なるべくサクサク進めますよー。
『―――どうせてめーらアレだろこいつらだろ!?
大観衆の詰めかけたスタジアムに響き渡るプレゼント・マイクの実況の声。
今までに浴びたことのない規模の視線に、自然と身体が強張っていく。
『B組に続いて普通科C・D・E組……! サポート科F・G・H組も―――』
《……いや、もうちょっとA組以外にも力入れて紹介してあげなさいよ》
実況に対して呆れたように呟く『干渉』の声を聞いて、少し強張りが解けた。
でも確かに普通科の生徒からは「完全に引き立て役だよなぁ」「たるいよねー……」といった、不満の声がこちらにまで聞こえてくる。
各クラスの入場が終わったところで朝礼台に上がったのは、同性のわたしでも直視するには勇気が要るコスチュームに身を包んだ……包んでる? 18禁ヒーロー『ミッドナイト』先生。
……18禁なのに高校に居ていいんだろうか。あ、常闇さんも同じこと言ってる。峰田は黙れ。
そのミッドナイト先生に呼ばれ、爆豪さんが開会前の選手宣誓の為に壇上へと上がる。
デクさんを始めとしてクラス中から「大丈夫なのかアレ」という呟きが聞こえる中、気負いない立ち姿で爆豪さんが口を開いた。
「せんせー―――俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
《わぁお》
傲慢の極みのような宣誓に最初に突っ込みを入れたのは切島さん。
そこからA組を含む全てのクラスからブーイングの嵐。
けれど全く堪えた様子もない爆豪さん。……いったいどんな精神力をしているんだろうか。
「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう」
ざわつく生徒達を余所に、ミッドナイト先生の司会は恙なく進行。
朝礼台の裏に投射された映像の中で、ドラムロールが始まる。
その演出が止まり、投射映像に浮かび上がっていたのは―――『障害物競争』の文字。
それと同時に、スタジアムの外へと続く大きなゲートが、ゆっくりと開いていく。
―――計11クラスでの総当たりレース。
コースはスタジアムの外周約4キロ。
コースさえ守れば、何をしたって構わない、とのこと。
《……得意分野に分類されるわね》
(何でちょっと不満そうに!?)
各生徒がゲート前に軽く集合した時点で、ゲート上部のスタートランプが点灯した。
……ところでこのゲート、全生徒が通ろうとするにはかなり狭いような。
《そこが最初の篩ということでしょ。そもそもヒーロー科以外の生徒はほぼここで落とす腹積もりのようだし》
(えぇ……)
その偏見染みた見解に何か言いたかったけれど、否定出来る要素もない。
なので大人しくスタートの準備として、
「……え、歩ちゃん?」
「気にしないでください。こっちの方が都合が良いので」
不思議そうな顔をするお茶子ちゃんに手を振って、人口密度の低い場所まで移動する。
そうこうするうちに、ゲート上部のスタートランプがカウントを始め―――
『スターーーート!!』
合図と共に一斉に……二百人以上がゲートへと殺到する。
想像した通り、ギチギチに詰まった通路の中で生徒同士の押し合い圧し合いが始まった。
「それではわたしも行きましょうか、【
「ゲート狭すぎ……!」
「うおっ、誰だアレ!?」
「干河さんっ!?」
ゲートの横幅は二百人が通れる広さではなくても、縦幅は観客席と同等の高さがある。
皆の頭の上にあるこの空間ならば、わたし一人が通り抜けるのに何の障害もない。
「お先です、皆さん」
見上げる同級生達の顔を見渡しながら―――今、デクさん居ませんでした?―――スタジアムの外へと出た瞬間、地面に氷が走る様が視界の端を過ぎていく。
「これは……轟さんの氷、ですか」
《先頭に立った上で後続の足止めを狙ったのね》
『干渉』の見立て通り、彼の狙いに嵌ったらしい悲鳴と怒声が背中に聞こえてくる。
殆ど
「甘いわ、轟さん!」
「そう上手くいかせねえよ、半分野郎!!」
《半分野郎……ああ、髪の色かしら》
腕から『創造』した棒で、高跳びのように氷を越えた八百万さん。
両手からの『爆破』でわたしと同様に同級生の頭の上を飛んできた爆豪さん。
影のような"個性"『
足元を『酸』で溶かし、氷に固められることを防いだ芦戸さん。
そして―――
「一人では行かせへんよ、歩ちゃん?」
「お茶子ちゃん!」
自らを『無重力』にした大跳躍で氷を避けつつ追い付いてきたお茶子ちゃん。
この体育祭本番までにあった二週間で、彼女はすっかり『超必』を『通常技』に仕上げていた。
『―――さーて実況してくぜ! 解説
『無理矢理呼んだんだろが、マイク』
「《……実況席に相澤先生居る!?》」
「意外と突っ込みの機会を逃さんねえ」
競争の本格的な始まりを告げるように響いたプレゼント・マイクの実況の声。
そこに解説役として応える刺々しく気怠げな声に、意識を一瞬持っていかれた。
……だって絶対解説役とかやらない人ですよ。無理矢理連れてこられたみたいですけど。
「―――どっけ、邪魔だ! 丸顔! 青髪!!」
「きゃあっ!?」
「ひぃっ!?」
《丸顔に青髪……》
突如、間に飛び込んできた爆豪さんの爆破に視界を塞がれた。
……何でもアリのルールだと言われているし仕方ないけれど、追い抜かすにしても穏便に済ます気はないのだろうか。
《いや、レースなんだから最短距離を突っ切るのは当たり前よ。彼の"個性"は"私"ほど空中機動が自由ではないし……それよりどうして
「え? あ……空を飛んでいれば妨害を受ける心配なんてそうないかなと……」
《……じゃあ、目の前の『関門』は何とかなさいよ》
「『関門』? って、え―――」
『まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』
コース上を逆走するように迫る無数の、そして見覚えのあるロボット群。
その背後に所狭しと並び、仁王立ちする巨大なロボット。
「「「入試の時の0
「「「ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」」」
迫る巨大ロボの威容に押され、集団が少なからず立ち止まる様子が見える。
そんな中、未だ先頭に立ち続けていた轟さんが吹き上げるような冷気を放った。
そのまま轟さんが、凍り付かせた0P敵達の隙間を走り抜けていく。
けれど氷が薄かったのか《わざと体勢の悪い瞬間を狙ったのよ》……本人が通り過ぎた後、その背中を追わんと動き出す集団の前で、凍らされた0P敵は盛大な音と部品を撒き散らせて倒れた。
「……入試と違って立ち向かう必要はないですし、わたしは飛び越えれば良いですよね?」
《既に同じ判断をしたクラスメイトが何人か居るわね》
言われて前を見れば、爆破で上昇していく爆豪さんに、後を追う常闇さん。
さらに0P敵の身体に腕から射出する『テープ』を貼り付け、それを巻き取ることで越えていく瀬呂さんの姿があった。
『一足先行く連中、A組が多いなやっぱ!』
『立ち止まる時間が短い』
《……だ、そうよ?》
「う……」
相澤先生と『干渉』の声に押されるように、急ぎ0P敵の上空へと高度を上げていく。
進行方向を塞ぐ物が無くなったところで、前方へと可能な限り【加速】を重ねた。
『―――実に色々な方がチャンスを掴もうと励んでますね、イレイザーヘッドさん』
『何、足止めてんだあのバカ共……』
実況の声も遠く聞こえる空の上。
遥か眼下には、飛び石のように配置された石柱同士を、綱で繋ぎ合ったコースが広がっている。
「第二関門『ザ・フォール』、ということですけど」
《……"飛行系個性"をピンポイントで対策するのもそれはそれで不公平だものね》
同級生達の悪戦苦闘を眺めながら、何となく物悲しい気持ちで飛行を続ける。
特にそれぞれ"個性"の調整により可能になった大跳躍を繰り返し、競うように関門を越えていくお茶子ちゃんとデクさんを見ていると、尚更寂しさが増してきた。
……ところで彼はどうして0p敵の装甲板を背負っているんだろうか。
《……余計なこと考えてないで速度に集中なさい。先頭はそろそろ―――》
『そして早くも最終関門! かくしてその実態は―――』
先頭集団に目を向ければ、未だ一位を譲らない轟さんに、宙から猛追する爆豪さんの姿。
そんな彼らが不自然に広く取られたレースコースに差し掛かったところで、再び実況が入る。
『一面地雷原!! "怒りのアフガン"だ!』
《……『USJ』といい、雄英っていつもギリギリを攻めるわよね》
地雷を踏んだらしい誰かが中々派手に吹き飛ばされる様子が遠目に見える。
ここまで快調に進んできた轟さんも、その威力には慎重に進まざるを得なかったようで―――
《爆豪さんが先頭に立ったわね》
「やっぱり空を進める"個性"は有利ですね」
《何を他人事のように言ってるのかしら。ほら、そろそろ
「ええ、分かってます……【加速】、【加速】、【加速】っ!」
先頭の入れ替わりに盛り上がる実況を聞きながら、抑えてきた飛行速度を一気に上げる。
たとえわたし自身が対象であっても、"個性"で一度に掛けられる以上の速度まで上げてしまうと旋回が難しくなるのでここまで抑えてきたけれど、残りが直線だけになれば話は別だ。
地雷原の先にあるゲートを通れるよう、高度を徐々に下げながら前傾姿勢で突進!
後は他の生徒が起動した地雷の爆風を避けられるように―――
「【
「アァ!? てめェ、青髪……っ!」
「……!」
『爆破』と『氷』で互いに進路妨害を繰り返している二人のもとへと急接近。
瞬間、二人がやけに息の合った動きでわたしにそれぞれ右手を掲げた。
「来ると分かっていれば効きませんよ!」
「がっ!?」
「なっ……!」
爆風、爆熱、冷気……全てまとめて【反射】して、目を剥いた二人に笑ってみせる。
形の無いもの、命の無いものが相手なら、わたしの"個性"は結構万能なんですよ?
『あぁん!? A組干河、争い合う先頭二人を押し退け……ってか今どっから来た!?』
『上空からだな。第一関門を抜けた後も、誰の視界にも入らない高空を飛び続け、最後のゲートを潜るために地上に向けて鋭角軌道で飛び込んできたんだ』
『成程……にしては、わざわざ先頭二人にちょっかい掛けに行ったように見えたが!?』
『干河の"個性"の本領はあの二人のような"個性"に対する防御力。咄嗟に出される攻撃を跳ね返すことで妨害を兼ねたんだろう』
そのまま滑るように突っ切れば、体勢を崩した二人からの穴の開きそうな眼光が突き刺さる。
思わず喉の奥から悲鳴を上げそうになりながら、視線を前に固定―――
「……え?」
《……わぁ》
―――しようとした瞬間、背中に響いたこれまでにない大爆音に、堪らず振り返る。
視界に入ったのは、遥か後方で起きたらしい大爆発と、頭の上を越えていく一つの人影。
「デクぁ!! 俺の前を行くんじゃねえ!!」
「後ろ気にしてる場合じゃねえ……!」
「デクさん、どうやって……っ」
どこかで見た装甲板に乗った形で飛行しているデクさんに、それを追うように爆破移動を掛ける爆豪さん、そして地雷原に道を作るように前方へ氷を走らせる轟さん。
わたしも慌てて―――"個性"の性質上、姿勢と速度に関連性はほぼ無いけれど―――前を向き直して彼を追う。
『元・先頭の三人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば人は争いを止める!! 争いはなくならないがな!』
『何言ってんだお前』
《何言ってんだこの人》
わたし達三人が追い始めたところで、前を行くデクさんが失速し始める。
先の爆発から察するに、飛んできたというより、あの爆風をどうにか利用して飛ばされてきた、というのが正しかったんだろう。
それならすぐに追いつける……と思ったわたしの前で、勢いに任せて一回転したデクさんは手に持ち直した装甲板をすかさず地面に向けて振り下ろした。
(うわ……っ)
《……やっるぅ》
カチ、カチ、カチ……と、地雷の起動音が複数聞こえた瞬間、わたしの視界を煙が閉じ込める。
爆豪さん、轟さんの悪態が微かに聞こえる中、すぐ傍にあったデクさんの気配が遠く『飛んで』いくのが何となく理解できた。
『さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男―――』
三人の中で唯一、爆風の影響を受けないわたしが全力で追いかけ、背中まで迫るも後僅か。
ゴールのゲートまでほんの僅かというところで、わたしの伸ばした手の先に彼は居た。
『―――緑谷出久の存在を!!』
二次作品ではよく空を往くオリ主対策が追加される障害物競争ですが、『干渉』の仕様上、空を攻撃出来るだけの『ロボット』では障害になり得ないんですよね。
脅威にしようとするなら、高重量かつ高速で追尾するミサイルでもぶっ放す必要があります。
本作の雄英教師陣は悩んだ末に、個人を狙った仕掛けを追加するのも違うだろう、という結論を出したということで。