シンソク 〜栄冠の軌跡〜   作:元灰オタク

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第3話です。これは神速高校入学から数週間後の話。

勇気ちひろ視点。


〜他のシマにおでかけ〜

 

「まゆゆ〜部室行こ〜」

 

「うん。ちょっと待ってて」

 

神速高校に入学してから数週間が経過した。初日から変わらずちひろ達は放課後集まって走り込みをしている。野球部らしい練習まださせてもらえてないけど…なんて思いながら、今日も授業を終えて部活へと向かう。

 

「ちーちゃんちーちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

いつも通りまゆゆに声をかけて支度を待っていたら、クラスメイトの女の子達から声をかけられた。

 

「最近よく放課後にグラウンドで走ってるちーちゃん達を見かけるんだけど…陸上部に入ったの?私達も入ろうと思ってるんだけど練習がどんな感じなのか聞きたくて…」

 

「あー…」

 

まゆゆの方にも聞こえていたらしい。目線を向けると「勘違いされてもおかしくないか」みたいな顔してる。まああんだけ走らされてたらね…

 

「ううん。ちひろ達が入ったのは野球部だよ」

 

「…野球部?」

 

「ヘイ!2人とも!」

 

「あ、ルカ。やほー」

 

「ちーちゃ〜ん、まゆゆ〜、聞いてよ〜」

 

「どーも…ていうか天宮も俺のことまゆゆって呼ぶんだ」

 

C組の方が終わるのが少し早かったのか、廊下からルカとこころんが来た。丁度まゆゆの支度も終わったみたい。

 

「じゃあ私達、部活行ってくるから!また明日!」

 

「あ、うん。また明日〜」

 

「…野球部?」

 

「…あれじゃない?最近噂になってるさ…」

 

「あー…ちーちゃん達大変だね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで天宮、何かあったの?」

 

A組を見に行ったけど既に2人(1犬と1ヴァンパイア?)の姿は無く、部活棟に移動する最中に、まゆゆがこころんに問いかけた。

 

「あ、そうだ、聞いて聞いて。最近クラスの人からの視線が痛いんだよあまみゃ。「葛葉先生に泣きながら走らされてたってホント!?」って、心配ばっかりされてクラスの子と仲良くなれてる気がしないし…」

 

「まあ傍から見たらそう見えるよね…」

 

「あながち間違いでもないのがね…」

 

事実としては「葛葉先生に泣きながら走らされている天宮こころ」だもんね、そりゃあ心配もされるよ。向こうのクラスはまだ大変みたい。ギルるんとしばちゃんのクラスもこんな感じなのかな。まあしばちゃんはそれ以外の点で異質なんだけど…

 

「ルカは全然堪えてなさそうだね」

 

「ウン!注目されるのは嬉しいよ!」

 

「あまみゃはあんまり目立ちたくないかな…」

 

クラスの人達からの視線を上機嫌っぽいルカとげんなりしているこころん。対照的な2人だ。

 

「こっちのクラスでも広まってたよね、噂」

 

まゆゆの発言に頷いて返す。今年作った部活なのにポスターもないし、今のところ走る以外にそれらしい活動もしてないから野球部自体認知されてない。そのため、神速高校には陸上部でも駅伝部でもないがずっとグラウンドを走っている謎の集団がいると噂になっていた。

 

「監督に走る量減らしてってお願いしようよ〜。このままだとあまみゃ死んじゃうし…」

 

「あの監督が聞いてくれるとも思わないけどね…」

 

 

 

「あれ、しばちゃん、ギルるん。部室の前でどうしたの?」

 

部室に着くと、ドアの前にしばちゃんとギルるんがいた。

 

「ん?やあ天宮クン達。なんか今日は勝手が違うみたいでねえ、今部屋の中で監督クンが…」

 

「だーかーらー!なんでお前らがここにいるかって聞いてんだよ!」

 

「そんなんアタシたちの勝手やろ!葛葉に指図されたくないわ!」

 

「そうや!ウチらは自由でやってるんや!」

 

「学校関係者じゃないやつが勝手に中入ってきていいわけねえだろーが!!!」

 

「…誰?」

 

部室の中にはうちの監督と、2人の可愛い女の子がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…騒がしくて悪いな、お前ら。こいつらは俺の…何?」

 

「なんやろ、友達ってことにしといてあげてもええで?」

 

「死ね」

 

ニヤニヤとしたパンダみたいな服の人に、監督からとんでもなく鋭い言葉のナイフが飛び出してきた。

 

「んー…まあライバルとかでええんちゃう?どうも〜、にじさんじ高校ってとこで野球部の監督やってる椎名唯華です〜」

 

「まあそんくらいやな〜。パンパカパンダ高校野球部監督、笹木咲やよ〜」

 

このへんの学校じゃないのかな、自己紹介をしてもらって申し訳ないけどどっちの高校も知らなかった。っていうか2人とも監督?とても大人とは思えない身長と風貌をしている。いや私が言えることでもないんだけどさ。

 

「それで、お2人は何をしに神速に来たんですか?」

 

「まあ〜そうやね〜。葛葉んとこの1年がどんなもんか見にきたって感じやな」

 

「今2人で色んな高校回っとるんや。もう2年後にt」

 

「ちょっ!しぃしぃ!」

 

「馬鹿椎名お前!」

 

「あ、ヤバ、まだダメなんやったわ…」

 

2人に押さえつけられて酷く怒られてるけど椎名さんはたははと笑っている。ライバルっていうよりも友達みたい?な距離感に感じる。

 

「てか、こっちは今日も練習あんだよ。さっさと帰れ帰れ」

 

「わかったわかった。じゃあちょっと失礼して…」

 

「ふーん…ほーう…」

 

私達のことをジロジロ見てきた。

 

「ふーん…なるほどなるほど」

 

「あの…見るだけで何か分かるものなんですか?」

 

「ん?ああ、あたしらはこれで大丈夫なんねん」

 

「まああんま気にせんといてや」と言い、観察を続ける。いや気になるよ。自分のまわりウロウロされながら見られてるんだもん。

 

「はいはいはいはい…ん、ありがとな。大体わかったわ」

 

「ルカやばない?1年でこのレベルて…」

 

「何言ってんねん、椎名のとこにもヤバいのおるやんか」

 

「なんだあ?笹木、お前んとこにはいないのかよオイ」

 

「葛葉!お前んとこのピッチャー雑魚いぞ!」

 

売り言葉に買い言葉、煽り合いの火花がこっちのピッチャーに飛んできた。笹木さんの言葉にまゆゆがピクリと反応する。

 

すると監督がこっちにきて、まゆゆの頭に手を置いて言った。

 

「そう思うだろ?まあ見てな、2年後にはお前らを倒すうちのエースになってる」

 

「!へぇ…」

 

そういう一面もあるんだ。監督はさっきの煽りから一転して、真剣な声色で告げた。椎名さんも笹木さんも、感心したような顔をしている。

 

「ふーん…ま、あたしたちも負けんで」

 

「じゃ、ウチらは帰るわ。またそのうち会おうな〜」

 

「おう、二度と来んじゃねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「厄介な奴らも帰って…そうだそうだ、届いたぞ。色々」

 

「?なんか買ってたの?監督」

 

2人が帰った後、監督が部屋の隅に置いてあった大きなダンボールを動かしてきた。昨日まであんなのなかったもんね。カッターでテープを剥がし、ダンボールを開ける。

 

「野球部らしい備品まだ何も無かっただろ。ほれ、ボールにバットにグローブに…」

 

大きなダンボールの中から沢山の野球道具が出てきた。部室に何も無さすぎるとは思ってたけど、そもそも学校に道具がなかったんじゃ何も置けないしまともな練習もできないよね。

 

「やったー!これで走り込みはもうしなくていいよね!?」

 

「は?続けるに決まってんだろ走力野球なめんな」

 

「みゃ…」

 

テンションの落差がすごいよこころん。すごいキラキラした笑顔だったのに監督の一言でもう涙目になって震えてる。

 

「あとは…ま、部活と言ったらこれだろ」

 

「!これが…!」

 

渡されたのは「神速」と書かれた黒い帽子と、「GOD」の文字が入れられている赤と黒のユニフォーム。

 

「ユニフォームにGODは強気すぎない?」

 

「そうか?まあ強気くらいがちょうどいいだろ」

 

赤と黒のユニフォームってだいぶ威圧的な配色なんじゃないかな。神速高校だから帽子とかユニフォームに「神」が入ってるんだろうけどとょっと恥ずかしい気もする。それはそうと、ユニフォームをもらったのは嬉しい。ようやく部活らしくなってきた。

 

「で、練習試合組んできたわ。来週の土曜空けとけよ」

 

「え!シアイ!?」

 

「急だねえうちのカントクは」

 

野球道具買ってすぐだけどもう練習試合とか入れちゃって大丈夫なのかな。そもそもこの野球部は9人すらいないし、まゆゆとギルるんはピッチャーで被ってるし…

 

「練習試合っていってもこっちは6人しかいないけど…」

 

「人数は気にすんな、ちゃんとツテがある」

 

「あ、そう…」

 

まゆゆも、多分みんなも同じことを思っていたっぽい。監督曰く一応人数の問題は解決しているらしい。とはいえ、急ピッチになるけどこのチームを1週間ちょっとで形にする必要がある。

 

「キャプテンは決めとく必要あるか…黒井、お前キャプテンな」

 

「ワン!」

 

「え、そんな適当でいいの?」

 

もっと誰がやりたいとかお前がまとめるのが上手いだとか…そういう感じじゃないんだ?私の想像していたキャプテン決めよりもあっさりとしばちゃんがキャプテンになった。

 

「お前らのポジションは後で決めるとして…あくまで俺たちは"走力野球"だ。点の取り合いってよりかロースコアで勝つ試合になるだろう。大事なのは守りの時間、どれだけ失点を抑えられるかが重要だ。つまり…」

 

監督がまゆゆの方に目を向ける。

 

「お前がチームの要だ、黛」

 

「!…まあ、善処はするよ」

 

「そこは「俺に任せろ」くらい言ってよ黛クン〜」

 

「いやそういうタイプじゃないでしょ俺」

 

ギルるんの茶化しにまゆゆがツッコミを入れる。まゆゆはグイグイ自己主張するタイプじゃないもんね。まあだから聞いてみたいってところでもあるんだけど。

 

監督が手を叩き、注目を集める。

 

「これが神速野球の初試合だ。あんま気負わず…しっかり決めてこい!」

 

「「はい!!!」」

 

私達の3年間の最初の試合。大きく放たれた監督の檄に、呼応するように私達も大きく応えた。

 

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