シンソク 〜栄冠の軌跡〜   作:元灰オタク

10 / 20
第10話です。これは2年目の入学式から数週間後の部活の話。

葛葉→勇気ちひろ視点。


〜大会に向けて練習する〜

 

神速高校野球部の朝は早い。具体的に時間は決めてないが…まあ大体7時、そんくらいから朝練が始まる。俺も一応監督ってことで、そこそこ早い時間に学校に来る。

 

「あー…鍵閉まってんのか」

 

今日は俺が1番だったらしい、部室に人はいねえし、そもそも鍵がかかっていて入れない。取りに戻るのは面倒だが、誰も来てないんじゃ仕方ない。

 

「あ…おはようございまーす」

 

職員室に鍵を取りに行こうと踵を返した瞬間、廊下を歩いてくる星川さんがと目が合った。監督と朝会ったってのにダラっとした挨拶。ちょうどいい、生意気なギャルに上下関係ってもんをしっかり教えてやろう。

 

「星川さーん、ちょっと部室の鍵取ってきてくんね?」

 

「えー…1番だったのにカントクが持ってきてるんじゃないんですか。荷物置いてくる時に確認して下さいよ」

 

「え?あ、ああ。すまん」

 

ええ、ギャル怖…もう全然睨まれたようにしか見えなかった。思わず反射的に謝ってしまい自分が下かと錯覚する。落ち着け、俺は教師、俺は監督。

 

「おはよ〜…あれ、部室開いてない感じ?ちひろ取ってこよっか?」

 

平常心を取り戻していると今度はちーさんがやってきた。

 

「あ、ちひろセンパイおはようございます!大丈夫ですよ!星川取りに行ってきます!」

 

「あ、ほんと?ありがと〜サラちゃ〜ん」

 

ちーさんの声が聞こえた途端に星川の顔は明るく、声も活気に溢れ出した。元気のいい挨拶をした後、颯爽と職員室に向かって行った。

 

え?何この対応の差?

 

「…俺、もしかして星川さんに嫌われてる?」

 

「え?そうなの?…まあ好かれるとこ少ないもんね、監督」

 

「おい」

 

 

 

 

 

 

 

「神速〜…ファイ!」

 

「「おおっ!」」

 

ある程度人が集まったらまずは軽くランニング、学校の外周をまとまって走る。

 

「おう、今日もやってんなー野球部」

 

「おはよう、お互い大変だね」

 

この時間に外を走っていれば必然的に他の朝練のある運動部とも顔を合わせる。去年の今頃は野球部とすら認知されてなかったのが懐かしい。

 

 

 

 

「よーし!じゃあ次、キャッチボール!適当に組んで開始!」

 

次は送球の練習にキャッチボール。ペアを作り距離を取ってボールを投げ合う。手を抜いてたら練習になんないからね、朝とはいえ大会を意識してほぼ本気のスピードで送球する。

 

「うん。いい感じ⋯って」

 

「アッ」

 

「あっ」

 

「あっ」

 

「…っ!!!」

 

横を見るとポロッという音が聞こえてきそうな流れるような3連続エラー。ベンチで座っていた監督が頭を抱え、大きな声で叫んだ。

 

「ファルガー!プティ!物述氏ぃ!しっかりしろぉ!!!」

 

 

 

「なんで有栖ちゃんのこと氏呼び?」

 

「今どきオタクでも使わないでしょそれ」

 

 

 

 

 

 

 

「今年の1年は…ちょっと悪癖抱えてるやつが多いな…」

 

その日の昼休み。ちひろ達2年組は監督に集められてミーティングを行っていた。

 

体力テストの日から入部希望者達を振るいにかけて、残ったのはわずか7人。

 

アルバーン・ノックス

ファルガー・オーヴィド

星川サラ

ボンニフィエール・プラナジャ

物述有栖

ラトナ・プティ

山神カルタ

 

たったこれだけ。希望者自体は20人くらいいたはずなんだけど⋯やっぱ練習厳しかったよね、ちひろ達だって倒れそうになるもん。監督も全然変える素振り見せないし。

 

むしろ、7人も残ってくれたのが幸運なのかもしれない。あれからもうすぐ1ヶ月になるけど、ちゃんと継続して部活に来てくれてる。

 

「なんかプティの自己紹介シート無かったんだけど、誰か知ってる?」

 

「あー…俺が無くしちゃった、ごめん」

 

「おいおいしっかりしろよ黛〜。ま、もう大体わかったしな、別になくてもいいか」

 

聞けばこの前のテストの時からシートが無かったらしい。あんまりそういうところは見せないけど、まゆゆもおっちょこちょいな面があるみたいだ。

 

「んで、話を戻すぞ。アルバーンの四球癖はコンバートしたから大丈夫だとして…」

 

「なんか星川クンとラトナクンは左利きのピッチャー苦手らしいよ。ヴァンパイアのボール打ちにくいんだって。困っちゃうよホント」

 

「あー、そんなこと言ってたね。キャッチャーとしては問題ないよ。サラちゃんもボンニ君も真面目でめっちゃいい子だし」

 

「マジで?やっぱ俺星川さんに嫌われてんのかな…」

 

どうやら監督はサラちゃんに怖いギャルって印象を持っちゃってるらしい。ちひろはそんなことないと思うけど…

 

「まあまだお互いのこと知らないだろうし…警戒してるのかもね」

 

「今のところ、体力度外視の練習量を押し付けてくる鬼畜監督くらいに思われてても仕方ないよね」

 

「えっと…ドンマイ?監督!」

 

「ルカー?それフォローになってないからなー?」

 

 

 

 

 

「まあそれはいい。問題はあの3人だ…ちょっとエラーが多い」

 

ファルガー君、プーちゃん、有栖ちゃんのことだろう。頻繁に…って程じゃないけどエラーが目立つ3人。今日の朝練での3連エラーは正直ちょっと面白かった。

 

「投手のファルガーはともかく、プティと物述氏だ。チーム的には内野を任せたいが…エラー癖があるならちょっと考えもんだぞ」

 

「ボールはよく見れてるし、打者として見ても並以上だと思うんだけどね…」

 

監督曰く、守備位置は内野に1年、ショートはルカで、外野に2年を置きたいらしい。ファースト、セカンド、サードのうち2人にエラーを懸念する選手がいるのは確かにちょっと怖いかも。

 

「まあ誰にでも短所の1つや2つはあるし…入ったばっかりだしこれからだよ。まだ焦らなくていいんじゃない?」

 

「は?うるせーぞ天宮、モンハン没収」

 

「なんで!?」

 

「なんでこの理不尽がまかり通ってるんだろうね?」

 

 

 

 

 

「まあ、実際は悲観するほど悪くない」

 

「え、じゃあ尚更なんで私モンハン没収されたの???」

 

強力なシンカーを使いこなすファルガー君。エラー癖はあるけど身体能力が高いプーちゃんと有栖ちゃん。コンバートで懸念点が解消されたアルバーン君。致命的な欠点のないカルちゃん、サラちゃん、ボンニ君。

 

「もう助っ人も呼ばなくてよくなったし、こっからが本番だね」

 

「1年も十分即戦力だ。今年は獲りにいくぞ、優勝」

 

「ええ?まだ甲子園も行ってないんだよ?気が早くない?」

 

「まあ気概はそれくらいで行きたいよね」

 

「ああ、ミンナで頑張ろう!」

 

「ワン!」

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、いつものように校庭に出て、せっせと練習に励む。

 

「カルちゃんって本当に野球初めてなの?」

 

「え?あ、はい。やま初心者です」

 

入部してから1番驚いたのはこの子のこと、カルちゃんは初心者とは思えないほど野球が上手かった。野球の知識はサッパリだけど、ボールを打つのも捕るのも、経験者と比べて遜色ない。去年のちひろよりも全然上手いと思う。

 

「カルちゃんね〜、まだまだ伸びるし期待の新人だね〜」

 

「え?もしかして褒められてますか?嬉し〜」

 

「なんかね、監督も「ルカと同じタイプ」って言ってたから、期待されてるんだと思う」

 

監督からのお墨付きだ。おそらくこの子もルカと同じ、天才の類なんだろう。

 

「え〜?監督も直接言ってくれればいいのに〜。ならやま、先輩達の力になれるよう頑張ります!」

 

「おおー、いいこと言ってくれ「え、ちょっと待ってください先輩」

 

「え、どうしたの急に」

 

カルちゃんは何かに気づいたようなハッとした顔をしている。今の会話で何かあったのか、カルちゃんの言葉を待つ。

 

 

 

「今のやま…めっちゃ可愛い後輩じゃなかったですか?」

 

 

 

「…ああ、うん。可愛い後輩だったと思うよ」

 

「やった〜」

 

どうやら神様は、野球の才能と一緒にとんでもない大きさの自己肯定の才能も加えちゃったっぽい。

 

え、ルカと同じってどっち?野球方面じゃなくて天然なとこの話だった?

 

 

「ちょっとラトナ君?急で悪いんだけどヴァンパイアのドリンク買ってきてほしいな〜?なんて」

 

「おいおいザレンさん、後輩をパシらせるなんてそんな…んじゃ俺のもヨロ〜」

 

向こうではギルるんと監督がプーちゃんをパシろうとしている。入部から1ヶ月も経ってない後輩を早速下に使うだいぶ終わってる先輩と監督だ。

 

「も〜。仕方ないなあ〜」

 

しかしプーちゃんは特に不満を見せることも無く自販機に向かって行った。

 

「…聞き分けがいいね」

 

「聞き分けがいいな」

 

もっと面倒くさそうな反応があると思ってたらしく、監督もギルるんもちょっと驚いていた。

 

「ああそうだ。それで決まったの?監督」

 

まあそれより…と、監督に声をかける。お昼から悩んでたスタメンの話。

 

「ん?ああ。一旦スタメンはこれでいく」

 

クリップボードに挟んである紙には野球のグラウンド、そしてその守備位置に私達の名前が書かれている。

 

「ピッチャーは黛、キャッチャーはちーさん、ショートはルカ」

 

神速始動からずっと変わらない私達のバッテリー。そしてチーム最速の足を活かしてあちこちへと顔を出すルカ。

 

「ファーストは物述さん、セカンドはプティ、サードは山神さん」

 

内野は結局1年で埋めることにしたらしい。エラーはある程度割り切って、後はそれぞれの適正を見てこの配置。

 

「外野は黒井、天宮、あとアルバーンだな。こっちの配置は練習でもうちょい試したい」

 

3年野手も去年と変わらず外野起用。アルバーン君には元投手の肩を活かした送球に期待って感じかな。

 

「ザレンさんとファルガーは黛のリザーバー、星川とボンニは状況に合わせてって感じだな」

 

どちらも基礎能力が高い2人だ。キャッチャーとしては勿論、代打や代走としても起用しやすいだろう。

 

「じゃあこっから夏にかけては、とりあえずこれで練習していこうか」

 

後はこの形で、夏の甲子園に向けて細かいチューニングをしていくだけだ。

 

「ってことで一旦全員集めてこれを…プティ帰ってくるの遅くねぇか? ちょっと見てくるわ」

 

そこそこ時間が経ったけどパシられたプーちゃんが帰ってこない。校舎の横の自販機に向かってったから5分もしないで帰ってこれると思うんだけど…

 

頭をかきながら監督が様子を見に行く。

 

「全くあいつは…一体何やって………!」

 

 

 

 

 

「は〜、日陰涼しくて最高〜!休憩休憩〜!」

 

「…」

 

「…あっ」

 

「プ〜ティ〜イ〜〜〜!!!」

 

「わあああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

「…何やってんだか」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。