失敗したなら、ごめんなさいしないとね。
―――その後、わたし達が二人仲良く倒れている傍で、飯田さんの連絡で集まった
重傷者として搬送されたのは、13号先生、相澤先生、デクさんの三人。
一番の重症を負っていた13号先生も命に別状はないとのこと。
相澤先生は警察の方々が来るまで自分の脚で立っていたそうだけれど、頭に強い衝撃を受けたとあって検査の為にも外部の病院へ送られたらしい。
デクさんを除き、教室に戻されたわたし達生徒十九人に待っていたのは、警察による事情聴取。
……とはいっても、それぞれがどんな
わたし達がまだ他人に対して"個性"を振るう許可を持たない身であるとはいえ、生命の危機など非常時においてはその限りではないのだから、そう強く詰問されるはずもない。
ただし、《飯田さんを逃がす為に黒霧と戦闘したのは別としても、広場に向かったのは明らかに先生の指示を無視した行い。警察はともかく学校からは反省文の一つも書かされるでしょうね》と『干渉』は言う。
お茶子ちゃんにも『彼女』からと言ってそれを伝えると「せやろなぁ……」と苦笑していた。
……あれ、でもそれって『干渉』の判断であって、わたしは関係ないのでは?
《……まあ、そうね。これに関しては私が対応するわ》
「わたしの分は『干渉』がやってくれるそうです」
「歩ちゃん、それずるない?」
聴取を終えた後の教室で、わたし達はくすくすと笑い合う。
デクさんがいつかのように腕を吊った姿で教室に戻って来たのは、丁度そのときだった。
「あ、デクくん!」
「デクさん、腕の具合は……えっと、いつも通りで?」
「い、いつも通り……否定できない……」
「ざっくりいったな、干河」
「まあそういうイメージ付いちゃってる緑谷サイドの問題でもあるしな」
ズゥンと落ち込んでしまったデクさんの様子に、「歩ちゃん!?」とお茶子ちゃんに怒られた。
宥めながら聞いたところによると、リカバリーガール曰く怪我の具合としては今まででも一段と酷かったそうだが、今回に限っては状況が状況だからとあまり強くは怒られなかったらしい。
「え、ええっとそれで、かん……干河さんに聞きたいことがあって」
「あー……わたしに、ですか?」
この場に居るのが『彼女』を知っている人間だけではないのでちょっと面倒なやり取りになってしまうけれどしょうがない。
「あの脳無と呼ばれていた脳みそ剥き出しの敵なんだけど、相澤先生を組み伏せたあたりから急に動きが悪くなったんだ。あいつらのリーダー格だった敵も不思議がっていたし……それからすぐに麗日さんが飛び込んできたから、もしかして干河さんが何かしていたのかなって」
「え? えっと……」
《ああ、あれね……私の所感を送るから彼らに説明しなさい》
デクさんの質問に対し、『彼女』からわたしへ矢継ぎ早に情報が送られてくる。
考えている振りをしながらそれを聞くこと暫し、わたしなりに要約して返答した。
「……あの敵に対しては、何故か"個性"の
「二割? でもそれだけじゃ……」
「二割分の力を逆方向に【反射】させれば、残り八割の力と相殺して実質六割程の力に抑え込めたことになりますから。……けれどどうしてでしょうね? 普通の人間には一割にも満たない程度にしか"干渉"出来ないんですけど」
『彼女』の情報を伝え終えた後で、わたしも少し考えてみる。
……液体や鉱物に近い"異形系個性"の持ち主が相手ならそういうこともあるかもしれない。でもあの脳みそ敵の身体は見た限り肉の質感だったように思うのだけど。
「なるほど以前から干河さんの"個性"は距離と対象に関して対応力がとんでもなく高い"個性"だと思っていたけど、対象に加えられる力の向きを逆方向含め細かく調整出来るという点こそ強みでもあるのか。麗日さんの"個性"と組み合わせた制限の踏み倒しも強力無比だけど、条件次第では干河さんの"個性"単体でも制限が緩和される可能性がある? その場合の条件は何だ? 鉱物植物液体あたりの"異形系"? あの敵は僕どころかオールマイトの打撃すら受け止めていたし、ああ見えてゴムか何かの弾性が異常に高い物質で身体が構成されているタイプの"異形系"だったんだろうか? 相澤先生の『抹消』も"異形系"には効かないと言っていたしそれなら辻褄は―――」
「……あ、そういえば今日と明日は臨時休校だってさ」
「じゃあそろそろ帰ろっか」
授業については翌日まで含めて臨時休校に。
クラス一同、とんでもなく濃い一日だったな、などと話し合いつつ三々五々に下校した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ごめんなさいっ!!」
「いきなりどしたんっ!?」
……そして今、アパートに帰り着いた途端に聞こえた《替わって》の一言に従った結果。
上がりこんだお茶子ちゃんの部屋で、家主に向かい深々と頭を下げる『わたし』の姿があった。
「え、えっと、さっき『替わって』たから、『干渉』さん、だよね?」
「……ええ、私よ」
「ああ、改めて聞くと同じ声やのに全然違って聞こえる……じゃなくて!」
急に頭を下げた『干渉』に、驚き硬直するお茶子ちゃん、及びわたし。
視界一杯に床があるせいで見えないけれど、わたわたと慌てている様子が目に浮かぶ。
「……命を預けてくれと、頼んだのは私。引き受けてくれたのは、あなた」
「……!」
「敵の眼前にあなたを飛び込ませておいて、私は最後まで奴らの視界外にいた」
「……ん」
話の行き所が分かったらしいお茶子ちゃんが、スンと落ち着いたのが分かった。
お茶子ちゃんの『
結果だけ見れば掠り傷一つ負わずに敵を翻弄し続けたあの作戦には、一つ重大な欠点がある。
「ドス黒い悪意と殺意に晒されると分かっていて、私はあなたに『動くな』と言った」
「…………」
「敵の手が、拳が、皮一枚を掠る度に壮絶な恐怖を味わうことになると分かっていて」
「あぅ……」
二つの"個性"が掛かっている間、お茶子ちゃんは自分の意志では身動きが取れなくなる。
攻撃も、回避も、全ての行動はその身体を移動させている『干渉』次第。
だからこそ、あの敵達の思惑を悉く外せたのだと言えるけれど。
「それでもあなたは、最後まで揺らぐことなく私を信じてくれた」
「……うん」
「それなのに私は……最後の最後で、あなたの信頼を裏切った」
「え……?」
(えっ?)
『彼女』の口から零れた悔恨に満ちた言葉に、再びわたし達の反応が揃った。
「
「あ、あれはっ、私が気ぃ抜いたのが悪いというか、そのぉ……」
もにょもにょと、おそらく目を逸らしながらの呟きが降ってくる。
それを確かに耳に入れながらも、『彼女』の懺悔染みた述懐は続いた。
「今回現れた敵……死柄木弔と黒霧は捕まっていない。彼らは麗日お茶子という『厄介な"個性"を持つ生徒』を覚えていった」
「あ……」
「敵の注目を押し付けるだけ押し付け、信頼にも応えられなかった。……だから、ごめんなさい」
「そ、そういう……うー……」
返答に困ったように唸るお茶子ちゃんと、静かに頭を下げたままの『干渉』。
そんな二人の様子を、わたしはどこか不思議な気分で眺めていた。
……あのとき呑気な思考を流したわたしに、『彼女』が怒りを伝えてきた理由は分かった。
それでも、誰かに謝る為に『彼女』がわたしに入れ替わりを頼むだなんて初めてのこと。
他人に弱みを見せる『干渉』にどんな感情を抱けば良いのか、わたしは分からなかった。
「まあ、その……結局怪我はせえへんかったし。そないに気にせんでもええんよ?」
「……!」
「敵に目ぇ付けられてーいうのも、ヒーローになるなら遅かれ早かれやろうし」
「それは……」
「だから……うん。顔上げてえな、『干渉』さん」
「お茶子さん……」
明るい口調でそう言ったお茶子ちゃんに、『彼女』が驚きながら顔を上げる。
視界に映ったその顔は、普段通りのうららかな微笑みだった。
「それに……怖かった、いうのも……あると言えばあるけど……うん、まあ……うん」
「……ん?」
(……んん?)
ふい、と。
何かを思い出すようにお茶子ちゃんの眼が遠くを見る。
わしゃわしゃと手で頭の後ろを掻きながら、頬には少なからず赤みを増やして。
「…………デクくん」
「キョっ!?」
わざとお茶子ちゃんの使う呼び方に倣った呟きに、何やら愉快な悲鳴が返ってきた。
さっきまで張り詰めるようだった『彼女』の感情に、一気に呆れのようなそれが広がっていく。
「格好良かったわよねー。粉砕した腕を痛がるより先に『麗日さん! 大丈夫?』だもの」
「あ、う……っ」
「
「え、やっ、ちゃうんよ!? そういうのとちゃうから!?」
「へー、ほー、ふーん……《返すわ》」
「ふえっ!? あ、お茶子ちゃん……」
「あっ、『干渉』さん引っ込んでもうたん!? ちゃうねん! ちゃうからな!?」
急速にやる気を失くして奥に引っ込んでしまった『干渉』に、真っ赤な顔で必死に否定しながらわたしの肩を掴んで揺さぶるお茶子ちゃん。
まるで間に挟まれたような構図に、何だろうこれ、と思いながら夜は更けていくのだった。
※二話更新の理由は謝罪パートに時間を空けたくなかった為。
フラッシュバックなどの精神的ダメージの可能性を考え、わざとその時の状況を思い起こさせるような言い回しを繰り返し、麗日さんのメンタル面を確認していた『干渉』さん。
結果、思ったより甘酸っぱい反応が返って来たので安堵すると同時にやる気が消滅しました。
謝るべきと思ったときの歩ちゃんと『干渉』さんの行動の差異よ。
死柄木達の認識のズレは体育祭で修正されるよ。やったねお茶子ちゃん。