黛灰視点→天宮こころ視点
「さて⋯神速高校もそろそろ、"アレ"が近づいてきました」
「ようやく来たか⋯」
「待ちに待ったこの時が⋯」
「腕が鳴るぜ⋯」
「それじゃあ早速⋯」
「文化祭の出し物、決めていきたいと思います!」
2学期が始まって少し経った頃。ある日のホームルームにて、文化祭についての話し合いが始まった。
「まずは一旦書き出してくから、どんどん案出してって〜」
「はいはーい!お化け屋敷!」
「射的!」
「タピオカ!」
「アイス!」
神速高校は今年3年目の新設校のため、去年までの文化祭はだいぶ小規模だったらしい。高校生初の文化祭の俺達は勿論。2年と3年にとっても初めてのちゃんとした文化祭であり、かなり気合いが入っているんだとか。
「おい黛、黛」
「ん?何?」
ボーっと皆の意見を聞いてると、後ろの席のクラスメイトが話しかけてきた。
「ちょっと男子で意見固めようぜ。お前だって料理とか接客とか面倒だろ?ここは当日何もしなくていいように休憩所とかに…」
「こら、何話してんのそこ2人。ちゃんと聞いてよね。何か案とか意見とかある?」
少し悪目立ちしてしまったか。後ろを向いて話していたら実行委員に注意されてしまった。
ちらっともう一度後ろを向くとそいつからはウィンクが返ってくる。俺もそれに応え、こくりと頷いた。
「折角やるなら、女装メイド喫茶くらい尖らせた方が興味引けそうじゃない?」
「黛!?」
「男子〜、どう?そっちの進捗」
「おう勇気さん、とりあえず看板とメニューと…こんな感じでいいか?」
「どれどれ〜?おお、すごいいい感じ。ありがと〜」
「委員長ー!仕入れこんなもんでいいか?」
「んー…ちょっとコーヒーは少なめがいいかな、客の大半は学生だろうし。逆に紅茶とかジュースはもうちょっと多くお願い」
「了解」
調達班、衣装班など、役割を班ごとに分担して文化祭の準備を進める。俺達は装飾班となって、内装の飾り付けを製作していた。
「まさかお前らがメイド喫茶に前向きだとは思ってなかったわ」
「やめてくれよ…なんで女装なんてした事ねえよ俺…」
「いや…俺は違ったし黛もこっち側と思ってたんだが…」
「すんません。俺、お祭り男なもんで。すんません」
「うるせーぞ美形野郎が」
「声と顔が良けりゃ何しても許されると思うなよ」
それは褒めてるのか悪口なのか。クラスメイトと軽口を叩き合いながら装飾を作る。
「ま、決まっちゃったもんは仕方ない。どーせなら楽しくやろうぜ」
「はぁ…まあそれもそうか」
「まゆゆ〜!」
「どうしたの?」
ちひろの影響か気づけば一部の女子からもまゆゆと呼ばれるようになっていた。衣装班の女子達に声をかけられる。
「服届いたからちょっと試着!こっちきて!」
「ええ…まあいいけど」
「ああ、早くも被害者が…」
「遅かれ早かれあんた達もああなるのよ」
「いやお前らは加害の立場ではあるなよ」
「俺、試着って聞いてたんだけど」
「なんかメイクもするみたいだね。ごめん」
連れてこられた部屋に置いてあったのはバリバリのメイクセット。目の前の女子がやけにウキウキしてるのはこれが理由か。
「でも任せて!バッチリいい感じに決めてあげる!」
「眼鏡かけてるけど外しちゃっても大丈夫?いや逆にメガネっ娘ってのもアリ…?」
「黛の髪綺麗だねえ。これウィッグどうする?あってもなくても一級品になりそうだけど」
「まあどっちも試そ!ごめんまゆゆ!ちょっと色々遊ぶね!」
懐かしい気分だ。高校に入るまで、女子達におもちゃにされていたのを思い出す。そしてその経験から抵抗は意味をなさないと分かっている。
「可愛くしてね」
「それ男側から言うことあるんだ」
「ちょっとみんな〜!ちゅうもーく!」
「ん?どうしたどうした」
ちひろが呼びかけ、作業していたクラスメイトの視線を集める。
「自分達が着る前に先にお披露目!メイド姿はこんな感じになります!まゆゆ、カモーン!」
パチンという指をならす音を合図に教室に入り、教壇に上がる。
「「⋯!?!?!?」」
「どーも」
「ふっふ〜ん。自信作です!」
メイク担当が満足気に腕を組んでドヤ顔してる。勝手に人のことを作品にするのはいただけないが⋯
反応を見るに、みんなには概ね好評だったらしい。
「くくっ…お前…似合いすぎだろ…!!!」
「この見た目で男みたいに低い声出しやがって…っ!」
「彼女にはうちの看板娘をやってもらいます!」
「俺男なんだけど」
文化祭当日、神速高校は朝から外部からの生徒や保護者も来る大賑わいとなっていた。
「みんな!オツカレ!」
「おうルカ、お疲れ!すごい人の量だったな!」
「いっぱい仕入れちゃったけど⋯なんとか売れてよかったよ」
「あみゃみゃ〜。この後一緒に見て回らな〜い?」
「いいよお〜、どこか行きたいところとかあるー?」
C組の出し物は焼きそば。1年生でB級グルメを扱ったのはここだけだったからかかなり繁盛した。お昼を過ぎた頃には7割以上の在庫が消え、3時過ぎには余すことなく完売となった。
「?ココロ?」
「いや、なんでもないよ」
購入者のほとんどが女子だったのは、目の前にいるクラス1のイケメンが笑顔で客引きしていたおかげかな。
「おい聞いたか!?例のウワサ!」
「ああ!なんでも1年のメイド喫茶にスゲー可愛い子がいるとか!」
外から何やら声が聞こえる。廊下の方を見ると、3年生の先輩達が急いだ様子で私達のクラスを通り過ぎていった。
「…1年のメイド喫茶?」
「カイとチヒロのところかな?ココロ!行ってみよう!」
「あ、ちょっと待ってルカ私まだエプロンしてr」
私が言い終わる間もなく、ルカに担がれて連れ去られてしまった。
「…なんてゆーか…人懐っこい大型犬って感じだよな。ルカ」
「わかる。なんなら尻尾ブンブン振ってる幻覚まで見える。本当に野球部好きなんだって伝わるよね」
「天宮も行っちゃったけど…どうする?俺らで回る?」
「いや私他の友達と回るから」
ルカの速さの前にあまみゃはあまりにも無力⋯。気づいた時には抱えられ、次に足を地に降ろしたのはB組の教室前だった。
「お、ルカじゃん。天宮も。そっちはもう終わったのか?」
「ああ。カイとチヒロを探しに来たんだ、中にいる?」
「あー、なるほどね。勇気さんは裏方で黛なら…ほら、見てみ」
まゆゆのクラスメイトがドアから教室の中を指さす。
⋯指してる方向を見るけど、まゆゆの姿は見当たらない。
「…?まゆゆどこ?いなくない?」
「お、やっぱり?おーい黛、ちょっとだけ来れるか?」
奥で振り向いたのは綺麗な女の子。黛さんって言うらしい。まゆゆと同じクラスに同性の子がいたんだ。
「あれ、天宮、ルカ。そっちはもう終わったの?」
「え?まゆy…っ!!!」
なんて考えていたところ、その女の子が口を開いたと同時に私は仰天した。
この声は間違いなくまゆゆ、そしてなぜか声の発生源は間違いなく目の前の女の子。脳が処理に時間をかけたけど、まゆゆの見た目は完全にただの美少女メイドになっていた。
「どーも、1年B組の看板娘。黛灰」
元々の整った顔立ちに加えて細身で高身長という理想的スタイル。メガネを外し、髪はロングのウィッグ。女子お手製のメイクをしてメイド服を着るまゆゆに、もはや普段の面影はなかった。
「ようこそB組メイド喫茶へ!ゆっくりしていってね!」
「まゆゆどこからそんな声出てるの…っ!」
「ん〜…ソーキュート!」
「ありがとうルカ」
「振れ幅ありすぎて温度差で風邪引く」
「オタクみたいな言い方するな」
「普段からネカマして男釣ってそう」
「ちょっと今のは聞き捨てならないんだけど」
「カイの方はどのくらいに終わりそう?一緒に文化祭見ようと思って」
「うーん…今結構人来てくれてるらしくて。俺まだまだシフト入ってて…」
ルカの問いにまゆゆは少しバツが悪そうに答える。教室を見るとかなりの人が入ってるし、B組としても主役が抜けちゃうのはちょっと厳しいかな。
「そっかー…まあそれなら仕方ないね」
「うん。誘ってもらって悪いんだけど───」
「はあ⋯ったく、黛!元はと言えばお前のせいなんだからな!」
そう言ってまゆゆのクラスメイトが、まゆゆに看板を渡してきた。
「俺この時間から呼び込みだから代わりにやってこい!なんなら勇気さんも一緒に!」
「!でも、この忙しい中俺達が抜けちゃうのは…」
「いいからいいから!お前ずっと接客してて全然文化祭見てないだろ?折角なんだから回ってこいよ」
「…ありがとう」
名前も知らないまゆゆのクラスメイトは、優しい笑顔を見せた。
「ってことで俺とちひろ、回れるようになった」
「やったー!」
「ちひろもシフト代わってもらっちゃった。後でお礼になにか買いに行こー」
「うん。⋯それでルカ、どこか行きたいところとかあるの?」
「NO」
「そう⋯」
ルカはみんなと回りたかったって感じだし、もちろんあまみゃは考えてない。
「そういえばしばちゃんとギルるん見てないけど、あっちのクラスは?」
「ああ、キャプテンとギル様は…」
「お、どーもクン。イカした格好してるねえ」
「…なるほどね」
A組に入るとそこは犬カフェ…もとい黒井カフェ。キャプテンが1人で配膳を担当していた。注文を受けたらキャプテンの背中に乗せて運ぶらしい。
「1人で接客なんてしばちゃんも重労働だね…」
「実質休憩室だからヴァンパイア達としては楽ちんだよねえ」
よくこれでOK出したよ、キャブテン。
「今、野球部みんなで回ろうとしてるんだけど、2人のシフトは…」
「ヴァンパイアはもう終わるけど黒井クンはちょっと無理かなー、ウン。ほら、A組の出し物って黒井クンありきだし」
「まあそりゃそうだよね」
「しばちゃ〜ん、こっちこっち〜」
「可愛い〜。写真撮っていい?」
「ワン!」
「…まあ、キャプテンが楽しめてるならいいけど」
「ああ黛クン達、廊下に貼ってある張り紙見た?なんかヴァンパイア達の監督、体育館のステージに出るってさ」
「え、ステージ?なんで?」
「あー、ちひろさっき見たよ。なんでも大トリを任されてるとか」
「大トリって⋯先生達のバンド?」
どっちかというとそういうの参加しなさそうじゃんね、うちの監督。ギターとかベースとか弾けるのかな。
「ちょっと気になるかも。行ってみない?」
少なくとも私達が知ってる監督は歌とか歌わなそうだけど…
その後、他のクラスの出し物を見て回り、最後のステージの時間に合わせて体育館へ向かった。
「さて、一体うちの監督は何を…!?」
「お前らあぁぁ!!!盛り上がってるかあぁ!!!!!」
「「おおおぉぉーー!!!」」
体育館に入ると同時に視界に飛び込んできたのは、ステージの中央で会場のボルテージを上げているうちの監督。
「え?あれ本当にヴァンパイア達の監督?」
場馴れしているのかまるで怖気付いていない。それも、普段からは想像もできない笑顔で。
最後の曲が流れ始め、監督がマイクを持つ。
「うわ…歌うっま」
「スゴいね、オレたちのカントク」
「てかうちの監督結構人気者?思ったより人集まってるんだけど」
あまみゃ達が知らないだけで生徒からの評判がいいのかもしれない。いや、あの人が何も情報くれないからなんだけど。
「監督。お疲れ」
ステージから降りた監督のところへ行き、ペットボトルを渡す。
「お、見てたのかお前ら。サンキュ…って黛!なんだお前その格好!だはははは!!!」
「ああ、このくだりまたやるんだ」
もう結構横にいるから慣れたけど、そういえばまゆゆまだメイドのままだったね。
…あまみゃもエプロン付けっぱなしだけど。
「まさか俺達の監督がステージに立ってるとはね」
「っていうか監督歌上手くない?全然知らなかった」
「はははは!…ふぅ。ま、別にわざわざ言うもんでもねえだろ?」
いやまあ、それはそうなんだけど。そのわざわざ言わないが多すぎて監督のこと何も知らないんだよあまみゃ達。
「どうだ?文化祭は。満喫できたか?」
「うん。クラスの出し物も繁盛したし、文化祭も回ったよ」
「おー、そりゃあなにより」
「監督がそういうの気にするとは思わなかったけど、いつも傍若無人じゃん」
「は?相変わらずクソ生意気だなお前は。まあ⋯たまには箸休めが必要だろ?」
まゆゆのいつも通りの物言いに対して、監督の口からは意外な発言が出てきた。
あんまりそういう素振り見せないけど、ちゃんとそういうとこ気にしてくれるんだ。夏の大会の時もまゆゆのフォローしてたし、私達が思っているより考えてくれてるのかも。
「秋の大会はもうすぐそこだ、明日からまた気合い入れていけよ!」
「「おー!」」
明日からは、あまみゃも弱音を吐かないで練習頑張ろう。
「じゃ、今日休んだ分明日はいつもの倍くらい走っとくか!」
「ねえやめて?」
前言撤回、やっぱ無理。