おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 応援はしよう。
 努力もさせよう。

 足りないモノは少ない程に、理解が及ぶはずだから。



C2-8 着火

 

「―――っし……そろそろ控え室行ってくるね」

「……!」

「……ええ、行ってらっしゃい、お茶子さん」

 

 第六試合。八百万に『創造』の時間を与えず『黒影』で畳みかけた常闇による再々度の電撃決着を見届けたところで、麗日は来るべき試合に備えて席を立った。

 遠ざかる背中をもの言いたげに見つめる緑谷を、腕を組んだままちらりと目を向ける『干渉』。

 

「……次の試合は防御特化"個性"同士。流石にこれは長引きそうね」

「……っ」

 

「お茶子さんの様子に少々不安なものを感じるし、試合前に激励でもと思ったけれど、緑谷さんも一緒にどうかしら?」

「は、はいっ! ほしか……ええと……」

 

「……無理に呼び方変えなくて良いわよ?」

 

 そう言って連れ立って離れていく二人を見ていたクラスメイト一同。

 その間にあったやや謎めいたやり取りについてボソボソと話し合う。

 

「……あの干河の口調が変わるのってアレ、本気モードって奴なのかな?」

「USJの時もそうだったよな。丁寧語が消えて……こう、女王様っぽくなるというか」

「ああ、分かる分かる。何か微妙に近寄り辛くなるというか、張り詰めてる感じあるよな」

「麗日と緑谷はあの状態の干河にも普通に接してるけどね」

「ほわほわな干河に睨まれるのも良いが、クールな干河に踏んでもらうのもアリだな」

「本当にブレないね、峰田くん」

「目付きが不潔よ、峰田ちゃん」

 

 

 

 

「―――お茶子さん、今だいじょう……ぶじゃないわね。眉間シワシワよ?」

「あれ、『干渉』さん? みけん? あー……ちょっとね、緊張がね。眉間に来てたね」

 

「気持ちは分かるけど……乙女として割とギリギリな顔だったわよ?」

「嘘ォ!?」

 

「先に様子見しておいて良かったわ。……さ、入って良いわよ、緑谷さん」

「お、お邪魔します?」

「でででデクくんも!? アレ!? 次の試合見なくていいの!?」

 

 試合直前の控え室。

 泡を食ったように入室者に応対する麗日の姿に、入室直後に見えた緊張と恐怖で限界に近かった友人の表情が結果的に緩んだことに満足している悪女(干渉)が一人。

 

「切島くんと鉄哲くんの戦いは相当長引きそうだし……それに僕は麗日さんにたくさん助けられたから、少しでも助けになれればと思って……麗日さんの"個性"でかっちゃんに対抗する策、付け焼き刃だけど……考えてきた!」

「あらまあ、何を書いているかと思えば……」

 

 そう言いながら緑谷が取り出したのは一冊のノート。

 彼は観覧席でも他の試合を見ながら出場者の"個性"について鬼気迫る表情で分析を行っており、その様子を傍で見ていた麗日は、それが彼の努力と熱意の結晶であることを知っている。

 

「…………ありがとう、デクくん―――」

 

 また彼女の対戦相手である爆豪は緑谷にとって長年研究してきた幼馴染でもある。

 細かな癖まで知り尽くし、一矢報いた実績すらある彼ならば、言葉通りにこの場で生まれた策であろうと十分に助けになってくれることは疑いようはない。

 

 

「……でも、いい」

 

 

「え……」

「……!」

 

 その上で、麗日は差し出された手を取らないという答えを選んだ。

 

「デクくんも、歩ちゃん……『干渉』さんも、凄い! どんどん凄いとこ見えてくる」

 

 呆然とする緑谷に、微かに目を見張る『干渉』に、彼女はポツリポツリとその心情を口にする。

 

「さっきの試合で、飯田くんは言うとった。デクくんや歩ちゃんに『挑戦する』んやって。それで思い直したら……私、頼ってばっかりやったなって、ちょっと恥ずかしくなった」

「麗日さん……」

「そんなことは……歩に比べれば全然……」

 

「『干渉』さんも歩ちゃんに言うとったやん。頼りにばっかされても困るって」

「まあ、それは……ええ」

 

「他人に頼っとる私が友達として近くにおったら、歩ちゃんにも悪影響やろ?」

「…………そう、かもねえ」

 

 額を指で抑えて苦笑いする『干渉』に、一度笑みを向けて麗日は立ち上がる。

 

「……だから、いい!」

 

 きっぱりとそう言い切り、控え室の出口を前にして麗日が今一度振り返る。

 そうして緊張に震える拳から肉球付きの親指を上げ、力強く言い放った。

 

 

「―――決勝で、会おうぜ!」

 

 

 

 

 引き分けとなり決着が延ばされた第七試合を経た、第八試合。

 脅威の反射神経と攻撃的な"個性"を持つ爆豪と、相手に触れなければ力を発揮できない"個性"を持つ麗日の戦いは、始まる前から実況席にも波乱を予想されていた。

 

 いざ試合が始まれば懸念は現実となり、触れる為に手を尽くし腕を振り上げる麗日を、ひたすら爆破で迎撃する爆豪という構図が繰り広げられる。

 強面の男子生徒がか弱い女子生徒を実力差にモノを言わせなぶっている―――試合の様相をそう受け止めた観客から早々にブーイングが飛ぶ事態となっていた。

 

『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』

 

 

「ああ…………あれが、()()なのね」

「っ、か……干河、さん?」

 

 会場から飛んだ罵声に実況席から痛烈な言葉が浴びせられていたその裏で。

 ざわめきに紛れたその小声に反応したのは、隣の席に居た緑谷のみ。

 

 

「―――私は、ね? 本当は、歩にヒーローを諦めさせたいの」

 

 

 唐突に溢されたその言葉に、緑谷は一瞬試合の趨勢すら忘れ、彼女の顔を呆然と見つめた。

 

「え…………そ、それは、どういう……?」

「本当に……本当の意味でヒーローになるべき雄英生(あなた達)の中にいれば、折れてくれるんじゃないか、なんて思っていてね」

 

 そんな緑谷の動揺を置き去りに、彼女の温度を無くした呟きは続く。

 

「思慮は浅い、根性は足りない、そのくせ理想だけは一人前……あくまでその道を突き進むというなら、それでもいいかとも思ってはいるけれど」

 

 彼の表情を、混乱するその様を確かに眺めながら彼女は―――"個性"『干渉』は言葉を紡いだ。

 

 

「『ヒーロー向きの"個性"』……誉め言葉、なのよね?」

「っ……!?」

 

 

 そう言った彼女の視線の先にあるのは、空に浮かんだ無数の瓦礫。

 爆豪の爆破攻撃を逆手に取り、ステージの破片を蓄え続けて麗日が用意した『秘策』。

 次の瞬間、ステージ上の彼女が五指を合わせ、『無重力』が解除された瓦礫が一斉に降り注ぐ。

 

「私にはあなた達が……ヒーローに()()()()()あなた達のことが、理解出来ない」

 

 スタジアムを揺るがす巨大な爆破が、麗日の『秘策』をたった一手で根こそぎ消し去った。

 爆破によるダメージ、"個性"使用による消耗、策を正面突破された精神的動揺。

 その全てに圧し掛かられた麗日は明らかな死に体で、しかし目の光だけは未だ死んでいない。

 

 

「だから聞かせて? 歩は、お茶子さんのような―――ヒーローに()()()()人間なのかしら?」

「…………!!」

 

 

 やがて、心よりも身体が限界を迎えた麗日が、ステージの上で崩れ落ちる。

 それでもズルズルと這いずりながら前に進もうとする彼女に駆け寄ったミッドナイトは、暫しの沈黙の後で宣言した。

 

『麗日さん……行動不能。二回戦進出、爆豪くん!』

 

 

「…………僕、その、次……」

「……ええ、分かってるわ」

 

 次の試合の出場者である緑谷に、先の問いに答える時間は無かった。

 また、つい今しがた敗戦を喫した麗日と控え室で鉢会う可能性も高い。

 

「……ごめんなさいね、緑谷さん。歩は勿論、お茶子さんにも聞かせられないから……今しか口に出来なかったの」

「あ……」

 

「それとお茶子さんに会ったら……やめておくわ。この敗戦をどう受け止めてるか分からないし、どんな言葉を欲しがっているかなんて顔を合わせないと分からないものね」

「…………!」

 

 幾つもの理由で後ろ髪を引かれているような様子のまま、緑谷は席を立つ。

 その眼差しに下手な問いを投げかけた自分への憂いの色までが混じっていたことに、気付いた『干渉』は薄く笑った。

 

 

 

 

 ―――最終種目トーナメント第二回戦第一試合、緑谷対轟……開幕少し前。

 

「……二人、まだ始まっとらん? ……見ねば」

「お茶子さ……!? あー……大丈夫、かしら?」

 

「ん、コレは、アレで……うん、大丈夫」

 

 瞼を赤く腫らした半目で観覧席へと戻ってきた麗日に、一瞬大きく反応しかけて、色々と察した『干渉』は小さく気遣うに留める。

 自身の顔の状態を自覚してはいたのだろう麗日も、小さく笑って空いた席に腰を下ろした。

 

「……あの氷結、デクくんどうするんやろか?」

「……現状リスク無しで使える範囲で対応するのは難しいはず。となれば―――」

 

 実況の合図が終わるか否かというところで、轟の右足から氷を伴い走り出す大冷気。

 それに対し緑谷がとったのは、右手中指を使ったデコピンの姿勢。

 

 次の瞬間、衝撃波に押し退けられスタジアムに吹き荒れる冷気。

 ステージ上に走った氷壁もまた、粉々に砕かれて舞い散った。

 

「―――それしかないからって、本当にやるあたりブッ飛んでるわ」

 

 グシャリと潰れ、血を垂らす中指を抱えてなお対戦相手を睨み付ける緑谷。

 間髪入れず再び放たれた冷気に、同じ手の人差し指を使った再『自爆』。

 

「……デクくん」

「何で、そこまで出来るのよ」

 

 三度、四度と重ねられた攻撃を、その都度指を破壊しながら緑谷は抗う。

 相殺される冷気を囮に接近を試みた轟を、左腕丸ごと費やした一撃で振り払った。

 

 

「……身体が『壊れる』から、『壊れない』方法を探す―――これは分かるわよ?」

「……ん」

 

「『壊れる』部分を抑えて、残した手足で立ち上がる―――この際これもいいとするわ」

「あー……」

 

「『壊し』て、『壊し』て、『壊し』続けて……そうしなければ勝負にならない―――そんなの、諦めてもいいでしょうに……っ」

「……!」

 

 

 遂に両腕が壊れた緑谷に、轟が止めの冷気を放つ。

 実況も、観客も、誰もが決着を確信したその時。

 

「…………え」

「…………は?」

 

 再々度、弾かれた冷気と、吹き荒れる風。

 この場に居る全ての人間の目に晒される、より一層歪みを大きくした緑谷の右手。

 

「―――皆……本気でやってる。勝って……目標に近付く為に……っ、一番になる為に! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」

 

 ゴキャ、グチッ、と耳を覆いたくなる音を立てて、彼は壊れたその手で拳を作る。

 

「全力でかかって来い!!」

 

 

 

 

「…………『全力』」

「え……?」

 

 誰もが彼の叫びに呑まれる中で、麗日だけが彼女の変化に気付いていた。

 

 

「期待に応えたいんだ……! 笑って、応えられるような、カッコイイ(ヒーロー)に、なりたいんだ」

 

 

「ヒーローって……何?」

「……っ」

 

 感心と呼ぶには恐れに近い声音で。

 驚愕と呼ぶには慄きに近い顔色で。

 熱く火の点いたような自分の心とは、真逆に近い感情を見せる友人の姿に。

 

「俺は、親父を―――」

「君の! 『力』じゃないか!!」

 

 

 

 

「…………"私"の」

 





 轟くん宛ての拳がとんでもないところに飛び火した模様。

 麗日さんに話した内容も、全部が全部嘘というわけではありません。
 ただし代わりにトーナメントを進んだ真意はというと……


 爆豪対麗日戦は過程も結末も原作通り。
 爆豪くんの意識を地面側に固定するのが大前提の作戦なので、『超必』跳躍を有効に使えるのは詰めの接近にだけなんですよね。
 それ以外は原作麗日さんと特に大きな変化は無いのでこうなります。
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