おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 歩ちゃんの戦闘能力お披露目回。



C2-6 最終種目・一回戦

 

《…………お誂え向きの"個性"に生まれて、か》

(……『干渉』?)

 

 試合を終えた二人が拍手に包まれつつ裏手へ―――指を粉砕骨折したデクさんは保健室へ―――下がっていく中、わたしは小さな呟きを聞いた。

 

《この『超人社会』、自身の"個性"に不満を持つ人間も少なくない。……歩、あなたは―――》

(そんなこと、今更聞かれなくても決まってますよ)

 

 らしくもない声色を聞いて、頭の中の()()へと食い気味に答えを返す。

 

(ちょっと口煩い最高の友人で、わたしの自慢の"個性"です。そこは揺らいだりしませんよ?)

《…………ああ、そう》

 

 その一言を溢したきり、押し黙ってしまった『彼女』。

 けれどわたしには、今まで伝えられたことのないチクチクとした感情が微かに届いていた。

 

 

「―――これ、やり過ぎでしょう……」

《過剰火力ねえ……》

 

 第二試合、轟さん対瀬呂さん。

 開始の合図と同時に瀬呂さんが『テープ』を一気に轟さんに巻き付けて場外勝利を狙うも、対する轟さんは今まで見たこともない規模の氷結攻撃でこれを迎撃。

 観客席の屋根を越える巨大な氷塊に半身飲み込まれた瀬呂さんが、主審ミッドナイト先生の確認に答えて降参。会場中からドンマイ(Don't mind)コールを浴びながらの敗退となった。

 

 

《……何というか、芸術的な負け振りね》

「……チアの件は忘れてあげましょうか、うん」

 

 続く第三試合、上鳴さんの相手はB組の女子生徒塩崎さん。

 頭髪が伸縮自在な『ツル』になっているのが彼女の"個性"らしく、これを操り攻撃、捕縛に使うのが彼女の戦い方のようだ。

 見た目に植物の性質を持っていると分かるツルは水分も含む以上導電率が低くはないだろうし、それが身体の一部であるとなれば、上鳴さんにとって"個性"相性は悪くない相手だったと言える。

 上鳴さんもおそらくそのように判断して《いや、どうかしら彼の場合……》開始前から余裕綽々に「一瞬で終わらせる」という旨の発言をしていたのだけれど、その言葉が自分に跳ね返ってきたような瞬殺に終わってしまった。

 

 彼女のツルは任意に切り離すことも出来るようで、開始直後に勢い良く伸ばして上鳴さんを捕縛したツルを、彼が放電を行う前に自身の身体から切り離していたのだ。

 結果、電撃は塩崎さんまで届かず、全力放電の代償として上鳴さんは思考能力を失い捕縛されたまま行動不能。

 見事なブーメラン発言+緩みきった《アホ面》……を全国に披露する羽目になってしまった。

 

 

 ―――そして、第四試合。

 

『陸を駆ける韋駄天ボーイ! 飯田天哉! (バーサス) 空を舞うゆるふわガール! 干河歩!』

 

 大観衆の声援を浴びて痺れたように震える身体を奮い立たせ、ステージに上がる。

 一度息を飲み込んで前を見れば、普段以上に硬い表情の飯田さんと目が合った。

 

「……騎馬戦では上手く戦いを避けられてしまったが、今度はそうはいかないぞ、干河くん」

 

 飯田さんがとったのは隠す気も無い前傾姿勢。

 開始の合図と同時に『エンジン』の"個性"で飛び込んでくる様が目に見える。

 

「……ではわたしからも一言。以前、近接戦闘に向いてないとは言いましたが―――」

 

 

『レディ……STRAT!!』

 

 

 予想通り突進してきた飯田さんの、わたしの肩を狙って伸ばされた腕に手を向ける。

 

「なっ……!?」

「―――出来ないとは言ってませんよ?」

 

 肩を掴んで場外へ放り出そうとしたのだろう、飯田さんの手が虚空を掴む。

 一瞬の動揺を振り払うように、腰を回して放たれた蹴りを、"個性"を使って()()()

 

「君の"個性"は他人には―――」

「自由に動かせる程には効きません。けれど、僅かに角度や速度をずらす目的ならば十分に!」

 

 追い縋るように放たれる攻撃を、今度はわたし自身の身体を背後方向へ【加速】して回避する。

 直線軌道では追い付かれてしまうので、飯田さんの速度を散らすようにジグザグに。

 

『飯田開幕速攻からの連続攻撃! しかし干河、これをギリギリで回避し続ける!』

『飯田は空を飛ばれれば詰みと見て速攻を仕掛けたのは良かったが……干河の"個性"は足を使わず移動出来るのも強みだな。動きの前兆が存在しないのは近接戦闘においても大きな利点だ』

 

「避けるだけじゃありませんよ……【加速】!」

「くっ、捉えきれ……うぐっ!?」

 

 飯田さんの側面に回り、右手で作った掌底を突き出すと同時に全力で【加速】。

 距離が近く大した威力は乗らないけれど、腕で防いだ上から彼の姿勢を崩す程度には通じた。

 

「く……そういえば君は入試の時、仮想(ヴィラン)を蹴りで破壊していたな! 肉弾戦で優位に立てると見たのは早計だったか!」

「金属の塊を蹴ったのは失敗でしたけどね。飯田さんのように頑丈な脚は持ってませんので!」

 

 作った隙を利用し距離を取ろうとするわたしに、エンジンを噴かせ食らいついてくる飯田さん。

 相澤先生の解説通り、対空手段の無いからこその前のめりな接近戦狙いなのだろう。

 

 けれどわたしの強みはどの方向に、どんな姿勢からでも動けること。

 初速はあまり早くないので実は最初の一撃が一番危なかったのだけど、飯田さんが初撃に選んだのは蹴りに比べて格段に遅く、重さもない掴みだった。

 

 速く、重い一撃でなければ、反射は出来なくてもずらすことぐらいは出来る。

 身体の中心を狙った攻撃じゃなければ、同時にわたしの身体を動かすことで大体は避けられる。

 

「後は速度を溜める時間を貰えれば、もっと威力を出せるんですけどね!」

「ああ、分かっているとも! だからこそここで君を逃がすわけにはいかない!」

 

 即座に方向転換可能な最大速度まで来ても、追い縋る飯田さんを振り切れない。

 攻撃後の隙を狙った【加速】掌底も当たりはすれど、急所を狙わせてはくれなかった。

 

『オイオイオイまるで舞踏じゃねーか! 機動力特化な"個性"同士の対戦カードからこんな戦いになると一体誰が予想した!?』

『干河はここまで全て回避しているが、一撃の威力では飯田に分がある。こうなればどちらが先に有効打を与えられるかだな』

 

 ステージ上を駆け回りながらの蹴りと掌底の応酬が続く。

 体力といい近接戦闘の技術といい、昔から『干渉』にせっつかれて鍛えていなかったら、きっと勝負にもなっていなかったなと、殊更強く実感した。

 

「―――ふっ!」

「え……っ?」

 

『おおっと!? どうした飯田!? あれだけ詰めていた距離を自分から取ったぞ!?』

 

 このまま勝負が着くまで続くかと思っていた組み合いは、不意に終わりを告げた。

 それも飯田さんから離れてくれる―――空へ逃げられる余裕はない間合い―――という形で。

 

「……済まなかった、干河くん。"個性"相性で有利と判断し、少なからず慢心していた!」

「えっ、あ、はい……?」

 

「思えばここまでの種目、どちらも君に敗北している……君もまた僕が挑戦すべき相手だった!」

「そ、そうですか……っ」

 

 試合の最中という非日常にありながら、びっくりするほど普段の延長にある飯田さんの言動に、少しだけ笑いそうになる。

 そんなわたしを知ってか知らずか、苦みの走った表情で彼は続けた。

 

「まだクラスメイトの誰にも見せていなかった僕の『切り札』……緑谷くんに挑戦するときに切るつもりでいたが、君相手に温存などと甘い考えは許されなかったようだ。女性相手に手荒な真似をすることになるのは心苦しいが、これも真剣勝負! 仕方があるまい!」

 

 規則的な駆動音を立てていた飯田さんの両脚が、一風変わった音を立てて煙を噴き出す。

 再び前傾姿勢をとった彼に、わたしも何が来ても対応するつもりで身構えた。

 

 

「トルクオーバー……【レシプロバースト】ッ!」

 

 

 ……! 飯田さんの姿が、消え―――

 





 オリ"個性"『干渉』の弱点解説的なアレ。
 防御系能力としては、肉弾戦は元より防ぎ切れない威力もしくは大質量であっさり割れる。
 回避系能力としては、避け切れない速度や角度、ないし知覚外からの攻撃が有効。
 また攻撃力は割と微妙。加速を重ねた拳や脚なら威力は出るが普通に反動もある。
 その為コスチュームには防具兼武器を備えているが、体育祭では着用不可。
 接近状態だと加速を重ねられず、その体格にしてはちょっと強い、ぐらいの威力が限界。
 何もないステージ上でなければ適当な物体を飛ばしてそれなりの威力の攻撃が出来る。
 距離を詰めてこられても三次元自由移動で逃げられるので遠距離に専念するのが大安定。

 『無重力』と組めば、3トンまでの鉄球群を秒速キロ単位で最大三十メートル先から放り込み、目標が動かなくなるまでぶつけ続けるとか出来る。やばいですね。
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