No.1の従属官の日記 作:練習中
〇〇〇日目
意識を失っていたリリネットちゃんがようやく起きた。
起きるまでに化け物がよってきたらどうしようかと心配していたが、何事もなくて本当に良かった。
起きたばかりだからか眠そうなリリネットちゃんは、俺の顔を見るなりまた泣き出してしまった。
俺が何かやらかしてしまったのかと凄く焦ったが、よく考えればこんな化け物の死体に囲まれて幼女が1人で過ごしていたのだ、それはもう心ぼそかったに違いない。
そこで俺は、前世の知識をフル稼働してリリネットちゃんをあやした。
といっても頭を撫でたりするのは流石にセクハラになると思ったので隣に座って色々と話しかけていただけだが……この時ばかりは前世の対幼女経験のなさを恨んだ。
そんな俺の努力の甲斐もあったのか数十分ほどでリリネットちゃんは泣き止み、冷静になっていきなり泣いてしまったことへの羞恥心が出たのかとても恥ずかしそうにしていた。
まさかこんな砂漠しかない世界で照れる幼女という絶滅危惧種を見れるとは思わなかった。ここに来てから化け物の顔しか見ていなかったから破壊力がヤバすぎる。
…これが尊いという感情か。
まぁそんなことは置いておいて、落ち着いたリリネットちゃんと改めて自己紹介をしようとすると大きな問題に気づいた。
俺自分の名前分かんないんだけど…
いや、今までなんで気づかんねんって話なんだが名前を呼ばれる機会が無さすぎた。
化け物達は話を聞かずに殴りかかってくる究極の体育会系みたいな奴らだったから流暢に自己紹介なんて出来ないしな。
そんな問題を前に悩んだ俺は、正直に自分の名前も思い出せないしこの世界のことも全然分からないと言った。
こんな過酷な世界でクソの役にも立たない記憶喪失のおっさん宣言を幼女の前でするのは恥ずかしい所の話ではなかったが、こういうのは下手に嘘をつく方がめんどくさいのだ。
俺にとっては結構勇気のいる宣言だったのだが、リリネットちゃんは特に驚いた様子はなかった。
ふぅ…ここで無能なおっさん死ねよとか言われなくてよかった。
リリネットちゃんにそんなこと言われたらマジで死んじゃう自信があるわ。
詳しく話を聞いてみると、どうやら人間だった時の記憶を持ってる方が珍しいとのこと。
ん……?ちょっと待った。俺もリリネットちゃんも人間じゃないの?
リリネットちゃんが言うには俺たちはホロウとかいうものらしい。
取り外し不可能な呪いの装備みたいな仮面がついてる時点で薄々気づいてはいたのだが、こうも当たり前のことのように告げられると心臓に悪い。
姿形が違うだけで俺を襲ってきた化け物も同類なんだって。
マジ?あんなのと俺同類なん?やばい、頭が追いつかん…
そんな真実俺のちっさい脳みそには負担がデカすぎるって!もう今日は終わり!寝る!
〇〇〇日目
速報、俺氏妹ができる。
…別に頭がおかしくなったわけではない、起こった事実を書いただけである。
といってもリリネットちゃんの俺への呼び方が兄ちゃんになっただけなんだけどね。
詳しく書くと、ホロウだなんだの話は聞いていると頭が痛くなるので、先に自分の名前が分からない問題を解決しようとリリネットちゃんに提案した結果、無事に兄ちゃん呼びが採用されたわけである。
……わけであるじゃねぇよ!これじゃあ血のつながりのない幼女に兄ちゃん呼びさせる変態じゃないか!
これ別に俺が強要したわけじゃないからね?俺も兄ちゃんって言われるの結構恥ずかしいんだから。
……本当だよ?
俺だってそれはちょっとって言いたかったのだが、リリネットちゃんに笑顔で「家族みたいに話せる存在が欲しかったから」って言われちゃったら断れんでしょうよ。
よし!とりあえず俺が変態かどうかはどうでも良いや!
折角妹ができたんだから化け物(同族)に襲われても守ってあげないとな!
ちなみにホロウとかについてはこれ以上は怖いから聞けてません。
うーん、これはダメ兄貴ですね…
〇〇〇日目
どうも妹より弱いクソ雑魚兄貴です。どうぞ惨めな男だと笑ってください。
…いやマジで洒落にならないよこれ、俺無能すぎるって。
読み返した時になんのことだか分からなくなるからとりあえず起きたことを書いていく。
細かく書くと長いから箇条書きでいいか。
俺、リリネットちゃんみたいに話せる子がいないか探すため移動しようとリリネットちゃんに提案。
→何故か嫌そう(勝手にそう思っただけ)なリリネットちゃんを説得して移動開始。
→移動開始してしばらくして化け物に遭遇。
→なんとかリリネットちゃんを守るため戦おうとするが戦う前に何故か倒れる化け物
→何が起きたか分からない俺と、そんな俺を見て涙目のリリネットちゃん
流れは取り敢えずこんな感じ。
流石におかしいと思い話を聞くと、どうやらこれはリリネットちゃんの力のせいらしい。
力が強すぎてリリネットちゃんに近づいたらほとんどの生き物は死んじゃうらしい。
それを何故隠していたのか聞いたところ、力が強すぎるのがバレたら嫌われると思って隠していたらしい。
それを聞いて俺はとても情けなくなった。勿論俺自身にだ。
こんな小さい幼女に気を使われて嘘まで吐かせていたなんて、これで情けないと思わない男は流石にいないと思う。
俺は割と臆病でどうしようもないやつだと思うが、流石にこれは心にくるものがあった。
そして俺は泣いた(唐突)
そう、リリネットちゃんを抱きしめて盛大な男泣きをかましてしまったのだ。
…情けな、俺くん恥ずかしくないん?
そんな感じで完全にセクハラおじさんとなってしまった俺は、せめて兄としての威厳を保つためにこの世界のこととかをもっと知っていくことを決めた。
正直戦いとかは今でも苦手だししたくないけど、流石に幼女にずっと守られる状況は俺的にもよろしくない。
まぁ存在するだけで周りの生物殺しちゃうチートな幼女に追いつける気はしないのだが…
というかそもそも俺はなんで生きてるん?神様なんかやった?
⭐︎
普通だ。
それがあたしが兄ちゃんと呼ぶ彼と暫く過ごした感想。
あたしを孤独から掬いあげてくれた恩人に抱く感想としてはあんまりなものだが、彼を表す言葉がそれ以外見つからなかった。
普通に気さくで、普通に優しくて、普通に怖がり。
そんな現世ならどこにでもいるような青年だからだろうか、あたしが彼を兄ちゃんと呼んでしまうのは。
隣に立っていてくれるのならそれだけで満足なはずだった。
あたしに興味がなくてもいい、話しかけて素気なくされてもいい。
あたしにとっての仲間とは、側にいても死なない存在。そんな認識だった。
あたしのあまりに強すぎる霊圧に耐えられる存在はそれだけで貴重で、だからこそ多くを求めるつもりはなかった。
けれど、実際にそんな存在が現れるとそれ以上を求めてしまうのは、どうしてなのだろうか。
体に空いた孔と同じように心に空いた穴は、常にそれを埋めようとしてしまう。
それが埋まらないからこそ虚なのだと分かっていながら、しかしその衝動を止めることが出来ない。
体がいかに人間に近づこうが所詮は1匹の獣にすぎないのだと感じてしまって、ひどく情けない。
それはとても人間くさい彼といると余計に思う。
あたしが失ってしまった人間らしさを持っている彼が羨ましい、そしてそんなことを思ってしまうあたしは愚かだ。
彼といると幸福な感情と黒い感情が入り混じって、不安定になる時があった。
しかしそれを顔に出すことはしない。
普通な彼が望むのはきっと元気で明るい、そして健気で守ってあげたいリリネットだと思うから。
ーー俺が君を守るよ。
あたしが彼と家族みたいになりたいと言った時、照れくさそうにそう言ってくれた。
あたしから溢れる力をその身に受けている筈なのに、それにまるで気づいていないかのようだった。
いや、気づいていないかのようではない。
彼は気づいていないのだ。
あたしから出ている霊圧も、周りの死体がそれに耐えきれずに出来たものであることも、まるで気付いていない。
そして彼自身がそんな力を浴びながら今生きているという違和感にすら気付いていない。
それはあたしが普通な彼から感じる唯一にして最大の異常。
姿が人間に近い彼は普通に考えればあたしと同じ最大級大虚。
しかし彼から感じる霊圧は下級大虚にすら届かない微弱なもの。
意図して力を抑えているようにも見えないし、何か裏があって演技をしている感じでもない。
これはあたしの勝手な妄想だが、この世界で普通に生きていられる、それこそが彼の力…虚としての欲望なのだと思う。
そんな彼の力と欲望を、あたしは利用している。
彼はこの世界のついて無知だ。
虚という存在も知らなかったし、周りの死体と自分が同じような存在と聞いてとてもショックを受けていた。
それで良いと思った。
彼はきっと知らなくて良い。
この世界のことも、あたしの力も、死体の山の原因も。
あたしは弱い幼女の振りをした。
死体の山について聞かれた時も知らないと答えた。
あたしを知っているものならばすぐにバレる嘘も、彼ならば気づかない。
普通な彼は、幼女の姿をしたあたしがこれを作ったなんて思いもしないだろうから。
彼の前でだけあたしは守られるか弱いリリネットになれた。
恐れられる存在でしかなかったあたしにとって、それがいかに嬉しいことかも彼は知らないだろう。
だからこそ移動しようという彼の言葉に、素直に頷けなかった。
かよわいリリネットという幻想は、虚1匹目の前にするだけで終わってしまう。
流石の彼でも目の前でなんの前触れもなく虚が死ねば気づいてしまう、原因はきっとあたしだって。
幸いあたしの力のことは虚圏でも知れ渡っているようで、ここには滅多に虚はこない。
だからここから動きたくはなかった。
例え動くとしてもあたしの感知範囲に虚が入ってからにしたかった。
しかし、彼にあたしの友達になれる子を探したいと言われて断れなかった。
あれだけ仲間を欲しがっていたあたしがそれを嫌がるなんておかしなことだからだ。
彼が思うリリネットは、きっとそれを断らない。
普通な彼に合わせること、それがその時のあたしの1番になっていた。
初めはただ嫌われたくなかっただけなのに、最初についた嘘がどんどん大きくなって、もう取り返しがつかないほど大きくなっている。
いつでも元気で笑顔なか弱いリリネット。
そんなあるはずのない幻想がいつまでも守れる筈がないのに、あたしは止まることが出来ない。
所詮あたしは獣にすぎない。
人の形をして言葉が通じるだけの獣。
そんな獣が人間と家族になりたいと願うなら、きっと演じるしかないと思った。
しかし、今思えばそれは愚かな考えだった。
演じたって家族にはなれない。
それはあたしが彼を信じていないことと同義だから。
普通な彼が異常なあたしを受け入れてくれないという勝手な決めつけ。
それが間違いだったと、あたしは彼に抱きしめられた時に気がついた。
大きな虚の死体の前で泣きそうな顔をするあたしを見て、彼は泣いていた。
君に気を使われていた自分が情けない、そう言って悔しそうに泣いていた。
…暖かい。
そんな彼を尻目にあたしが思ったのは、そんなことだった。
人と触れ合うということがどういう気持ちになるか知らなかった。
体が暖かいんじゃない、心が暖かくなるのを感じる。
ーー穴がないってこんな気持ちなんだな。
遥か昔、もう忘れてしまった筈の人間だった時の記憶、それが一瞬だけ蘇る。
大柄な髭を生やした長髪の男が、気怠そうに寝転びながらこちらを見ている。
見覚えなんてない筈の男。
しかしどこか懐かしさを感じる男に、あたしは声をかけたくなった。
ーーあたしはもう1人じゃないよ
そうか。
あたしの耳に聞こえるそんな幻聴は、いつもより少しだけ高く聞こえた。
「今度はあたしが守るから」
そんなあたしの呟きを聞いて更に泣き叫ぶ彼に、あたしは笑う。
か弱いリリネットなら笑わなかっただろうけど、リリネットジンジャーバックは笑う。
泣きたい時は泣くし、笑いたい時は笑う、これからはきっと怒ることもあるかもしれない。
そんな未来を想像して、あたしは笑うのだ。
その時あたしはそんな未来に夢中で、折れた筈のツノが生えていたことに気づかなかった。
リリネットちゃんはスタークと別れてないので原作より少し大人っぽいという勝手な設定があります。
あとリリネットちゃんが兄ちゃんと呼ぶのか兄貴と呼ぶのかで永遠に悩んでました。
というか日記形式書いてみたかったのに普通の文章多すぎですかね?そこら辺も教えていただけると嬉しいです。