お任せオートプレイ
始まりは唐突だった。
いつも通り、他愛も無い話をしながら二人で帰っていたら
いつもの交差点でいつもじゃない轟音が聞こえて
前を見ると、突然車が迫ってきて
信号を見ると紛れもなく向こう側が信号無視で
いつもぐーたらな僕には、彼女を突き飛ばすことで精一杯だった
そして、僕にそのまま突っ込んで来た車
痛みはなかった
でも、体が凄く熱くて、そして眠かった
半開きの目に映ったのは泣きながら僕の名前を叫んでいた彼女
声もそのうち聞こえなくなって
視界は闇に覆われた
小星「っ!?はぁ、はぁ、またこの夢か・・・」
ボクの名前は井之原 小星(いのはら こぼし)。奏坂高校に通う高校一年生だ。好きなものは面倒くさくないこと。あとゲームとお布団。嫌いなものは面倒くさいこと。
それにしても今日の目覚めは最悪だ。あの日から定期的にこの夢を見るけど未だに慣れそうにはない。しかも不快感でキッパリ目は覚めてしまって二度寝する気も起きないのが最悪。もうボクはあんな顔見たくないんだ。
まあ起きたものはしょうがないので着替えてから朝食の準備をして食べる事にする。今日も学校か、めんどいなぁ・・・
そんなことを思っていると・・・
咲姫「小星ー!いるんでしょー?起きなさーい!!」
小星「ん、おはようヒメ」
柏木咲姫(かしわぎ さき)
愛称は『ヒメ』。ボクと同じ奏坂高校に通う高校三年生だ。ボクとは正反対で真面目で品行方正。クラスでは高嶺の花の存在だ。でも本当は隠れアニオタでコスプレイヤーなことをボクは知っている。あと隠しているつもりでも本当はクラスのみんなにバレバレなこともボクは知っている。
ヒメにはボクの親から直々に家の鍵のパスワードを教えてもらっている。いっつもぐーたらしているボクの介護をしてくれるようにだってさ。
咲姫「珍しいわね、小星が起きているなんて・・・ってその顔どうしたの!?もしかして、またあの夢を見たの!?」
小星「そうそう。朝から嫌になっちゃうよね」
咲姫「わ、私のせいよねそれ。小星、本当にごめんね?」
小星「いいよ、ボクは気にしてないしヒメのせいだなんて思ってないからさ。」
咲姫「それならいいけど・・・あっ小星もう私が来る前に朝ご飯食べてるのね!えらいじゃない!」
小星「ボクをなんだと思ってるのさ・・・普通に朝ごはん食べる日もあるよ」
咲姫「だって小星いつも私が来るまで寝てるじゃない」
小星「それはそうだけどさ・・・ん、ご馳走様。んじゃ歯磨きして出発するから待ってて」
咲姫「全く小星ったら・・・髪くらい整えなさいよ・・・」
小星「めんどくさいからパス」
小星「んじゃ、学校行くからおぶって」
咲姫「小星・・・ちゃんと道案内しなさいよ?」
小星「はいはい。そこ右ね」
咲姫「分かったわ。こっちね」
小星「逆」
いつも通りの日常だ。方向音痴なヒメを学校まで道案内する代わりに、ヒメはボクの足になる。
学校はだるい。高校になってヒメと同じところに入れたのは嬉しいっちゃ嬉しいけど、毎日も通うのはやっぱり疲れるしめんどうだ。いっそのこと平日と休日の割合を入れ替えてしまえばいいんじゃないかとボクは思うよ。
莉玖「おっす!おはよう小星!今日は早いな!」
結城 莉玖(ゆうき りく)
ボクと同じ奏坂高校に通う一年生だ。『ロック』って言葉が大好きみたいで何かにつけて「ロックだろ?」「ロックだからな!」とか言っているが、多分意味を理解していないと思う。実際これを言うと怒られるけど、莉玖はバカだからな。
小星「おはよう。全く、朝からテンション高いぞ。見てるだけで疲れそうだ」
莉玖「だろー?だってオレは、ロックだからな!」
小星「褒めてないぞ」
莉玖「あっそうだそうだ!オレ、小星に聞きたいことがあるんだった!」
小星「なんだ?めんどくさいことはNGだぞ。」
莉玖「小星ってさ、なんで『ボク』って言ってるんだ?」
小星「それを言ったら莉玖だって一人称『オレ』だろー?そういう莉玖はどうなのさ」
莉玖「オレ?オレは・・・ロックだからだ!」
小星「絶対言うと思った」
莉玖「で、小星が『ボク』っていうのはなんでなんだ?オレが教えたんだから教えてくれよー!」
まさかここに触れられるとは思ってなかった。ボクが『ボク』というのは少々複雑な事情がある。いつかは皆にも言わないといけないことだとは思っていたけど・・・
小星「少し考えさせてくれ」
莉玖「ん?なにを考えるんだ?」
小星「ボクが『ボク』って言っている理由を打ち明けるかどうかだよ。暫くほっといてくれ。」
莉玖「おう!気が向いた時にでも話してくれ!」
莉玖は良い奴だな。あまり詮索して欲しくないことを察してくれた上に悪感情も出さずに引き下がってくれた。きっとこういう精神を持つやつが『ロック』ってやつに相応しいのかもしれないな。
例えば、もし例えばの話だけど、ボクが『ボク』と言っている理由を莉玖に話したとして、莉玖はどんな反応するんだろう。こんな『半端物』なボクでも、肯定してくれるかな。
こういう大きな隠し事っていうのは隠したままにするとどんどん後が辛いことを知っている。ボク自身、この隠し事を抱えたままずっと接するのは辛いしめんどうくさい。でも、言える勇気もボクにはない。こんな時、ヒメがそばにいてくれたら励まして貰えるのかな。そして例え拒絶されても守ってくれたりするのかな。
でも、ヒメの力を借りてまで打ち明けないといけないものかと言われればそういう訳ではないんだ。たった一言で済むんだから。わざわざヒメに付き合ってもらうよう頼むのも面倒だ。
でも、今の機会を逃したら、次に打ち明けることができるチャンスはいつくるんだろう。
小星「ねぇ、莉玖・・・」
莉玖「ん?どうしたんだ?」
小星「話そうと思う。ボクが『ボク』って言っている理由」
莉玖「マジで!?いやーオレずっと気になってたんだよ!」
小星「正直に言って『これ』はあまり話したくない。でもボクもさ、ずっと隠し通して三年間一緒にいるわけにもいかないしさ、それだったらさっさと吐き出した方が楽だなって思っただけだよ」
小星「ボクが『ボク』って言っている理由は・・・」
小星「り、理由は・・・」
次の言葉が出てこない。ただ一言でいいのに、その勇気が出ない。ボクはこの抱えている大きな爆弾をずっと隠しておくわけにはいかないのに・・・
莉玖「な、なあ、小星」
小星「な、何?」
莉玖「そんなに言うことが辛いなら、言わなくてもいいんだぜ?オレは気にしないしさ!」
小星「いや、辛い訳じゃ」
莉玖「だって小星お前、泣いてるじゃん」
小星「っ!?」
手を顔に当てると確かに濡れている感触があった。涙だ。ボクがこの秘密を話すという行動に対して明らかに忌避感を持っているのがありありと分かってしまった。ボクは知られたくないんだ。抱えているこの秘密を。
莉玖「まあこの話は終わりでいいぜ!そんなに小星も気にしなくていいからさ、次の授業いこうぜ!」
莉玖は優しい。でも、ボクはずっと隠しておく訳にはいかないんだ。たとえ軽蔑されても、知らない方が良かったって言われても。
この奏坂高校という女子高に通い、みんなと一緒の更衣室を使い、みんなと一緒のトイレを使い、みんな一緒に授業を受けているこのボクは・・・
事故に遭って最先端の細胞培養手術の末、女へと変わってしまった『元男』なのだから。
実はこの小説の構想は前々からずっと温めていたんですよね。どのくらい前からというと、『TSして生徒の身長以下になっちゃった教師の話』が完結する前からです。元々小星というキャラクターは普通のボクっ娘ぐーたらゲーマーなんですが、この特徴が『お兄ちゃんはおしまい!』の緒山まひろに似ているぞと思ったのが始まりです。共通点を見ていく内に小星にも特有の『TSっ娘ぽさ』というものを持っていることに気付いた訳です。
とはいえ、実は僕はこの話をこうやって場に出すのを渋っていました。理由は簡単で、『大好きなコンテンツに捏造で設定を生やしたくない』っていうオタクならではの感情ですね。でも形にしたいという思いがあったのも事実。ということで、『TSして生徒の身長以下になった教師の話PLUS』にて、オンゲキ描写を凝る為の時間稼ぎ兼何れ来るであろう中間テスト用の書き貯めという理由付けをし、自分の中で納得させてこうやって世に出したわけですね。
さてさて、長い話も置いておいて、本編の話に移りますかね。今回小星に『元男』という属性を付け足した訳ですが、TSの理由は事故という事にしました。理由が幾つかあって、『特に理由のないTSより理由があった方がストーリーが組みやすい』だとか、『咲姫と小星を密接な関係にすることが出来る』とか、『事故なら小星本人の心は痛まないが咲姫は割と曇る』とか色々理由はあったり。TSと曇らせって良く合うよね。でもバッドエンドは好きじゃない。
さてさて、次回は中編です。モヤモヤした心を抱えた小星に咲姫がやってきます。