丁度良いところで切れなくて微妙な長さになってしまった。
今回ちょい場面転換多いです。要反省ですね。
「―――どうかなさいましたの、耳郎さん?」
「……い、イヤ? 何でも、ない。何でもない、よ?」
二回戦第三試合、芦戸対常闇の一戦が行われている最中。
観覧席に戻ってきた『干渉』の姿が目に入った途端、明らかな挙動不審に陥る耳郎に周囲の席に座るクラスメイトが首を傾げる。
『干渉』はその様子をちらと一瞥するも、特に反応せずに麗日が空けていた席に腰を下ろした。
「……耳郎さんに何かしたん?」
「……いえ、何も? ところで緑谷さんは……まだ戻っていないようだけど、どうだった?」
「ああ、デクくんは、その……リカバリーガールがこれから手術やって」
「…………そこまでの重傷で……まあ、あれならおかしくはないわね……」
やり取りの間も、『干渉』の意識はピクピクと動くとある女子生徒の『耳』に向いていた。
暫しの沈黙の後、彼女は少し困ったような笑みを浮かべ、麗日を手招きで呼び耳打ちする。
「彼女も『私』を見付けてくれたのよ。でもちょっと冗談を言ったら思ったより怖がらせちゃったみたいなの」
「え、あ、耳郎さんも……いや怖がらせたって、何しとるん……」
「意外とそういうの苦手だったみたいで……詳しい話は何も出来てないのよ。後でお茶子さんから話してもらっていいかしら? 私も歩が起きたら説明しておくから」
「ん、ええよ。そっか耳郎さんもかー……切っ掛けは?」
「切っ掛けというか―――」
言いながら、『干渉』は離れた席に座る耳郎の『イヤホンジャック』をそっと指差す。
麗日の注目がそちらに向いたことを確認し、再び小声で囁いた。
「―――耳郎さん? ……ほらね?」
「うわぁ、背筋ピーンって……いったい何言うたらあんなことに……」
「切っ掛けはお茶子さんの試合の途中、私と歩を別々に扱って緑谷さんと話しているのを聞いていたらしくて……そこからちょっと気分が乗っちゃって、思わせぶりなことを色々と」
「ああ、なるほ……って、イヤイヤほんまに何しとるんよ」
「だから、私が後から何を言っても逆効果になりそうでね」
「せやろなあ……耳郎さーん、何も怖いことあらへんよー?」
麗日の呼びかけが効いたか、「本当に?」と言いたげなジト目を向ける耳郎。
苦笑いで「また後でなー」と答える麗日に多少は安心したか、彼女は複雑な顔で溜息を吐く。
ステージ上では常闇の"個性"『黒影』の猛攻を捌き切れなくなった芦戸が、敢え無く場外へ突き落とされる裏での出来事であった。
「―――あら、緑谷さん? 手術と聞いていたけれど……お元気そうね」
「あ……『干渉』さん、だよね? う、うん……ありがとう」
二回戦第三試合、鉄哲との
白熱する試合を眺めつつも次の試合の為、控え室に向かおうとした『干渉』は、丁度廊下側から出てきた緑谷と鉢合わせた。
身体の各部を覆う包帯に、左腕を器具で吊られ、右腕をも力無く垂らす緑谷に、『干渉』は眉をひそめながらも彼の無事を祝う。
ついさっきその傷を治療してくれた人間から受けた眼差しに似たモノを感じ取り、緑谷は思わず背中に冷や汗を感じていた。
「……第一第二種目、それに一回戦の最後と、"個性"制御は確かに進んでいるじゃない」
「え? あ、はい、その節はどうも―――」
「
「…………っ!」
向けられた問いは、視線は、ヒヤリとした温度を宿したもので。
一度、息を詰めた緑谷はしかし、それがこの瞬間までにも何度か投げかけられた問いであることに気付き、『干渉』の目をしっかりと見つめ返して答える。
「……轟くんに伝えたかったんだ。彼の抱えてきたものは……あ、えと、僕が知っちゃった事情はあんまり言えないんだけど……自分の"個性"を憎んでまでいる彼を、放っておけなくて……」
轟当人から伝えられたこと、彼の父親から言われたことを、尋ねてきた相手は知らない、および無責任に言いふらすわけにいかないことに、途中で気付いた緑谷の目が高速で泳ぎ出す。
その姿にやや毒気を抜かれた表情になりながら、『干渉』は呆れたように問いを重ねる。
「ああ、そう……ならもう一つ。
「っ……うん!」
迷いなく、拳を作り損ねた右手を上げ言い切った緑谷に、『干渉』は今度こそ深く溜息を吐く。
「……緑谷さんが轟さんの何を知って、何を憂いて
「『干渉』さん……」
『爆破』を受け止め続けた『硬化』が遂に打ち破られる様を伝える実況を背に、彼から目線を切った彼女が静かに呟く。
「私はただ『全力』を尽くすだけよ。勝って一番になる為に、ね」
『―――さあ準決、サクサク行くぜ! "個性"相性じゃ白黒ついてるがタイマンならどうよ!? 轟焦凍!
ステージの上で相対した二人は、互いに温度を感じさせない瞳で相手を見据えていた。
時間が押しているのか、口上も簡素になった実況から間を置かずに開始の合図が告げられる。
『レディ、START!! ……オォ!?』
「……悪いな」
「っ!」
最早観衆も見慣れた開幕大氷結。
前試合では悉く弾かれた大氷壁が、対戦相手である女子生徒の姿を覆い尽くして天を衝く。
『当然の権利と言わんばかりの開幕大氷壁! 一応言っとくがフライングじゃねーぜ!? しかしコレ干河は大丈夫なのか!?』
『ここまでの種目で相手の半径約二メートル圏に氷が届かないことを知ってるからな。危険域まで凍らせてしまう懸念はないと分かった上での判断だ』
『成程な! さて氷に包まれた干河は動きが見えないが、今度は何をしてんだ!?』
『操作圏外の氷を押し退けられないならこれで終わりでもおかしくはないが……ム?』
ざわつく観衆に向けた実況が続く中、解説役を含めた幾人かが
ピシ、ミシという微かな音と共に、スタジアムを越える氷塊が
「―――操作射程は半径二メートル……
「……っ!?」
氷の奥から響いた呟きに、轟の目が見開かれる。
同時に彼の眼前で、雄大な大氷壁に無数の亀裂が走った。
「
「! ……そうか」
拳大から人の頭部大程度に砕けた無数の氷が、上空を舞う『干渉』を中心に緩く渦を巻く。
声につられるように彼女を見上げた轟が一瞬息を詰まらせ、微かな呟きを返した。
『ブ、
『これまでの防御範囲が見せ札だった……わけじゃなさそうだが、轟は見事にすかされた形だな』
「さて、自らの全力をあなたは相殺出来るのか、試させてもらうわ」
「く……っ!?」
回転を早め、冷気をまき散らす氷の竜巻に轟は半ば反射的に左腕を掲げる。
そして一瞬、己のその行動に驚いたかのように目を向けた彼に、氷弾が殺到した。
巨大な回転槍を模した氷群の、その先端がステージを砕いた辺りでぴたと動きが止まる。
操る『干渉』が一度首を傾げた後で、試合を見守る主審に声を掛けた。
「……? ミッドナイト先生」
「デジャヴを感じるわ!」
動きを止めた氷群の槍が退けられた先には、力無く倒れ伏す轟の姿。
主審ミッドナイトがその身体に触れ、暫しの沈黙の後で声を上げる。
『……轟くん、行動不能! 干河さん、決勝進出!』
「……不完全燃焼ね」
不要になった氷をステージ外へと降ろす『干渉』の呟きは、誰の耳にも入らないまま巻き起こる大歓声の中に掻き消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――え?」
「あ?」
バン、と勢いよく蹴り開けられた控え室の扉。
部屋の中に居た女子生徒と、荒々しく入室した男子生徒の虚を突かれたような視線が重なった。
片や一早く決勝進出を決め、別ブロック準決勝の決着を控え室の中で待っていた『干渉』。
此方つい先程その準決勝にて常闇から勝利をもぎ取り、控え室へとやってきた爆豪。
「あれ!? 何でてめェがここに……控え室……あ、ここ2の方か! クソが!!」
「……ふふっ」
「あァ!?」
不意の遭遇の原因となったのは、爆豪側の部屋間違い。
一瞬遅れてそれに気付き、ぶつけどころを見失った苛立ちを放った彼の耳に、思わずとばかりの笑い声が届いて、再度その目が吊り上がる。
「ご、めんなさい、でも……ふっくぅ……!」
「笑い過ぎだてめェ!? ……ああクソがッ!」
怒りはすれど原因が自分のミスであることは間違いないため理不尽に糾弾するわけにもいかず、苦虫を噛み潰したような顔で黙るしかなくなる爆豪。
それすらも助長になったか、『干渉』は抑えきれない忍び笑いから、遂には目の端に薄らと水が浮かんでいた。
「……っふう、ごめんなさい。驚くと同時にちょっと安心しちゃったものだから」
「……ンだと?」
目元を拭いながらのその言葉に、爆豪が言外の意味を感じて眉を上げる。
沸点の低い彼が瞬間着火しなかったのは、偏にその目に侮りの色が見えなかったがゆえ。
「だって私、爆豪さん対策しか考えていなかったのだもの」
「……!」
「まず有り得ないと思っていたけれど、常闇さんだったらどうしよう、とね」
「……ハッ!」
―――決勝の相手として、自分が上がってくると確信していた。
言葉に含まれた意味と、その意志に偽りがないことを直感した爆豪の口角が一段吊り上がる。
「……なら俺からも言っとくぞ」
「あら、何かしら」
不遜な一言の礼とばかりに、爆豪が射貫くような眼差しで立てた指を突き付ける。
「
その一言に『干渉』は動きを止めた。
「切り替わったのは
「…………」
「騎馬戦で面倒臭ェ策考えたのもてめェか? あんな戦いもしねぇ逃げ切りを考えるなんざデクのやることじゃねえからな」
「……失礼ね。あれは戦わせないことに『全力』を注いだ結果よ。何より私の掌で踊っていた口で言うことじゃないでしょう?」
その返答に無言のまま、眦を吊り上げる爆豪。
剣呑な圧を放ち始めた彼を座ったまま見上げ、『干渉』は含むように目を細める。
「……今のところ、あなたの望む『全力』を出せるのは私、と言って良いでしょうね」
「あぁ?」
「歩が成長すれば、私が出る必要は無くなる。それが何時になるかは、まあ歩次第よ」
「……っ」
遂に明確に『干河歩』とは別人であることを認めるような言葉が出たことに、爆豪は少なからず驚きを表情に浮かばせる。
その様子を勘定に入れているのか否か、彼女は遠い誰かに向けるような呟きを続けた。
「あなた達にとっては三度あるうちの一回でも、私にとってはもしかすると最初で最後の機会」
「…………」
「言われなくとも『全力』でお相手するわ。後で歩が五臓六腑をひっくり返すことになってもね」
「……いや、どういうことだ」
驚愕が胡乱な目に変わった爆豪に、『干渉』がどこかヒヤリとした笑みを浮かべて『彼女達』の関係を掻い摘んで語る。
"個性"の出力、制御力、許容量に大きな差が存在し、自分が出せる『全力』を振るえば許容量を大きく超えさせられたもう一人は多大な反動を受ける羽目になることを。
「いつもは嘔吐ぐらいで済むけど、今日はこれまでと比較にならないほど長く入れ替わって"力"を使ってるからねえ……まあ、調子に乗って実質一回戦敗退に終わった罰よ」
「……ひでェな、オイ」
「だってこの子ったら、あれだけ、ヒーローになりたいなりたい、って言っててこの結果よ?」
「いや、知らね……てめェは違うのか?」
保護者の愚痴を聞くような気分になっていた爆豪が、言葉尻の違和感を捉え口を挟む。
その問いに一度口を引き締めた『干渉』は、不意に誰かを真似るように口角を上げた。
「『ヒーローになりたくない』私が、『ヒーローになりたい』あなた達を捩じ伏せてトップに立っちゃったとしたら、どうかしら?」
「…………ほおォ?」
「第二戦第三戦と、肩透かしに終わっちゃったものだから鬱憤が溜まってるのよ。爆豪さんこそ、ちゃんと私に『全力』を出させてくれるのよね?」
「上ッ等だてめェ……二度とフザケたこと言えねぇよう、念入りにブッ殺してやらぁ……ッ!」
今度こそ、互いに笑みを湛えて睨み合う。
暫しの沈黙の後、己の控え室へ向かうべく視線を切った爆豪の背に、一つの問いが投げられた。
「……そうだわ。折角だから私にもあだ名を付けてくれない? 爆豪さんのセンスで良いわよ」
「あ? …………『腹黒女』」
「ふはっ……! 良いわねえ」
原作でまともに描写されてないんだからしょうがないんだよ芦戸さん。
されてたらされてたで変化が無いならカットするけど。
『干渉』さんの情緒は割とぐちゃぐちゃ。
何しろ手の掛かる誰かさんのせいで大人びて見えますが、周囲より四歳少々幼いわけでして。
緑谷くんへ尋ねたこと。
麗日さんと話したこと。
耳郎さんに囁いたこと。
爆豪くんとの煽り合い。
彼女の本音があるのは果たしてどこでしょうね。