おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 プレマイ先生の台詞考えるの難しいけど面白いけど難しい。



C2-9 最終種目・二回戦

 

『―――あー、次の試合、と言いたいところだがステージ大崩壊につきここから暫く補修タイムに入るぜ! つーかどっちもやり過ぎなんだよ!』

 

 二回戦第一試合、勝者となったのは轟。

 緑谷の肉体を犠牲にした腕力と、さんざんに冷やされた空気が轟の『炎』により瞬間加熱されて起きた膨張とがぶつかり合い、引き起こされたのは小柄な人間を風圧で宙に浮かせる程の大爆発。

 

 巻き起こった粉塵が晴れてみれば、見るも無残に崩壊したステージとその上に立つ轟の姿。

 ステージから吹き飛び、スタジアムの壁に叩きつけられた緑谷は、完全に意識を失ったまま場外判定を取られたのだった。

 

「……か、歩ちゃん、私……」

「……緑谷さんのお見舞いでしょう? 私は控え室に向かうから一緒には行けないけど……他にも何人か向かおうとしているし、行ってきたらいいわ」

 

 飯田、蛙吹、峰田の三人に目線を送り、麗日を送り出そうとする『干渉』。

 何度かその能面のような表情へ物憂げに目を遣りながら、麗日は先の三人と共に席を立つ。

 

 四人を見送り、修復されていくステージを一瞥して、『干渉』も観覧席を後にする。

 スタジアムの喧噪遠くなる廊下へと出たところで、追いかける足音に気付き彼女は足を止めた。

 

 

「……ね、ねえ……干河……?」

「あら、耳郎さん? ……ああ、成程。緑谷さんとのやり取りが聞こえたのね」

 

 

 どこか後ろめたい表情で呼び止めた耳郎に、『干渉』は貼り付けたような薄い笑みを見せる。

 振り返ったその顔にビクリと身を震わせた耳郎は、心なし早口で弁明した。

 

「あ、いや、聞こえたというか聞いちゃったというか、ほらウチ耳の"個性"だから聴覚がさ……」

「別に怒ったりしないわ。聞かれ得る場所で喋った私が不用心だっただけよ」

 

「そ、そう……えっと……やっぱ干河のソレって、多重人格なわけ……?」

「……まあ、そんなところね」

 

 悩みつつも精神疾患の一種を言及する耳郎に、あっさりと肯定する『干渉』。

 彼女にとって隠さねばならない"個性(事実)"には掠りもしないのだから殊更否定する理由もない。

 

「歩よりも私の方が"個性"の使い手として優れているから、勘所では私に替わるのよ……人の命が懸かった時、とかね」

「……! ああ、それであの時……」

 

 直接助けられた側である耳郎には、その言葉の意味が素直に理解出来た。

 ……と、同時に当初の疑問が彼女の頭に戻ってくる。

 

「色々聞きたいことはあるけど……ヒーローに憧れるのが分かんないってのは……」

「……簡単な話。ヒーローになりたいのは歩であって、私じゃないのよ」

 

「うっわ、ややこし」

「簡単だって言ってるじゃない」

 

「そりゃ話としてはそうだけどさ」

 

 遠い目になる耳郎に、『干渉』は一度肩を竦めて、再び廊下を歩き出す。

 追うかどうか数秒迷った後で、観覧席に戻っても別にやることないなと彼女は後に続いた。

 

「……さっきの緑谷さんの試合で、余計に分からなくなったわ」

「ん? あー……ああ見えて無茶苦茶やるよね、緑谷……」

 

「ヒーローなんて……歩がなりたいというならそうすれば良い。そう思ってたわ、さっきまで」

「……今は違うわけ?」

 

 耳郎も関りは薄いながら同じヒーローの卵として、先の緑谷からは形容しにくい熱を感じた。

 それが普段の干河に比べ冷えた印象のある『彼女』にも火を灯したのかと、彼女は思っていた。

 

 

「―――ヒーローになど、なって堪るか」

 

 

 耳郎の足が止まった。何なら呼吸も止まりかけた。

 

「……主の人格は歩なのよね。私は言わば『付属品』……」

 

 ―――この先を聞いてはならないのではないか。

 耳郎の頭をそんな思いが瞬時に埋め尽くした。

 

「ねえ」

「っ!」

 

 何で声を掛けちゃったんだ。

 何で後を追いかけちゃったんだ。

 そんな後悔が渦を巻く耳郎の脳内に、温度の無くした問いが捩り込まれる。

 

 

「私も"私"の人生を望んで良いのかな?」

 

 

 

 

『―――さーて、ステージの修復を挟んで、二回戦第二試合! チクチクなのは見た目だけか!? 心は清きB組最後の希望! 塩崎茨! (バーサス) フワフワなのは見た目だけか!? 心は黒きA組最恐の頭脳! 干河歩!』

『……また物言いつけられても知らねえぞ』

 

 ステージに上がった生徒から実況席に向けられた視線に、その生徒の前試合を思い出した観客の忍び笑いがそこかしこで漏れる。

 一方、口を挟む権利があるだろうもう一人の生徒は、気にもしないという様子で佇んでいた。

 

『……よし、セーフだな。レディ……STRAT!!』

 

「空へ逃げられる前に―――」

「あなたには無理よ」

 

 開始の合図と共に相手を捕えるべく伸びたツルの向こうで、『干渉』の身体が空へと飛び立つ。

 視界から消えられたと意識した瞬間、塩崎は頭上にツルを集めて壁を作り上げた。

 

『おおっと!? 塩崎の開幕攻撃を空へ逃げて躱した干河、頭上から強襲を掛ける寸前でルートを遮られ堪らず方向転換! お互いに初手は空振りに終わったな!』

『前試合で飯田が干河を地上に釘付けに出来たのは速度に優れるアイツの"個性"であればこそだ。塩崎のツルも先端の速度は悪くないが、開幕は伸ばす工程が必要なこともあって届かなかったな』

 

「そう簡単には行きませんか……ですが」

「……っ」

 

 空を舞う『干渉』を追うように無数のツルが伸び始める。

 自身を追うツルを振り切るように加速し、再び塩崎の視界を外れるべく背中に回ったところで、相手の狙いに気付いた彼女は眉をひそめた。

 

 塩崎は頭髪の半分を攻撃に使いつつ、もう半分で自身の背後にツルの壁を形成していた。

 加速を重ねた攻撃でこれを破れるか一瞬の思案の後、出来上がる壁に向かい再加速。

 前試合に比べ大きく速度の乗った蹴りは、はたして表面のツルを数本削り落とすに留まった。

 

『牽制しつつ着々と防御を固めた塩崎! 干河も築かれた壁の上から果敢に攻撃するがこの分じゃ修復速度の方が圧倒的に早そうだぞ!』

『……生きている植物であり、塩崎の身体の一部、か』

 

Huh(ハァン)!? いきなりどうしたイレイザー!?』

『干河の"個性"の制限だ。飛ぶのが本領な"個性"じゃないと言っただろ』

 

『……Oh!? そういえばそうだったな!? 騎馬戦で見せた無敵の防御力を利用しないのは、塩崎のツルが"個性"の対象外ってコトか!?』

 

「これで十分に防げるようですね。ではここからは全力で捕えさせて頂きます!」

「……あら」

 

 ドーム状に伸ばした壁を残し、頭髪からそれに繋がるツルが切り離された。

 防御に使っていたツルが再び伸ばされ攻撃へと転じたことで、空を追うツルの密度が倍となる。

 

 一気に空の道を塞いだツルに、『干渉』は一度気の抜けたような声を上げ、囲いを抜けるようにひときわ高所へと飛び上がった。

 

「……折角詰めていた間合いを離して良かったのですか?」

「ええ。じっくり攻めるつもりだったのだけど、()()()()()()()わ」

 

「それはどういう―――ッ!?」

 

 問いかけようとした塩崎の声が、驚愕に途切れる。

 彼女の視界は今、無数のツルに巻き付かれて塞がれていた。

 

「なん、何故っ!? 私のツルは、操れないのではっ!?」

「……切り離したツルは、生物でもなければその一部でもない」

 

『What!? 何が起きてんだ!? 塩崎のツルが塩崎を襲っているぞ!? オイ、イレイザー、話が違うじゃねーか!?』

『……本体から切り離されれば別なのか。機動力に優れた相手に警戒すべき方向を減らす策は実際有効なんだが……塩崎は成功体験に釣られたな』

 

『アァン!? どういうこった?』

『前の試合で上鳴を切り離したツルで完封したからな。同じ考えで実行に移した結果、相手に武器を献上することになったんだ。詰めの準備が整うまで切り離したツルなら操れることを隠した干河の企みもあったがな』

 

「っ……ア……!!」

「じっくり削って、武器を増やすつもりだったのよ? お茶子さんみたいにね」

 

 頭に繋がったツルを使い必死に抗う塩崎に、"干渉"されたツルは首を重点的に締め付ける。

 ジタバタ、ジタバタともがく様に動いていたツルが、ある瞬間ふっと地面に落ちた。

 

「! ミッドナイト先生」

「ええ! ……塩崎さん! 聞こえる!?」

 

 抵抗が無くなった瞬間、ツルへの"干渉"を止めた『干渉』が主審に声を掛ける。

 倒れた塩崎の元へと駆け付けたミッドナイトは数秒の確認を経て、決着を宣言した。

 

 

『塩崎さん、行動不能! 干河さん、三回戦進出!』

 





 うっかり深淵を覗いちゃう耳郎ちゃんかわいそうかわいい。
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