元相棒がTS破恋で"あ"になった   作:ノヴィツキー

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前回もご評価お気に入り登録どうもありがとうございます。
今回はまじめ回です。ちょっと不明瞭だった真水くんの寄生の能力詳細の説明回になります。楽しんでいただけましたら幸いですm(__)m
次回は絶対にエッチィ話を書くんだ(決心


第六話:二人目の適格者()と調査隊

「……着いちゃったな」

 

 まだ、陽が暮れ切っていない第二副東京の空の下、ぼくは久しぶりに訪れた第二副東京市庁舎を見上げながら、思わず呟いた。

 普段なら待ち遠しいはずの終業時刻が、この日ばかりは十三段目の階段の様に思えて仕方なかった。それもこれも、この巨大な魔城の奥底で手ぐすね引いて待っているであろうあの人(ダンボウ課長)のせいだ。

 一瞬、このまま背中を向けることも考えるものの、その場合は確実に真水くんが血祭だからなあ……。

 真水くんという人質を抑えられている以上、ぼくに顔を出さないという選択肢は存在しない。

 

「はぁ……」

 

 結局、ぼくは深い溜息と共に唯々重い足を繰って、このコンクリートの魔城(第二副東京市庁舎)に足を踏み入れる事しか出来ないのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

<おもちゃ箱>(ドリームボックス)葉豊(はとみ)ザクロ様ですね。今、迎えの者を御呼びいたします。そのまま、しばらくお待ちください」

 

 市庁舎に入り、受付に名前を伝えると、眼鏡を掛けた理知的な雰囲気の受付さんがそう言って、備え付けの電話で何処かに連絡を取った。一瞬、彼女の言葉(<おもちゃ箱>)を訂正しそうになるも、どうせあの人(ダンボウ課長)の事だから、(現役時代)のパーティー名をそのまま使ったんだろうなと、聞き流すに留めておく。

 正直、何かの手違いで追い返されないかななんて淡い希望を抱いていたけれど、当然ながら、そんな幸運はそうそう降って湧いてはくれないらしい。

 

「お待たせ致しました。葉豊ザクロ様ですね?」

 

「ええ」

 

程なくして市庁舎のロビーに現れたのは、受付のお姉さんと何処か似た怜悧な雰囲気の、いかにもなタイトスカートとヒールの女性だった。

 

「私はダンジョン・冒険者課長補佐を務めております、真黒(まぐろ)華麗(かれい)と申します。どうぞ、お見知りおきを」

 

「これは、ご丁寧にどうも。既にご存知かと思われますが、元冒険者の葉豊ザクロです。そちらでお世話になっております、夢枕真水とはコンビを組んでおります」

 

その女性、真黒華麗さんの折り目正しい一礼に、ぼくも普段の癖で礼を返すと、華麗さんは少し表情を緩めて「存じ上げております。本日は第二副東京市庁舎へようこそ御越しくださいました」と頷く。

 

「課長の白玉も葉豊も首を長くしておりますので、早速ではありますが、どうぞこちらへ」

 

 そう言って歩き出した華麗さんに促されて、市庁舎のエレベーターに乗り込む。そこにズラリと並んだ二十以上の各階の内、上から二番目のボタンを怜悧な華麗さんは躊躇なく押たのだった。

 

(会議室か……)

 

その階にあるのは市庁舎の中でも上級職員が使用する会議室。つまるところ、この第二副東京でも特に重要な会議が行われている階だ。

 

(本当に厄介事かも……っとと)

 

 無音の狭い室内を満たす浮遊感。久方ぶりに訪れた市庁舎はこの街(第二副東京)の中でも一際不動の構えを見せている。ふと見れば町の外はぽつりぽつりと明かりが灯り始めていて、見下ろした繁華街は既に今夜に向けた客引き合戦が始まっている。

 

「……」

 

 と、ぼんやりと外を眺めていると、チーンという音と共に、不意に今までの浮遊感が途切れる。次いで、無音のままスッと開いた鋼鉄製の分厚いドア。

 

「ザッさあああああああああああああああああああああああん!!!!!!!」

 

直後、視界一杯に広がったのは一階のロビーをなぞった重厚な造りの廊下……ではなく、頑丈なエレベーターのドアなんて知った事かと言わんばかりに全力で跳躍して来た真水くんの真水くんの泣きべそ顔だった。

 

「てい」

 

「あいたっ!?」

 

その泣き顔を何となくデコピンで迎撃すると、カウンター気味に入った一撃に墜落した真水くんが、おでこを抑えてバタバタとのたうち回る。その、身悶えて顕わになった白い項の下の後ろ襟を掴んで真水くんを持ち上げると、何故か目を丸くしていた真黒さんに、ぼくは無言で先を促すのだった。

 

「相変わらずやのぉ、クソガキども」

 

と、そんな何時ものやり取りをしていると、不意に今朝聞いたドラ声が静かな廊下に響いた。

 

(お出ましか……)

 

ぼくはその声に嘆息する。一応、過去にお世話になった相手であるのは確かなんだけど、滅茶苦茶押しが強くてこう……ねえ?

 走馬燈の様に蘇る記憶と共に、パンドラの箱を開く気持ちで振り返った先に居たのは、

 

「よーきたのお、<おもちゃ箱>(ドリームボックス)

 

一目で高価と分かる背広に袖を通し、腕を組んで不敵な微笑を湛え、仁王立ちとなって傲然と胸を張る……おかっぱ頭の小さな女の子だった。

 

「……………え?」

 

その姿に、ぼくの思考は一瞬停止する。いや、本当に……え?

 現ダンジョン・冒険者課長、白玉善太郎。ぼくの記憶するその声の主は、いかつい顔と筋骨隆々の身体にスキンヘッドがトレードマークの、生ける金剛力士像の様な大男だったはずだ。

 当然、予想という程のものではないにしろ、その露骨な言動と風貌から白玉悪太郎(・・・)と呼ばれた課長(大男)が居ると思っていた先に居たのが、記憶とは全く正反対の女の子という事実に、ぼくは思わずまじまじとその女の子を見詰めた。

 

「なんや、わしの顔になんか付いとるか?」

 

その女の子の口から出たドラ声に、ぼくは思わず天を仰いだ。

 

(これ、もしかしなくてもそういう事だよね)

 

ぼくが状況を朧気ながらに理解出来たのは、隣の真水くんという前例があったからだろう。でなければ、眉の太い金剛力士像の様なおじさんが、こんな小さな女の子になっているなんて、どう足掻いても受け止められなかったはずだ。

 

「えーと、白玉課長……でいいんですよね?」

 

半ば以上確信をもって尋ねると、「ふんっ!」と鼻を鳴らしたその女の子は「他に誰が()るんや」と妙に堂に入った仕草で首肯した。その動作、威圧感、どれもが間違いなく記憶の中のダンボウ課長のものだった。

 

「いや、随分とお可愛らしくなられた様だったので」

 

「ま、その辺の話も追々したる。それより、さっさと来んか」

 

ぼくの誤魔化しにフンッと鼻を鳴らして、ノッシノッシと歩き出す小さな女の子(ダンボウ課長)

 

「……取り合えず行った方が良いぜ、ザッさん」

 

その背中を見送って、どうしたものかと考えていると、右手に釣られていた真水くんがチョイチョイと脇腹を突いてそんな事を言ってくる。

 

「あのおっさん、あの身体(女の子)になったくせにマジで全然迫力変わんねーから」

 

「そっか……」

 

そっかぁ……。

 まあ、以前の記憶があるぼく達の場合、その辺は顕著だろうしねえ。

 そんな事を考えながら、小さな女の子(厳つい巨漢)の後を追いかけて、ぼくと真水くんは『第二次ダンジョン表層浄化計画』というパネルが置かれた、市庁舎の一室へと足を踏み入れたのだった。

 

「おう、全員揃っとるな!」

 

 肩を怒らせて室内に乱入したダンボウ課長・白玉善太郎がいつものドラ声を張り上げると、中で机を囲んでいた人達の視線が一斉にこっちを向いた。

 その視線に、真水くんがピクンと肩を跳ねさせる中、ぼくは取り合えず儀礼的に「失礼いたします」と頭を下げるのだった。

 

「席は空いとる所に好きにせぇ」

 

そう言いながら、ずんずんと会議室のステージに向かうダンボウ課長。

 

(……完全に場違いなんだけど、ぼく)

 

(置いてかないでよザッさん!?)

 

明らかに不審者を見る目でこっちを見て来る、会場に集まった市職員の人達。その非友好的な視線に、ぼくは素直にこの場から立ち去りたくなった。

 

「はぁ……」

 

とはいえ、真水くんを置き去りにするわけにもいかないしなあ……。

 結局、言われるがままに着席するしかないぼくと真水くんは、せめてもの抵抗で部屋の端の席に並んで腰かけたのだった。

 

「うし、それではこれより第二副東京ダンジョンの『第二次ダンジョン表層浄化計画』についての会議を始める。まずは配ったもんを見ぃ」

 

登壇したダンボウ課長の言葉に従い、机の上の書類に視線を落とす。

 

「……あの、すみません議長?」

 

「おー? なんや小僧」

 

ぼくが挙手をすると、壇上から課長の声が降って来る。

 

「この資料、思いっきり部外秘って書いてあるんですけど」

 

「せやな」

 

「ぼく、どっからどう見ても部外者なんですけど」

 

「別にええで」

 

「いや、普通にダメでしょ「わしが"ええ"言うとるんや。かまへんわ」はあ……」

 

いや、まあ良いって言うなら良いんだけど……

 

「白玉課長。失礼ですがこの方は?」

 

と、それでも少し首を捻っていると、前の方の席から、これまたダンボウ課長とは対称的な明晰な印象を受ける男性の声が聞こえてきた。顔を上げてみれば、丸眼鏡を掛けた細目の壮年の男性がすっくと立ちあがって、ぼく達とダンボウ課長とを見比べていた。

 

「なんや、財前。わしが呼んだ人間に文句でもあるっちゅうんか?」

 

財前……そう、ダンボウ課長に呼ばれた男の人は「滅相も無い」と首を横に振る。

 

「ですが、今回のこの『第二次ダンジョン表層浄化計画』は我々第二副東京市庁全体の一大プロジェクトです。もうしくじりが許されないのは白玉課長が一番よくご理解されているでしょう? 当然、プロジェクトに参加するメンバーも市庁のエリートから優秀な冒険者の方まで厳正な審査を経ている。そこに飛び入りで二人も入れるなんて……とても正気とは思えません」

 

その男性の妙にねちっこい言葉に、ぼくは内心で拍手を送る。

 普段であれば不快にもなるであろう言い様だけど、この状況に限っては、ある種の福音にしか感じられない。

 

―できれば、このまま正式にフェードアウトさせてほしい……―

 

というのが、ぼくの偽らざる本音だった。

 真水くんもこれに関しては完全に同意見らしく、隣を見れば真剣な表情でうんうんと頷いていた。

 

「おどれの懸念は最後や。お前はわしの言葉で納得するかもしれへんが、中には何人か伝わらん奴も居るやろうからなあ」

 

ふんと鼻を鳴らして口を歪めた女の子の姿に、ぼくと真水くんは禿頭(とくとう)の大男の姿を幻視する。

 

「しかs「それと」む……」

 

その女の子(大男)が財前さんの言葉を遮る。

 

「この『浄化計画』はわしらダンボウのもんや。新進気鋭か何か知らんが、土木がでかい口叩いとったら摘まみ出すでえ」

 

そう言って、ギラリと大の男を睨みつける小さな女の子(大の男)その発せられる外見とは不釣り合いすぎる威圧感に、ぼくはさっきの真水くんの感想が嘘偽りない真実な事を理解する。

 

「……失礼、出過ぎました」

 

壇上の前の財前さんもそう思ったのか、そう言って一礼をして、再び近くの椅子に着席した。

 

「ふん、分かったらええわ。……腰折られたが、手元の資料や」

 

白玉課長の言葉に、今度こそそこかしこでパラパラと紙を繰る音が響く。ぼくも周りと同じ様に書類を開き、隣の真水くんと一緒に、その中身に目を向ける。

 ページの一枚目。そこに記されていたのは小さなグラフと、その内容に対するいくつかの説明だった。

 

「まず、何人かはもう知っとる話やが、ここ数か月ほど俗に"初見殺し"言われるモンスターの群れが第三層を中心に、何度かダンジョン上層で確認されとる」

 

言葉の通り、"各月モンスター発見件数"とあるそのグラフは描かれた棒が半年の間に常に右肩上がりとなっていた。

 

「詳細な群れの種類と発見回数は、今月だけでもサキュバスが6、フェアリーとインキュバスが4ずつ、セイレーンが3や。単月で見たらここ数年でも突出した数字やな」

 

確かに、ダンボウ課長の言う通り、直近の動きとしては明らかに異常な数字を叩き出している。

 

「元々、この第二副東京ダンジョンは初級・アマチュア冒険者の育成と増加のため、通常表層と呼ばれる一から三層のダンジョン内の、全洗脳系初見殺しモンスターを駆除しとる。その駆除したはずのモンスターの再発生に対応するんが今回のこの『第二次ダンジョン表層浄化計画』の主目的や」

 

「失礼、議長。よろしいでしょうか?」

 

白玉課長の言葉の合間を縫う様に、再び手を上げたのは財前さんだった。

 

「なんや?」

 

「今回議長はこのグラフを踏まえて、『第二次ダンジョン表層浄化計画』を立案されました。しかし、これは本当に充分なのでしょうか? そも、こうやって駆逐したはずのモンスターが再度姿を見せたという事は、確実に前回の『ダンジョン表層浄化計画』が失敗したことを意味しています。である以上、確実な開発を行うためにも、我々が主導する『ダンジョン表層開発計画』に速やかに移行する方が賢明ではないでしょうか?」

 

書類を取り上げて、すらすらとそう口にする財前さん?の姿を、ぼく達はまじまじと見つめる。ダンボウ課長の姿が小さな女の子になったとはいえ、こうまで言えるなんて、一体どういう立場の人だろう?

 

「ふっ」

 

 と、そんな事を考えていると、再び室内に白玉課長が鼻を鳴らす音が響いた。

 

「土木課どもは馬鹿の一つ覚えみたいに開発開発と、それしか言えんのか」

 

そう言って、不敵な笑いと共に、ダンボウ課長が土木課出身らしい財前さんの言葉を切り捨てる。

 

「そも、表層から開発なんぞしとったら、モンスターが避難して三段低いダンジョンが出来上がるんが関の山や。しかも、微弱希少な生物や植物は大ダメージを受けかねん。生態系ぶち壊して折角の金の卵産むガチョウを殺したら本も子もあらへん。わしらダンボウ課は人間とモンスターの共存共栄がモットーや……なあ?」

 

「……」

 

自分はダンジョン表層のモンスターの駆逐を指示しておきながら、堂々とそう言い放つ白玉課長に、財前さんは閉口した様子を見せる。まあ、実際には少なからず事前調査とかしているんだろうけどね。

 

「えーと、すみません議長?」

 

そんな二人を見比べて、ぼくも少し疑問に思った事を尋ねるために手を上げる。

 

「お、<おもちゃ箱>(ドリームボックス)の小僧か。何や?」

 

「このモンスター達の再発生の原因は分かっているんですか?」

 

「いや、まだや」

 

白玉課長は(かぶり)を振る。

 

「簡単な調査の結果は次のページやが、五年間も出現頻度が低空飛行だった以上、まず帰巣本能はあらへん。より下層の巨大モンスターの進出の兆候もや。念のため群れの拡大具合も調査したが、こっちも例年と大差なかったわ」

 

「……」

 

議長の言葉の通り次のページを見るも、確かに今言った項目は全て当て嵌まらないでいる。

 

「それでなくても、ダンジョン内の気候の変動等によるモンスターの増加やったら、そもそもが全モンスターに渡った話にならんと説明がつかん。狙い澄ましたかの様に、見付かったモンスターの全てが洗脳系なのは不自然や……間違いなく、今わしが言った基本的な事情とは違う、別の何かが起きとるやろなあ」

 

そこで、白玉課長はふっと妙な笑みを漏らす。

 

「その手掛かりは……昨日おどれらが見つけてくれたもんやで?」

 

「「はい?」」

 

ダンボウ課長の言葉に、ぼくと真水くんの声がシンクロする。確かに、ダンジョン表層でセイレーンを見つけた報告はしたけど……。

 

「おどれらがセイレーンを殺回った場所を調べた際に、わしらはセイレーンの検死を行った。その際に、面白いデータが取れてなあ」

 

そう言って、白玉課長は書類の次のページを捲って、ぼく達へと向けて来る。

 

「お前らが最初に斬った成体のセイレーンとその胎児をばらしてみた結果……親と子の遺伝子が全く一致せんかった」

 

あ、本当だ。

 プリントに書かれた電気泳動の写真。それを見れば、明らかに親のセイレーンと子のセイレーンの遺伝子に違いがみられる。

 

「知っての通り、セイレーンを始めとしたオスかメスしか居らんモンスターは通常単為生殖や。実質クローンと言ってもええ。その場合、当然ガキのDNAは親と一致せな話が合わん」

 

「ってことは……」

 

「居るんやろなあ、百年に一度生まれるっちゅう、オスのセイレーン……セイレーンの王が」

 

そう言って、ニヤリと笑う白玉課長。明らかに状況を楽しんでいると思わせる獰猛な笑みは、その言葉のセイレーン以上に、見る者にゾクリとする恐怖を感じさせてくる。

 

「……と、そういった事情を踏まえて、今回の『第二次ダンジョン表層浄化計画』では手始めにダンジョン四層以降の調査から始める事となった。今集まった冒険者は、わし含めて皆調査隊のメンバーっちゅうことやな」

 

そう言って身を起こした白玉課長に、市職員と思われる背広姿の人達が露骨にホッと安堵の溜息を吐いたのが聞こえた。

 

「失礼」

 

 そんな、弛緩した空気の中、先の財前さんが三度手を挙げた。

 

「なんや、財前」

 

立ち上がった財前さんを白玉課長が面倒臭そうに睨みつける。

 

その話(調査隊)でしたら、我々も否はありません。『浄化計画』が採用されるにせよ『改造計画』が採用されるにせよ、調査は必要だ」

 

「はん」

 

「で、あるからこそ、そろそろ彼らの事を教えていただいても良いでしょうか?」

 

そう言って、件の財前さんが射貫く様な視線をぼく達に向けて来る。その眼光は鋭く、明らかにこっちを値踏みしている目だった。

 そんな、挑む様な財前さんの言葉に、白玉課長は「ふんっ」と小ばかにしたような表情を浮かべる。

 

「ま、そろそろええか。知っとる奴も何人か居るかもしれんが、一度解散した出戻りやから知らんもんも多いやろ」

 

そう言って、壇を降りた課長がつかつかとこっちに歩いて来る。

 

「こいつらは葉豊(はとみ)ザクロと夢枕(ゆめまくら)真水(まみず)<おもちゃ箱>(ドリームボックス)っちゅう五年前に解散した冒険者のコンビで、おどれが"しくじり"言うた、五年前のダンジョン表層で実施した初見殺しモンスターの駆除計画。その駆除計画での……最多殺戮記録保持者や」

 

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

 

隣に立った白玉課長がバンッとぼくの肩を叩く音が、周りの人達の声に飲み込まれる。っていうか痛いんだけど。隣の真水くんも気の毒そうな目でこっちを見てくる。

 

「失礼ですが……それは本当の事なのでしょうか?」

 

 いち早く混乱が解けた財前さんが、今度は疑う様な目を向けて来る。正直、ぼく達としては嘘って事で処理してほしいんだけど、そんな事言ったら確実に左肩を握り潰れるよなあ……。

 

「五年前の駆逐計画では、確か最高位の冒険者も何名か参加していたと思うのですが」

 

(ま、そう思うよね)

 

自分で言うのもなんだけど、ぼくは中肉中背で顔つきに特徴も無いザ・一般人だし、隣の真水くんは謎に美少女になっちゃったけど戦闘担当じゃないし。

 

「ま、重火器や膨大な魔力を持っとらんのはその通りや。そもそも、こいつらは当時は中級の、何処にでも居る普通の冒険者やったからなあ」

 

ぼくの認識を裏付ける様に、ダンボウ課長が的確な説明を付け足す。

 

「せや。こいつらの真骨頂はそれら(魔力や重火器)やあらへん。こいつらの最大の武器はここ(・・)や」

 

そう言って、白玉課長はコンコンと自分のおかっぱ頭を叩く。

 

「つまり、非常に作戦立案能力に長けていると?」

 

「ちゃうわ」

 

訝りながらもそれ()が意味しそうな理由を挙げる財前さんに、ダンボウ課長が噴き出す。

 

「ま、謎かけしとってもしゃーないし種明かしや。このガキどもはな、いわゆる洗脳や催眠の類が一切効かへんのや」

 

そう言いながら、白玉課長は真水くんの肩をポンポンと叩く。

 

「その秘密はこいつ(真水)や。こいつはな、寄生型のリビングウェポン中でも珍しい、脳への寄生能力を持っとる。その効能は脳波のリミッター解除による運動能力の向上と、感受性の消失や」

 

真水くんの寄生の能力、その全貌を端的に語り、白玉課長はニヤリと笑った。

 

「セイレーンの"歌"、フェアリーの"誘い"、サキュバスの"誘惑"にインキュバスの"夢"、どれもこれも、こいつらには一切合切が無効や」

 

「……」

 

「その無効化を良い事に、五年前の計画でこのガキどもが殺しに殺して積み上げたセイレーンやらの死体の数はおよそ二千」

 

「に、二千!?」

 

公的な撃墜数に、会場の誰かが声を上げた。

 

「ま、そういう訳や。他のモンスターどもならいざ知らず、洗脳系のモンスター相手やったらこいつら以上の適任は第二には居らん」

 

その反応が愉快だったのか、不敵に笑った白玉課長が満足気に腕を組んだ。

 

「すみません」

 

と、そんな白玉課長の笑いの中で、別の場所から手が挙がった。

 

「おどれは?」

 

「冒険者のアーノルドです」

 

そう言って、綺麗な一礼をしたのは奇麗な金髪をした男性だった。

 

「一つ質問なのですが、そういう事情であるのならば彼女をスカウトし、他の有力な冒険者と組ませる方が合理的ではないでしょうか?」

 

そう言って、ちらりと真水くんに流し目を送ったその冒険者さんは窺う様に白玉課長に目を向ける。

 

「その辺は冒険者同士の自由やし、わしとしては構わへん……せやが、おどれにこいつを受け入れられるか?」

 

「と、言いますと?」

 

ダンボウ課長の言葉を自身の能力に対する侮辱と受け取ったのか、アーノルドと名乗った冒険者さんは挑む様な目になる。

 

「さっきも言った様に、そのガキの能力は脳への寄生。感情の起伏を全て抑え込み、自律だけに運動を任せられる。せやけど、その過程でとんでもない代償が発生するんや」

 

「代償ですか?」

 

ダンボウ課長の言葉に、アーノルドさんが訝し気な表情になる。

 

「せや。そいつの寄生は脳内情報への乗っ取りに近い。っちゅうことは、こいつを受け入れた瞬間、おどれの感情は愚かケツの穴から記憶の底まで全部筒抜けや」

 

「なっ!?」

 

流石に真水くんのペナルティに驚くアーノルドさん。まあ、初めて聞いた人は割とそういう反応になるよね。正直、割に合うのか合わないのかって聞かれると結構微妙な所だし。

 実際、その辺の事情があって真水くんは冒険者のマッチングサークルに顔を出してたんだよね。恋人さんと離れてからの冒険者業の継続に悲観的だったのも、それが理由の一つだっただろうし。

 

「こいつと組みたい言うんはおどれの自由やが……ま、わしは御免や。少なくとも、それやるんやったら、しまいにこのガキ殺さなあかん」

 

(ま、そりゃね)

 

ガチガチの機密部署―と、いうには随分と情報管理に関してガバガバな気もするけど―であるダンボウ課長(白玉課長)は改めて周りの人達を一睨みした。

 

「冒険者ゆうんは脛に疵を抱えた人間が少なくあらへん。このガキの様なタマ握り合う能力を受け入れられる人間はまず居らん。居らんから、この変人が生きる訳や」

 

何故か、ぼくは貶されながら肩を叩かれた。

 

「で、どうする?」

 

ダンボウ課長の笑みに、アーノルドさんは何故か悔しそうな表情で「いえ」とだけ呟いて着席した。

 

「ふんっ」

 

その姿に、白玉課長……ではなく、隣の真水くんの方が心底軽蔑した様に鼻を鳴らした。どうかしたの?

 

(べつにー)

 

ぼくの問いに、何故か不機嫌そうに唇を尖らせた真水くんが、苛立ちを現わす様に両足をプラプラさせた。

 

「他に、質問はあらへんな?」

 

そう言って、改めてダンボウ課長が周りを見回す。その言葉に手を挙げて、ぼくはさっきから気になっていたことを口にする。

 

「なんや?」

 

「さっきから、決定事項みたいに言われているんですけど、ぼく一応仕事が「有給全部突っ込んどけ」あ、はい」

 

青筋を浮かべたダンボウ課長に即座に撤退。

 こうしてなし崩し的に、ぼくと真水くんは五年前と同じ事業に首を突っ込むことになったのだった。

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、どうもありがとうございます。
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22/11/15:内容追記
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