歩ちゃん視点復帰。
ちなみに飯田くん以外の対戦相手と歩ちゃんが戦っていた場合。
・VS塩崎:開幕からツルの操作権を掛けて鍔迫り合い、物量に負けて敗退。
・VS轟:開幕氷結で射程範囲の外まで氷で埋められ、脱出出来ずに敗退。
・VS爆豪:爆破なら平気と高を括って開幕目眩しを受ける。そのまま場外に叩き込まれ敗退。
そういうとこやぞ。
「………………ひどくないですか?」
《何が?》
「だって、一回戦の途中で……気付いたら体育祭が終わってたんですよ!?」
《あそこで歩は気絶しちゃったんだからしょうがないじゃない》
身体の操作権を返してもらった瞬間は、何が起きたのかさっぱり分からなかった。
とにかく頭がドリルで削られてるみたいに痛んで、上下左右に前後も分からなくなって、両腕は火傷で引き攣るし、視界はぐるぐるひたすらキラキラ(婉曲表現)……リカバリーガールの治療を受けつつ半日の―――永遠のように感じた―――地獄が明けて、落ち着けたのは翌日朝。
体育祭翌日、翌々日は休校ということで、保健室で日を跨いだわたしは灯が消えたように静かな校舎からひとり下校することに。
《何? 歩の将来を考えて優勝までしてあげたのに、不満でもあるのかしら?》
「んうぅー……」
それを言われてしまっては文句なんてつけられるわけがない。
わたしの身体を使った『干渉』は飯田さんに勝ったばかりか、そのまま優勝してしまった。
ようやく快復したわたしを労わってくれたリカバリーガールからそれを聞いたときにはわたしの存在って何なんだろう、と結構本格的に悩んでしまった。
「…………お茶子ちゃんに慰めてもらいたいです」
《駄目よ。家族団らんの邪魔は許さないわ》
一日遅れでアパートに戻ったわたしに待っていたのは、安普請の壁越しに聞こえるお茶子ちゃんおよびそのご両親の声。
娘の為に仕事に穴を開けて新幹線で駆けつけたといった会話が漏れ聞こえた辺りで、《聞き耳を立てるのもやめなさい》と『干渉』に窘められてしまった。
「お母様に電話……は、今の時間お忙しいですよね……」
《まあ、そうね。昨夜倒れている間に着信はあったけど》
「ええっ、そうだったんですか? その時は何か……」
《歩が受け答え出来る状態じゃなかったから、リカバリーガールが代わりに応対して状況説明していたわよ。聞こえてきた反応は、良しなに、ぐらいね》
……全然心配されてない。まあテレビか何かで見ていたなら、お母様にはわたしが倒れた原因も分かっていただろうし、心配する必要もなかったと言われたらそうなのだけど。
《大人しく休校明けにすることね。あ、そうそう、耳郎さんと爆豪さんが私の存在に気付いたわ。詳しい説明はまだだけどね》
「……ええっ、どうしてそんなことに? 好き勝手し過ぎですよぉ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――おはよう諸君。今日の"ヒーロー情報学"、ちょっと特別だぞ」
迎えた登校日、朝のHR。
右腕のギプスも取れ、完治した姿で教壇に立った相澤先生の言葉でクラス一同に緊張が走る。
「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」
「「「夢ふくらむヤツきたああああ!!」」」
《ああ、授業時間割くのね、アレ》
両手を掲げて、人によっては飛び上がる程に興奮する一同。
ただそれも次の瞬間、髪を逆立てた相澤先生の『一瞥』で、シーン……と静まり返る。
《よく訓練されてるわねえ》という呟きに、苦笑いしながら同意した。
そこから続いた説明は、この時期にヒーロー名を決める理由だった。
まず、先日の体育祭で活躍した生徒には既に『プロからのドラフト指名』が来ているという。
……とは言えこれ自体は一年生のわたし達の場合、将来性に対する興味に近いらしいけれど。
「例年はもっとバラけるんだが、今年は三人に注目が偏った」
そう言って相澤先生が黒板に表示したのは『A組指名件数』と銘打った棒グラフ。
上から並んだ轟さん、わたし、爆豪さんの名前の横に過剰な長さの件数があり、その下には大体最終種目の順位に応じた面子が列挙されていた。
「だーーー白黒ついた!」
「わ、わたしの指名が凄いことに……」
《爆豪さんが三番目だなんて、見る目ないわねえ、プロ》
「三位が一番上に来ているという謎」
「完全に親の話題ありきだろ……」
「わあああ!」
「う、む」
《お茶子さん、指名されて嬉しいのは分かるけど飯田さん揺さぶらないであげて》
「……無いな! 怖かったんだ、やっぱ」
「まあデクさんを指名して、自分の管理下で四肢粉砕されたらと思うと二の足踏みますよね」
「ぐうの音も出ない……!」
教室中から悲喜交々な声が上がる中、淡々と説明は続く。
曰く、この結果を踏まえて指名の有無関係なく全員プロの現場へ、いわゆる『職場体験』に行くことになるとのこと。
訓練ではあれど、現場ではヒーローの一人として扱われるということで―――
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきたァ!」
「まァ仮ではあるが、適当なもんは……」
「―――付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
相澤先生の言葉を遮って、教室に入ってきたのはミッドナイト先生。
何故この人が? というわたしの視線の先で、相澤先生はゴソゴソと寝袋を取り出す。
自身にその手のセンスは無いのでミッドナイトに任せる、とそのまま休眠に入ってしまった。
(―――どうしましょう、『干渉』?)
《……さあ? ヒーローになりたいあなたが考えなさいよ》
各自ヒーロー名を考えるようにと配られたフリップを前にして、『彼女』へと向けた呼び掛けはすげなくあしらわれる。
……聞く前から分かっていたけど、もう少し興味を持ってくれても良いと思うんです。
《候補を上げれば駄目出しぐらいはするわよ》
(それ一番ひどいじゃないですか……)
そんなやり取りをしながら、ペンを片手にフリップに向き直る。
……一応、将来を想って考えたことはなくもない。ただ、こうして表明するのは初めてだ。
頭に浮かんだフレーズぐらいなら『彼女』も一々反応したりしないし。
(……『
《短文!? ……名前としては長い。"私"の実情にも合ってない。却下)
(……わたしの全てはあなたの為に。『献身ヒーロー
《名前から実態を想起出来ない。微妙に呼びにくい。オールマイトに似た響きは分不相応な期待を呼び込む。却下》
(……『調整ヒーロー フィクサー』)
《……"私"にも、推奨する戦い方にも合ってるけど……ヒーローというより悪役臭い。却下》
(……それって『干渉』が悪役向きということでは?)
《うるさいわね》
「―――じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」
「「「!!!」」」
《発表形式!?》
凡そ15分後、ミッドナイト先生の言葉に相澤先生のそれとは違う方向の緊張がクラスを襲う。
それでも意気揚々と教壇に上がった一番手は芦戸さん。
「『リドリーヒーロー エイリアンクイーン』!」
「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」
「……えっと、デクさん、今の突っ込みはどういう……?」
「あれ、干河さん知らない!? あ、そっかテレビゲームとかやらないのか……」
《……何にせよ
考え直すように言われ、ちぇー、と口を尖らせながら席に戻っていく芦戸さん。
入れ替わるように檀上へ登ったのは、蛙吹―――梅雨ちゃんだ。
「小学生の時から決めてたの。『梅雨入りヒーロー
「カワイイ! 親しみやすくて良いわ!」
即座にOKを貰った梅雨ちゃんを皮切りに、続々とクラスメイトのヒーロー名は決まっていく。
切島さんは憧れのヒーローにあやかった『剛健ヒーロー
耳郎さんは『ヒアヒーロー イヤホン=ジャック』。《ほぼ"個性"名そのままなのね》
障子さんは『触手ヒーロー テンタコル』。《後ろで
ドンマイさ《……歩?》……瀬呂さんは『テーピンヒーロー セロファン』。
《―――で、他人のを聞いてばかりいないであなたも早く行きなさいよ》
(わ、分かってますよ!)
『彼女』に急かされて、わたしも檀上に駆け上がる。
フリップに書いたのは、却下に次ぐ却下を乗り越えやっと認めてもらった自信作。
……ソレを考え付いて初めて書き込んだから、試行錯誤の跡が残ってないのがちょっと残念。
「―――『アクセラ』。
「『爆殺王』」
《ヒーローの名前じゃないでしょうよ》
「考えてありました、『ウラビティ』」
「《かわいい!》」
「ある人に意味を変えられて……嬉しかったんだ。だからこれが僕のヒーロー名『デク』です」
「……デクさん」
《これはこれは。ご馳走様》
「『爆殺卿』!」
「《ちがうそうじゃない》」
周りから見た歩ちゃん「……(がくん)……(しょぼん)……はぁ……」
後ろの席の緑谷くん(……『干渉』さんに駄目出しされまくってるんだな、干河さん)
遠くの席の麗日さん(……『干渉』さんに駄目出しされまくっとるんやな、歩ちゃん)
前の席の爆豪くん(青髪と腹黒女……普段から普通にやり取りしてんのか)