早朝の一悶着が解決し、零式のことを身元が保証されているらしい謎の老人にお願いし、友人たちと別れて夏休み特有の静かな商店街をのんびり歩く俺。
なんというか、不思議な縁でお迎えするFDが決まったせいか気分がフワフワしているというか。いまから部屋に戻って一眠りしたら夢でした、なんてオチがついたとしても驚かんね。落ち込みはするけど。
「いやぁ~、ついにマスターも身を固めることになるとはねぇ! レンタルFDとして付き合いが長いぶん、アタシもなんだか感慨深いよ。……で、部屋の片付け残ってんのに商店街に来たってことは、零式のパーツかなにかでも買うつもりかい?」
「あー、いや……そこまでのことじゃないけどさ。正式に自分のFD持つって決まったからさ、商店街の景色も違って見えるかなって。ま、朝から忙しかった頭をクールダウンさせるための口実なんだけどね」
「あはは……。干からびかけてた友だち助けて、そのままセイテン団とゴウセツ団を相手にバトル始まっちゃったからね、そりゃマスターだって疲れるか。しかも海渡りのFDなんてとんでもないオマケまで付いてきたんだ、散歩して頭冷やすってのも悪くないね」
◇◇◇
この世界の日本は前世の日本とほとんど変わらないが、コンビニや薬局に魔力チャージ用のドリンクやキャンディーなどが売っているところは実に異世界である。試合の合間や入れ替わり形式のチームバトルで控えているときなど、ササッと食べて次のバトルに備えている光景はテレビやゲームセンターで何度も見掛けている。
俺はなるべくそういう物には頼らず、まずは精神を鍛えるトレーニングでコツコツと魔力を増やすことにしたけどね。便利な道具は使ってナンボだけど、慣れないうちから頼りきりでは道具に使われるマスターになってしまうかもしれない。やっぱり最初は基礎を固めないとダメだべ。
まぁ、レンタルFDとはいえルビアと一緒にバトルはそれなりに経験したし、いよいよ正式に自分のFDもお迎えするし。そろそろこうしたアイテムに頼ってもたぶん大丈夫でしょ。
「いらっしゃいませ~。あら、レンタルのお兄さんじゃない。おはようなのね。今日のお買い得品は台所洗剤なのね」
「おはよう。今日は日用品じゃなくてバトル関係のモノを買いに来たんだ。なんかオススメのヤツとかある?」
「あら珍しいのね。そういうことならちょっとタブレット端末を出して欲しいのね。売れ筋的にイチバン安定してるのはUGN味覚糖だけど、美味しいぶんお値段もお高めなのが悩みどころなのよね……。はい、どうぞ」
差し出したタブレット端末に店員として働いているFDが手をかざし、商品の情報を送信してくれた。うーん、便利な世の中じゃのう。こうしてバトルとは関係なく生活の一部としてFDが色んな場所にいるっていうのは実に面白い。
ちなみに『レンタルのお兄さん』は学園都市で働いているFDたちの間では通称となっているらしい。利便性を高めるためにTNS管理のもと生徒の情報は共有しているとのことで、長々とレンタルFDで戦い続けている俺は有名人なんだとか。おかげで初めて利用する店舗でも店員FDからは丁寧なサポートをしてもらえるので大変助かっております、ハイ。
「ふーん、あんまりこの辺の棚見てなかったから新鮮な気分だな。チョコレート系は……持ち歩いている間に溶けそうだなぁ。アメならまだいけるか? こっちは……ブロックタイプの栄養食か。え~と? エナジーメイド焼きネギ味噌味。どこ需要あんのよコレ」
「いやいやマスター、この辺りのヤツも甘いものが苦手なマスターたちに人気の商品だよ。まぁ、陰陽道が盛んだったころは砂糖も貴重品だったらしいから、その関係とかあるんじゃないのかい? 甘いものが多いの」
「甘いものそのものがご馳走だった時代の名残か、そういうのは微笑ましくていいな。んで、それはそれとして塩辛いモノ食いたいな~ってお客様のご要望に応えた結果、これ系が誕生したワケね。もしかしたら、そのうちアルコール飲料とかも出てくるのかねぇ」
「そりゃマスター、神事とお酒は切り離せないけどさ。バトルは子どもも参加するし、さすがにそこまでは……いや、無いとも言い切れないか……? どのメーカーもときどきブッ飛んだ新商品出したりするし」
「そういえば蔵人とかたまにワケわからん味のお菓子持ってきたりしてたな……アレの系譜か……。だとしても酔っぱらいバトルはあんまり見たくないな。お茶の間で全国のお父さんとお母さんが困ることになる。……あ」
「うん? マスター、どうかした……あ」
「はぁ~はっはっは! ふたりとも、ずいぶんな反応をしてくれるじゃないか! フフッ、夏休みのせいで長期間会うことができず、久しぶりの再会だからといって照れなくてもいいんだよ? さぁ、遠慮なく歓喜したまえよ。このボク、銀条薫と出会えた幸せを噛み締めてねェッ!!」
「お、ゼリー飲料のぶどう味か。これは美味しく魔力を補給できそうでいいな」
「みかん味とぶどう味の派閥争いに巻き込まれる危険性だけが悩ましいところさねぇ」
「フフフ……相変わらずの塩対応だね天成! ボクほどの美少女を相手にそんな態度をとれるのはキミ以外では蔵人と蒼真ぐらいなものだよ。まったく、そんなに冷たくされてしまうと──ちょっと新しい世界のトビラを開きそうになるじゃないか」
「オマエそんなキャラじゃねぇだろ。──ハッ!?」
「フハハハハハッ!! 反応してしまったねぇ天成! 悲しいかな、キミの友人たちは個性的なキャラが多いからね。ツッコミ担当の悲しいサガといったところかな?」
「そうですわね~。カオル様も頭のネジが15本くらいブッ飛んだ個性派美少女ですものね~。アマナリ様、ごきげんようですわ~。ルビア御姉様もおはようございます~」
鼻っ柱に思わず男女平等パンチをお見舞いしたくなるほどのドヤ顔を披露する薫と、お淑やかにスカートをつまんで一礼しつつもマスターに対してなかなか容赦のない評価を下す相棒のFD。相変わらずどっちもキャラが濃くて胸焼けしそうである。
マスターである薫はいわゆる『イケメン系女子』であり、女の子にモテる王子様タイプだ。それはもう女子からプレゼントやらラブレターの類いをちょくちょく渡されているぐらいにはモテるし、それだけのスペックの持ち主なのは事実だ。気配り、身だしなみ、勉強、運動、バトルの腕前……どれも中等部ではトップクラスなのは間違いない。
そんな自他ともに認める王子様キャラとしてのスマートさに拘っている薫だが、何故か相棒に選んだFDは重装備型の火力重視である。目の前でニコニコと微笑んでいるRD重工製FD『ベルンシュタイン』は、おっとりとしたいかにもお嬢様な性格だが武装はなんというか……うん。撃ち負けなければ勝てる、そんなコンセプトだ。
「まぁ、冗談はこれぐらいにしておこう。実はね、ついさっき蔵人からメッセージが届いたんだ。キミがついにFDをお迎えすることになったとね。そして偶然ショップに立ち寄るキミを見かけたものだから、これはすぐにでもお祝いの言葉を贈らねば! ……と」
「そいつはどーも。そういう善意で行動力があるところはキライじゃないがな、それだけで声をかけたワケじゃないだろう? 抑えてても魔力がピリピリしてるの伝わってくるぞ」
「さすがだね天成。ボクのことをよく理解ってるじゃないか。正式にFDをお迎えするのであれば、いずれルビアともお別れをするのだろう? その前に勝負を挑もうと思ってね」
「勝負ったって……お前には」
「1度も勝ててない、なんて言わせないよ。ボクはまだ、キミとルビアの“本気のバトル”を経験していないのだから」
うーん、この。よく見てると感心するべきか、それともここはライバルとしてしっかり警戒されていることを素直に喜ぶ場面か?
薫の言いたいことはわかってる。俺は学園ではバトルを練習のつもりで色々と試しながら戦っているので、そういう意味では本気でバトルした回数なんて数えるほどしかないかもしれない。
レンタルFDを使っている俺はランキング戦で頑張るメリットも特に無いし、ポイント稼ぎならショッピングエリアのゲームセンターやオンラインサービスで学園の外の大会などに参加すれば充分だからだ。ルビアとの付き合いが長いおかげでTNSからもウィルスバスターの依頼来るし。
「ルビア御姉様、わたくしからも是非ともお願いいたします~。同じ特殊移動能力を持つFDとして、先輩であるルビア御姉様に敬意を表して1度はキャタピラで轢かなければ寂しくてお別れできません~。しくしく」
「いやぁ、愛が重くて困っちまうねぇ。マスター、たまにはハナっからガチでやるバトルもいいんじゃないかい? そろそろ胸はって初心者は卒業したって言えるようにならないと、この先生きのこれないってもんさ」
「そう、だな。お前さんにはずいぶん面倒なスタイルでバトルに付き合ってもらったし、契約が切れる前に派手に暴れるのも一興か。薫、オマエの挑戦ありがたく受けさせてもらう。ただし……負けても文句言うなよ?」
「フフン、言ってくれるじゃないか。いつもの飄々としたキミもキライではないけれど、強気で自信に満ちた天成もステキだよ。さぁ、それじゃあ早速──」
「でもその前に買い物済ませてからな。帰省前に食料品カラッポにしてったからジュースの1本すら冷蔵庫にねーんだわ」
「……キミはやる気になってもマイペースだね」
頂いたアイディアの使い方についての意見もありがた~く頂戴いたしますですハイ。
どうしても作者の脳内フィルターを通過しての出力になってしまうので、読んでいて「違う、そうじゃない」と感じることも多々あると思いますので。
とりあえず後ほど活動報告にそれ用の項目を追加しておきます。