シンソク 〜栄冠の軌跡〜   作:元灰オタク

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第8話です。これは秋の大会後の話。

黛灰視点。


〜黛改〜

 

『え?クリスマスも部活?』

 

「そうなんだよね」

 

12月の半ばにも差し掛かり、世間ではクリスマスに備えてツリーやイルミネーションの光に街が照らされる。

 

今日は明那と不破君との定期通話の日で、お互いの近況報告を行っていた。

 

『大変やな〜。じゃあこの休みはまゆと会えんか、流石に』

 

「そうだね。それにそっちはもうすぐ受験でしょ、調子はどうなの」

 

『んー…悪くはないけど良くもない…って感じ?』

 

『一応神速の判定も出してるけどやっぱキツそうなんよな〜』

 

2人とも俺の1つ下の学年のため今年が高校受験。聞けば2人とも、神速を志望校の1つとして書いていたらしい。

 

…結果はまあ、概ね予想通りだが。

 

『まっ、俺もふわっちもコーヴァスには行けそうだし、とりあえず進学はできそうやな』

 

「油断は禁物だよ。息抜きも大事だけど、最後までしっかりね」

 

『分かってるって!じゃあまたそのうち!じゃあなまゆー!』

 

『またなまゆ。おやすみ』

 

「うん、頑張ってね。おやすみ」

 

2人に軽くエールを送り、通話を切った。

 

「…ふぅ」

 

俺が未だ連絡をとっている、親友ともいえる後輩。その2人の人生の大事な岐路ともなれば、流石に応援やら心配やらの気持ちが出てくる。

 

「まあ、心配してても仕方ないか」

 

とはいえ、受験はどこまでいっても自分との戦いだ。俺が口出ししてどうこうできるものでも無い。

 

「それよりも」と、イスに座ってパソコンを開く。

 

「俺は俺の、やるべき事をやらないとね」

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!オハヨウ!」

 

「おはよールカ。メリークリスマス」

 

「ちひろ、マフラーが地面に着きそうになってる」

 

「あっほんとだ。てんきゅーまゆゆ」

 

神速高校は先週で学校が終わり、学生達は冬休みに入った。だからといってこの部活が休みになるなんてことはなく、今日も冷たい息を吐きながら部室に集まる。

 

「おうお前ら、折角のクリスマスにご苦労なこったな」

 

「いや監督が来いって言わなかったら来なかったんだけど…」

 

「ヴァンパイアたちとしては休みでもよかったんだけどね?」

 

「は?秋の大会の結果覚えてねえのか?初戦負けだぞ初戦負け!休んでる暇あったら練習しろ!」

 

「冬の時代がどうとか言ってた人とは別人だろこれ」

 

秋の大会は初戦から格上の高校と激突し、善戦はしたものの敗北を喫してしまった。夏の大会で県大会の決勝まで行っただけにショックは大きく、監督にも強い熱が入り毎日のように練習を行っていた。

 

「秋の県大会初戦負けってことは春の甲子園の参加権利すらねえってことだ!暇になっちまったもんは練習で埋めるしかねえだろ!」

 

そう。1年に開催される夏、秋、春の3度の大会。春の大会に出るためには秋の大会で県大会を超え、地区大会の2回戦まで勝ち進む必要があった。年に3度しかない大会の出場機会、そのうちの1つを失ってしまったのは大きい。

 

「新入生が入ってくるまで少しでも地力を上げる!わかったら返事ぃ!!!」

 

「「おー」」

 

「やる気出せぇ!やる気ぃ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「ギルザレンさんは?」

 

「休憩だって、今校舎裏に飲み物買いに行ってるよ」

 

キャプテン達が走り込みに出ている間、俺とちひろは閑散とした校庭でピッチャー練をしていた。

 

「秋の大会、悔しかったね」

 

「うん」

 

ストレート、カーブ、チェンジアップ、スライダー。軽い雑談をしながらちひろのリードに合わせてボールを投げる。

 

「まゆゆ、大会の後さ、通りすがった人達が私達のこと話してたんだ」

 

そう話すちひろの顔は決して明るくない。他の出場校の選手か、観客か。どちらにせよ、1回戦負けの高校の話なんてろくな内容じゃないだろう。

 

「その人達は、俺達のことをなんて言ってた?」

 

ちひろの言葉を待つ。

 

 

 

「⋯"ルカのワンマン"だって」

 

 

 

「…」

 

神速高校は、ルカありきのチームだと。

 

 

 

「⋯まあ、否定はできない」

 

事実として、神速の中でルカは1段飛び抜けた強さをしている。夏に決勝まで行けたのだって、ルカや助っ人に来てくれていた3年の先輩達の活躍が大きかった。

 

しかし3年は夏の大会を最後に引退。3年生の抜けた穴に新たな助っ人も来てくれたが守備練習は実質やり直し。十分頑張ってくれていたが、やはり付け焼き刃で穴を完全に埋めることなどできない。

 

 

結果、頼りになるのはルカ。攻守共に安定感のある彼に頼らざるを得ない状況になっている。

 

 

「その時にルカも横にいたんだけどさ⋯」

 

「⋯うん」

 

そこで少し言葉を詰まらせる。俺はボールを投げるのを止め、ちひろの言葉を待つ。

 

 

「⋯ルカ、すごく悔しそうな顔してた」

 

 

 

「⋯!そう⋯」

 

俺達の中で誰よりも強いルカにそんな顔をさせてしまった。自分の無力さに、不甲斐なさに震え、ボールを握る拳に力が入る。

 

「一刻も早く、俺達がルカに追いつかないと」

 

「うん」

 

「そのためにも⋯ね!」

 

渾身の力を込めて勢いよく投げたストレートが、風を切る音を立てながらちひろのミットに突き刺さる。

 

「っ〜!ナイスピッチ!まゆゆ、そろそろいい感じじゃない?」

 

「本当?だといいんだけど」

 

「うん。ねえ監督〜!次の練習試合っていつだっけ〜!?」

 

ベンチでパソコンとにらめっこしている監督をちひろが大きな声で呼びかける。

 

「ん?ああ、年明けに入れてあるぞ。どうした?」

 

「ちょっと、前に言われてた"アレ"を試そうと思うんだけど…」

 

「お、ようやく実戦投入レベルまで来たか」

 

「それは監督が判断してよ。ただ、1回試合で試してみようかなって」

 

「ふーん⋯ま、やってみろ」

 

興味無さそうな返事とは裏腹に、監督の目から伝わってくるのは期待の二文字。

 

「見ててよ監督!まゆゆのプロ顔負けのピッチング!」

 

「ハードル上げるのやめてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

そして練習試合当日⋯

 

 

「3アウトチェンジ!次の攻撃は神速!」

 

「ふー、わりと抑えられてるな」

 

「なんか⋯出塁減った?ゲッツーもいい感じに取れてるし」

 

「俺達の守備が上手くなった…ってより、凡打が多いのか?」

 

「あんまり外野まで飛んでこないですよね。いいぞ〜!まゆゆ〜!」

 

 

この試合、神速高校は評価Dの高校を相手に6-3で勝利する。

 

 

 

 

 

「今日調子良かったねまゆゆ。全然外野にボール来なくて助かっちゃった〜」

 

「カイ!ナイスピッチ!」

 

「ありがとう2人とも。みんなもナイスカバー」

 

天宮とルカから称賛を受け取り、俺もチームに慰労の言葉をかける。

 

「⋯ま、悪くねーんじゃねえの」

 

「ならよかった」

 

座って腕を組みながら発せられた監督の言葉は相変わらず全然嬉しそうじゃない。しかしこの人は言葉に出す以上に顔に出る。少しだけ上がった口角が、期待通りかそれ以上だったことを教えてくれる。

 

「ん?なんかしてたの?」

 

「ちょっと、投げ方変えてみたんだよね」

 

「投げ方?」

 

 

 

ある日監督からもらったプロの動画。教えてもらったそのプロは、世界でもトップクラスの防御率を誇っていた。特別な変化球を使っているわけじゃない。球速だって、俺より速いが他のプロには到底及んでいない。しかし一流。

 

 

動画を何度も何度も見返し、ある日気づく。

 

 

 

他との違いは、バックスピンの回転数。

 

 

 

球が重いと感じる条件は大きく2つ、それはボールの球速と回転数。これらに比例して打つのに必要な力は大きくなり、打球は伸びにくくなる。俺はもらった動画と自分の投球を見比べ、細かい修正を繰り返して投球

フォームを徹底的に改善した。

 

 

そしてその結果、ストレートで投げる時に限り、打たれた時に長打になりにくい回転をかけられるようになった。

 

 

 

大きく飛ばされさえしなければ仲間に任せられる。俺の後ろには、足を鍛えた頼れる仲間がいる。

 

 

 

「やっと神速のエースっぽくなってきたなあ、黛ぃ!」

 

 

「いや⋯まだまだだよ」

 

だけど、エースと呼ばれるにはまだ全然足りない。そう言ってルカの前に歩を進める。

 

「カイ?」

 

 

 

 

 

「いつか絶対、ルカに追いつくから」

 

 

 

 

 

これは、俺の誓い。待っててくれなんて言葉は余計。ルカが進んだその先に俺も追いつくくらいでないと、対等だなんてとても言えない。

 

次はルカに全てを背負わせないために、もうみんなに下を向かせないために。

 

 

 

 

 

いつか俺自身が胸を張って、神速のエースだと言えるように。

 

 

 

 

 

「⋯カントク。俺、ナニかした?」

 

「くくっ⋯やっぱおもれーわ。あいつ」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

練習試合が終わってからは今まで通りの変わらない生活。学校が始まってからも、世間が春の甲子園に夢中になっている間も、俺達は練習三昧の日々を送る。

 

 

「え!監督スカウトとか行ってたの!?」

 

「そりゃ行くだろ。本気で上目指してんだようちは」

 

「え〜?どんな子だろ〜?可愛い子がいいなあ〜」

 

「ルカの弟も来てくれるし、来年が楽しみだね」

 

「まあ期待しとけ。ほら練習練習!お前らも後輩におんぶにだっこじゃカッコ悪ぃぞ!」

 

監督がわざわざスカウトをしてきた選手がうちに来る。来年度の神速に期待がかかり、俺達も抜かされないよう発破がかかる。

 

 

 

 

『まゆ!俺らコーヴァスに進学決まったで!』

 

「おめでとう2人とも」

 

『待ってろよ!まゆ!ぜってー甲子園で会おうな!』

 

「それはこっちのセリフ。そっちでもしっかりね」

 

気がかりだった2人の受験も終了。あの時交した親友達との約束を改めて胸に刻み、練習に一層熱が入る。

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ、4月。俺達は神速高校2年生となり、そして───

 

 

「やっと来た⋯神速高校⋯!」

 

 

神速高校野球部、激動の1年が始まる。

 

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