おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 原作において教室の席順は廊下側から出席番号順に縦に五人ずつ四列。
 歩ちゃんの存在により緑谷くんの同横列が瀬呂、切島、蛙吹から常闇、口田、飯田に。
 また縦四列目爆豪緑谷の間(原作爆豪の席)に歩ちゃんが入ってる形になっています。

 葉隠さんが最前列から最後列に変わって、「私のせいで黒板見え辛かったらゴメンね!」というネタ振りが出来なくなっているであろうことが一番の変化点かもしれません。



C1-11 委員長投票と運命の絆

 

「―――と、いうわけで、特に差し障りない日々を送っています」

『そう……(あゆみ)の元気そうな声が聞けて良かったわ』

 

 高校生活二日目の夜。

 携帯電話に通話をかけてきたのは、一人娘から近況を聞きたいと仰るお母様。

 理由も分かるし嬉しくも思うけれど、もう少し日を置いても良いのではと思わなくもない。

 

『ところでさっきの話では、お友達と喧嘩になっているように聞こえたけれど?』

「け、喧嘩という程ではないですよ、お母様。ただちょっと、ぎくしゃくしているだけで……」

 

 ……デクさんの"個性"の中での会議の後、教室に戻ったあのときから、お茶子ちゃんとはお互い微妙な距離感が生まれてしまっている。

 原因は主に、彼と話した内容について、わたしがほぼ全てを秘密だと言ったことだ。

 わたしの秘密についてはわたしの匙加減でしかないけれど、デクさん達の秘密はわたしの一存で他人に言いふらしていい代物じゃない。たとえ相手がお茶子ちゃんであっても。

 

 お茶子ちゃんが心配するような話はしていないと伝えたところ、「し、心配って、何が!?」とほんのり赤らめた顔で言われてしまい、こちらからそれ以上深入りできなくなったのもある。

 『干渉』の見立てでは、《まだ意識しているとも言い難い段階かしら》とのことだが。

 

 問題だったのは、既に放課後にしても遅い時間で、流石に下校しようという流れにあったこと。

 そして当然ながら向かう場所が同じわたし達は、一緒に下校しない理由が無かったこと。

 

 この間どちらかが一度別の話題を振っていれば「ああ、あの話は終わったんだ」と、直ぐに元の距離感に戻れたんじゃないだろうか。

 けれどわたしは時々視線を感じながらも、部屋の前で別れるまで無言を貫いてしまった。

 話しかけて良いのか悪いのか、様子を伺う内にその機会を逃してしまった形だ。

 

《友達に隠し事をする後ろめたさと、図らずも他人との約束を破らせようと食い下がるような態度をとってしまった負い目、ね。だからこじれる前にどうにかなさいと言ったのに》

『お互いに謝る切っ掛けを探しているということかしら?』

「そう……かもしれません」

 

 勿論お母様にはそのまま話すわけにはいかないので、ちょっとしたすれ違いだと説明している。

 なのに『干渉』と同じような見解になるのは、わたしが分かり易いということなんだろうか。

 

 わたしが『干渉』について周囲には秘密にしてきた、ということをすぐに納得してくれたお茶子ちゃんなら、デクさんにもまた秘密があって、わたしがそれを話すわけにいかなくなった、というのも本当はそう時間を置くことなく理解してくれていたはず。

 だからあの時の怒り……と呼ぶのも言い過ぎなわだかまりは、継続されてはいないだろう。

 

 何となく……そう、本当に何となくお互い「許して」とも「許す」とも言い出しにくくなって、ずるずると機会を逃しているだけなはずだ。

 ……うん。そうと決まれば。

 

「……お母様。この前テレビで午後には必ず売り切れてしまうと評判の水羊羹が紹介されていたんですが―――」

『《友達を物で釣る気? 余計ややこしくなるから止めなさい》』

 

 怒られた。しかも声を揃えて。

 特に『干渉』には《実家の財力関係には触れない約束をしたでしょうが》と、滾々と怒られた。

 

 その後、二重音声(サラウンド)お説教を止めてくれたのは、お茶子ちゃんが鳴らしたアパートの呼び鈴。

 出てきたわたしの顔が相当ひどかったのか「どんだけ気にしとるん!? ごめん!」と、若干の勘違いを含みつつ謝られ、わたしもすぐに謝り返したことで結果的に仲直りできたのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――"平和の象徴"が教壇に立っているということで、様子など聞かせて!』

 

「様子!? えー……と、筋骨隆々!! です!」

「お茶子ちゃん、違う、そういうことじゃない」

《意外と天然よね、お茶子さん》

 

 高校生活三日目の登校時間。校門前に大量のマスコミが押しかけていた。

 あのオールマイトが突如教師になったということで、今日までの二日間にも報道のネタを求めて集まっていたそうだけど、学生の登校時間に人垣を作るのは流石に非常識じゃないだろうか。

 

 

『―――教師オールマイトについてどう思ってます?』

 

「えっ、わ、わたし? えっと……ギャップがかわいいです!」

「いや、歩ちゃん、それもなんか違わへん?」

《いったい何を口走ってるのよ》

 

 周りを見れば、わたし達以外のクラスメイトも次々と同じような質問をされている。

 テレビで見るオールマイトが常に笑顔で報道陣に応対していたのが実は凄いことだったんだと、この立場になってみて初めて思い知った。

 

「敷地に入るだけでめっちゃ疲れたな……」

「相澤先生が全然メディアに出ないようにしているという理由も分かりますね……」

《ヒーローになるならマスコミ対応も身に付けなさい、と言うつもりだったけどこれはひどいわ。一部のヒーローのように、始めから対応しない、という姿勢も考えるべきかしらね》

 

 ……『干渉』もこう言っているし、今度からは囲まれる前に逃げよう。

 

 

 

 

「―――急で悪いが、今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」

 

 朝のHR(ホームルーム)の時間、相澤先生は諸々の注意と釘差しの後で、徐にそう言った。

 瞬間、誰も彼もが自分が勤めると沸き立ったクラスメイトの中で、とりわけ大きな声を響かせたのは飯田さん。

 

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」

 

《……ぐうの音も出ない程の正論なんだけど》

「その意見自体には心の底から同意しますけど」

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!」

 

 自分こそがと高々に手を挙げた姿でなされた提案に、集団として過ごした日の浅さから果たして多数決が成立するのかという意見が出るも、相澤先生の「時間内に決めりゃ何でも良いよ」という一言で、クラス全員で無記名投票を行うことに。

 

「……発案した飯田さんで良いのでは? メガネですし」

「ブフッ!?」

「干河さんはメガネを何だと思ってるの!?」

「やめろ、緑谷……っ、追撃はやめろ……っ!」

 

 何気なく呟いた一言に誰かが噴き出した音を聞きながら、飯田さんの名前を記入する。

 トップヒーローの素地を鍛えられる役ということで皆は乗り気ですけど、少なくとも『干渉』に頼ってばかりな今のわたしが、引き受けて良い役じゃない。

 それに結果的に発案を通してクラスをまとめる形になった飯田さんが一番向いているだろう。

 

《……いや収拾つけなさいよ。ほら見なさい、みんな頭から離れなくなってるじゃない》

「……メガネ」

「メガネか……」

「メガネやしなあ……」

 

 投票結果は予想通りと言うべきか、殆どのクラスメイトが自分自身に投票したらしく、一得票の名前がずらりと並んだ。

 その分、他人へと入れられた一票の重みは大きく、二票以上を得たのは僅か三人。

 デクさん、飯田さん、それから八百万さんが二票ずつで同率一位となっていた。

 

「僕二票ーーー!!?」

「なんでデクに……!! 誰が……!!」

《確実に他人に投票したのは歩の他に、お茶子さんと……轟さんか》

(じゃあデクさんに入れたのは、お茶子ちゃんでしょうか? ……大丈夫かな)

 

 何かとデクさんを敵視する爆豪さんの怒気を間近に、少し心配になって教室の端を振り返る。

 わたしの視線に気付いたお茶子ちゃんは、けれど顔をふるふると横に振った。

 

《あら? ……ということは、まさか飯田さん……》

(……そういうこと、になりますよね?)

 

 わたしが『干渉』と一緒に得票数の内訳について考えている間に、周囲では学級委員長ならびに副委員長を決めるため、二票を得た三人が教卓へ上がっていた。

 そこで三人から二人を選ぶ方法が思案されていたので、気が付いたことを口にする。

 

「あの、もしかしてなんですけど……飯田さん、自分以外に投票されました?」

「!? 何故それを!」

「ええっ、そうなの!?」

「おまえもあんだけやりたがってたのに、何考えてんだ!?」

 

「ちなみにデクさんと、八百万さんは……」

「……一票は私自身の票ですわ」

「右に同じです……」

 

「では、先程飯田さんの言った通り、周囲の信頼という意味で答えは出ているのでは?」

「……そうだね。僕も飯田くんがやるのが()()()と思うよ」

「ほ、干河くん、緑谷くん……っ!」

「ま、その通りだな! 任せたぜ、飯田!」

「しっかりやれよー!」

 

 感無量といった様子で震える飯田さんに、クラスメイトからも納得と祝いの声が飛ぶ。

 

「……あとメガネですし」

「ブホッ!?」

「だから干河さんのメガネに対するその信頼は何なの!?」

《歩の突っ込み担当になりつつあるわね、緑谷さん》

 

 

「……はよ副委員長も決めろ」

 

 その後、男女別に行動する機会を考えると副委員長は委員長と異性の方が良いのでは? という普通に普通な意見により、八百万さんが副委員長に決定した。

 

 

 

 

「―――えっ、僕に投票したのって飯田くんだったの!?」

「ああ、だから僕……俺としては緑谷くんに副委員長を担って欲しかったのだが……」

 

 時間は過ぎて昼食時。

 クックヒーロー『ランチラッシュ』が切り盛りする大食堂で、わたし達は席を囲んでいた。

 途中、今朝のHRが話題になったところで、不意にお茶子ちゃんが目を爛々とさせて口を開く。

 

「ちょっと思ってたけど、飯田くんて……坊ちゃん!?」

「坊!!」

《相変わらずざっくりいくわね、この子》

「…………そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが……」

「……ちなみにご実家でお料理されてたのは?」

 

「? 母だが……」

「……そうですか」

《あなたも何に対抗しようとしてるのよ》

 

 話を聞くと、飯田さんは代々プロヒーローを輩出している家の出身、現家長の次男だそうだ。

 さらにその兄に至っては、プロヒーローに詳しいデクさん曰く、東京の事務所に多くの相棒(サイドキック)を雇っている大人気現役ヒーロー、ということらしい。

 

 興奮した様子で称えるデクさんに、まんざらでもない、どころか鼻高々に自慢する飯田さん。

 そんな二人をお茶子ちゃんと微笑ましく眺めていたとき、()()は聞こえてきた。

 

 

『―――セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』

 

 

 その警報に、いち早く反応したのは在学期間の長い上級生達。

 日の浅いわたし達がまごついている間に、指示に従って一斉に外に出ようとした彼らの起こした人波がわたし達を呑み込まんと襲い掛かってきた。

 

「さすが最高峰!! 危機への対応が迅速だ!!」

「迅速過ぎてパニックに……」

「あ、わっ、【自己自在(マニピュレイション)】!」

「え、ちょおっ!? 歩ちゃん、それずるない!?」

 

 突如生まれた人の波に飲まれるまいと、"個性"を使って頭一つ上の空間へと緊急避難。

 そんなわたしを指差しながら人波に流されていくお茶子ちゃんを、「ごめんなさい! 自分以外は運べないのでごめんなさいっ!」と、手を合わせながら見送った。

 

《……薄情者》

「仕方ないじゃないですか……それより、侵入者というのは一体……?」

 

《ああ、それなら窓の外を見てみなさい》

「窓の……うわっ」

 

 『干渉』に言われて目を向ければ、そこにはみっしりと列を成している報道陣。

 朝から校門前に詰めかけていた彼らが、遂に雄英の敷地内にまで乗り込んできたらしい。

 

「……侵入者がマスコミと分かれば混乱も収まりますよね?」

《この騒ぎの中でただ声を張ったところで望み薄だけどね》

 

 『彼女』の指摘に返す言葉が見当たらず、せめて混乱の中にはぐれた三人を探そうと顔を向けたそのとき、人混みの中から文字通り浮かび上がる人影があった。

 

「……え、飯田さん?」

《あれは……お茶子さんの"個性"で浮かんで……っ、歩! 彼の傍へ!》

 

「えっ!? は、はいっ!」

 

 指示のままに急行する途中で、飯田さんが脚から『エンジン』の"個性"を吹かせる姿が見える。

 ところが『無重力』状態であるためか、壁から手を離した瞬間空中で一回転するにとどまった。

 

「ぐ……やはり上手く進めな……干河くん!?」

《目的地を聞きなさいっ!》

「え、ええっと、飯田さん、何処へ!?」

 

「っ! 皆の視線が集中する場所! あの非常口看板の上だ!!」

《成程、運んであげなさい、歩》

(え、でも……)

 

《いいから!》

「は、はいっ! 【加速】っ!?」

 

 急かされて、無駄なはずと思いながら、振るった"個性"。

 それが、わたしの視界に信じられないものを映し出す。

 

「ぬおおっ!?」

「…………え」

 

 設定した方向、望んだ速度で、宙を横滑りにすっ飛んでいく飯田さん。

 わたしの"個性"『干渉』では、わたし以外の誰かを飛ばすことはできない。

 その決して覆らないはずの制約が、目の前で否定された。

 

《……他人を動かせないのは、働かせられる『力』の上限が人間の重さを運べるそれ以下だから。けれど誰かさんの"個性"は、物体を動かす為に必要な『力』を限りなくゼロに近くする》

「あ……」

 

 混乱を収めようとする飯田さんの声をどこか遠くで聞きながら、人混みの中に()()姿()を探す。

 わたしの視線に気付いたお茶子ちゃんは、一瞬目を見開いた後で、にへっと笑った。

 

 

《……本当に運命だったのかもしれないわね、この出会いは》

 





 原作で「私の立場は……!?」と呟く八百万さんの為に納得できそうな流れを考えよう。
 →歩ちゃんがメガネフリークになりました。何を言っているのか(ry
 「飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」が原作麗日さんの台詞。
 そのため歩ちゃんに引っ張られて飯田君に投票したということで。
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