シンソク 〜栄冠の軌跡〜   作:元灰オタク

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第9話です。これは2年目、入学式の話。

アルバーン・ノックス視点。


〜時には視点を変えて見てみること〜

 

***

 

 

「アルバーン!ただいま!」

 

「ルカ、おかえり。先にシャワー浴びちゃってよ」

 

「わかった。アルバーンは今自主練中?」

 

「うん」

 

「いいね。…あっ、確か今日は試合だったよな。どうだった?」

 

「…えーと…試合には勝ったよ」

 

「…アルバーンは?」

 

「今日はベンチ」

 

「NO!」

 

「仕方ないよ、フォアボール出しちゃうし…四球が多いピッチャーに試合は任せられないさ」

 

「でも身体能力は悪くないし、チャンスにも強いんだろ?もっと挑戦させていい!」

 

「ははは…ありがとう。ルカの方はどう?ちゃんと楽しんでる?」

 

「マジでマジで超楽しい!カントクが俺の得意なことをもっと伸ばしてくれるんだ!」

 

「ははっ!いいね。⋯ボクも神速に行こうかな…」

 

「来なよ、待ってる。カントクにも言っておくよ!」

 

「気が早いな、まだ決まったわけじゃないんだ。いやでもルカが受かったなら…」

 

「ちょっと?アルバーン?」

 

「冗談さ。まあ頑張るよ、楽しみにしてて」

 

 

***

 

 

…あれから半年、ボクは無事に神速高校へと入学した。今日はボク達新入生の入学式。掲示板に貼ってあるクラス表で自分のクラスを確認し、教室に向かう。

 

「よっ!アルバーン。元気してた?」

 

「!ボボン!同じクラスか、嬉しいな」

 

「さっきファルガーとも会ったよ、クラスは違うのは残念だけどね」

 

教室に入ると同時に声をかけてきたのはボボン…ボンニフィエールだった。ファルガーも別のクラスにいたらしい。幼馴染のこの2人が神速を目指してるって知ってから、2人に追いつけるように必死に勉強した。

 

昔はボンニとはバッテリーの相手として、ファルガーとは同じ投手として切磋琢磨し合った仲だ。

 

「ファルガーはまた強くなったんだ!凄い変化球も覚えたんだって!」

 

「…!そうなんだ!ボクも負けてられないな」

 

…もっとも、当時からファルガーとボクには大きな差があったけど。

 

「アルバーンも野球部だろ?ファルガーには声をかけておいたから、終わったら一緒に行こう」

 

「うん」

 

 

 

 

 

「みんなー、モニターに注目。今から部活動紹介だから、どんなのがあるか見とけよー」

 

部活動紹介か。入る部活はもう野球部と決めているけど、先輩達の顔くらいは先に知っておいた方がいいか。

 

いくつかの部活が紹介された後、野球部の番が回ってきた。画面が切り替わって映し出されたのは、眼鏡をかけた細身の男子生徒。

 

「えー…どーも。神速高校野球部の、黛灰。こっちはキャプテンの黒井しば」

 

「ワン!」

 

そして、1匹の犬。

 

「「犬…!?」」

 

思わずざわつきだす生徒達。ボクだってその1人、なんなら先生だって苦笑いだ。マスコット枠か?それならキャプテンなのはおかしい…まさか選手?でもどうやって…犬が野球をするなんて聞いた事もないし…

 

「俺達は去年設立した野球部で、部員は6人。そしてその全員が1年生だった」

 

あれこれと考えてるうちにモニターには写真が流れる。練習の風景、走る部員達、大会の写真、走る部員達、走る部員達…

 

…ちょっと走りすぎじゃないか?そこには当然、ルカの姿もあった。

 

「他の部活の先輩達に助っ人として入ってもらって、夏に県大会で準優勝した。だから今年は甲子園出場、果ては優勝が目標」

 

1年生と助っ人だけで準優勝。たったそれだけの情報で俺達の入ろうとしている部活の実力が、先輩達の強さが十分に分かる。

 

そして大きく出た、甲子園優勝という目標。

 

「監督は無茶苦茶な人だし、練習はキツくて陸上部よりも走る。…それでも」

 

 

 

 

「それでも、「本気で頂点を目指してる」って人は部活棟1階の一番端の部屋へ。俺達はそこで待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

今日の日程が全て終わって放課後になり、ボボンとファルガーと一緒に野球部の部室へと向かった。コンコンとノックをし、部室のドアを開ける。

 

「失礼します」

 

「来たね!待ってたよ!アルバーン!」

 

ドアを開けたその直後にルカが駆け寄ってきた。やけにテンション高いのルカに歓迎されながら部室に入る。

 

「君がルカの弟君?話は聞いてるよ。私は勇気ちひろ、よろしくね」

 

そう声をかけてきたのはボクよりも20cm以上小さい小学生くらいの女の子…いや、さっき部活動紹介で走ってた部員のうちの1人だ。先程の動画を見ていなければ確実に先輩だとは思えなかっただろう。失礼を働かずにすんでよかったと内心安堵する。

 

「よろしくお願いします!ちひろ先輩!」

 

「おぉ〜、聞いた?まゆゆ。私達、先輩だって」

 

「そうらしいね。そっちの君達は付き添い?それとも入部希望?まあとりあえず、中に入りなよ」

 

「ハ、ハイ!失礼しマス!」

 

ボンニとファルガーも、黛先輩に促されて部室に入る。

 

 

 

「へえ〜、3人は幼馴染なんだ」

 

「はい、小学校の頃にみんなで野球を始めて⋯」

 

「っていうかアルバーン君さ、なんかルカよりも日本語上手じゃない?超ペラペラじゃん」

 

「チヒロ!よくナイと思う!」

 

「えー、ごめんって〜ルカ〜」

 

「あははは…いっぱい勉強したんです。ルカもこっちに来てから頑張ってたんですよ」

 

ちひろ先輩に褒められたのは嬉しいが、比べられたのが嫌だったのかルカが怒っている。先輩が謝るもプリプリしてるルカ、本気で怒ってないのは分かるが一応軽くフォローを入れておく。

 

「オオ…シバセンパイ…フワフワ…」

 

「ワン!」

 

ファルガーは先程の犬…もとい、黒井先輩に顔を沈めている。昔は家で犬を飼っていた気がするけどどれも大型だったはずだ、柴犬を見るのは初めてで昂っているのかもしれない。

 

「マ、黛センパイ、会えてコウエイ、デス」

 

「…?ありがとう。俺も君が来てくれて嬉しいよ」

 

「っ!ーーー!!!」

 

「…???」

 

ボボンはボボンで黛先輩に夢中みたいだ。黛先輩はよく分かってなさそうだけど。

 

「まゆゆ、あれ」

 

「ああ、そうだね」

 

天宮先輩に肩を叩かれて、黛先輩が机の中から紙の束を取り出す。

 

「入部希望者はこれ、簡単に書いてくれる?」

 

「なんですか?これ」

 

「うちの監督が、どんな人が入部する気か把握しておきたいんだって」

 

渡されたのはボールペンと、自己紹介シートと書かれた1枚の紙。記入するのは名前、経歴、ポジションなんかの普通なもの。貸してもらったペンを持ってスラスラと書き進める。

 

 

ただ一点、回答に悩み手を止める箇所があった。

 

 

「野球に関する長所と短所か…」

 

 

ボク自身、自分の欠点は自覚している。投手なのに四球の癖があること。

 

 

 

…こんなの、書くだけ自分が採用される確率を下げるだけじゃないのか?

 

 

「ああ、そこは書かなくてもいいよ。ただそういうのが分かってると不安要素が減るから…まあ、まかせる」

 

黛先輩もまあ、書かなくてもいいと言っている。わざわざ書かなくても…いや…

 

 

 

「できました」

 

ボボンやファルガーが書き終えた後もしばらく長考し、数分後シートを提出した。

 

「ありがとう。じゃあ今日はこれでおしまい。お疲れ様」

 

「え?もうオシマイですか?」

 

ファルガーの疑問はもっともだ。今部室に来てやった事は自己紹介シートを記入しただけ。入部届は出してないし、監督とは顔すら合わせてない。

 

「うん。数日後にまた集められると思うよ。あと…そうだね」

 

「?」

 

 

 

「動きやすい服とか靴、持ってくるといいかも」

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、放課後に入部希望者達が再度集められる。その数はざっと2.30人ほど。ボク達が帰った後に沢山人が来ていたらしい。

 

「えー、俺が神速野球部の監督、葛葉だ。よろしく」

 

白い髪に悪魔みたいな紅い目。部員達と同じ"神"の名を背負った黒い帽子と、全身黒の威圧感を感じさせるユニフォームを纏って監督は現れた。

 

「入部希望者はこれで全員だな?んじゃまずは体力テストだ、お前らの能力を測る。お前ら、見てやれ」

 

動きやすい服装を勧めていたのはこれが理由か。監督からは端的な説明だけをもらい、先輩達に先導されて体力テストを行う。

 

 

 

 

 

部活に入る前のテストということで身構えていたが内容は特段変わったものはなかった。学校でやるようなごく普通の体力テストを終えて監督の元へ戻る。

 

「おつかれさん。あー⋯入部希望者はなんか紙書いたよな?それどこにある?」

 

「はい監督、これこれ」

 

「ナイスちーさん。じゃあお前ら、テキトーに並べ」

 

ちひろセンパイが自己紹介シートを監督に渡すと、パラパラと紙をめくりながら1年生を整列させた。淡々と進めていくあたり、聞いてた通りの厳しそうな印象を覚える。

 

「じゃあそっちから名前と…なんか言いたいこと言え!」

 

一転、急にフワッとした監督の発言に思わずクスッと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

「───です!よろしくお願いします!」

 

「おう、よろしくな。よし…次!」

 

「ハイ!アルバーン・ノックスです!よろしくお願いします!」

 

順々に進められていき今度はボクの番。まずは少しでも印象良くと、大きな声で返事をする。

 

「アルバーンはー…これか。元ピッチャーで⋯んー、"四球癖あり"ね⋯」

 

…やっぱり、ダメかも…

 

結局、短所の欄には四球のことを書いた。ここで隠したって、投手をしていればいずれバレることだったから。

 

部活動紹介でも言われていたが、ボク自身予めこの野球部について調べてきた。夏の大会で1年生と助っ人だけで、それも高校から野球を始めたメンバーもいた中で県大会決勝まで進んだチームだということ。

 

 

そしてその時点で既に、2人の1年ピッチャーがいたということ。

 

 

半年足らずで甲子園目前まで行けるチームなんだ。当然ピッチャーだって優秀な人がいるに決まってる。それに加えてボクの世代でも上位レベルだったファルガーが入る。するとオレみたいな実力のないピッチャーなんて上の学年が卒業するまでずっとベンチなんて普通、それどころか後輩に優秀なピッチャーが入ってくればベンチ入りすら危うい可能性もある。

 

 

 

こっちに来ても、結局ボクは────

 

 

 

「じゃ、コンバートだな。スペックは悪くないし送球もできるから内野か外野か…」

 

「え?」

 

 

監督の口から出た想定外の言葉に思わず声が漏れる。ピッチャーではなく、野手として起用したいと。

 

監督が自己紹介シートをこちらに向け、長所の欄を指す。ボクがその欄に書いたのはたった一言。

 

 "チャンスは逃しません"

 

「チャンスをものにできるってのはそうそう自信を持って言えるもんじゃねえ。期待してるぞ」

 

そう言うカントクの顔は、ニッと笑っていた。

 

 

「よし、じゃあ次「…カントク!」

 

進めようとする監督の後ろから複雑な表情をしたルカが少し前に出てきて、監督を呼びかける。

 

「アルバーンは昔からずっとピッチャーを「ルカ!」

 

そのルカの言葉を、ボクは大きい声でルカを呼び遮った。驚いてこちらを向くルカに、ボクは一言だけ言った。

 

 

「いいんだ」

 

 

ルカは優しい。きっとボクの為に、ボクが今までピッチャーをやってきたことを押して言ってくれようとしたんだと思う。

 

でも、今のボクにそれは必要なかった。

 

「…お前がピッチャーだったのは前からルカから聞いてた。実際にお前が出た試合も見に行った」

 

「!?」

 

カントクの発言にボクは思わず驚愕した。新入生も、部員達の多くが驚いている。

 

それもそうだ。ルカが話したってだけで入学が決まっているかもわからない、それもほとんどベンチにいた1選手のことを調べていたなんて。

 

「だが俺に言わせりゃ、お前の主戦場はそっちじゃねえ。ウチに来たからにはお前にはお前が最大限に活きる場所についてもらう!文句あるか!」

 

そう言って語気を強める監督は、やっぱり少し厳しいイメージ。

 

でも、まだ監督のことはよく知らないけど、その真っ直ぐな眼差しにきっと嘘は無い。この人は本気でボクを使おうとしてる。

 

この人は本気で、ボクに可能性を見出してくれてる。

 

「ありません!よろしくお願いします!」

 

 

 

「スカウトといい、そういうとこはちゃんと監督してるんだねえ」

 

「うるせーぞ天宮!続けるぞ!次だ次ぃ!」

 

「は、はい!星川サラです!野球は───」

 

 

 

 

 

 

 

「───っと、これで全員終わったな?じゃ、伝えることは1つ。1週間練習に参加しろ。その後で入部届を出すかはお前らに任せる」

 

右から左まで全員の自己紹介が終わり、監督が締めに入る。練習参加の指示を受けたが、甲子園優勝を目指す俺達の練習について来れるかという意図だろう。

 

「そんで今日は…まあ初日だしな。軽く走ったら終わりでいいぞ。お疲れさん」

 

「「お疲れ様でした!」」

 

厳しい監督って聞いてたから初日から練習かと思っていたけど、とりあえず今日は自己紹介と今後のスケジュール確認だけで終わった。

 

 

 

「なんか、いつもより優しかった?監督」

 

「あれじゃない?新入生が来たから緊張してるんでしょ。あの人も」

 

「あーそれありそう」

 

走る準備をしながら先輩達が雑談している。どうやら先輩達からすると、今日は普段より優しめだったらしい。

 

「あ、1年生達も走ってく?」

 

「「!はい!」」

 

「お、いい返事」

 

ちひろ先輩から一緒に走るかと声をかけられた。折角のお誘いだ、付き合わせてもらおう。ボク達も大きく返事をして、ランニングのために軽く体を動かす。

 

「どうする?5周くらいでいいかな」

 

「まあ軽くって言ってたし、そのくらいでいいんじゃない」

 

5周か。通常グラウンドの大きさは400m程度、目算だけど神速高校も同じくらいだと思う。2kmは運動初心者にはキツい量だが、冷やかしをふるい落とすためならそんなものなんだろう。

 

「じゃ、校舎ぐるって回っていくよ。最初の一周は軽く行くね〜」

 

「えっ」

 

「え?」

 

センパイの会話にボク達の体がピタッと固まる。

 

 

周はグラウンドではなく、学校の話?

 

 

入部希望者の1人がちひろ先輩に質問する。

 

「せ、先輩?今日は軽くって話でしたよね?グラウンドじゃなくて、校舎ですか?」

 

「あははは、やっぱりおかしいよね〜。私達が1年の時は初日からグラウンド50周走らされたよ」

 

「ごじゅ…!?」

 

どうかしている。そんな指示をする監督も、その指示をまともに聞いた先輩達もとても正気とは思えない。

 

「じゃあ行くよ〜!」

 

動揺している1年を先輩達は走り始めた。ボク達もバラバラと走り始め、先輩達の後を追う。

 

 

「神速〜!ファイ!!!」

 

「「おー!」」

 

「「お、お〜」」

 

 

 

 

 

 

 

そこから連日にわたって行われる厳しい練習。ベンチから大声で飛んでくる罵声。

 

甲子園を意気込んでいた奴も、中学からの経験者だった奴も、毎日のように入部希望者は減り続けた。

 

1週間の練習を終えて残った人数が10人にも満たなかったことは、当初の監督の想定通りだったのか。

 

 

 

 

 

…はたまた、本当にぶっ飛んでいるのか。

 

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