シンソク 〜栄冠の軌跡〜   作:元灰オタク

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第4話です。これは初めての練習試合の話。

天宮こころ視点。


〜まずは最初の一歩から〜

 

練習試合当日。あまみゃたちは河川敷にあるグラウンドに集合していた。

 

 

「こんにちは、姫島学園です。今日はよろしくお願いします。えーと、そちらのキャプテンは…」

 

丁寧に向こうのキャプテンが挨拶しに来てくれた。こっちもキャプテンが挨拶に行く。

 

「ワン!」

 

「…???」

 

…当然困った顔をされ、慌ててちーちゃんが割って入る。

 

「ああすみません、すみません。こちらこそよろしくお願いします」

 

「ワン!」

 

「あ、ああ。大丈夫ですよ。部員のペットですか?ユニフォームも着てて可愛いですね」

 

「え?あ、この子がうちのキャプテンです」

 

「…は?」

 

ちーちゃんが行ったことで落ち着きを取り戻した向こうのキャプテンが今度は「何を言っているんだ」って顔をしていた。そりゃそうだよね、まさか犬がキャプテンなんて思いもしないよ。っていうかそもそも野球のメンバーに入ってるのすら異常なんだから。

 

「ねえまゆゆ…これもしかして試合する度に毎回こうなるのかな」

 

「…さ、俺達も試合の準備をしよっか。向こうのチームを待たせちゃ悪いしね」

 

「まゆゆ?聞いてる?ねえ」

 

 

 

 

 

「先輩方、準備は大丈夫ですか?」

 

「ああ、任せてくれ。っていっても、野球なんて中学以来だけどな」

 

「うちの学校に野球部なんかあったんだな。知らなかったよ」

 

「まあだいぶ勘は取り戻したし…練習通り頑張ってこーぜ」

 

葛葉監督が言ってたツテはうちの学校の先輩だった。それも部活はテニス部だったりギター部だったりバラバラ、なのに全員が野球経験者だった。一体どういうツテなんだか…

 

試合が決まってからの数週間、あまみゃ達は先輩達と一緒に練習をした。一緒に打順を決めて、守備の確認をして…死ぬほど走らされた。本当にごめんなさい。悪いのは全部あの監督です。

 

「俺がなんだって?」

 

「いや、何も言ってないよ」

 

そんなことを考えてたら監督がこっちに寄ってきた。エスパーか何か持ってるの?サトリ?

 

「監督、この試合は作戦がどうとかこういう風にしろとか…なんかある?」

 

「ん?あー、必要になったらその都度言うわ。最初は好きにやれ」

 

「あ、そう」

 

まゆゆが監督に指示を仰いだけど、なんか適当な感じの返答が返ってきた。本当に大丈夫かな…

 

「まあ何か言うなら…これがお前らの初陣だ。気張っていけよ!」

 

「「はい!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ先行は姫島学園で、よろしくお願いします!」

 

「「よろしくお願いします!!!」

 

 

 

1回表 0-0

 

私達は後攻、まずは守備からのスタートとなる。キャッチャーにちーちゃん、ショートにルカ、キャプテンとあまみゃは外野で、他の野手は先輩が請け負う。

 

「頑張れまゆゆー!」

 

「うん」

 

そして先発投手はまゆゆ。相対するのは向こうの3年生…学年が高いということはそれだけ長い時間野球に打ち込んできたということ。しかしそんなことは関係ないと言わんばかりに、まゆゆはいつものフォームを構える。

 

「!」

 

初球からクリーンヒット。まゆゆの放ったボールは大きく打たれてフェンスへ転がっていき、2塁打となった。

 

続く2番打者もカキンと音を鳴らし2.3塁の間を抜けて外野へ転がっていった。タイムリーツーベースとなり、早くも向こうに1点が入る。

 

「ごめん、早速取られちゃった」

 

「大丈夫だよー!まだ1回!取り返してこ!」

 

幸先はあんまりよくないけど、初回は1点に抑えて姫島学園の攻撃を終わらせる。

 

 

 

 

 

1回裏 0-1

 

今度はこっちの番。既に一点取られてしまったため、取り返そうとみんなに気合いが入る。

 

しかし1.2番打者の先輩達はバットに当てるも塁に出るには至らず、2アウトで3番打者のルカに回った。

 

ルカも高校に入学してからは初めての試合だけど…緊張はしてなさそう。勢いよくバットを振り、ボールに当てる。

 

「いいぞルカ!って…マジか」

 

飛んだ打球はファーストの頭を抜け───…るかと思いきや、ファーストが思い切りジャンプしてボールをキャッチするスーパーセーブ。打球は悪くなかったが惜しくもアウトとなってしまった。

 

神速の最初の攻撃は三者凡退となった。

 

「ちなみに向こうのピッチャー、普通に上手いぞ。全然県でも上位の実力な」

 

「なんでそういうこと先に言ってくれないの???」

 

 

 

 

 

 

 

5回裏 0-1

 

ここまで無得点…失点はどうにか抑えられているけど、こっちも塁に出ても得点にまで繋がらない。まゆゆの体力もそろそろ心配だし、そろそろ点を取らないとまずいかも。

 

状況は2アウト2塁。いい当たりを打てればここで同点に追いつけそう。ここぞとバットを強く握りしめる。

 

「みゃ!」

 

バットの先でボールを捉え、1.2塁の間にボールを飛ばした。2塁にいた先輩と同時に次の塁へ走り、出塁に成功。

 

「ナーイス天宮!これで1.3塁!」

 

次の打席は…先輩だ。ここで大きく打ってもらえば、3塁の先輩がホームに帰って同点にできそう。

 

ふと監督の方を見ると、あまみゃにハンドサインを出していた。少し前に覚えたばかりのサインを思い出しながら監督のサインを見る。指示は…

 

 

"盗塁しろ"

 

 

無理だよ?

 

慌てて首を横に振る。なんでここで盗塁?2塁は空いてはいるけど2アウトで、それもあまみゃの足でやるのは流石に危険なんじゃ…

 

考えている間に向こうのピッチャーがボールを投げた。指示は変わってないしもう行くしかない。投球と同時に2塁に向かって駆け出した。

 

「あっ間違えた」

 

ほんと勘弁してほしい。走り出してから聞こえたその声に今更ブレーキをかけることもできない。2塁に向かって全速力で走る。

 

「みゃ~!」

 

「す、すげえ!盗塁した!天宮が!なんで!?」

 

「いや監督がやれって言ったんでしょ」

 

まさか相手の選手達も私が盗塁すると思っていなかっただろう。結果的には向こうの虚をついて2塁に到達した。

 

その後先輩が惜しくも三振、まゆゆがヒットを打つもアウトになり、得点には至らず攻守交替となった。

 

「監督?あまみゃ結構頑張ったと思う」

 

「いや…マジですまん」

 

「監督のこんな申し訳なさそうな顔初めて見た」

 

 

 

 

 

6回裏 0-1

 

2アウト2塁。得点圏ではあるが…2アウトというあんまり良くない状況。それでも点を取るチャンスだと、先輩に望みを託す。

 

「いつまでも後輩に辛い顔させてられねえよな!」

 

先輩の渾身のスイングから放たれた地面を這うような打球は二遊間を抜ける。2塁にいた先輩が3塁を蹴り、ホームベースまで戻ってきた。

 

「ナイスナイス!!!まずは1点!」

 

これで同点。7回を迎えるというところでようやくゲームを振り出しに戻す。

 

 

 

 

 

7回表 1-1

 

「いい調子ではあるが…ま、黛はここで交代だな」

 

「うん⋯そろそろ、交代した方が、いいかも」

 

最初の1回以降失点を抑えてくれてたまゆゆだけど…7回ともなるとその体力は尽きかけてる。

 

「よく頑張った。そんじゃあ…ザレンさん、準備はできてるな?」

 

「オッケー。ま、ヴァンパイアに任せといてよ」

 

頼もしいものだ。自信満々に言うギル様にピッチャーを託し、私達も守備位置に着く。

 

 

 

「あっ」

 

「オーイ!さっきの自身はどうした!?」

 

交代したのも束の間、ヒット、ヒット。連続で打たれてすぐさま一点を返されてしまった。

 

「…テヘッ」

 

「いやてへじゃないんだけど」

 

でもその後はしっかり好投。失点はこの1点のみに抑えてこの回を終わらせる。

 

 

 

 

 

8回裏 1-2

 

「ここで返しとかないと後がなくなるぞ…」

 

打順は先頭に戻ってきて一番の先輩から。それと同時に向こうのピッチャーも降板する。

 

「だが…向こうのエースは降ろした。ここ!気合い入れろよ!」

 

ここがチャンスとばかりに先輩とキャプテンが連続でヒットを打ち、ノーアウトで1.2塁という絶好のチャンスが訪れる。

 

「先輩の意地…見せてやるよ!!!」

 

続く先輩が今日一番の大きい当たりを出す。打球は3塁の頭を高く高く飛んでいく。

 

「うおおおお!マジかマジかマジか!!!」

 

弾道は大きな弧を描いてそのままフェンスを越えていった。ここで逆転3ランホームランを決め、逆に4-2へと差をつける。

 

「いいぞいいぞ!調子出てきたなあ!!!」

 

更にルカの足で追加点を取り、3点差をつけて最終回を迎える。

 

 

 

 

 

9回表 5-2

 

「お前ら!ここ守りきれよ!!!」

 

「「はい!」」

 

野球は満塁のホームランで一度に最大4点取れるゲームだ。逆転されてもあまみゃ達の攻撃があるとはいえ、最後まで油断はできない。

 

ここでもギル様が好投を見せてあっという間に2アウトに持ち込む。

 

ここを抑えれば勝利。低く打たれたボールがギル様の横を抜けたのを見て、すかさずルカがキャッチする。

 

「ナーイスルカ!」

 

「アッ!」

 

「ん?」

 

ルカが投げたボールは一塁から少しずれ、ファーストの横を通り過ぎていった。間に合わないはずだった走塁が間に合うどころか2塁まで走られる。

 

「ルカー?」

 

「ゴメン!みんな!」

 

ルカでもそういうミスするんだ。練習じゃ全然見ないルカのミスをこんなところで見るとは思わなかった。

 

「大丈夫大丈夫。さあ、守るぞ!」

 

続く次の投球。低く投げたボールがバットに当たるも打球は遠く飛ばず、ギル様の正面に落ちた。

 

「よし!これで勝っ…」

 

という監督の言葉を裏切り、ギル様の送球はやや高い弾道でファーストの頭を飛び越えていった。勝利が目前のところで2連続のミス。

 

「ザレンさんー?」

 

「あれ、ヴァンパイアまたなんかやっちゃった?」

 

「ま、まだ大丈夫だから!次しっかり抑えよう!」

 

この次と投球も打たれるがまたもやボテボテのゴロ。ギル様の目の前に落ちたボールをそのまま一塁に送球し、こんどこそ3つ目のアウトを取った。

 

 

 

 

 

「5-2で神速高校の勝ち!ありがとうございました!」

 

「「ありがとうございました!」」

 

 

 

 

 

 

 

初の練習試合は5-2と上々の結果だった。8回の逆転も、7回まで失点を抑えてきたからできたことだから…まあ、全体で見たら悪くなかったと思う。

 

「んー…ちょっと最後ミスが目立ったな」

 

ただ、後半になるにつれて明らかにパフォーマンスが低下していた。9回なんかはミスが連発しちゃったし、やっぱり疲労が溜まるからプレーの質が下がっちゃうのは避けられないのかも。

 

「初試合にしてはまあ悪くない試合運びだったし…問題は体力か、やっぱ走り込みだな」

 

「うぇっ」

 

思わずギル様が声を上げた。あまみゃ達も概ね同意見。まゆゆやちーちゃんも怪訝な面持ちをしている。この監督なら「今から河川敷走れ!」とか言いかねないからね。

 

「…ま、夏の大会までには頑張りたいな。とりあえず今日はお疲れさんってことで」

 

私達の心配とは裏腹に、監督の口からは労いの言葉が出てきた。

 

「どっかコンビニでも寄るか、なんか奢ってやるよ」

 

「え?やった〜!あまみゃこれだけで頑張れちゃう〜」

 

「カントク〜!」

 

「え?監督クン人格矯正でもしたのかい?ヴァンパイアの知ってる監督なら「今から河川敷走れ!」とか言い出すと思ってたんだけど…」

 

「え?何?ザレンさん、今からみんなで走りたいって?」

 

「ちょっと待って監督俺達は何も言ってない」

 

「さあさあギルるん!優しい監督が奢ってくれるって!早く行こ行こ!」

 

危ない危ない、失言1つで連帯責任なんてたまったもんじゃない。監督の気が変わらないうちにお金を貰い、コンビニへと急ぐ。

 

 

 

 

 

「はい、これ監督の分。あとおつり」

 

「あ?箱アイス?お前らのことだから全額使ってくると思ったが…まあそれでいいならいいけどよ」

 

コンビニに入った後みんなで話し合った結果…箱のアイスを購入。監督の予想とは外れていたらしい。

 

「こっちの方が安いし…これからいっぱい奢ってもらうからね。最初くらいこんなんでいいんじゃない?」

 

「ハッ!そりゃ俺の気分次第だ!お前らが俺の納得のいく試合ができたらまた考えといてやるよ」

 

逆に言えば、いい試合ができたらまた奢って貰えるかもしれないってこと?俄然やる気が出てきた。タダで食べ物を食べるほどモチベーションを上がるものはないよね。明日からの練習にも気合いが入りそう。

 

「じゃあ、お前らの初試合と初勝利を祝して〜…」

 

「「乾杯!!!」」

 

祝杯にと口にした少し安っぽいアイスは、いつもよりちょっぴり甘く感じた。

 

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