうぞ」

 

そう言って、まだ開封してないミルクティーを渡す。

ここで、一口でも口をつけてたら間接キスでアウト判定だった。世界にも先輩にも。まさに一命を取り留めたと言えよう。

 

 

……あれ?

今、気づいたけど、これ、百合世界からの好感度上がるのでは!?

嫌がる女の子の身代わりになる男子じゃん、これ!

これは流石に許されよう!

なんだったら恩赦も貰えるのでは!?

 

ねぇな。そんな甘くなさそうだもん。

寧ろ、いけ好かない男子判定されてそう。

 

「翔くぅん……」

 

涙目ながら先輩はキラキラした瞳を向けてきた。

 

フッ。

こんな身代わり、お安い御用ですよ、先輩。

だから世界に処刑されそうになったら、弁護をお願いしますね。

気付かぬ内にWin-Winの関係になってたみたいだぜ。

俺の無意識の頭良いムーヴが憎い。

 

「女の敵ぃ」

「言い方ぁ」

 

先輩? ちょっと?

女の敵はやめて下さい?

百合世界では絶好の排除対象ですからね?

せめて、変な男とか気取り屋の噛ませとかにして下さい?

俺を殺したいのかな?

 

あれー?

行動ミスった?

出しゃばり過ぎたんかなぁ。

でも先輩喜んでんじゃん?

それはそれとして駄目だったの?

やり方が気に食わなかった?

クソッ、俺の頭悪いムーヴが憎い。

 

「翔太郎……甘すぎるぞ、君は」

「誰にでも優しい男になりたいんで」

「付け上がらせる優しさと言うんだ、それは」

 

そう仰いますがね、会長。

百合世界の男やぞこっちは。

同士たる男の子は勿論、女の子にも甘いに越した事は無いんや。ちゅーか女の子は特に。

今だって、ミスコミュニーケーションしたのかヒヤヒヤしてんだからね?

マジで少しでも気ぃ抜いたら地雷原とか地獄過ぎんだろこの世界。

百合とか女の子とか嫌いになるぞこの野郎。

なろうがならまいが、何も変わらんけど。

 

「はぁ……まぁ良い。いつもの事だ。何を言っても変わらんだろうさ」

「何だかんだで許してくれる会長も優しいっスよね」

「……君が悪い男にならない事を切に願うよ」

 

会長? 何でこの流れでそんな事言うの?

急に変なフラグ立てないで?

そうならんよう、こっちは必死に立ち回ってんですよ?

 

「うめぇ……うめぇよぉ……もう色んな意味でうめぇよぉ……!」

「イノリ、君は自分の世界に浸ってないで、もっと反省しろ。それを飲んだら片付けだからな」

「あいあいさぁっ……!」

 

先輩は幸せそうな顔でミルクティーを飲みつつ、会長の宣告にも快く答えてる。

 

うーん、やっぱ俺の行動間違い無かったのでは? 何で女の敵判定すんの先輩。もしかして実は俺の事嫌いだったりする? 色んな意味ってそういう事?

もしそうなら泣いてしまうから許して?

貴女に警戒されない男ってだけで生き延びるのに結構アドですし、ぶっちゃけ嬉しいんですよ?

可能性無しながら好かれてるって、複雑だけど、この世界なら全然アリだ。

 

幸福を噛み締めてそうな先輩に不安な視線を送っている中、会長は机に自分が飲む奴であろう、コーヒーを置いて此方に向き直った。

その顔は物憂げで、こめかみをトントンと叩いてる。

 

「あー……、今の状況で切り出しにくくなった」

「? なんスか?」

「あ、いや、ちょっとな……。流石に甘いだの何だの言っておいて、差し出がましい言い分になる。忘れてくれ」

「そういう事言われると、余計忘れるとか無理ですよ? 会長の頼みなら出来る範囲で聞きまっせ?」

「……確かに今のは姑息な振る舞いだ。本当に済まない」

 

そう言うと、会長は申し訳なさそうに此方を見つめた。うーん、いつものキリッとした表情が困った感じに変わってて、これまた可愛い。ちょっとドキッとする。

いや、いかん。そういうのが駄目なんだって、だから。

 

「先程の資料とはまた別件だ。今日は会議が長く掛かりそうでな」

「あい」

「それで、なんだが。翔太郎に頼みがあるんだ。重ね重ね甘えるようで心苦しいが、頼めるだろうか」

 

駄目なら断っていい。

そう言って、まるで子犬のような上目遣いで。

会長は俺を、じっと見つめた。

 

 

 

……そういうのを狡いって言うんですよ、会長。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒビギちゃん、可愛い……結婚しよ……」

「うん、大事な話をしてるんだ。少し黙っててくれ、イノリ」

 

あ、いつもの顔に戻った。

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