美少女アクゲーに転生しました!! 無力な男にどうしろと!?   作:伸縮大王

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メインじゃないキャラの描写が増えて、僕も胃が痛いです


七話 病弱キャラってメインにもサブにも使えるよね ってお話

 

前世じゃ病院の面会がある事情で制限されていた記憶がある。

流石に全国同じ内容、という訳ではないだろうが、少なくとも自分が住んでた地域じゃ談話室という所でリモート会話みたいな感じになっていた筈だ。

 

何で急に、病院の話が出てきたのかというと。

 

俺は今、ある人の面会をしに、『月読総合病院』の一つの病室へと向かっていた。

 

 

時は遡り。

 

「──代わりにお見舞いですか」

「あぁ」

 

俺の素っ頓狂な返事に、会長は静かに頷く。

 

あの会長のお願いの直後。

何を頼まれるんやろ、と若干心構えしてた俺は、なんてことない要件に拍子を抜かれていた。

 

なんだったら、俺のよく知ってる人物。

言われなくても、お見舞いには何度か行っている。

 

二つ返事で了承すると「そうか、あの子も喜ぶ」と先輩は嬉しさと、どこか引け目を感じているような表情を見せた。

 

「本当は私が行く予定だったんだがな。今日は夜まで掛かりそうなんだ」

「ホント、どうにかなりそうだよねー……」

 

申し訳なさそうな会長と違い、イノリ先輩はシオシオと枯れたように元気を無くし、疲れた目で深い溜息をつく。

 

マジか。イノリ先輩、会議にかこつけて菓子パーティーをやらんと目をギラギラさせながら機を伺う人なのに。

彼女の反応を見るに、どうやらお菓子にありつけるようなものではなさそうだ。

 

「……えっと、そんなに大変な内容なので?」

「うーん、大変というか、面倒というか。残念だけど、これに関しては翔くんにも話せないんだ。あ、でも私としては愚痴りたくて堪らないから、是非、生徒会に入って秘密の共有を、」

「結構です」

「翔くぅん……」

 

涙目で見ても駄目です。そんな変な理由で入るとか生徒会を馬鹿にしてるにも程がある。

 

というか、話せない内容って何やろ。

何かこう、学校の隠しイベントとかやるんだろうか。

フィクションの世界だしね、やりかねん。

 

「因みにどこまで話してオッケー、とかあります?」

「えぇと、そうだねぇ。翔くんが黙ってくれるなら、だけど。校長とぉ、理事長が来てぇ、警察の人とかとリモート会議するよ?」

「はいもう結構です!」

 

絶対俺なんかが触れて良い内容じゃねぇ!

マジでどうなってんだ、この世界の生徒会!

権限が滅茶苦茶過ぎる!

警察とか、事件の匂いしかしねぇじゃん!

 

「いやマジで怖すぎませんか、警察とか」

「……あくまで警察方の指示を仰いだり、情報整理をするだけさ。な? イノリ」

え、合同捜査じゃ、あっ! そうだったー! ごめーん、ヒビキちゃん! 余りに嫌すぎて忘れてたよー!」

「嫌すぎて忘れるってどういうことっすか、先輩……」

「言ってやるな。そして、翔太郎。この事はまだ、他言無用で頼むよ。余計な混乱を招くからな」

 

会長の言葉に、なるほどなと頷く。確かに、こんなん学生の皆が聞いたら、根も葉もない噂で盛り上がったりしそうだ。

 

関係の薄い人間からすれば非日常を演出するスパイスになるが、当事者の生徒会からすれば頭痛の種なんだろう。

 

でも、マジかぁ。デザノーって現実世界の描写があんまり無いから、無意識にそういうヤバげな案件は、少なくとも先輩達には無縁と高を括ってた。

 

やっぱ、そういう事件とかはあるにはあるんだな。それに生徒会が関わるのが意味不明だけど。

 

あれかね、ここら辺危険かもなんで気を付けて下さいねー、と生徒会と校長方で警察にご指導受ける感じかね。

それで纏まった情報を全校集会で話すとか。

 

それなら納得出来る。

流石に高校生とはいえ、子供が事件に首を突っ込むとか洒落にならん。

例えフィクション世界だとしてもヤバイって。

 

「何て声を掛けていいか、分かんないスけど。マジで頑張って下さい」

「あぁ、その言葉だけで嬉しいよ」

「ありがと翔くん! お姉ちゃん達、頑張るよ!」

 

とりあえず、二人に応援の言葉を投げかけ。

 

両親には遅くなる事を連絡。

 

放課後は色々買い漁り。

 

そうして、俺はヒビキ会長の代わりに、ある人の見舞いへと向かう事となった。

 

 

コンコンと。

一部屋の病室の前まで来ると、俺は紙袋を持った方とは逆の手で軽く扉をノックし、中の人に呼びかける。

 

「──カナデさん、入りますよ」

「どうぞー」

 

すると、中からヒビキ会長にそっくりの、しかし全く別の印象を抱かせる声が返ってきた。

 

その声に従い、静かに扉を開けると、俺は目の前の、病室のベットで本を読んでいたのであろう彼女と視線を合わせる。

 

会長そっくりの顔。まるで昼の会長がそこにいるかのような風貌は、会長のような釣り目ながら凛々しいものとはまるで違う、柔らかな瞳で別人だとようやっと認識させる。

だだのサイドテールではなく、ルーズサイドテールと呼ばれる、後ろ髪を束ねて前に垂らした髪型。

それが何処となく、穏やかで、だけど儚げな印象も与える。

 

「お久しぶりだね、翔太郎君」

「はい、お久しぶりっす、カナデさん」

 

 

門矢(カドヤ) 歌奏(カナデ)

 

ヒビキ会長の双子の妹にして。

会長がデザイアノーツを目指す理由でもある。

 

カナデという少女は原作でも、この世界でも、体が弱く、難病に悩まされている。

病院通いは当たり前で、碌に学校にも行けず、一人で外に遊ぶ事も出来ない。

病と隣合わせで生きてきた彼女にとって、世界は我が家と薬の匂いが充満する病院だけだった。

人生の殆どが入院生活を占め、今でも入退院を繰り返す彼女は、青春も友人も得ることは出来ず、ただ難病と戦う日々を強いられ続けていた。

それでも、彼女がやさぐれず鬱屈した性格にもならず、穏やかな気性のままなのは、彼女の家族による献身と本人の器量の大きさだろう。

 

特に、カナデさんを溺愛しているのはヒビキ会長だ。

自身の半身とも言うべき双子の愛妹。

いつこの世を立つかも分からぬ最愛の家族に、共に寄り添い、心の支えとして尽力した。

 

だからこそ、デザイアノーツという願望器は会長にとって、淡い希望の一縷であった。

デザイアノーツを手に入れ、最愛の妹から不治の病を根絶する。

普通の生活を、青春を、享受出来るように。

それが、ヒビキ会長が夢世界という死線を潜り抜ける、確固たる原動力である。

 

因みに前世での話になるが、会長の声優さんカナデさんの声優さんは同一人物である。声が似てる、というのはそういう事だ。

それでも特徴が似てるだけで、全く別の声色で別人を演出するから声優さんって凄いよね。幅広いキャラを演じるのが上手い声優さんらしいから特にだ。

その声優さんの声や演技を間近で聞いてるようなもんだよ、俺は。

カナデさんや会長に限らず、ナギサやユイやヒナタもそうだけど。実質、声優さんの生演技を直に聞いてるようなもんだ。

しかも、名前を呼んでくれるオマケ付き。

オタクにとってはパラダイスだよ、百合ゲーだから恋慕したら死ぬけど。

 

 

で、まぁ。

なんでそんなカナデさんと知り合いなのかというと、俺の小学校の馬鹿な怪我によるものだったりする。

詳しくは省くが、簡単に言えば頭から血をダラダラ流して、そのまま入院。

そこで入院中だったカナデさんと出会った訳だ。

 

今でこそ黒歴史だが、まぁカナデさんを嫌というほど振り回した。

彼女を車椅子に乗せて、無断のお昼散歩を実行した事もある。

一応書き置きを残してはいたが、勿論、病院の先生に滅茶苦茶怒られたし、出禁になりかけた。

今思うと、ヒビキ会長に嫌われなくて本当に良かったと思う。何なら彼女も、仕舞いにゃナギサ達まで巻きこんでしまってたからね。

図太いにも程がある。

 

彼女にちょっかいをかけまくったのは単純で浅はかな理由だ。

 

やべぇ、かわええ!

しかもナギサと関係無い女の子!

百合世界のメインヒロインじゃねぇ!

なんかこう、仲良くしてぇ!

お近づきになりてぇ!

 

それだけである。

馬鹿である。

サブヒロインとは気付きもしなかったのである。

 

まだ小学生という事もあり、原作知識の精査の途中だったのもあろう。流石にメインキャラたるヒビキ会長に関連する人物と相見えるとは危惧してなかったのも大きい。

双子で顔そっくりなのにね。

原作でも出演してるのにね。

 

まぁ、同じ顔をしてる人は世界で三人いる、っていうし、なんか会長の話にがっつり関わってる人もいたけど大丈夫やろ! そんな阿呆みてぇなミラクル流石に起きん! と甘く構えていた。

名前も覚えてなかった。

マジで過去の俺をぶん殴りてぇ。

阿呆はどっちだこの野郎。

 

我ながら危機感というものがまるで足りぬ。本当に百合世界の男としての自覚があるのか甚だ疑問である。

過去の(やらかし)が、現在の俺を殺しに来てる。

 

結局、とんだミラクルをぶち起こした俺は、その後ヒビキ会長と彼女の幼馴染であるイノリ先輩とも知り合い、紆余曲折あって今に至る。

 

 

「すんません、カナデさん。会長は今日、忙しいみたいで、代理で来ちゃいました」

「姉さんから聞きました。謝ることなんて無いよ。寧ろ来てくれて嬉しいんだから」

 

そう言って微笑むカナデさん。

いやー、女神の笑顔ですね。

会長が女剣士なら、カナデさんは僧侶とかだろうか。

うん、ピッタリ過ぎる。もしかしたらデザノーのでもメインキャラとして案があったかもしれない。

 

僧侶としてパーティーを回復するカナデさんの麗しい姿を夢想しつつ、俺はベッドの側に置かれた椅子に腰掛ける。

そのまま紙袋を漁くり、まずは一つの本を取り出す。

 

「では、カナデさん。お土産の品でございやす。お納め下され」

「ふっふっ。良き働きよのう。──わぁ、『天十郎』だぁ!」

 

 

冗談めいた言葉で本を受け取ったカナデさんは、表紙を見て目を輝かせた。

これを見るだけでも買ってきたお釣りが来るというもんです。

 

『天十郎シリーズ』。

正式名称は明治流桜探偵帖。

主人公である探偵の天十郎が、持ち前の行動力と人脈で難事件を解決していく勧善懲悪の時代劇ラノベだ。

シリーズ毎に関わる味方組織がでかくなり、探偵というより裏の世界を牛耳るフィクサーみたいになってるが、そこがまた面白く、人気の部分である。

権力と財力と主人公の悪戦苦闘で悪の組織をぶっ潰す、正義の秘密組織。俺はすっかりどハマりした。

 

カナデさんもこの小説のファンであり、俺を『天十郎』の沼に落とした張本人でもある。

彼女の一番の推しは、やはり主人公の天十郎らしい。

死ななきゃ安い、を体現したようなぶっ飛び具合と、多くの人物を虜にするその人柄が大好きなのだとか。

もう一人の推しは、敵の外人ロリっ娘。シャーロック・ホームズでいうモリアーティみたいなポジションで、天十郎に末恐ろしい程の情念と執着を向ける、組織力も財力も引けに取らないヤンデレちゃんなライバルキャラだ。

この二人はちょくちょく対決するので、その話の刊を読んだ時の、カナデさんの燃え上がり具合は凄まじいものになる。

 

そして、今渡したのはその『天十郎』の最新刊である。どうしても本の入手経路が人手頼りになるカナデさんにとって、最新刊というのは中々厳しいものなのだ。

 

「やったー、ありがとー! 読んだらちゃんと返すからね?」

「いえ、二冊買ったんで、大丈夫っス。そちらは差し上げます」

「おぉ、太っ腹ー」

 

Vサインを見せながらあげると告げると、彼女からは揶揄うような笑みが返ってきた。

 

いやー、ドキッてするって。

思わず忘れてたけど、この人も百合ヒロインなんだよ。しかもヒビキ会長にとってはメインヒロインでもある。

絶対に手を出しちゃいかん。

その禁忌に触れたら、逆鱗もセットで触ってアウト判定で殺される。主に世界と会長に。

 

あ、会長と言えば。

 

忘れてはいけないものを忘れていた。

すかさず紙袋から、もう一つのお見舞いの品を取り出す。

 

「すんません、一番大事な奴、渡し忘れてました。どうぞ」

「おぉ、すいませんねぇ。……これは、もしかしてブランケット?」

「はい、会長の手作りだそうです。手渡しするのは恥ずかしいそうで、丁度良いから渡して欲しいと」

 

そう、ブランケット。膝の上に敷いたり、肩に羽織ったりするあの薄手の毛布である。

ウールで丁寧に編み込まれ、可愛らしく彩られた柄は市販のものと遜色ない出来栄えだ。

流石、真面目な会長。やると決めたら、とことん徹底的にやるあの人らしい。

 

カナデさんは、そのブランケットを広げ、驚いた様子で眺めていた。

 

「……姉さんが編み物を趣味にしてたなんて、知らなかったなぁ……」

「あ、いえ。それナギサ達に巻き込まれて作ったそうです」

「あー」

「ついでに言うと、ナギサ達はぬいぐるみとブックカバーを作ったそうで、会長から貰ってきてます。これも渡さなくちゃですね、どうぞ」

「わー」

 

どこか寂しそうに見えたカナデさんの顔が、途端に納得したような笑いに変わる。

ナギサ達からのプレゼントには困ったような笑みすら見せていた。

 

ナギサ達。もっと正確に言うなら、感想部。

手芸部との合同部活動というもので編み物をする事となり、会長は引きずられる形で参加させられたそうな。

本当に何でもアリやな、感想部。

会長も会長でやるからには本気で、が基本スタイルなので、それはもう手芸部に褒められる程に頑張ったとか。

 

『……楽しくはあった。もう一度やれと言われたら、流石に断るが』

 

苦笑い気味にそう話す会長だったが、絶対カナデさん喜びますよ! 的な事を伝えると、先程見た、カナデさんによく似た、困ったような笑みを浮かべていたのを覚えてる。

 

「そっかぁ。姉さんらしいね」

「巻き込まれ系女子で可愛い過ぎっスよね。あとスキルもチート級過ぎっスよ、ホント。少し分けて欲しい」

「あはは。姉さんは頑張り屋さんだもん。翔太郎君も姉さんみたいに頑張る?」

「……いやー、無理っスね」

「えー?」

 

そこは頑張ろうよー、と笑われてしまうが、無理なもんは無理です。

あの人は所謂、天才なのだ。

そして、総じて天才とは努力も当然怠らないのである。

会長ばりに頑張るとか、絶対体が持たん。

 

「でも、そっか。ナギサちゃん達かぁ」

「いやぁ、ウチの幼馴染共が、いつもすんません」

「もうっ。いつも感謝してるって言ってるでしょ? 姉さん、子供の頃はあんまり他人と関わらない人だったから」

 

本当にありがとう、と。

優しげな表情を向けてくるカナデさんに、こちらとしては畏まるしかない。

 

「前に言ったっけ? 多分、私と翔太郎君が出会ったのは、頑張り屋さんの姉さんを見た、神様からのご褒美だって」

「あー、巡り巡ってナギサやユイに出会う事になりましたもんねー。本人が喜んでるなら、滅茶苦茶嬉しいんスけどね」

「…………そうだね」

 

そう言って。

柔らかな、いつもの微笑みを浮かべるカナデさんに。

 

何故だか。

無性に何故か。

少し儚げとも違う、何か言いようのないものを抱いた。

 

悲しそうに。

悔しそうに。

苦しそうに。

なのに、それは彼女自身へ向けられたものではなく。

もっと別の。

 

理由も分からぬ、その『ナニカ』に(それが誰に向けられたものなのかを)

 

少し、心がチクリとした(分かった上で、封をした)

 

 

「……と、いうか、ですね」

「うん?」

 

だから、なのか。

つい出しゃばった言動をしてしまう。

 

「俺にとっちゃ、お二人に出会えた事こそ、ご褒美ですよ。いや、まぁ、ナギサ達に出会えたのもそうですけど。マジで人との出会いに関しちゃ俺は誰よりも幸せっスね。そういう点に関しちゃ、寧ろこっちの方が感謝感激雨(あられ)です」

「……ふふっ」

 

俺の言葉に口元に手を当て笑うカナデさん。

その笑みに。

先程のような『ナニカ』は、覗いていなかった。

 

 

まぁ、ね。

この百合世界で生きる事はしんどいが。ちゅーか何が地雷かもまだ分かってねぇからマジで胃がキリキリするが。

 

本当に、良い人達に出会えたのは間違いない。

これは本心だ。

 

ナギサ、ヒナタ、ユイ。

ヒビキ会長、イノリ先輩、カナデさん。

モブであるケンタくん達ですらそうだ。

その他諸々の人達も、奇跡のように俺は良くしてもらっている。

 

こんな素晴らしい人達すら否定してしまっては、流石に馬鹿という言葉じゃ済まされない。

俺の人生そのものの否定にもなる。

 

「……今の翔太郎君の言葉を、姉さんが聞いたらこう言うだろうなぁ」

「すんませんやめて下さい。なんかぜってー悪い予感がする」

「『良いから聞け、魯鈍(ろどん)者め』」

「ぎゃー!?」

 

会長そっくりの声が聞こえて、思わず耳を塞いだ。

いや、マジでカナデさん、ヒビキ会長と双子な事もあってか会長のフリするのが滅茶苦茶上手いのだ。

そっくりというか、そのままである。目も声も表情も、一気に会長そのものに変わるので、今まで話してたのがカナデさんではなくその姉君だったのでは!? と誤認しそうになる。

あ、ついでにヒビキ会長もカナデさんのフリが滅茶苦茶上手い。何度か成り代わりのドッキリを浴びせられ、その度にこの双子、演技力ヤベェと思ったものだ。

まぁ、元々の声優さんが上手いからね。演技力上がるのも止む無しというか。

 

あと、意外とお茶目なのよね、門矢姉妹。

 

「うぉぉ、怒られたくねぇ」

「普段何をやらかしてるの……」

「いや、今日怒られた、というか困らせたばっかりでして」

「嘘でしょ……」

 

えぇ……、って感じに引いてるカナデさん。すんません、貴女の目の前にいる男、実は馬鹿なんです。

ヘタレなんです。

是非覚えといて下さい。

 

「……んっん。気を取り直して」

 

咳払いをしつつ、カナデさんはこちらをジッと見つめてきた。

会長モードになって。

 

怖いって。

やめてって。

でも可愛いなぁ畜生。

 

「『……感謝してるのはそちらの方と言ったが、それこそ、こちらの台詞に他ならない。勿論、ナギサ達と出会えたのも身に余る幸運だ。僥倖としては破格だろう。だが、君と出会えた事こそが、私達にとって一番大事なんだ。大切なんだ。宝なんだよ。そこを履き違えるな。少しは自惚れてみなさい。謙虚なのは聡明だが、過ぎればそれは不幸を招くぞ?』……以上っ」

「うぅわぁあ……言いそう……」

「姉さんって意外とお喋りだからねぇ」

 

フッフッフ、とカナデさんは意地悪そうに笑う。

 

くそう、してやられてばかりだ。

ここは言い返さねば、なんか負けた気分だ。

 

「じゃあ、お言葉ですけどね! 謙虚だなんだと言いますが、俺は謙虚のけの字もねぇ男ですよ! 自惚れは天下一品です! そこんとこよろしくぅ!」

「まさかの一文一句想像してた言葉が来るとは思わなかったよ……」

「え、嘘ぉん」

 

察しが良すぎません?

これが以心伝心?

 

「私達、心が一つになってる?」

「翔太郎君が単純なだけだと思うよ」

「知らなかったんですか、カナデさん。俺は単純の中の単純と言われた男ですよ。キングコングならぬキング単純(シンプル)ですよ」

「『済まんが訂正しよう、偏屈という言葉がお似合いだ、この魯鈍者』」

「だからぁ!」

 

なんでここまで会長のエミュレートがクッソ上手いんだよ!

偏屈とか今日言われたばっかりですよ!?

双子だからだね!

 

ねぇよ!

そこまで双子って万能じゃねぇよ!

双子って言っても一人の人間だよ!

フィクション世界だからって盛り過ぎだ馬鹿!

 

「ちゅーか、さっきから何なんスか? その、ロドンって」

「ん? 魯鈍?」

「そっス、ロドンっス。うどん(食べ物)ラドン(元素か怪獣)の親戚ですか?」

「あー……。姉さん、翔太郎君に面と向かって言うのは初めてだったのか。うんとね……」

 

俺の問いに、空に視線を向けて考え込む仕草をするカナデさん。

人差し指を口に当てちゃってまぁ、可愛いなぁ。

 

 

そして、俺の方へと向き直ると、

 

 

仕方のない(愚かで鈍い)人、かなぁ」

 

 

そう言って。

ちょっとゾクッとするような、妖艶な笑みを浮かべやがりました。

 

……だから。

ドキッてするからやめてって。

 

 

「『仕方のない人』、ね……」

 

カナデさんに言われた言葉を反復しながら、俺は暗くなった帰路を歩いている。

 

あの後、他愛も無い会話をしながら時間まで居残り、何事もなく病室から退出した。

 

また来てねー、なんて言われながら手を小さく振られてご覧なさい。

百合世界じゃなきゃ鼻の下伸ばしてるよ、俺。

百合世界だから期待しないよう努めたよ。

やっぱ生き地獄じゃねぇかな、この世界。

 

「……こういうところ、なんかねぇ……」

 

先程のロドン、という言葉を思い出す。

会長なら、確かにそういう意味で言いそうだ。カナデさんの言い方的に、言外に何やら意味が含まれていそうだが、大方意味は同じだろう。

 

「ま、でも」

 

悪いですが、会長。

俺はまだまだ、このままで行きますよ。

この生き方こそが生存戦略なんですから。

その内、愚かな奴とか言われそうだが、これこそが俺の幸せの為の必要経費なんスから。

 

「……っと」

 

勝手に心の中で覚悟と会長に宣戦布告してた所で。

俺は家に辿り着いた。

 

玄関は明かりで灯されており、リビングの方からカーテンから光が薄っすらと滲んでいる。

 

我が家。前世とは違う、もう一つの実家。

 

その扉を開け、俺は帰宅の言葉を放った。

 

「ただいまー。遅くなってごめ──」

 

いや、正確には放とうとした。

だけど、それは途中で止まった。

 

視線の先は靴を並べる土間。

そこに見知らぬ、いや、()()()()()()()()()あった。

 

「──あ、おかえりなさーい!」

「おかえりなさい、翔ちゃん」

「お兄ちゃん、おかえりー!」

 

そして、これまた見知ってた声。

よく聞く幼馴染達の声が、何故か家の中から聞こえる。

 

ギギギと、固くなった首を必死に動かし、リビングの方に目をやると。

 

「カナお姉ちゃん元気だったー!?」

「もう、カナデ先輩のとこに行くなら言ってってば。私達も行きたかったのに」

「その、会長に渡した編み物、代わりに渡してくれたって聞いたんだけど、先輩喜んでくれてたかな?」

 

はーい。

上からヒナタ、ナギサ、ユイが発言されてますよー。

何ならリビングから顔を覗かせて発言なされていらっしゃるぞー。

顔見せてる順番は発言順と逆ですぞー。

 

マジかよ。

 

「──おかえり、翔太郎。遅かったわねぇ。ナギサちゃん達、来てるわよ?」

 

そして、我が家の大将軍。

大蔵省(母上)殿が、ニマニマとした笑いを浮べて、ナギサ達の後を追うように顔を出してきた。

 

 

こ、こんにゃろう……。

 

入れよったなぁ……?

 

俺の『遅くなる』連絡で、シメシメと思ったなぁ……?

 

息子に黙って地雷用意しやがったなぁ……!?

 

母上殿よ、貴女は息子の命が惜しくはないのですかっ……!!

 

「…………突然帰って来てなんですが、母さんや」

「おう、なんぞや」

「俺、帰るわ」

 

自分で言ってて何処にや。

 

「そう、行ってらっしゃい。そして、お帰りなさい」

「……………………」

 

とりあえず玄関口に半身隠して、ジト目で睨んだ。

『の』の字も書いた。

 

母上は『はよ入れや』のジェスチャーを力強くやった。

怖くて従った。

 

 

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