初の視点変更。
※本作とは全く無関係ですが息抜きに性懲りもなく短編を一作書きました。
これまたノリと勢いだけの駄作ですが、気になる方は作者名→投稿小説リストからご覧ください。
『―――なあ、アレ、大丈夫なのか、イレイザー?』
『……干河の"個性"はあれで逐一操作が必要なタイプだ。つまりああやって滞空出来ている以上、本人の意識はある』
異様な光景に静まり返ったスタジアムに、実況解説のやり取りが響く。
その視線が集まる先にあるのは、観客席から手が届こうかという位置に仰向けで静止した青髪の女子生徒。
『……イヤハヤ! 飯田、突然の超加速から干河の回避を貫く電光石火の一撃! だがあの威力で女子の腹ぁ蹴り飛ばすのはどうかと思うぞー!』
『干河に攻撃を当てるには、逃げられない速度かつ逸らせない角度でなきゃならん。飯田の性格上苦渋の決断だったろうが、腹の他には顔面ぐらいしか選択肢は無かったからな』
『Oh! つまり精一杯配慮した末か! そりゃ悪かったな!」
『そもそもこれは真剣勝負だ。男だ女だで忖度していたんじゃ話にならん」
気を取り直してという調子で再開した実況は、聞く者が聞けばステージ上で
『それにあの位置なら決着していないと分かっていても飯田は追撃に向かえない。場外判定を回避できないからな。このままある程度ダメージが抜けるまであの位置で休む気だろう』
『土手っ腹にエッッグイ一撃もらって吹き飛んだ先でそこまで考えるかよ! 頭の回転が早いっつーか、悪知恵が働くっつーか……』
『悪知恵も知恵の内だ……とはいえあまり長くなるようなら判定取るぞ。そろそろ動け、干河』
ピクリ、と。解説の声に応えるように干河の身体が動く。
ぷあっ、と小さく血煙を吐いた後で、彼女はまるで床から上がるように身体を起こした。
『…………
『
溢された一言の意味を理解した人間はごく僅か。
次の瞬間、彼女は大きく弧を描く軌道で加速を始めた。
「ムっ!? これは……」
ステージ上の飯田からすれば、それは滑るように視界から消えようとする軌道だった。
半ば反射的に首を動かし必死にその姿を追うも、視界の端に捉えるのがやっとというところ。
「くっ……まずい……!」
それでなくとも、彼は焦っていた。
何しろ彼の最大の強みである『脚』が、あと数十秒は使い物にならないのだから。
相手の回避を破った超加速の絡繰りは、意図的に"個性"を暴走させる言わば『誤った使用法』。
その代償として、発動後一分弱は"個性"『エンジン』が機能しなくなる。
空へと逃げて稼がれた数十秒が、おそらく相手も意図しない形で彼に圧し掛かっていた。
「……し、しまった! どこに……!?」
焦燥は視野を狭める。
比喩と言葉通り両方の意味が働き、遂に飯田の視界から対戦相手が消えた。
彼の耳に届くのは、今も高速で動く干河の身体が周囲で風を切る音のみ。
(後ろ……? 上……!? いや、ここはむしろ防御に専念するべきか……!?)
あと十数秒もすれば、少なくとも二次元の機動力で遅れは取らなくなる。
それでも不利には違いないが、反撃を狙うのはそれからでも遅くはない。
そんな考えの下、顎や後頭部など一撃で落とされかねない急所を守ることに意識を置きながら、飯田は相手が仕掛けてくる瞬間を待っていた。
「―――っ!?」
果たして、再び飯田の目が捉えた干河の姿は、目線の僅かに上を狙った横薙ぎの蹴り。
空中であることを感じさせない、身体を横倒しにして放たれた踵の一撃を、飯田は反射的に屈むことで間一髪回避に成功する。
(なん、とかっ、回避出来た! 次は―――)
頭の後ろで髪が擦られた感触を覚える中で、『次』へと意識を向けたその瞬間。
「―――アガッ!!?」
後頭部へと落ちてきた衝撃と激痛に、飯田は糸が切れたように倒れこんだ。
『……お、Oh!? 今何が起きた!? 飯田が避けたと思った瞬間、干河の踵が飯田の後頭部にぶっ刺さったぜ!?』
『……そもそも干河の飛行の仕組みは端的に言えば『任意方向への落下』だ。方向を切り替えれば直角軌道も可能になる。頭の上を水平に通過する蹴りを即座に垂直方向に変化させることもな』
『マジかよ……っと、主審が倒れた飯田に駆け寄り意識レベルの確認に向かう! しっかし綺麗に後頭部に入ったもんだな……』
『綺麗に狙える回避をさせたんだ。目の高さより上に物体が迫ってくれば、余程の訓練を積まない限り人は反射的に頭を下げて避けようとするからな』
『もうコエーよ!? 何だよその思考!? あ、アレだろ? 騎馬戦引っ掻き回した一位チームの
『……さあな』
倒れた飯田のすぐ傍に、干河は両の足でゆっくりと着地する。
ステージ上へ駆け付けたミッドナイトが飯田の首元に手を触れ、やがて声を上げた。
『飯田くん、行動不能! 干河さん、二回戦進出!』
歓声がスタジアムを包み込む。
気絶した飯田を搬送するため、舞台裏手から二台の『ハンソーロボ』が派遣され、担架に乗せて彼を運び出す。
それを横目に見ながらステージを降りようとしていた干河を、ミッドナイトが呼び止めた。
「待ちなさい、干河さん。あなたも保健室に行くのよ」
「……ええ、分かっています」
干河は平然と立っているが口の端からは吐き出した血が垂れているし、飯田の蹴りを受けた瞬間の音からして、少なくとも肋骨にヒビくらいは入っているというのがミッドナイトの判断である。
しかし自身の身体に今気付きました、と言わんばかりのその様子に、初めの印象に比べて随分と根性が据わった子だな、などと彼女は考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ほい、これで治癒完了さね」
「……ありがとうございます」
自分の足で―――正確には飛行して―――保健室へ向かった干河は、リカバリーガールの"個性"『治癒』を受けて回復していた。
診断された結果は肋骨二本に入った小さなヒビで、治癒の代わりに体力を消耗する彼女の"個性"で十分に回復可能と判断されたのである。
「……飯田さんの状態はどうですか?」
「十数分としないうちに目を覚ますさ。そうなるように狙ったんだろう?」
「実際に人を相手にするのは初めてなもので」
「その年にしちゃ大した鍛え方だよ。ほれ、ハリボーお食べ」
コーラ味のグミ(固め)を渡された干河は、軽く会釈して保健室を後にする。
他の試合の観戦に戻る為、観覧席へと続く廊下を歩いていたところで、前から来る人影に気付き彼女は立ち止まった。
「―――あっ! 歩ちゃー……んじゃないね! 『干渉』さんだよね、やっぱり!?」
「…………ええ、私よ。お茶子さん」
ぱたぱたと手を振りテンション高めに声を掛ける麗日に、一度目を見開いた後でふんわりとした笑みを作る干河―――改め、その身に宿る"個性"『干渉』。
その様子に同じだけの笑顔を返した上で、麗日は探るような調子で聞いた。
「……もしかしてなんやけど……歩ちゃん、気絶してる?」
「ええ、飯田さんの攻撃でぷっつりと。彼にはちょっと申し訳ないかもしれないわね」
「ま、まあ『干渉』さんも『
「ふふ、まあ気を失う度に切り替わるのもどうかと思うし、歩の体育祭はこれで終わりよ」
「それはそれで酷ない!? ほんまに歩ちゃんに手厳しいな『干渉』さん!」
「最近、事ある毎に私を頼っているからねえ。……ヒーローになりたいのは私じゃないんだから、もう少し踏ん張ってもらわないと困るわ」
目を丸くして叫ぶ麗日に、あしらうように『干渉』はそう言い放つ。
そのまま観覧席への道を歩き始めた『干渉』を、麗日は慌てて追いかけた。
「……一年先に同じ機会があるかどうか、私にはその保証が無い」
「え……?」
「歩が私を必要としなくなれば……ね。一応はそのつもりで鍛えているわけだけど」
「…………」
「だから折角なら私も、体育祭を楽しんでみようかと思ったのよ」
「『干渉』、さん」
もう一度、
一度、息を詰めた麗日は、努めて作り上げた笑顔でその隣に並んだ。
「歩ちゃんは勿論やけど、『干渉』さんだって私の友達なんやからね!」
「…………ええ。ありがとう、お茶子さん」
「……あっ、麗日さん、干河さん! 戻って来たんだ!」
「お待たせ、デクくん。第五試合はどうやったん……え、何コノ空気」
「確か芦戸さんと、サポート科の方の試合だったはずよね?」
「イヤ、試合っていうか、何ていうか……深夜の通販番組?」
「「何ソレめっちゃ気になる」」
ここからしばらく三人称予定です。理由は言わずもがな。
芦戸vs発目は原作と異なる展開ですが無慈悲のカット。
飯田くんよりノリの良い相手を用意したらどうなるか、大体想像つくよね。