おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 三編構成になりました。

 どうにも難産です。



C1-13 USJ襲撃・中編

 

「―――だから逃がさない、と……っ?」

 

 最初に異変に気付いたのは、奇しくも走り出した飯田さんに靄を伸ばそうとした(ヴィラン)

 身体を覆っていた靄が風に煽られるように背後へと散らされ、隠されていた胴と首、四肢の袖口までが露わとなっていた。

 

 

「半径三十メートル、【掌握(スフィア)】」

 

「え……」

「干、河……?」

 

 次に気付いたのは―――()()()()()()()のは。

 干河歩(わたし)の誰より近くで、必死に敵の隙を伺っていたお茶子ちゃん。

 

「……かん、しょ―――」

(……!)

「お茶子さん」

 

 その見開かれた目と同じぐらい、驚愕の中にいるわたしを余所に、『わたし』の口が動き出す。

 

「『非常口』」

(はい?)

「…………っ!」

 

 一瞬、わたしには『干渉』が何を言ったのか分からなかった。

 どういうことかとわたしが心の奥で問い返しているうちに、事は進んでいく。

 

「―――りょーかいっ!」

 

 パチン、と。

 徐にお茶子ちゃんが自分の身体を五指で叩いて。

 

 

「連携、【無重自在(ゼロ・マニピュレイト)】」

 

「うらあぁぁーーーっ!!」

 

 

 敵に向かって、弾丸のような軌道で『飛び』出した。

 

「麗日さん!?」

「麗日どうし……飛んだァ!?」

 

 驚き戸惑ったのは、敵も味方も含めた全員。

 倒れた13号先生に駆け寄って医療器具を『創造』していた八百万さんと、応急処置を試みていた芦戸さんの叫びが、その背中を追いかける。

 

「……教師が倒れてやぶれかぶれの突撃とは、浅はかな」

 

 "個性"を阻害されている現状に少なからず動揺を見せながらも、靄の敵は一直線に向かってくるお茶子ちゃんに対応すべく姿勢を正す。

 散らされながらも手首から先に残る靄が、顎の如く飛び込んでくる獲物の軌道を捉えていた。

 

「……【加速】」

「てやぁっ!」

「な……!? くっ!」

 

 お互いの腕が届く距離から僅かに遠くで、お茶子ちゃんの身体が急加速。

 首元を狙って振るわれた手のひらを、敵は驚愕しつつも大きく仰け反ることで回避。

 

「単純な"増強系"かと思いきや空中で更に加速とは……ですがその程度―――っ!?」

 

 敵の言葉を途切れさせたのは、その背中に響いたのだろう小さな衝撃。

 姿勢を崩しながらも余裕を見せていた敵の眼が、今度こそ焦燥に歪む。

 

「直角軌道……!? いや、それどころか今のは、百八十度……っ!?」

「理屈は知らへんけどこんなん着とるなら、実体あるってことちゃうかな……!」

 

 超速で目の前を通り過ぎたはずのその姿が、自身の背後にあるという事実。

 慄く敵の服を五指でがっちりと掴んだお茶子ちゃんが、重さの消えたその身体を放り投げる。

 

 

「やってまえ!! 歩ちゃん!!」

「連携必殺、【無重旋転(ゼロ・スクリュー)】」

 

 

「ぐっ!? うっ……ぁああぁああっ!?」

 

 宙に浮かされた敵の身体が、その場で急激な【加速】を伴って回転する。

 上下左右前後、速度も方向もデタラメに与えられた高速三軸回転。

 『無重力(ゼログラビティ)』と『干渉』。二つの"個性"によって成り立つ(命を奪わない)必殺技だった。

 

「その状態で動けるもんならやってみぃ!」

(い、いつの間にこんな……)

「す……スッゲェよ、麗日!」

「つーか実質干河か? いや、それでも凄え!」

 

 自身の『無重力』を解除したお茶子ちゃんが、今も呻き声と共に回転する敵を得意気に指差し。

 絶望から俄かに立ち直ったクラスメイト達が歓声を上げる中で。

 

「―――まだ、よ」

 

 冷たく響いた『わたし』の声が、皆の顔に浮かんでいた喜色を吹き飛ばした。

 凍り付く彼らを一瞥してから自分の身体にも"個性"を使い飛び立った『彼女』は、目を丸くして立ち尽くしているお茶子ちゃんの傍へと着地する。

 

「えっ、『干渉』さ……歩、ちゃん?」

「……お茶子さん」

 

 わたしに分かったのは、『彼女』が遠くにある『何か』に対して"個性"を使っていたこと。

 向けている視線の方向が相澤先生の向かった広場方面であること。

 そして、そこで行われているのだろう『何か』への隠しきれない焦燥と―――

 

 

「あなたの命……私に預けてもらえるかしら?」

 

 

 『わたし』の口元が、苦渋に歪んでいたことだった。

 

 

 

 

「―――対、平和の象徴。改人"脳無"」

 

 ミシッ、バキッ、と。

 音を立て軋んでいたのは、全身黒色の身体に脳を剥き出しにした巨漢の敵に伸し掛かられ、その巨大な手に握り潰されようとしている、相澤先生の右腕。

 

「"個性"を消せる。素敵だけどなんてことはないね」

 

 その巨漢の傍に佇む、顔や体の各部に切り取られた誰かの手首を掴ませるようにして身に付けている痩身の男。

 

「圧倒的な力の前では、つまりただの"無個性"だもの」

 

「ーーっ!!」

 

 メギリ、と悍ましい音がして。

 脳無と呼ばれた敵が、余ったもう片方の腕で地面と挟むように、相澤先生の左腕を軋ませる。

 それら指示を出していると思しき痩身の男は、しかし何か不可解に感じたように首元を掻いた。

 

「……オイ、急に力が鈍ってないか、脳無?」

 

「ぐっ……がっ!?」

 

 その言葉が聞こえたか否か、脳無の左手が相澤先生の頭を掴み、グイと持ち上げ、叩きつける。

 亀裂の入った地面と、微かに聞こえる呻き声に、男はいよいよ首を傾げた。

 

「……やっぱりだ。明らかに動きが悪い……バグったのか? おいおい聞いてないぞ先生……」

 

 苛立ちを滲ませ、男が両手でガリガリと自らの首を引っ掻き始める。

 しかしふと、手を止めた彼は弾かれたように上を見上げた。

 

 

「―――いち、げき、ひっさあぁーーつっ!!」

 

 

「…………は?」

 

 敵達の遥か上空、頭を下に右手を振りかぶった姿勢で急降下するお茶子ちゃんの姿に、男が困惑の声を上げた。

 

「奇襲に声上げてどうすんだ馬鹿が。大体がガキの張り手でどうにかなると―――」

 

 言いかけて、男は自らの手へと何か含むような視線を向ける。

 そして、その攻撃の着地点に脳無がいることを確認し、小さく舌打ちを漏らした。

 

「触れると文字通り必殺……なんてのがヒーローの卵に居るとは思えないが……避けろ、脳無」

 

 その体躯に反して機敏に飛び退いた脳無の居た場所に、両腕をねじられた相澤先生が残された。

 数瞬遅れてその場に辿り着いたお茶子ちゃんは、そのまま怪我の少ない背中へと五指を乗せる。

 

「……麗、日?」

「お叱りは後でっ! お願い!」

 

 額からも血を流す相澤先生の身体が、そのまま()()()()()()()()()わたしの傍へと飛び上がる。

 そこで初めてこちらの狙いに気付いた男が、顔を握る手指の裏で血走った眼を見開いた。

 

「ああ……ああ、そういうことか。触ったものを自由に飛ばせる"個性"。なるほど必殺の一手だ。嘘は言ってない。すごいなぁ……最近の子どもは」

 

「……っ!!」

 

 言葉だけは軽い調子で、しかし明らかに一線を越えた怒りを滲ませて、男は呟く。

 出し抜かれた憤りを加えて噴き出した殺意に、お茶子ちゃんの顔が真っ青になるのが見えた。

 

 

「―――死、柄木……とむ、ら……っ」

黒霧(くろぎり)、13号は……どうしたお前?」

 

 

 しかし男が次の行動を起こすより先に、その背後に黒い靄が小さく滲み出るように広がった。

 息も絶え絶えに小さな靄から這い出し膝を突くその姿に、死柄木と呼ばれた彼は面食らった様子で殺気を薄れさせる。

 

「行動不能には、出来たもの、の……散らし損ねた生徒の、思わぬ"個性"に妨害、され……一名、逃げられまし、た……」

「…………は?」

 

 

「……お加減はどうですか、相澤先生?」

「干河……? 成程、お前達の……」

 

 敵達が会話をしている姿を隙と見たのか、傍まで引き寄せた相澤先生に『彼女』が声を掛ける。

 折られた腕や出血する頭に負担を掛けないよう、倒れこんだ姿勢を維持して浮かされた先生は、何か言いたげな眼をギロリと向けた後で、小さく溜め息を吐いた。

 

「麗日ともども叱責は終わった後だ。……助けられたな。感謝する」

「……後でお茶子ちゃんにもお願いしますね。危険を買って出てくれたのはお茶子ちゃんなので」

 

「……その麗日もこうして逃がせないのか?」

「今、行動を見せれば即座に脳無とやらをけしかけてくるでしょう。お茶子ちゃんだけなら怪我なんてさせませんけど、すぐ傍の水岸にデクさん、蛙吹さん、あと峰田が居ますから」

(……え? あっ!?)

 

 言われて、視界の隅に水面から様子を伺う三人の姿があることに初めて気付いた。

 何事かやりとりを交わす死柄木と黒霧。そして指示を待つように立ち尽くす脳無と、張り詰めた顔でそれと対峙するお茶子ちゃんを、三人とも真っ青な顔で見守っている。

 

「っ、あいつら……」

「飯田さんが既に校舎に向かっています。じきに応援が到着する、ということを彼らも知ったようですから……このまま退いてくれれば助かるんですけどね」

 

 お茶子ちゃんが敵の視界から離れてしまえば、次に標的にされるのは彼ら三人だろう、という『彼女』の見立てに、相澤先生から苦り切った同意が返った。

 

「頭の傷は、急を要しますか?」

「まだ意識に淀みは無い……が、平衡感覚をやられているな」

 

「では先生の"個性"、有効射程に制限は?」

「……この位置からなら確実に一人は『消せる』。だがあの巨漢は『消し』ても力はそのままだ」

 

 敵達、とりわけ脳無から視線を離さないまま、言葉少なに成される現状と切れる手札の確認。

 そんな中、先生は『彼女』に向けて、どこか諦念の滲んだ声で問いかけた。

 

 

「…………それと、一応聞いておくが―――()()()()()?」

 

(……っ!!?)

「……安心して、相澤先生」

 

 

 ……わたしが驚きに思考を固まらせているうちに、『彼女』は淡々と返した。

 

 

「私は麗日お茶子さんの友人。それだけは揺らがないわ」

 





 一応口調を歩ちゃんに寄せている『干渉』さんですが、まあ気付かれないわけがない。

 "個性"『干渉』の出力上限の境界となるのは生物判定か、非生物判定か。
 相澤先生が原作より軽傷な理由は、さて何でしょうね。
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