おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 初の別キャラ視点。



C2-11 最終種目・決勝戦

 

『―――さァいよいよラスト! 雄英1年の頂点がここで決まる! 決勝戦、干河 対 爆豪!』

 

 耳にうるせぇ観衆(モブ)共の声を意識の隅に押し遣って、ソイツの姿を改めて見据える。

 青髪、干河、腹黒女……多重人格だか何だか知らねぇが、ここに立ったならもう関係ねえ。

 

 最初で最後?

 ヒーローになりたくねえ?

 知らねぇよ。全部上から捻じ伏せる。そんで―――俺が、トップだ!

 

『今!! START!!』

 

「死ぃねえぇぇッ!!」

 

 半分野郎()の試合からして例え最大火力で爆破しようが反射されるのは目に見えてる。

 だから爆速でとにかく距離詰める!

 俺が攻撃を当てるには、肉弾戦もしくは直接掴んでゼロ距離爆破しかねえ―――

 

(……と、思ってんだろ?)

 

 開幕突進を分かってたとばかりに構えをとる腹黒女に、予想通りと口角が上がる。

 控え室のやり取りからして、こっちはてめェが俺の前試合を見てねえことも分かってんだ。

 掴むか、殴るか、その二択しか頭にねえ奴に()()は防げねえよな?

 

 両手をこするように合わせ、腹黒女の顔に向ける。

 想定した択のどちらでもねえ動きに目を見張ったのが分かるが、もう遅えよ。

 

「【閃光弾(スタングレネード)】!」

「っ!」

 

 爆熱や爆風じゃなく、光を重視した目眩し。

 前試合で鳥頭(常闇)相手に弱点暴いて作った即興技だが、視界潰す光量としては十分だ。

 

 何より腹黒女は騎馬戦であの鳥頭と組んでて、アホ面(上鳴)の電光に対処出来てなかった。

 敵として対峙した俺に分かって、味方として組んだ腹黒女が気付かねえわけがねえ。

 万能と宣ったてめェの"個性"にも跳ね返せねえモノがあるっつうこと―――

 

 

「ごめんなさいね。騎馬戦(あのとき)は私じゃなかったから」

「……は?」

 

 

 自分の目眩しにやられねえよう細めた瞼に想定以上の光を喰らって、反射的に目が閉じた。

 失った視界の向こうで腹黒女が遠ざかる気配を感じる。……間違いねえ、()()()()

 

『Oh! 先手は爆豪、前試合で見せた閃光弾じみた爆破技だったが、今のは何が起きた!?』

『光も反射対象か……これまたここまで隠してやがったな』

 

 ……隠してた? いや、違……わねえ、それもある。だが問題なのはそこじゃねえ。

 暗闇の中で聞いた呟き。あれは俺の策に対する……そこに至った経緯に対する謝罪(煽り)で―――

 

(……ンのっ、腹黒女……ッ!)

 

 俺が考えるだろうてめェ対策を見透かした上で。

 あたかも予想外を突かれたような素振りまでして俺を良い気にさせた上で。

 ソコは未だ自分の掌上だと、わざわざ俺に教えてきやがったんだ。

 

「上ッ……等だッ!」

 

 復活した視界で見上げりゃ、空から睥睨する眼差しと重なった。

 目の眩んだ俺に追撃するより、優位な土俵に立つことを優先した証。

 

 戦わせねえ為の全力。

 負けねえ為の全力。

 ああ、よく分かった……てめェは俺を舐めてるわけじゃねえ。

 どこまでも貪欲に……俺に『勝つ』為だけに頭回してきてやがるってなぁ!

 

『干河が空へ逃げ、爆豪は地上でそれを睨み付ける! 意外や意外、膠着状態か!』

『爆豪が空中戦可能と言えど、移動の自由度には大きく差があるからな。勢いだけで突っ込んでもガン不利押し付けられるのが分かってんだ。当てが外れたのもあって仕切り直しってとこか』

 

Ummm(うむむ)……だがこの状況、干河からも攻めるのは難しくないか!? これまでの試合じゃ空中機動力活かして視界外からの攻撃を狙ってたが、爆豪の反射神経相手じゃそれも分が悪いぜ!?』

『ああ、干河もそれは理解しているはずだが……今度は何を企んでる?』

 

 ……ツタ女(塩崎)の試合のときに見せた蹴りの速度なら、集中してりゃ迎撃出来る。

 だが眼鏡(飯田)の試合みてえに俺の視界を振り切って頭上へ回ろうともしねえ。

 ただそこに漂ったまま、俺を見下ろしてやがる。

 

「ハァ……ハァ……ッ」

 

 いつ腹黒女が動き出すか分からねえから集中を解くわけにゃいかねえ。

 この距離で爆破を撃っても反射されるだけだ。

 俺が焦れて飛び込んでくるのを待っている? 舐めんな、ンな誘いに誰が乗るかよ。

 

 幾ら騎馬戦と違って制限時間がねえっつっても、このまま動きが無けりゃ催促される。

 そうなりゃどうしてもどっちかに有利な状況から仕切り直しになるだろが、そんなうっすい筋をこの腹黒女が狙うわけねえ。

 

「ハァッ……ハァッ……!」

 

 ああ、クソ、観衆(モブ)共の声が耳にキンキン響きやがる。

 このまま俺の消耗を待つ? 違う……いや、違わねえ?

 何か、何かが、おかしい。カンが、思考が、鈍ってきて―――

 

「ハ、ア…………あ?」

 

 汗? ちがう、いつから、息切れ……緊張? んなバカな……ッ!!?

 

 

「―――こんっ、の……腹黒女ァァァッ!!」

 

 

『What!? 爆豪、突然の猪突猛進!? 不利な舞台にゃ上がらねえ筈じゃなかったのか!?』

『あの様子……まさか、だが……だとしたら干河の奴、どれだけ……』

 

Huh(ハァン)!? こっちもどうしたイレイザー! ひとりで納得してないで説明プリーズ(Please)!』

『……目に見えた変化がないから気付けなかったが、空気を押し退けてステージ地上付近を低気圧状態にしてるんだ。おそらく今の爆豪は高山病の症状に襲われている』

 

 耳の閉塞感、息苦しさ、倦怠感に立ちくらみ。

 気付かなかった俺も間抜けだが、気付かせねえ為に腹黒女が打ち続けた手も最早異常だ。

 

『光と同様、空気への干渉も隠し通したというのが一つ。おそらくはそれなりに時間のかかる一手だからこそ、この一戦に持ってきたというのもあるんだろうが……』

『轟戦はともかく、飯田塩崎戦に使えばもっと楽に勝てたんじゃねーのか!?』

 

『ああ、そうだ。それを隠して空からの肉弾戦しかないと、この会場全ての人間に思い込ませた。

空に逃げられても反撃狙いで勝てる……決勝に上がってくるだろう爆豪にそう判断させる為にな』

『トーナメント表が決まった時点でってことか!? どんな思考回路してんだこの娘ェ!?』

 

 実況解説がどれだけ腹黒女の思考を当てているかは分からねえ。

 今の俺にとって重要なのは、この状態で長期戦を挑むのは自殺行為だってことだけだ。

 

 幸いと言っていいのか、汗は十分に噴き出している。

 そこに冷や汗が多分に含まれていようが、俺の火力を最大限引き出すには問題ねえ。

 とにかく今は真っ直ぐに、手の届く距離まで近付くことにだけ注力―――

 

「ッ!? ……ン度目だ、クソがッ!!」

 

 鈍っていた直感が突然がなり立てた警告に従って、寸前で進行方向を直角に変える。

 その瞬間、『何か』が直前まで俺が居た空間を通過し、爆破したばかりの指先を撫でた。

 

『アァン!? 爆豪突然の方向転か―――うおォ!? 何だァ!?』

『……空気砲、か? 押し退けた地上付近の空気を圧縮して砲弾にしているのか』

 

 ……デクや半分野郎()の衝撃波に比べりゃ何てことのねえ威力。

 だが今の俺を打ち落とすにゃ十分過ぎる威力だよなあ、クソがッ!

 

 腹黒女の行動にはどれも予備動作がねえし、空気の弾なんざ当然見えやしねえ。

 初撃はたまたま直感で避けれたが、あんなもん何度も続くわけがねえ。

 何重に考えても、リスク度外視の突撃で何が何でも奴の身体を掴む以外にとれる択が無ぇ!

 

(クッソ……騎馬戦と同じだ。一から十まで誘導されてんのに他に戦いようがねえ!)

 

 爆破を掌に痛みが走る程の威力にまで上げることで更に速度を上げる。

 爆破を繰り返した煙で空気の揺らぎを見付けて、少しでも回避の目を増やす。

 ……思考と直感、両方が導き出す最適解が、悉く読まれているという確信がある。

 

 ―――だったら、いや、だからこそ。

 

「てめェが何を考えていようが、全部喰い破ってやらぁ!!」

 

 次の爆破で腹黒女まで手が届く。

 そう直感が弾き出した答えを補強するように、ひときわ強力にした爆破で一気に接近。

 全力の爆破を浴びせるべく、腹黒女の身体に両手を伸ばす。

 

 躱してくるか、弾いてくるか。はたまた予想もしねえ手段で反撃してくるか―――

 そう思っていた俺の両手は、腹黒女の両手に真正面から掴まれた。

 

「…………はぁ?」

 

 ……反応出来なかった。

 俺は奴を掴むことに集中していて、なのに相手からその手を掴んできたからだ。

 まるで俺の狙いを助長するような動き。仮に反応出来てたとして回避する理由がねえ。

 

「てめェ、何を考えて……」

「『全力』は出したい。でも私は負ける戦いをする気はないの」

 

 互いの手の平が合わさる感覚と、やけに近く見える腹黒女の顔。

 一度漂白された頭を回して、やっと()()に気が付いた。

 

 ―――今の俺の体勢で、全力の爆破を放てばどうなる?

 反作用で吹っ飛ぶ先は、場外の芝生の上だ。

 爆破を撃たなければ? 最初で最後の攻撃チャンスを逃すだけだ。

 おまけに腹黒女の背後で揺らいでいる無数の空気砲で場外に叩き込まれる。

 

 仮に爆破でコイツを倒せたとして、気絶と場外、良くて引き分け再試合。

 ……ああ、成程。見事に腹黒女の『負け』だけが無くなってやがる。

 

「ありがとね、付き合ってくれて」

「…………バカ、かよ」

 

 てめェなら、もっと悪辣な策だってとれただろ。

 俺がてめェに触れもしないような戦い方だってあったはずだ。

 全力のやり合いをしたくて、だが負けたくない……分からなくもねえが、ここまでするかよ。

 

 

「最大、火力―――」

「【空気連砲(エアブラスト)】」

 

 

 痛みと轟音。身体中メタメタにボコされるような衝撃と、一瞬の浮遊感。

 背中に触れる芝の感覚の中で、けぶる視界に微かに見える空に浮いた人影。

 

 ……ああ、認めてやるよ。『今の俺』はトップじゃねえ。

 だが次は……次に出てきたのがてめェだろうがもう一人だろうが、完膚なきまでに叩き潰す。

 

 だから、今は―――

 

 

『爆豪くん、場外! よって、今年度雄英体育祭1年優勝は―――』

 

 

 満足したかよ、腹黒女。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――それではこれより、表彰式に……移ります」

 

 治癒ババア(リカバリーガール)に処置されたばかりの気怠い身体に、困惑にまみれた観衆(モブ)共のザワザワが響く。

 微妙に歯切れの悪いタイツ女(ミッドナイト)の仕切りもそれに重なるが、まあ無理もねえ。

 三位の台には鳥頭と半分野郎の二人が並んでるってのに、肝心の一位の台が()()なんだからな。

 

「えー……優勝した干河さんですが"個性"の反動により半日は起き上がれないということなので、先に表彰式を進めるよう保険医のリカバリーガールより指示が出されました。ご了承ください」

 

 その宣言にモブ共の落胆の声が聞こえてくるが、俺にしてみりゃ「やりやがったな腹黒女」しか感想が出ねえな。

 ヒーローになる気のねえ自分がその台に立つ気は無く、そして普段前に出てるっつうもう一人にこの台をくれてやる気にもならなかった、ただそれだけだろ。

 

「と、とにかくメダル授与よ! 今年メダルを授与するのは勿論この人!」

「私がメダルを持って来た「我らがヒーロー、オールマイト!」」

 

 コールと口上が被ったオールマイトが何か言いたげにタイツ女に振り返った。

 ……段取りしろよ。何かとせっかちなんだよてめーら。

 

 気を取り直したオールマイトが三位連中の首にメダルを掛けていく。

 特に半分野郎に何か色々言ってたが……目の前の相手も見れねえような奴に何が出来る。

 まあ、たとえ炎を使ってたとしても決勝に上がってくるのは腹黒女だっただろうけどな。

 

「―――さて、爆豪少年。伏線回収ならずだが……意外と大人しいね?」

「……『今の』トップは俺じゃなかった。それだけだ」

 

 苛立ちはある。負けた自分への怒りもある。

 だが何より俺は今回、最初っから最後まで腹黒女の掌から抜け出せなかった。

 こんだけ差ぁ見せられて表面だけ抗っても見苦しいだけだ。

 

「『今の俺』よりあの女が上。そこを認めなきゃ進めやしねえ。次は叩き潰す……そんだけだ」

「そ、そうか……少々物騒だが君が飲み込めているようなら何よりだよ」

 

 オールマイトに掛けられた銀色のメダルを目に焼き付けるつもりで見つめる。

 ……これは俺に付けられた『傷』だ。受け取っておくさ。忘れねえようにな。

 

「……さァ! 今回は彼等だった! しかし皆さん! この場の誰にも ここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに 先へと昇っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! てな感じで最後に一言! 皆さんご唱和下さい! せーの!」

 

「「「プルス『おつかれさまでした!』…えっ!?」」」

 

 …………だから段取り決めとけって。

 

 

 

 

「―――お ェ゛

 

※しばらくお待ちください。

 

※しばらくお待ちください。

 

※しばらくお待ちください。

 

 

「歩ちゃん……ムチャシヤガッテ……」

「無茶させたのは『干渉』さんだよね!?」

 





 素直に名前で呼んでくれませんかね、爆豪くん。
 呼び名が分からなかった相手は独自設定です。

 認めた相手は苗字で呼ぶ彼ですが、『干渉』さんは色んな意味で認めた上での腹黒女呼び。
 干河と呼ばれることを嫌うだろうと、何となく察していたというのもあります。
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