黛灰視点。
「サッカー部です!よければ説明!見学だけでも!」
「キミ身長高いね!バスケに興味ない!?」
「演劇部で〜す!演劇に興味ある子は是非来て下さ〜い!」
「ここが神速高校ね…」
今日は神速高校入学式。葛葉監督とのやり取りの後、俺は神速高校について調べていた。設立から3年目の新設校。実際に見ると情報通りか、それ以上に綺麗で大きい学校のようだ。
掲示板に大勢の人が集まっている。クラス表が貼ってあるんだったか、俺も自分のクラスを確認しに行く。
「えーと、俺のクラスは…」
「君、新入生?」
「え?ああ、うん。…というか今クラス表を見てるここら一帯の人はみんな新入生だと思うけど…」
自分のクラスを探していたところ、横から声をかけられた。小学生…中学生か…?かなり小柄…俺より一回りも二回りも小さい、青い髪を携えた女の子。調べた限りは中等部がある学校じゃなかったはずだけど…
「…君は?」
「あー、私もここの高校に入学したんだけど知ってる人がいなくて…初日から友達作りたいなって思って」
「…なるほどね」
危なかった。見かけで人を判断するのはよくない、迷子とか年齢とか失礼なことを聞くところだった。言葉を限りなく省いたのが功を奏し、彼女も新入生であることがわかった。
「それで君は?どこのクラスだった?」
「ちょっと待って、俺は…あ、B組だね」
「お、じゃあ私と同じだ。私は勇気ちひろ、よろしくね」
「えーと、俺は黛、黛灰。これからよろしく」
これから始まる高校生活。とりあえず、幸先は良さそうだ。
「へえ〜、じゃあ寮生活って感じなんだ」
「うん。野球部の監督にスカウトされて、結構遠くからこの学校に来たんだよね」
神速高校は大食堂や学生寮があり、近隣でない学生に対しての配慮にかなり気合いを入れているらしい。鳥取から大分まで通学などできるはずもなく、当然俺も寮生活となった。
「で、その人に「今日の日程が終わったら部活棟1階の端の部屋に来い」って言われてるんだよね」
「へえー…それさ、ちひろついて行ってもいい?」
「あー、大丈夫だと思う。ちひろも野球に興味ある?」
「うん。弟が野球やってるんだけど付き合ってたら結構面白くて、ちょっとやってみようかなって思ったんだよねえ」
「なるほどね…ああ、ごめん。ナチュラルにちひろって呼んじゃったけど…」
「ん?いいよ、私もまゆゆって呼ぶから」
「ああ俺まゆゆって呼ばれるんだ」
「じゃあみんな、今日はこれで終わりになります。お疲れ様でした〜」
神速高校では入学式の日にガイダンス、授業予定、そして部活動についての説明も行うらしい。時間はかかったが、全ての日程を終えて放課後となった。
「まゆゆ〜、野球部行こ〜。場所どこだっけ?」
「部活棟1階の端の部屋ね。ここから横の校舎に移動するだけだからすぐに着くよ」
神速高校はL字状に普段授業を受ける本校舎と部活動の為の部活棟の2つの建物がある。ちひろに呼ばれて、一緒に監督に指示された部室に向かった。
「ところでさっきの部活動紹介…野球部の紹介ってあった?ちひろ見逃しちゃったんだよね…」
「いや…俺も見なかったな」
先程の部活動紹介、モニターにどんな部活がどういった活動をしているかの紹介が流れていた。そこに勿論野球部の紹介も…あるはずだったのだが、撮り忘れでもあったのか野球部の紹介は流れなかった。
「まあ監督がいて部活がないことなんてないから何かミスしちゃっただけだと思うけど…っと、ここだね」
そんな話をしているうちに部活棟の端に着いた。
「ここでいいはずなんだけど…」
「…誰もいないね」
指定された部室はここだと思うけど…部室の中には監督も先輩も誰もいない。そして、俺が中学の頃の部室に比べるとやけに整っている。視界に入るのは机とロッカーとベンチくらいだ。
「もう来てたのか、早いな黛」
「あ、監督」
迎えに来てくれていたんだろうか。ドアから部屋の中を見ていると俺達の後ろから葛葉監督がやってきた。
「この人が野球部の監督?初めまして監督。勇気ちひろです。野球部、入部希望です」
「おうちーさん。これからよろしくな」
ちひろが監督に挨拶と入部希望をするとすぐに許可が降りた。初対面からもうあだ名って距離の詰め方間違えてない?いやちひろも気にしてなさそうだからいいんだけど。
それよりも、と俺は監督に質問する。
「本当にこの部屋であってるの?ロッカーとかはあるけど部室にしてはやけに綺麗だし…先輩は?」
「ん?ああ、今年から作る部活だからな、先輩はいないし部室はさっきもらった」
俺は思わず顔をしかめる。何が「うちにはお前が必要」だ、メンバーが足りないどころかチームすらないじゃないか。文句を言いたそうな視線をぶつける俺を気にも止めず、監督は部室に入っていった。
「ほら、お前らも入ってこい」
監督の呼びかけは俺とちひろ…の更に後ろ、監督が連れてきたてあろう数人の生徒が入ってきた。
「よーし。入部は6人だな。お前ら、適当に自己紹介してけ」
「えーと…1年C組の天宮こころです…よろしくお願いします…」
ちひろほどではないが少し小柄な少女…いや同年代か、女子が自己紹介を始めた。緊張しているのか、少し震えているようにも見える。
「1年C組!ルカ・カネシロです!ポジションはどこでもいけます!ヨロシク!」
次に自己紹介をしたのは好青年という感じの金髪男子。留学生だろうか、どこかカタコトな日本語だが会話には問題なさそうだ。
…ルカには悪いが、俺はルカの自己紹介よりも、その次に目が離せなかった。
「ワン!」
そう、明らかに人ではない…というか犬。何?異種格闘技とかってまだ格闘技の範疇だけど異種族がスポーツに参加することの前例なんてなかったよね。
「あー、そいつは黒井しば。ボールは口でキャッチしてバットは口に加えて打つ。ボジションは今んとこ外野予定。以上」
葛葉監督から説明が入った。が、聞けば聞くほど意味が分からない。いつから野球は人間以外も参加できるようになったんだろうか。
「ん?次ヴァンパイアの番?ヴァンパイアはギルザレンIII世って言うんだよね。クラスはA組、まあ黒井クンと同じだね、うん。ああポジション?ポジションはピッチャーかな。まあヴァンパイアに任せといてよ」
考えてるいるうちに次の人にバトンが渡り、今度は自称ヴァンパイアが現れた。およそ高校生とは思えない風貌に驚きながらも、俺はもうこの常識の通じない環境に慣れようと考えるのをやめることにした。
「1年B組の勇気ちひろです。弟の影響で入部しました。よろしくね〜」
「えー…どーも。同じく神速高校1年B組の黛灰。ポジションはピッチャー希望、どーぞよろしく」
俺が最後か、と思いながら軽く自己紹介をする。ポジションは変わらずピッチャー、そういう約束だからね。
「あれ、黛君とポジション被っちゃった?まあ1年同士仲良くやろうよヴァンパイアとさ、ねえ黛君」
「うるさ」
「よし、ちょっと体力テストしてみるか。お前ら、ジャージとシューズは今日配られたよな。着替えてグラウンド集合しろ」
そう言って葛葉監督がグラウンドに出ていった。俺達も着替えて後を追う。
内容はシャトルランとか立ち幅跳びとか、学校でやるごく普通の体力テスト。激しい運動ではないが、基礎能力を見るには適しているのかもしれない。一通りこなして、監督のところに戻る。
「んー、まあこんなもんだろ」
記録を見た監督が、パソコンに何やら打ち込んでいる。
「…ルカは、何かスポーツやってたの?」
「ウン、中学の頃に野球をネ。スピードには自信があるよ!」
黙って待っているのもなんだと、ルカに軽く質問を投げる。測定の結果を見たわけじゃないけど、ルカの速さは俺達と比べて明らかに別格だった。少なくともこの中では断トツ、推測では高校3年か大学生と比べても遜色ないほどの圧倒的なスピードだった。
「ルカのこの足の速さは大したもんだ。うちのモットーに適してるな」
モットーなんかあったんだ。今日から始動だろこの部活。
「神速のモットーは"走力野球"だ。走って点を取る。走って守る。わかりやすいだろ?」
「走力野球…」
神速高校の名に適したモットーだ。内野守備も外野守備も、攻撃で点を取る時も必要となる走力。それを重視しているというのはまあ理に適っている。
「まあ大体理解したな?そんじゃあとりあえずグラウンド…50周で」
「「え?」」
「走力野球って言ってんだろ。まずは足を鍛えなきゃな」
言ってることはまあ、わかる。しかし量がおかしい。入部初日、まして入学初日にこなす量じゃないでしょ。
「えー、監督、黛クンとヴァンパイアはピッチャーなんだけど…」
「は?関係あるか、お前らも走るに決まってんだろ」
おい誰だ、この人監督にしたやつ。
「お前らぁ!!!ペースどんどん遅くなってるぞ!!!走れ走れ!!!」
「そんなの…無理…ぜぇ…ぜぇ…」
「はぁ…はぁ…一応、手加減は、してもらってる、らしい、けど…」
「ヴァンパイアって、ヴァンパイア、なんだけど、こういうの、違く、ない?」
まともに走れているのはルカだけ、俺達は多少バラけてはいるがほとんど固まっていて、全員が今にも倒れそうな姿で走っている。
「はぁ…はぁ…もう…やだぁ〜…」
「おい遅れてるぞ天宮ァ!!!ルカと同じスピードで走れ!!!」
無茶言うなよ。後ろを振り返ると泣きながら走っている天宮が見えた。
「…大丈夫なのか、この部活」
前途多難。俺達の3年間の高校野球初日は、考えうる限り最悪の形でスタートを切った。