おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 指名数の具体的な数字は決めてません。
 想定としては轟くん、歩ちゃん、爆豪くんが四桁ずつ。
 後は発目さんのお陰で原作以上に目立った芦戸さんに指名が来ているぐらいです。
 そもそも何故原作では指名無しなのか。最終種目に出場したA組生徒の中で他に指名されてないのは緑谷くんだけなのに。

 今回から新章突入です。



Chapter-3
C3-1 二心同体


 

 職場体験の期間は一週間。

 指名が有った者はその中から自分が向かう事務所を自分で決める。

 そうでなければ学校からオファーを出した40件の事務所から選ぶように、とのこと。

 

「―――うーん……」

《これはまた大漁ねえ》

 

 前者に該当するわたしの手元に来たのは、ヒーロー事務所の名が延々と列挙された書類の束。

 メディアでよく見かけるトップヒーローの名前から、殆ど耳に馴染みのない名前まで、より取り見取り……と言えば聞こえは良いけれど。

 

「……これだけ多いと実績や系統を調べるだけでも大変そうだね」

「……歩ちゃんを見とると多ければ良いってわけでもないんやなって」

「お茶子ちゃんはもう決めました?」

 

「うん、実はみんなより見る件数が少なくて……『バトルヒーロー ガンヘッド』のとこにした」

「ゴリッゴリの武闘派じゃん!! 麗日さんがそこに!?」

「そうなんですか? あれ、13号みたいなヒーローが目標だったのでは?」

 

 聞きながら、五十音順に並んだ事務所名を急いで確認する。

 ……ガンヘッド事務所の名前は無い《プロ側も指名数に制限はあるんでしょうね》……残念。

 

「最終的にはね! こないだの爆豪くん戦で思ったんだ。強くなればそんだけ可能性が広がる! やりたい方だけ向いてても見識狭まる! と」

《そもそも触れれば倒せる"個性"で近接戦闘を鍛えてないのは勿体無いわよ》

「……お茶子ちゃんの"個性"で接近戦鍛えてないのは勿体無かった、ですもんね」

「…………なるほど」

 

 相槌の前にチラッとわたしを見てからデクさんは頷いた。

 実際には誰の意見なのか二人には伝わったようで何よりだ。

 

「わたしは……将来を考えればやっぱりトップヒーローの事務所を選ぶべきでしょうけど……」

《実質一回戦敗退》

 

「……実力不足という懸念が()()引っかかって」

「「ああ……」」

 

 今のわたしの評価は『干渉』の手で塗り固められたメッキのようなもの。

 そう考えると幾ら山ほど指名が来ているからといって自惚れてはいられない。

 

 ……入学試験は、一度きりのチャンスだから仕方なかった。

 USJの時は、人の命が掛かっていたのだからためらってはいられなかった。

 だから体育祭はわたしの力でと張り切って……結果はあの通り。決して悪くはないのだけど。

 

「……それよりさっきから気になってたんだけど、デクくん震えてるね?」

「ああ……コレ、空気イス」

 

「「《クーキィス!!》」……まさか授業中ずっと!?」

 

 デクさんをよく見ると、確かに席に座らずに腰を浮かせていることに気付く。

 動けない状態でも出来るトレーニングだと力説されたけど、幾ら"増強系個性"の持ち主にとって基礎身体能力が大事とはいえ、座学の授業中まで鍛えようとするのはどうなんだろう。

 

(……真似しなきゃ駄目だったりします?)

《自分一人で座学について行けるようになってから言いなさい》

 

 恐る恐るしてみた問いかけは、片手間で成績を維持出来るようになってからだ、と一蹴された。

 ……ちょっとほっとしたけど嬉しくない。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」

 

 職場体験当日。雄英最寄りの駅に集まり、各々コスチュームが入った鞄を手に解散。

 

「楽しみだねえ!」

「おまえ九州か、逆だ」

「あ、常闇さんも九州なんですね。では一緒に行きませんか?」

「干河か。ああ、是非もない」

 

 指名が全国津々浦々から集まっていることもありクラスメイトそれぞれが向かう方向は様々。

 なので自然と目的の事務所が近い地域に在る者同士が固まって行動するように。

 

 わたしも同じ方向と分かった常闇さんと連れ沿って―――いたら背中に強い視線を感じた。

 

「常闇ィ……女子と二人っきりで『ぶ○り途中下車の旅』たぁイイ身分だな……」

「途中下車はしねえよ、何言ってんだこいつ」

「本当に見境ねえな……でもちょっと分かる自分が悔しい」

 

 ……峰田だろうなと思った。峰田だった。そういえば色々あって『執行』出来てないなあ。

 お茶子ちゃんと視線が合った。きっと同じ事を考えているんだろう。相手をするのも面倒なのでさっさと離れることにする。

 

「行きましょう、常闇さん」

「……っ、あ、ああ……」

 

 わたし以上に突き刺さる視線を感じていたんだろう、微妙に落ち着かない様子の常闇さんの手を引いて振り向かずにその場を歩き去る。

 乗り込んだ新幹線の自由席に、二つ並んだ空席を見付けて座ったところで手を離した。

 

「全くあのブドウ頭は……出来れば反応もしたくないんですけど、男子のああいう視線って嫌でも気付いちゃうんですよね……」

「……そういう、ものなのか」

 

「目を向けてしまった後で気まずそうにされる分には許せるんですけど、彼は冷たく睨み返しても喜ぶものだからどうしたらいいやらで」

「……うむ。困った奴だな」

 

 まだ何かソワソワした様子で腕を組む常闇さん。

 聞こえてきた《……傍で見る分には笑えるのだけどねえ》という呟きに深く頷く。

 

「……まあ、アレのことなんか考えていたくないのでもういいです。それにしても結構時間かかりますよね。常闇さんは何か暇を潰せるもの持ってきてます?」

「…………」

 

「常闇さん?」

「いや……改めて『表の顔』と相対すると、内に秘めし『裏の顔』との明暗を意識させられてな」

 

 ……常闇さんの思わぬ言葉に、頬が引きつった。

 どういうことか、と頭の中に猛然と問いかければ、返ってきたのは余裕の微笑み。

 

(新たに気付いたのは耳郎さんと爆豪さんのはずじゃなかったんですか!?)

《まあ、体育祭では特に演技もしていなかったからね……何だか彼の場合、そういう方面に理解が深いからというのもありそうだけど》

 

「え、えっと、急に、何のことだか……」

「……! ああ、済まない。『表』は何も知らない、そういうことだな」

 

「誤解が加速した気しかしない! そういう気遣いは要りませんよ!?」

 

 何やら大変に不本意な解釈をされる気がして、堪らず事情の説明について『干渉』に確認する。

 それに対して『彼女』は《良いんじゃない? 彼なら納得する下地もあるし……っ》と同意してくれた。……爆笑しながら。ひどい。誰のせいだと。

 

「……常闇さん、ちょっと手を出してもらって良いですか? 良いですね?」

「え? あ、ああ……」

 

「少し不思議な感覚がすると思いますが、受け入れてください。……『黒影(ダークシャドウ)』さん共々」

「……!?」

 

 

「《【面会(ディグアウト)】》」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『―――ヨォ、フミカゲ』

 

「なっ……!?」

「え……っ!?」

「あら」

 

 降りかかってきたのは聞き覚えのある、けれど予想外に尊大な声。

 見上げればそこには、巨大な怪鳥の影という形容がぴったりな、威風湛えて鎮座する存在。

 

「これは一体……干河、お前か?」

「あ、は、はい……すみません、碌な説明も無しに……」

 

「『黒影』の真なる姿……つまり此処は、我が心の深奥……ッ」

「……あれ、もしかして喜んでます?」

「驚異の適応力」

 

 険しい顔をしつつも瞳だけはキラキラさせている常闇さんに、ちょっと、だいぶ、戸惑った。

 わたしが何と声を掛けようか悩んでいるうちに、再び身を震わせる声が響く。

 

 

『俺の意思を増幅するトハ、三下にしテハ面白「【減速】」いことしてクレテありが……じゃなクテ……中々良い"力"ダ。今後は俺の手下とシテ「【減速】」お友達から始メ……じゃネェ、一緒に気に入らネェモノ全部ブッ壊「【減速】」アッ、ちょ「【減速】」アノ「【減速】」……』

 

 

「意外と荒々しい性格の"個性"だったのね」

「……あ、ああ……夜闇などの中では破壊衝動が強くてな。今の俺では制御し切れん」

「…………何か、その、ごめんなさい」

 

 みるみるうちに威容を消し去られ、クスンクスンとすすり泣くようになった『黒影』を、どこか悲しげに見つめる常闇さん。

 あのままでは話が出来そうになかったし仕方ないのだけど、容赦無いですね、『干渉』。

 

「えっと、"個性"の意思を呼び起こして対話出来るようにする、という技なんですよ。常闇さんと『黒影』なら説明を省いても問題ないかなと思ったん、ですけど……」

「…………成程。つまり彼女が干河の"個性"『干渉』なのだな?」

「ええ、そういうこと。……ついでに『裏の顔』よ。改めてよろしくね、常闇さん」

 

 常闇さんが一度大きく目を見開き、やがて合点がいったとばかりに深く頷いた。

 そして一拍の沈黙を経て、わたしに気まずそうな目を向ける。

 

「……すまん。その、何がとは言わんが……同志だと思ったのだ」

「……こちらこそすいません。その…………心外過ぎまして」

 

「ぐふっ……!」

『フミカゲェ!?』

「あっ」

「あーあー……」

 

 

 

 

 ―――普段の『黒影』は常闇さんの手足から伸びるような形で姿を見せている。

 そんな彼(?)も、この部屋においては完全に別個の存在として床に寝転んでいた。

 

 足があるべき部分は絵本に出てくる幽霊のような、ふよふよした尾のようになっていた。

 "個性"同士で会話したいと言った『干渉』が傍に座り、その部分を興味深そうに撫でている。

 

「―――という感じで、結構プライベートにも口出しされるんですよね……」

「ああ……『黒影』にもそういう傾向はなくもない。今でこそ慣れたが幼い頃は苦労した……」

 

 一方わたしと常闇さんは四つの椅子の半分を埋めて互いの"個性"について話し合っている。

 やはり自分の中に別の『自分』が居る者同士、話が合うと思っていたのは正解だった。

 

「"個性"とは身体機能の一つであり手足の延長上にあるもの……とは言いますけど、わたし達にはそういう認識はしにくいですよね」

「そうだな……最も近い友であり同志……やはり自身と異なる存在という意識が……ふむ」

 

「どうかしました?」

「いや……表彰式の際に受けた言葉が脳裏を過ってな……"個性"に頼りきり、か」

 

 その呟きに驚いて『干渉』に顔を向けるも、『黒影』に夢中でこっちを見てくれてなかった。

 

「……そういえば干河は表彰台を欠席していたのだったか。あれから『黒影』を越えて接近された場合に備えるべく模索中なのだが、『黒影』が俺とは独立した意思で動く故、下手に動くと邪魔をしてしまいそうでな……」

「……騎馬戦の時に見た限りではかなり自由が利きそうですけど……『黒影』で常闇さんの全身を覆ったりは出来ないんですか?」

 

「…………全身を、覆う」

 

 ピタッと動きを止めた常闇さんが、目を見張ってわたしを、それから『干渉』を相手にじゃれている『黒影』に顔を向けた。

 

「デクさんは出力の制御も勿論ですけど、身体の一箇所だけに注いでいた"個性"を全身に満遍なく行き渡らせることで、結構自由に動けるようになっていました。常闇さんと『黒影』で同じように出来るかは分かりませんけど、試してみてもいいんじゃないでしょうか」

「ああ……これまでの俺には無かった発想だ。感謝する」

 

 

 

 

「―――それじゃあなた達は二心同体にして一心同体、それでもあなたに疑問は無いのね」

『俺ハ俺デ、フミカゲはフミカゲダ! ダガ、俺はフミカゲデ、フミカゲは俺でもアルゼ!』

 

「…………そう」

 





 フルカウルに続き、深淵闇躯早期習得フラグが立ちました。
 特定のキャラが歩ちゃんと自然に二人きりになる状況をあまり作れないのと各キャラの"個性"というオリキャラの追加に繋がるので、無暗にやると収拾つかなくなる恐れがあるのが難点です。
 みんな超エリートだけあって相談しなきゃならないデメリットなんか特に抱えてないし。
 その点『黒影』くんは安心です。原作でも喋りまくってくれてますので。

 傍から見ると新幹線内で仲良く手を繋いで眠っている高校生の男女。
 少なくとも"個性"の不正使用を疑われるような絵面ではないのでセーフ。
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